目というものについて
見鬼、という才がある。
文字通り、鬼、人でないものを“視る”異能。
退治屋の血筋には必須であるが、いまやその力を持つものは少ない。
少ないからこそ、あれば脅威と、狙われる。
身内にも、また、異形にも。
「あなたは、目を恨みますか?」
畳に敷かれた布団に、横になった青年がいる。
パジャマ代わりの単衣から除く腕には包帯が巻きつけられ、些かやつれた様にも見える。
養生している彼の横に、常のごとくTシャツジーンズの少女がいた。
彼女は布団の傍に座して、ただ彼を見つめ、問いかける。
特に表情が浮かぶことなく、声に感情を含むことなく。ただ、淡々と、事務的に。
青年は一瞬彼女を見、視線を天井に戻した。
「見えなければいいと、思っていたことはあった」
「でもあなたは、聞くことも触れることも匂うことも、おそらく、味を知ることもできる」
ふ、と青年が笑った。己を嘲るように。
「五感が…おかしいのか。………俺は、人か?」
「細胞レベルでは分かりませんが、身体的特徴、心理的反応、生理的反応は人です。
ちなみに血液の検査値データ、循環、呼吸機能は概ね正常みたいです。
ちょっと貧血気味らしいですけど」
……。
沈黙が流れた。呆けた顔を戻した青年が、傍らの少女を胡乱げに見た。
「…なんだそれは、どこで聞いた」
「以前の健診時、あなたが医師からの説明を面倒がって私に押しつけたじゃありませんか」
「…なるほど」
「ここでひとつ、甘い台詞でもいかがですか?」
彼女が小首を傾げた。
「その目があったから私達は出会ったんですよ」
(…)
(…あれ、照れてます?)
(真顔で言わなきゃな)
(では次の課題に)
(よせ)