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8 『空からきたひかり、星が終わるその前に。一度の食事が星の運命を変えた件』です。マスター、こんなタイトルでいかがですか? 「すてきですね。でもなんだかメタっぽくないですか」

――


ミラシャ・リンバ


――


マスク無しで空気が吸える、だと!?

毒の砂塵に焼かれた喉が、澄んだ空気で満たされていく。

黒く濁った湖が、光を青く反射している。まるで夢を見ている様だ。


私は、〇んだのか?

毒にやられて〇にゆく者は、最後に夢を見ると聞く。

だが、目の前に立つ男はあまりにも鮮明に映っている。


表情は――、慈愛。

化け物うごめくこの世界、やつらをぶち〇して帰ってきたら、男にこんな表情で優しく包んでもらいたかった・・・。


待て、男だと?


この世界では男は希少。

だからこそ女が戦士となり、氏族を導き、血を繋ぐ。

男は庇護され、奪い合われ、時に物のように扱われる。


なのに、この男は私を助けてくれた。

襲われ、攫われることを躊躇せずに。


そして、この誰もが夢見た空間と青い湖。

この星が滅びを迎える前に語られていた、「男神が世界を作ったと」 言う神話の再来ではないか。

誰も信じていなかったはず、それが私の目の前に。


この奇跡はどうだ! まさに神の所業に等しい!


「あの、あなたが神か」


声が震える。黒髪の男神は困ったかのように笑った。


隣には銀髪をゆらしながら娘が立っている。機械の身体なのに瞳は緑に輝き、表情に生気が宿っていた。

感覚が、人、いや神だと認識できる。


私は、恐れ多くも男神様に支えられ、言われるがまま 『聖域』 の扉の中へ足を踏み入れた。


――


マスター・ショータ


――


炎の様な赤髪ロングで褐色肌が印象的な女性が、開口一番。


「あなたが神か」


いやいや、神様とはマジに理不尽な存在を指します。

力や願いがそのまま人型になった様なバグです。


隣で銀髪をゆらしながらフォルティナさんが、科学的に否定してくれると思いきや。


「マスター! 神様なんですか? だと思ってました! 前も急に現れて助けてくれましたもんね。いや~、転生者はスキルも使えるみたいじゃないですか。 さぁ! ここでスキルを見せて崇め讃えられて下さい!」


「フォルティナさん?? オーバーヒートしてます? 先ほど神様を体験しましたよね? 俺を転生させて、ダンジョンから俺を探して宇宙船にしがみつき、右ストレートをぶち込んできた。あれが神様ですよ。まごうこと無き神様です」


