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全力激突ライバル戦

 過去の対戦のほとんどがそうであったように、今回もブライトとバーンの試合は真っ向からのぶつかり合いとなった。

 初手から一切小細工無し。ブライトの剣とバーンの隕石にも似た拳が、かん高い金属音を鳴らして衝突する。通常なら剣と素手がぶつかれば素手が一方的にダメージを負うのだが、攻撃として繰り出した場合に限りダメージを相殺できるのだ。ただし、タイミングが少しでもずれると普通にダメージを受けるうえ、素早い攻撃に的確にヒットさせなければならないため非常に高度な技術が要求される。バーンも毎回狙って出来る訳ではないが、何度も対戦を重ねてきたブライト相手だからこそ、最も読み難い初撃の相殺に成功したのだ。


「どんどん行くぞオラァ!」


 武器を持たないバーンは、それによる優位性を全面に押し出して攻め立てる。その優位性とは、両手で攻撃可能という点だ。プレデター・クイーンのように卓越した技巧があるなら話は別だが、普通のプレイヤーに二刀流の操作は難易度が高い。なので、武器を扱うアバターは総じて片手持ちか両手持ちの武器を一つしか扱えないのだが、武器を持たないバーンのようなアバターは、比較的簡略化された操作で両手攻撃が可能なのである。


「相変わらずの脳筋ぶりだな!」


「ハッハァー!真っ向勝負こそ俺の生き様よ!」


 愚痴を溢すブライトの声色に嫌味はない。むしろいつもと変わらないライバルとの戦闘に喜びすら滲ませている。

 開幕の攻勢こそ譲ったが、当然ブライトもこのままでは終わらない。バーンの連撃を一度甘んじて受け、ダメージ硬直が解けたわずかな隙に大振りの一撃を放つ。


「ひゅうっ!あっぶね!」


 すんでのところで回避したバーンは後退に合わせてバック転をし、その勢いに任せた蹴り上げで追撃しようとしていたブライトを牽制する。


「ちっ、顎狙ったんだけどなぁ。下がり過ぎたか」


「こっちは攻めるつもりだったんだが・・・油断も隙もない」


「嘘つけ、これ狙い通りだろ。こうなっちまったらもう、いつもの展開だもんな」


 ブライトは沈黙で返すが、バーンは特に気に止めない。それよりもこれから始まる攻防に集中するために自身も口を閉ざす。

 互いに無言で睨み合って数秒。何かの合図があったわけではなかった。ただ、両者の呼吸の周期の様なものが、その瞬間合致した。


「おぉぉおおっ!」


「どぉらぁぁ!」


 開幕と同じく正面からのぶつかり合い。ただし、今度は攻撃の相殺など起こらない。どちらの放った攻撃も綺麗に相手に吸い込まれる。

 本来ならダメージを負えば硬直が生まれる。が、自身も攻撃のモーション中だった場合には、硬直を無視してそのまま動く事が出来る。もっともダメージは通常通り受けるので、言わばやせ我慢の様なシステムである。


 ブライトもバーンも、退く素振りなど決して見せない。放つ攻撃が必ず相手を打ち倒すと信じ、ひたすらに攻め続ける。ブライトに至ってはもはや剣のみならず、空いている片手や蹴り、果ては頭突きまでも駆使してがむしゃらに攻撃を継続させていた。

 当然、無理をした分のダメージはお互いの体力を容赦なく削っていき、一撃一撃はそれほど重くないが、絶え間ない猛攻でどちらの体力もあっという間に底が見えてくる。


 そして、決着の時。お互いの拳によるクロスカウンターが決まり、両者派手に吹き飛びそのままダウンした。


「おいおいおい!!!どうなったこれぇ!?体力は・・・わっかんね!」


 いつも通りのハイテンションなモドロの実況は、音声遮断の影響無くブライトとバーンにも聞こえた。


 つまり、勝敗が決したのだ。


「だらああああぁぁぁっ!!!!!」


 雄叫びと共に跳ね起きたのは、バーンだった。


「くっそおおおぉぉおおぉぉああ!!!」


 しかしその声色は明らかに勝者の者ではない。

 ブライトもゆっくりと起き上がり、視界に表示された「You Win」の文字を確認して小さく拳を握った。


「悪いな、今回は俺の勝ちだ」


「あと・・・あと一撃だ!あと一発入れてりゃ俺の勝ちだったのに!」


「・・・」


 言い訳と言ってしまえばそれまでだが、バーンの言は的を射ていた。あと一撃、ほんのひとかすりでもしていれば勝敗は逆転していただろう。

 観衆もブライトもそれを理解しているため、ブーイング等は起こらない。と、言うよりも、このやりとりは割といつものことなのである。


「覚えてろ!」


 これも定型文。言い終えるや否やログアウトするまでが今やテンプレートと化している。


「あぁ、またやろう」


 ブライトの返事が聞こえたかどうか、バーンは既にログアウトして姿はかき消えていた。


「と、言うわけでぇ~・・・勝者、ピィースゥ・ブライトォー!!!!」


「「オオオォォォ!!!!」」


 これまでにない沸き上がりを見せるギャラリーにブライトはわずかに萎縮する。


「つ、次の人行きます・・・」


 先ほどまでの気迫はどこへやら、逃げるように次の対戦相手を受け付けるのであった。


「あっ」


 ランダムに選出した対戦相手の名前を見て、ブライトは硬直した。


「んん~?どわっ!」


 名前は初期から申し込みリストで見かけていた。いずれは戦うことになるのもわかっていた。しかし、いざその時となると思わず手が震えた。


「キタキタキタキターーー!!!!こう言っちゃ悪いがこりゃバーンは前座と言わざるを得ねぇ!ついに、ついに最大級の壁との激突だぁ!これはもはやブライトの試練!」


 言葉の間にも対戦相手がログインしてブライトの目の前に現れる。

 小柄で簡素な茶色のアバター。武装は見たところ腰につけた二丁のハンドガンだけだ。しかし決して侮ることは出来ない。何故ならば・・・。


「その異質な戦型は唯一無二!逃げ腰弱腰卑怯者と蔑まれようとも己が道をひたすら進む!現ランキング第八位「絶壁要塞」トップ・マウント!」


 ランキング一桁台。文句なしに最強の一角だ。




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