プロローグ:均衡の喪失
かつて世界は、光と闇がひとつの鼓動で脈打っていた。
空は澄み、海は凪ぎ、風と炎が抱き合うように巡る──。
それが、神の名を戴く世界の姿だった。
その空を舞う蒼龍サウザー。
その大地を護る赤龍サラマンドゥーラ。
二柱の龍は、創造神ゼウスが生み出した平和の象徴であり、彼らの呼吸が世界の調和を保っていた。
蒼き風が吹けば、赤き炎がそれを包み、赤き炎が荒れれば、蒼き風が鎮める。
万物はその二つの循環に生かされていた。
──だが、神にも“影”があった。
ゼウスの中に宿るもう一つの力。それは「破壊」と「憎しみ」。
長き創造の果てに、神は己の完全さを恐れた。
恐れは形を得て、ついに声を上げる。
「我こそが、真の創造だ」
その瞬間、ゼウスの影は裂け、闇の神サタンデュオスが生まれた。
世界は二つに分かれ、光と闇が争い始めた。
分断の衝撃は天地を駆け抜け、サウザーとサラマンドゥーラの双魂を引き裂いた。
世界の循環は失われ、ラザールは静かに狂い始めた。
空は冷たく乾き、地は炎に焼かれ続け、神々は己の居場所を失った。
ゼウスはその罪を悔いた。
だが、破壊された世界を元に戻す術はなかった。
力を使い果たした彼は、やがて“無力”を意味するアシャカルタとして姿を変える。
「我はもはや創造の神にあらず。だが、願う者の心に、灯を託そう──」
こうしてラザールは、神々の沈黙と共に“再誕”の時を待つこととなる。
──まだ、誰も知らない。
やがて“火”を継ぐ者が現れることを。