この返答を聞いて、フォルティナさんが 『あっちゃ~』 みたいな表情をして口に手を当てている。

仕草が可愛いけど、マジになんなの。

神様ロールプレイなんてやらないよ。


目の前の女性の戦士を支える。

一先ずラクランジュのレストランで休ませつつ事情を聴いてみよう。


「そんな衰弱していては、移動も困難でしょう。ひとまず、ラクランジュで栄養を取ってください」


「そうですね、ついにラクランジュ名物の栄養満点カチカチブロック保存食の出番ですか!?」


「衰弱している人にとどめを刺す気で・・・、えーと、ごめん。消化にいい物がいいですね。おかゆにしましょう」


――


厨房


未来の厨房設備を使えるようになり、やってみたいことがあった。


まだラーメン屋は、圧力施設を導入し骨を煮溶かし出汁を取る工程に至ってない。

こだわりがある店は時間を3日かけて、水を足しながら煮込む工程になっている。

今だに、火を使えるようになった石器時代と変わらない出汁の取り方だ。


なぜなら骨を粉砕する油圧スクラップシステム、そして超高圧の圧力設備は投資に莫大な金がかかるからだ。

1杯1000マネー(所説ある)では、採算を取るに至らないからだ。

元を取るのに、何十年かかる事になるのかと言う事である。


だが、ここにあるのは未来の厨房。

瞬間圧力により究極であり、至高の白湯(鶏がら)、豚骨スープが作れてしまう。


では、料理史の次のステージにいっちゃいますかね。


「骨の部位をぶち込んで、おらああああああああああ!」


と、大量の骨を圧力で極限まで凝縮し、うま味エキスとして抽出した鶏がらスープがチン! と音を立てて片手鍋一杯分が出来る。


なるほど、採算が合わないわ。

普通の白湯や豚骨で丁度いいわけだわ。

薄めて使うと、市販の薄めて使う濃縮スープの素になるわけですね。


せっかくなので試食して頂きましょう。


湯気が上がる片手鍋に米を程よく崩し、白湯の中で踊らせる。

塩は一つまみだけだ。究極の味を体験してもらいたい。


間違いない。これは、うまいぞ~。

もう、立ち上る匂いがもうおいしい。そもそも原価がおかしい。貯蔵庫の出汁用の骨部位をかなり使ってしまった。


倒れていた女性の介抱をしているフォルティナさんに完成を伝える。


「はぁい~。フォルティナさん、出来ました。究極のおかゆです。えーと、すいません。採算があいません。メニューとしてお蔵入りでございます。やっぱり、普通の白湯でいいようです」


「はい! 『生き返るおかゆと』 して登録しました。 注文が来た場合、利率を上乗せして1杯100万で提供しますね」


「え~と、材料使い過ぎで怒ってます? それとも素ですか? 人はラーメンに1200円以上払いたくないわけでありまして。おかゆに100万は払わないと思います。俺が作ってこの言い分は大変申し訳ないのですが・・・? あっ、あとで、今も生産されているカチカチブロック保存食の原価教えてくださ――」


配膳ロボが急速におかゆを運び出し、フォルティナさんが炎髪の女性に渡すと、震えながら両手で受け取った。


最初は、怪訝そうに匂いを確かめるように嗅ぐ。

次の瞬間、目を見開いた。


「あたたかい、そして・・・うまい、うまいに決まっているッ! うっうっ・・・、グスッ」


口元に手を当て、大粒の涙が頬を流れている。


何か手違いがあったのか。

厨房を飛び出て、フォルティナさんの隣に立ち様子を伺う。


「ま、まさか。味付け失敗でしたか!?  原液が濃すぎで味が分からないってやつですかね!?味見した時は、脳が痺れるほどうま味を感じましたけど。

感じない場合もある、と言うか、まだ食べてない。あれ?! もしかしてどこか痛みます!? フォルティナさん。どうしましょう」


「マスター、ここは空気を読みましょう。そもそも、まだ食べてもいませんよ! 泣くには理由があるみたいです」


食べる前に 『うまい』 って言ったって事? 何なの?

女性の気持ちが分かったら、アラサーで付き合った経験なしの独身なんてしてないんだけども??


赤髪の女性は首を横に振り、涙ながらに笑う。


「違う、違うのです。これは、うまくて・・・、あたたかくて・・・。心が救われて――

泣いているのだ」


「フォルティナさん。どういうことです?」


「マスタァア~!? 聞き返す雰囲気でしたか!? 素でやってますね? 

無償のいたわりに触れて、感情がオーバーフローしたんですよ! 乙女心をご存じ無いですか?

この荒廃した世界では、食べる事すら難しいですからね。やさしさに触れ、温かい食事に感動していると思います」


なるほど。

飽食の時代に生まれたので、あまり分からない。


彼女はどんぶりを抱えながら、嗚咽交じりに言葉を絞り出す。


「やさしさ、それは命取りだ。 化け物を倒し。殺し、奪う。必死に部族だけで生きていく。なのに無償のやさしさで食べろと・・・」


まぁまぁ、そういうのいいじゃないですか。


「まぁまぁ。そういうのいいじゃないですか。 せっかく、あなたのために作った料理が冷めてしまいます。これ以上に涙の塩味は必要無いですよ、料理が台無しです。そう、泣かないで下さい。良かったら食べてみて頂けますか?」


