とある聖女の苦悩
とある国に聖女と呼ばれる女がいた。
「癒やし」というパッシブスキルを持ち、
彼女に近づくだけで、邪気や邪念が払われていき、病気も、怪我も治ってしまうのだ。
このスキルは、MPも、HPも、寿命も消費しない。チートのようなスキルだった。
彼女は、このスキルの力のおかげで、彼女は何もしていなくても敬われた。
その上、清楚な見た目と、優しい眼差し…。聖女として慕われた。
慕われると、嫉妬を生む。彼女に対する敵意は存在していたが…。
「癒やし」はある種のフィールドになっていて、その範囲内では「いかなる害悪」も無効化される。
悪意がなくなるので、彼女を暗殺しようとした者たちは、暗殺に失敗し、改心し、依頼者を白状してしまう。
遠隔武器で狙撃を試みると、不思議なフィールドで弾かれ、狙撃者の手元に戻っていく。
そして、それを手にした狙撃者は、なぜか改心してしまうのだ。
呪いの場合は、呪いが無効化された上に、癒やしが術者に飛んでいき、術者は改心してしまう。
広域攻撃魔法をしかけても…同じような結果になった。すべて、何もなかったように元に戻り、術者は改心してしまうのだ。
彼女の前では、あらゆる欲が無くなる。食欲や、性欲すら無くなってしまう。
どんな魔獣も彼女の前では、その食欲や、征服欲を示す事はなくなり、その変化に対する驚きから、彼女に対しては、とても従順になった。
だから、魔獣による攻撃を試みて無意味だった。
それどころか、魔獣をしかけると、魔獣はしかけた本人に怒りを向けてきた。
良いことばかりではなかった。
彼女の前では、あらゆる欲が無くなる。食欲や、性欲すら無くなってしまう。
これは、人にも言える事で…。
彼女に性的に惚れていても、彼女に近づくと性欲がなくなる。誰も、彼女に恋こがれない。
神に向けるような敬愛の気持ちが生まれるだけである。
人づてに聞く恋バナも、自分には、夢のまた夢。
食欲がなくなるので、彼女と食事をしても、すぐに食欲が失せてしまい食事が進まない。
彼女から離れると、空腹である事には変わりないので、非効率この上ない。
また、一緒にいすぎると、食事を忘れて、体が大変な事になってしまう。
なので、彼女から、ある程度距離を取らないとならなかった。
やがて、彼女といるのは、1日2時間まで…なんて規則が決められてしまうほどに…。
だから、彼女は、いつもひとり。
それでも、彼女なりに、いろいろ頑張ってみたが…。
彼女は、与えられた奇跡のような力の代償なのか、それ以外はからっきしダメだった。
歌を歌えば超絶音痴…人前では、歌を歌わないでくださいと止められ…。
踊りを踊れば謎の踊り…人前では、踊らないでくださいと止められ…。
好きな本は、BLだけど、人前で読むことを止められ…。
手伝いをすれば、不器用すぎて、食材を無駄にしたり、聖女自身が怪我をするほどの鈍臭さ。
「癒やし」は他人の怪我を治すけど、聖女自身の怪我は治せない。
だから、何かをする事を止められた。
そんな感じで、何も出来ないから、体を動かせる機会が少なく、
彼女の体力は、とても低くなり、何かをしようとしても、すぐ疲れてしまった。
しかし…彼女の中身は…どす黒いストレスが溜まっていく一方だった。
何もしないで、ただ、そこにいてくれって…
私は置物じゃないっつ~の。
暇で仕方ないんですけどぉ~。
彼女は夢想家で、いつか、王子様が、こんな生活から救ってくれる事を期待していた。
彼女は実のところ、かなりエッチだった。
しかし、彼女に近づく男たちは、彼女の前では、性欲が消え、欲情しなくなる。
女として期待されていない感じが不満だった。
何で私の前では、男が欲情しないのよ。
こうして、聖女の毎日が続いていく…。




