10.フィクションじゃない
「俺をお前の"新しい家族"にして欲しいと言ったら、困らせてしまうだろうか」
「え?」
(なんて?)
自分の耳が信じられず、私は殿下に視線で問う。
正面に向き直った殿下は、迷いのないまっすぐな声で私に告げてきた。
「シェリルに惚れている。リスに優しいお前も、聖水に震えるお前も、アグネスに毅然と対したお前も。そのすべてに惹きつけられて、愛しくてたまらないんだ」
真剣な表情の殿下に至近距離で見つめられて、私の心音は外に漏れ聞こえそうなほど高鳴り始めた。
いやもうさっきのスキンシップで既にドキドキしてたから、ドラムロールに変化した、とでも表現すべきか。
連打よ、連打。破裂しちゃう。
同時に思い出した。
王子がピンク髪の男爵令嬢に惚れるのは……。
「物語の強制力かも……」
ぽそりと落ちた不安は、殿下の強い声に打ち消された。
「シェリル、物語なんかに囚われるな。アグネスで学んだだろう? 目の前の、生きてる俺を見てくれ。俺の気持ちは虚構じゃない」
その言葉には、切々とした気持ちが込められていて。
「……っ」
どうしよう、私も。
私もクリフ殿下が好き!!
強引に蓋をしてた。気づかないフリをしていた。
その自制がパッカンと。見えない力で跳ね飛んだ。
両想いの歓喜が、高潮のように競り上がってくる。
激流待ったなし、この気持ちに押し流されてしまいたい。
でも。でも。
「身分の差が──」
「それを越えるのが、聖女の地位だ」
「……!」
(クリア出来てしまう? 私が聖女認定を受け入れれば)
「むろん、父上は賛成してくれている。それどころかメリード男爵家を昇爵させることが出来るとお喜びだった。優秀な神官や治癒術師、医師を多く輩出した功績を評価し、長年打診していたが、いつも断られていたそうだ」
(最大の外堀が、いつの間に──っ?)
「今度一緒に、男爵家に挨拶に行こう。待望の里帰りだ。家に帰れるぞ、シェリル」
「その帰り方は、私の求めてる帰宅と違いますっ、です」
いろいろ許容オーバーで頭が真っ白になりかけてたら、殿下が目を細めて言った。
「それに王宮は"王都にあって、王都に非ず"。王族になれば、戸籍も住民票から外れるしな」
「っつ、追放刑は不問になったはずじゃ……!」
楽しそうな殿下の様子に、揶揄われてると気づく。
「もうっ……」
彼につられて、笑みがこぼれた。
「シェリルは、笑ってるのが可愛いな」
「はうぁっ?!」
(不意打ちで直撃! ナチュラルに何を言ってくるのよ!)
ただでさえ破壊力抜群のイケメンなのに。"好きだ"と認めた途端、私の中で至上最高、好みど真ん中に据えおかれたクリフ殿下のこれはズルい。
「考えて欲しい。俺との未来を」
ひゃぁぃ、と言いそうになるのを理性で止め、かろうじて。
「じ、時間をください」
とだけ、口にできた。
殿下の奥さんということは、末は王妃だ。気軽にYESが言えない重責。きっと国中からも、反発される。
「どのくらい?」
「えっ、えええ、えーと」
(やめて。もうやめて。突然告白されて、蕩けた脳が使用不能なのです、クリフ殿下)
「まあ、あまり追い詰めて逃げられても困るから、今日はこれぐらいで良いか」
(今日は? "今日は"と言いましたか? まさか後日もあるの? えっっ。ああ、時間稼ぎしただけだから?)
じゃあいずれは殿下の難問に、返事しなきゃないけないの?
そうか、そうなのか?
嘘でしょおぉぉぉ。
もし「私も好き」だと告げようものなら、即教会の鐘が鳴りそうな予感!
混乱していたら、両手を掬い上げられ、そっと口づけを落とされた。
「~×〇△◇!!!」
悲鳴がっ、声にならないっっ!
「ははは、シェリルといると、人生ずっと楽しそうだ」
「人生ずっと? まだ何もお受けしていませんが???」
「まあまあ。必ず口説き落としてやるから、覚悟しろ」
圧が強くて押しが強いクリフ殿下が、どうしてオオカミじゃなくリスになったのか、私は本気で呪いの魔道具に問いたくなった。
その後。
クリフ殿下のあの手この手で王宮暮らしが続く中、物語で起こる災害を想起して殿下と力を合わせ、国の危機を乗り切るうちに、"今代の聖女様は素晴らしい方だ"と国民からも称賛されて。
自分で逃げ道をふさいでしまったと気づいたのは、「妃」と呼ばれるようになってからだった。
結果。
かつてなく国は栄え、賢王と聖女の黄金時代と呼ばれることになる。
『あな永遠』とは全く別の、私たちが生きた軌跡が、民に語られる物語となったのだ。
フィクションじゃない私たちの物語が、永遠に刻まれていく──。
ここまでおつきあいいただき有り難うございました!
これにて本編は終了となります\(*^▽^*)/
なおシェリルは「好き」と伝えたら大変なことになるので、言いたいのになかなか伝えることが出来ません。クリフは両想いなのを知らないので、手ごたえありと感じながらもいろいろ我慢しています。シェリルの気持ちを知った時が楽しみですね( *´艸`)フフフ
この後7時に《ロドニー》回を予約投稿しているのですが、《アグネス》回が人気なかったので、ロドニーはどうだろう(;´∀`);
公開を迷ったのですが、書いたので出しますね♪
よろしくお願いします!!
あっ、お話楽しんでいただけましたら、下の☆をなにとぞ★に塗って伝えてやってください!
応援いただけますと今後の励みになります!!m(__)m