隣のフォルティナさんがニッコリと微笑む。


「なんだかサイコ〇スっぽいですが、盛り返してきましたね! マスター、超エモいです。アンドロイドの私でもドキッとしました。マスターはおかゆの神様ですね」


「おかゆの神様じゃなくて、シェフと呼んでよ」


次の瞬間、彼女のおかゆを口へかき込む手は止まらなかった。


――


一瞬で究極のおかゆを食べ終わる、炎髪の彼女。


う~ん、これ作るのに凄い材料がかかっているのだけども。

上品なフランス料理を 「なにこれ、量すくなくない? 一口じゃん。パクッ」 とやられているような。

料亭のふぐ刺しを 「超うすくない? 焼き肉だったらこんな透き通る肉は通用しないけど?? かき集めて一口でパクッ」 っと、やられているような。

なんだろう、この虚無感。もっと味わって食べて欲しいと言うのは料理人のエゴだろうか。


腹に物を入れて回復したのか。

彼女が立ち上がる。


「シェフ様、銀の女神様。私は、ミラシャ・リンバ。部族の族長を務めている。私はあなた様のこの奇跡を部族に見せなければならない」


「ええ、マスターはシェフ様です。ぜひ奇跡を体験して崇めて頂ければと。 賽銭は魔石かマテリアで浄財として――「フォルティナさん?? 急に何?? 後で話があるからね。 賽銭??浄財?? 俺の故郷の地球知ってるでしょ? まさか、UFOはもう地球に来てたって事?」


この謎の軽口を切るようにミラシャさんは真剣だった。


「失礼、あなた様が望まぬとも部族、いやこの星の者はきっと神と呼ぶでしょう。

この星は毒の砂塵にあえぎ、黒い水に縛られていた。その束縛から解き放ったのです」


彼女は急に来ている装備と服を脱ぎだした。

意味わからない行動に、文化に面をくらう。


「フォルティナさん、この文化どういうことですか。食後に服を脱ぎだす 「ごちそうさま」 の儀式ですかね。 どうなるか期待してみましょうか。ワクワクテカテカってやつです。ワクテカ分かりますよね?」


「マスター、ワクテカが検索ベースに見つかりません。服を脱いでワクワクテカテカなんて分かりませんが、裸で正座の文化はあるようですね」


地球への探りは失敗した。

そして布切れで身を隠したミラシャさんが、静かに膝を付く。

服、装備を丁寧に重ね、供物の様に両手でうやうやしく差し出してきた。


「これは幾度の毒の砂塵を踏み越え、幾多の化け物を切り伏せて来た歴戦の証。

血を吸い、掟を背負い、私の命そのものだ」


ごちそうさまでは、ない。

俺が苦手な強者の持つ圧、そして有無を言わさずの覚悟が宿っている。


「そして、私の魂を差し出します。どうか、私の部族を救ってください。

この湖の片隅に、生きる誇りを授けては頂けないでしょうか」


助けてくれと言われ、助けないなんて事は無い。

出来るだけ助けてみましょう。

どんな悪人だって目の前で救いを求めていたら、人の事を助けると思うよ。


「フォルティナさん、良いですか? 食料の備蓄はまだまだありましたよね。エネルギーも少し余裕があったと思います。やれる範囲でやってみますか」


「ふふっ、マスターならそう言うと思ってました。まだ、少し余裕はありますね。

マスター、神様ですね! おめでとうございます。あっ、否定してもダメですよ。 私と一緒にマスターの地位、立場の向上は私の存在的な行動原理です。マスターの地位の向上に役に立つ事は・・・、幸せ。そう、私の幸せです」


「支配人からオッケーでました。ミラシャさん。やれる事をやってみましょう。

後、装備は気持ちだけで大丈夫です。戦士のあなたから装備を奪ってもしょうがないですからね」


――


ミラシャさんが出て行き、しばらくして――

俺達は、真剣に議論をしていた。


「フォルティナさん、正直に話してください。地球知ってますよね? 地球。輝く青い星。太陽系に属する、惑星。地球文化に詳しすぎます、地球にエイリアンやUFO来てたんですよね? 政府や上位存在に隠蔽されていたのでしょう、そうでしょう!」


