大型トラックざまぁ
土曜日の高速道路はバカと貧乏人であふれていた。
「おいおい、残クレアルファードのくせに追い越し車線走ってやがるよ、前のクルマ」
「追い越せ、追い越せ。左から」
俺と助手席のタケシは電子タバコを片手にいい気分だ。
中古で買ったばかりの黒い箱型ベンツは快調に追い越し車線をずっと飛ばし続ける。
寝るぐらいに倒した運転席のシートが眠気を誘った。
「あー……。ゆうべ3時間しか寝てないからさすがに眠いわ」
「盛り上がったもんな、オンラインゲームで。眠い時はタバコとスピードだ。飛ばせ」
タケシがそう言うので、俺はゆるめていたアクセルをまた踏み込んだ。順行スピードは70〜130km/hってとこだ。
すると前の行列に追いついた。
のろいのが戦闘にいるらしく、追い越し車線に長打の烈ができてやがる。バカばっかりだ。
走行車線とペイスがあんまり変わんねー。たまに走行車線よりも遅くなってやがる。
俺は列にぶつかりたくないので1キロ離れて追い越し車線を走りつずける。
すると走行車線のケツを走ってた大型トラックが右ウィンカーをだした。
大型トラックのくせに追い越し車線にでるつもりだ!
バカなのか? 大型トラックが追い越しなんかすんじゃねーよバカ。
今はまだ追い越し車線の長い行列がフタしてて、大型トラックは追い越し車線にでられない。
行列が途切れたところで車線変更するつもりだ。バカが!
追い越し車線の最交尾が──トラックより前へでる。
ずっとウィンカーをつけていた大型トラックの右側めがけ、俺は急加速で突っ込んでいった。
「オラオラ! のろいのが出てくんなや!」
パッシングとクラクションを同時に喰らわせながら、右へハンドルをゆっくりと切るトラックの右側へ、130km/hですべり込み、前のクルマにぶつかりかけたので急ブレーキを踏んで80km/hまで落とす。そしてトラックめがけて長いクラクションを喰らわせる。
大型トラックがブレーキを踏んで、巨体を揺らして失速した。
81km/hぐらいで走ってたのが60km/hぐらいまで落ちたように見える。登り坂だからなかなかスピード回復できないようだ。
ズルズルと下がっていき、なかなか追いついてこなかった。
「ざまぁ」と叫んで俺は笑う。
タケシもアキれた笑いを浮かべながらもらす。
「アイツら80km/hを82km/hとかでチンタラ追い越しするからなー。バカな運転してんじゃねーよって感じ」
「大型トラックが追い越し車線はしんじゃねーよ」
「追い越し車線は乗用車のものだよな」
しばらく走り、サービスエリアに入った。
さすがに休憩しないと、もう60kmも連続走行してる。走りすぎだ。
俺とタケシが黒い箱型ベンツの中でダラダラしていると──
「……あれ?」
「さっきの大型トラックだ」
間違いない。追い越し車線にでようとしていたあのバカトラックだ。そいつがサービスエリアに入ってくると、俺らの隣に泊まった。
俺たちは緊張した。
「……怒って何か言ってきてもドア開けんなよ?」
「先に手をだしほうがこういうのは負けだ。ベンツにパンチでも入れてきたら警察呼ぼうぜ」
トラックから降りてきたのは、ヤクザみたいな風防のオッサンだった。
コンコンと軽く運転席の窓をノックしてくる。
少しだけ窓を開けて、「なにか?」みたいな顔をしてやると、オッサンは顔に似合わない丁寧な口調で言った。
「さっき、横に割り込んできたでしょう? あれできつくブレーキ踏まされましてね、荷が崩れたかもしれないんで、ちょっと一緒に確認してもらえませんか」
「はあ!?」
「そっちが前に割り込んでこようとしたのが悪いんでしょ!? 右ウィンカーだしてたら横にクルマがいても車線変更していいなんてルールはありませんよ!?」
「まぁ、ちょっと確認だけ付き合ってくださいよ」
オッサンはあくまで柔らかいモノゴシでつずけた。
「精密機械を積んでますんでね、荷物事故になったら数千万円の賠償金が発生するんです」
「……どうする? タケシ」
「逃げろ」
「ナンバーを控えさせてもらったんで、逃げたりしたらさらに罪が重くなると思ってくださいね」
仕方なく俺たちは車をおり、オッサンがトラックの横のハネを開けるのを一緒になってみた。
ゆっくり、ゆっくりとハネがあがる。
俺もタケシもごくりと唾を呑み込んだ。
何かあったら498万円で買ったこの中古の箱型ベンツを売らないといけないかもしれない……。
精密機械というから時計みたいな小さなのを想像してたら、銀色に輝く巨大な何かの機械が姿を表した。それが木とベルトとでがっちりと固定されてある。
しばらくオッサンは荷台にあがってあっちこっちを確認していたが、やがて笑顔を俺らに向けると、言った。
「よかったですね。なんともないようですよ」
俺もタケシも胸をなで下ろした。
オッサンが言う。
「でも、気をつけてくださいよ? 大型トラックは何を運んでるか、わかりませんからね。ブレーキを踏ませただけで数億の賠償金を請求されることもあります。なるべくなら近寄らないようにしてください」
それだけ言うと、オッサンは「じゃ、急ぐんで」と言い残し、すぐにサービスエリアから出ていった。
俺とタケシは元気を取り戻した。
「……はっ! バッカじゃねーの?」
「喧嘩する度胸もないオッサンだったな!」
見た目はいかついので内心ビビっていたが、見た目だけのヘタレだったようだ。ざまぁ。
大体、土曜日に仕事なんかしてんじゃねーよ。これだから貧乏人は……
まぁ、でも、これからは大型トラックを見たら近寄らないようにはしようと心に決めた。
ごじはありません




