異世界カフェの裏メニュー〜毒入りシフォンケーキとなんかおかしい逆ハーレム〜
異世界といっても、一カ月もいれば慣れてしまう。
「あー、忙しい! 今日は紅茶シフォンケーキの日だし、いっぱい作らないと!」
カフェの厨房で叫ぶわたし。異世界転でカフェ店員をやっていた。しかもワンオペで。オーナーのジェマおばさんは自由人で旅行中だし、仕方ない。異世界転移後、迷子状態のわたしを拾ってくれた恩もある。
それにわたし、日本ではブラック企業でなんでもやらされていたし、ケーキ作りも根性で覚え、接客も同様に頑張り、ワンオペで働いていたってわけ。一応Z世代のわたしだけど、日本にいた時は昭和ど根性女とか言われてたっけ……(実際、貧乏一家出身で親の借金や奨学金も自力で返済中だった……)。
そんなことを思い出しつつ、紅茶シフォンケーキを焼き上げ、開店準備に向かう。このカフェ、シフォンケーキが看板メニューで、わたあめと同じぐらいふわふわで甘い。すぐに売り切れてしまう日もある。まあ、商店街にある小規模のカフェだし、なんとかワンオペでもやっていけてる感じ!
そうして開店し、接客、調理、配膳、掃除、会計をバリバリこなしながら明け暮れる。
「わぉ、明日は隣の学園のカフェテリアから注文来てるし、頑張らないと!」
忙しさに追われていた。だからこの異世界から帰る方法とか、この異世界の秘密とか考える暇がない。それに案外、この生活もあっていたし、昭和ど根性で乗り越えようと考えていた。
翌日、今日は隣の学園のカフェテリアの注文分のプレーンシフォンケーキを焼き上げ、現場へ向かっていた。
この異世界、わたしはよく覚えていないけれど、乙女ゲーム世界らしい。攻略対象のキャラだけは記憶にある。メイン舞台である学園はイケメン揃いだ。用務員からモブの生徒にいたるまでキラキラしてる。
さすが作画がいいなと思いつつ、学園に入ろうとしたが、足止めされた。しかも野次馬もいっぱいいるし、サイレンの音も響いてる。どういうこと?
「この学園で何かあったの?」
近いにいた男子生徒に聞いてみた。この男子生徒もイケメンだった。こう誰も彼もイケメンだとありがたみはないよなぁ。そういえば昨日も学園のイケメンがシフォンケーキ買いに来たけど、顔もよく覚えてない。
「なんか女生徒の一人が殺されていたらしいよ」
「え、殺人事件?」
「さあ? 毒殺とか噂聞いたな」
わたしは学園の野次馬を聞いて回ったが、どうやらローラという女生徒が殺され、校庭に遺体があったという。調査中の騎士団によると、昨夜の犯行の可能性が高いらしい。
「昨日の夜ね……」
学園からカフェへの帰り道、わたしは考える。確かカフェの窓から校庭が見えるロケーションだったが、その時、せっせと帳簿をつけ、オーナーのジェマおばさんに手紙も書いていたんだ。
「残念。物音もなんも覚えていないのよね」
何か手がかりがあると思ったが、思い出せない。
「あれ?」
しかしカフェに入ろうとすると、また異変が起きていた。野次馬がたくさんいて中に入れない。しかも騎士団がうろつき、何か調査中!?
「ここの店員ですが、どうしたんです?」
「あぁ、実はね」
騎士団員のひとりに声をかけた。この男もイケメン。さすが乙女ゲーム世界だと思ったが、その中でも飛び抜けていた。単に顔が整っているだけでなく、騎士団の制服がやたらと似合うし、背も高く、口調も優しげ。名札によるとルイス・アーモンドという名前らしい。
「ローラの死体の側にここの紅茶シフォンケーキのカケラが落ちてたんだ。毒殺の可能性がある。しばらくこのカフェを全部調べる」
「え、なんで?」
「上の決定事項です。すまない」
思えば、さっきから騎士団の連中チラチラと疑いの視線だったし、これって何?
このルイスだけは丁寧な対応で、紳士的だったのは救いだが、カフェの運営もできないし、もし毒殺だったとしたら、疑われるってコト!?
「こうしちゃいられないわ!」
わたしは一旦カフェの側から離れると、商店街へ。この商店街はジェマおばさんの縄張りかつゴシップの発生源だ。被害者のローラが持っていた紅茶シフォンケーキの謎、わかるかもしれない。
さっそくジェマおばさんと親しい町内会長に会おうとした時だ。
「君、カフェ店員のアリサっていうの? 別の世界からやってきたって噂だよ」
「は?」
「どう? 俺とデートしない?」
「は?」
ナンパされた。しかも相手はイケメンだ。学園の制服も着てる。しかもこの顔、既視感がある。そういえば昨日、シフォンケーキを買いに来た客だった。すっかり忘れていたが、乙女ゲームの攻略対象者のグレイグだ。生徒会長もこなし、ドS王子と有名なイケメン。
「俺とデートしろよ」
強引な物言いもサマになってる。蒼い髪や目にも一瞬ポーッとなってしまうが、いやいや、今はデートどころじゃないし!