「マスター、分りません! 地球なんて分かりません! 宇宙船地球号なんて分かりませんよ! アンドロイドが知らない銀河の事なんて言われても分かりません! ガイア・・・、いえ、あ~・・・、ザーザザザ、再起動シーケンス。マスター、再起動してきますね」


「知ってる! それ知ってるて! 宇宙船地球号しっているじゃん! そのエラーわざとやってません?! あ、ごめん。言い過ぎました。いや、疑っている訳じゃないです。 えっでも、地球にも行けるって事――」


突如、レストランのホログラムが浮かび上がり、辺りの様子を映し出す。

30にも満たない人影が現れた。


ボロボロの鉄板、衣服をまといマスクをつけた女性たち。

子供を背負った者もいる。


やがて、青い空気に触れた瞬間、全員が膝から崩れ落ちた。


「肺が焼けない・・・、息が吸える!」 「これが、空気。本当の空・・・」

「夢じゃない、世界が生き返った姿がここにある・・・!」

「空気がうまい!」 「景色がきれい!」 「水がおいしそう!」


なんか、元気そう。

救助いる?


「シェフ様、フォルティナ様、私の部族を連れて参りました」


ミラシャさんが胸に手を当て、ひざまずくと。

全員が一斉に同じ姿勢をとった。


「さぁ、マスター。外に出て希望を見せてあげてください。ここで神性を否定しても逆効果、誰のためにもありゃしませんよ~」


緑の瞳で、パチンとウインクするフォルティナさん。


「なるほど。技術者に神営業を推し進めろと?!!!? 無理無理、人にはちょうどいい所があると思うんですよね。 まぁ・・・、確かにここで救えませんとは言えませんよね。

炊き出しをしますか。普通のおかゆと、ビタミンのために果物でも出しましょうか。リンゴ系が沢山ありましたよね」


「はい、マスター。喜んでくれると思います。きっとマスターも喜ぶと思います、そしてマスターが彼女達に受け入れられる未来に、私も喜ぶでしょう」


よくわからないけど哲学的だね。


プシューッと扉が開き、2人で外に出る。


「え~と、黒い湖は改善されまして飲める基準に達していますので、飲めます。空気もこの周辺なら改善されたので大丈夫だと思います」


俺たちが出ると同時に一斉に、部族たちが頭を下げる。

子供が恐る恐る顔を上げ 「ご、ごはんをください」 と言ったか。


フォルティナさんが手を叩きながら、出会って始めて見せる邪悪な、いや、小悪魔的に笑っている。


「マスター、食事の号令を。もう後戻りはできませんよ。格好良くやってくださいね!」


「誘導されている!? これがメイドロボのフォルティナさんの真の実力!?

さて、みんな聞いて欲しい・・・、食事の前にだ!」


周囲に激しい緊張が走る。

言い方が良くなかったか。


「体が黒く汚染されている方は、治ります。銀の女神様の方へお越しください。

力に自信ある方は、食事の準備がありますので、こちらに来て炊き出しの準備を願えますか?

それと、なぜ助けるのかと疑問を持つ方いますか? 助ける余力があるのに、助けない人っています?

人は助けない事は無いと思うんですよね。 さ、食べながらこの後の事を考えましょうか」


はじけた。決定的になにかがはじけた。

多分、おかゆの出来上がり。すえた匂いのおかゆの香りがはじけたのだろう。

厨房から、出来上がりを知らせる チン! の音が聞こえる。







いつもありがとうございます。


展開は見えていると思いますが、掛け合い頑張ります。

おいしいと書けないし、おいしくない。とも書けないので。食べなくてもおいしい。と思えれば、これ成立してるんじゃない? と思いました。



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