わたしはグレイグから全力疾走で逃げ、公園へ。ここだったら誰もいないだろうと思ったが。
「ねぇ、お姉ちゃん。僕とデートしようよ?」
「は?」
「僕、コリーっていうんだ」
またイケメンが登場した。天使のようなイケメンだった。彼も攻略対象者だ。金髪はキラキラと輝き、上目遣いは甘ったるいぐらいだ。あの学園の制服を着ているが、十代半ばぐらいのキラキラ感が眩しく目が潰れそう。若さが怖い。
「いえ、そんな若者とデートなんてしたら犯罪みたいじゃないですか!」
「えー、いいじゃん?」
怖くなってしまい、全速力で公園から逃げる。気づくと町外れの雑木林に来ていた。
「ねえ、カフェ店員のアリサさん」
「は?」
雑木林にイケメンがいた。制服姿だ。いかにも優等生らしい。黒髪がキラキラと輝いていた。知的な顔立ちにメガネがベストマッチし、眼福だったが、この男も攻略対象だ。確か名前はドミニク。
「俺と付き合ってくれ」
「は?」
「一目惚れした。付き合って」
そんな一目惚れとかある?
今のわたし、雇われカフェ店員だし、もうすぐアラサーだ。ど根性ワンオペで働いているのでビジュも適当だったし、そんな一目惚れって? 昭和ど根性女に一目惚れって謎すぎる!
「俺と付き合って」
「いえ、結構です!」
また全速力で逃げるが、どうも変だ。さっきから、こんな逆ハーレム状態てなんだ?
「なあ、カフェ店員のアリサさん。待って」
「は?」
しかも逃げていると、またイケメンに声をかけられた。長髪でバンドマン風のイケメンだった。大人っぽく学園の制服は似合っていないが、かなりのイケメンで、攻略対象の一人だったと思い出す。
「俺、ジェフリーっていうんだ。君に惚れた。待ってくれよ」
「いえ、お断りです!」
このイケメンからも全速力で逃げる。どうもおかしい。何かおかしい。こんな逆ハーレム状態ってなんだ?
比較的ビジュアルが良かった十代の時も、こんなモテキはなった。付き合った経験もあったが、相手はチー牛だった。こんなイケメン達に突然、モテる理由って何だ?
走りながらも一つの可能性を考える。もしかしてローラの殺害に関与している?
現場はカフェの窓からも見える。もし犯人がわたしに何か見られたと思い込み、口封じに来たとしたら?
「あのイケメン攻略対象たちが犯人!?」
気づくともうカフェに戻ってきた。汗だく、息を切らしながらもカフェを調査中だったルイスを捕まえる。
「ルイス、ちょっと聞いて!」
「何かあったのか?」
「ローラを殺した犯人、あのイケメン四人!」
ルイスは最初は半信半疑だったものの、わたしの言葉を最後まで聞いてくれた。しかもすぐに部下を手配し、あのイケメンたちの自宅を調査。毒物が出てきたという。
毒物だけでなく、イケメン四人でローラをもて遊び、トラブルになっていたこともわかった。手紙や日記も見つかり、あっけなく逮捕された。わたしについても犯行現場を見られたと思い込み、近づいたと供述しているらしい。「あんな社畜みたいな地味な女、チョロいと思ってたのに!」と悔しがっている犯人もいたという。
晴れて事件は解決だ。カフェも通常通り運営されていた。毒入りシフォンケーキの噂は立っていたものの、すぐに消えてしまい、驚くほど平和。ジェマおばさんも旅から帰ってきたので、ど根性ワンオペからも解放された。
「それにしてもアリサ。事件を解決したってすごいわ」
ジェマおばさん、ニコニコ顔でカフェのテーブルをふく。事件に一切関与していないので、他人事としてゴシシップを楽しんでいる模様だ。
「事件解決っていうか、ただのカンだけどね……」
まあ、今は事件解決しただけで良しとするか。
「いらっしゃいませ」
ルイスもカフェにやってきた。あの事件以来、すっかりこのカフェのファンになってしまい、毎日シフォンケーキ目当てでやってくる。食べている時のルイスは表情が無防備になり、イケメンなのに隙ができる。ちょっと面白い。
「ルイス、シフォンケーキをお待たせしました!」
ルイスのテーブルにシフォンケーキを運ぶ。なぜかシフォンケーキよりもわたしの目を見ていた。その理由もわからないが、まあ、それでも良しとするか。




