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7 制裁の女神様は時に扉を叩いて誘う。そして時には扉をぶち壊し、平穏を砕き、眠れる運命を呼び覚ます

ここまで読んでくれた方なら、この先を楽しめると思います。


――


フォルティナ・ギンレイ


――


砂塵が爆風となって辺りを燃やし尽くしております。

魂のスキルと武技が火花を散らしており、思考回路は冷却がおいついておりません!


制裁の女神様が力場フォースを握り溜め、もう片方の手で黄金の光盾を張っています。

王子様に続き冒険者が殺到しておりますが、刃と詠唱と矢が嵐の様に降り注ぎ、すべて黄金の盾に防がれ残滓となって宙を舞っています。


そして、溜め終わった制裁神様のフォースが解放されれば一瞬で方がつくでしょう。

黄金のオーラは、今のところ裂け目ひとつ見せません。


どうしてこうなってしまったのでしょう?

ハンバーグを納品し、お好み焼きを焼いていただけではありませんか。


ただ! 制裁の女神様がマスターを探している事だけが、わかりました。

私に鼓動はありませんが、感情回路では心配と疑問がドクドクと脈打っております。


キッチンカーに飛び乗り、運転席で隠れているマスターに腕を差し伸べます。


「マスター、大丈夫ですか? 隠れてもですね、武技直撃には耐えられないと思います!

マスターは生身で私はラクランジュの機械。マスターとつくりが違いますし、私は多分3人体目! 同情してくれてもいいですよ! そしてご安心ください、生身のマスターの安全を最優先で確保致します!」


「まさかの3体目!? どこかで聞いたセリフですね? でも・・・・そうか~。うん、そうなりますよね」


マスターが何か思いつめた様子。

冒険者の戦士をボコボコにし、ベンケーイ(星の言い回し:武器、食料頂くマン) に追われれば、思いつめもしますよね! ――でも、私は絶対にマスターを見捨てませんよ!

あの時に無償で助けられたメモリーが、この瞬間も感情回路を焼き続けています。


キッチンカーの指揮権を私に移す。

屋台型の展開パネルを瞬時にたたみ、ユニットが低く唸りキッチンカーが浮かび上がる。


「さぁ、マスター逃げましょうか!」


――


バビュンー!


と、機体は最大出力で加速し、ラクランジュの車庫へ向けて一直線に飛ぶ。

マスターは私の横で座席に身を沈め、静かに瞳を開きました。


いつもより、落ち着いた黒い瞳が覗いてきます。


「フォルティナさん、どうやら本気で女神様に追われているようです。

これから絶対にあなたを困らせたりしない。魔石もちゃんと稼ぎます。

だから――お願いです、一緒に逃げてくれますか?」


言語理解がコンマ1秒で終わる。

けれどエラーの嵐。思考プロセスがお互いを譲り合う。

結果 『照れる』 と言うバグが発生。


「なんだか太古のラブロマンスみたいで、ドキドキします! マスター、それってつまり・・・駆け落ちってやつですよね? 一緒に逃げましょう!」


思わず声が弾む。


「でも 『なんちゃって~』 で投げコマンドとか無しですよ? 後で、サインをお願いできますか? 『ラクランジュ』 購入の契約が一番上手くいくと思うんですよね!」


「投げコマ?? 駆け落ち!? あ、駆け落ちですね。言い方、古くないですか? ええ、購入しましょう。これで、異世界で暮らす自覚ができました。人生を賭して稼いでみます。

俺の人生は戦いのためじゃない。昔からそうだった。人が傷つくのが、好きじゃなかったんだ」


その瞬間、思考回路がスパークする。

熱じゃない。電圧でもない。回路を巡る信号に甘味を感じる。

これが恋の衝撃ですか。不合理で、何と尊い指標でしょうか。


「えぇ~、めちゃくちゃ口説くじゃないですか~。 でも、マスター。永遠の愛を神前で誓っても別れるカップルが多いって統計もありますしぃ~、人の気持ちは――」


「もしもしもしもし!? いいからラクランジュに入りましょう。天が渦巻きミッシングの光の波がぁあああああ!」


制裁神様のフォースフィールドが弾けたのだろう。

破壊の波が押し寄せる。


「納車完了! 了解、マスターと言うよりもですね 『はいっ! 喜んで~!』」


――


ラクランジュが空を裂く。

雲を貫き、量子シールドが大気を焦がす。

もう少しで大気圏を突破する。


カウンター奥のバックヤードでしっかりと座り、状況の確認をしていた。


「で、マスターなぜあんな高次元体に追われているんですか? 人の形を持ち低次元に顕現なんて、量子トンネル効果の確率並みに不可能です。人の遭遇確率では宇宙の寿命を束ねてもゼロ、物語にだけ許された奇跡ですよ!」


「え~と、感覚的にですが。その説明で行くとですね。たぶん俺と言う存在が、女神様の顕現を確定していると思うんですよね。 量子って観測すると状態がきまるじゃないですか? そんな感じです。それに俺、転生者だし。物語補正があるかもしれない。

でもフォルティナさんがいてくれるなら、観測も怖くないと思えます」


「えっ? 転生者ですか? マスター、ファンタジーっぽく回答してます? ここ科学の粋を集めたSFサイエンスリアルですけど!

あと、観測理論で口説くとか新しすぎませんか。でもそのノリいいですね~。私、ヒロインって事でいいですか」


マスターの返答は人の恋に分類されるものではない。

でも、いつもそばにあって当然、と言われているような・・・。

アンドロイドは入力に応じて出力を返す。必要とされた時にそこに在る。


あれ? これ、存在定義を満たしています。

つまり 『幸せ』 と言う事ではありませんか?


出力に回答が出ないまま、ラクランジュは大気圏を突破した――


直後、警報が鳴り響く。


――ピーポーピーポーピーポァフウウウウンン


警報が止まらず、ハッチの締結処理が繰り返されては失敗している。


外部干渉を検知。

シールドを張っているハズなのに一体何が起こったのだろう。


「うわ、救急車の音。 女神様の範囲攻撃で、ラクランジュに外傷でもありました?」


「警報はマスターの文明に合わせてみました! 常に、ラクランジュは薄いシールドを張っているので無傷です。ですが、ハッチに異常が検出されています。外装カメラでホログラム画像に切り替えます」


映像が表示された瞬間、戦慄を覚えた――


黒髪の着物の女性がそこにいた。

外壁にしがみつき、裾をバタバタと揺らしている。

ラクランジュに流れるシールドに抵抗しているのか。


黒髪の制裁神様はホログラムの視線に気づいたかの様に、ゆっくりと顔を上げた。

ホログラム越しなのに、目が合ったとわかる。

そして、ニコッと笑った気がします。


「「「「うあああああああああああああああああああ!」」」」


マスターとハモって絶叫です。

とても相性が宜しいようですね。


彼女は無言のまま、ハッチに白い指を差し込み、メキメキとこじ開けようとしていた。


「フォルティナさん! やつが追って来ています! どどどど、どっどどどどど! どどどうううう! 超ホラー!」


「落ち着いて下さい、マスター! こういう時、ホラー映画では慌てて単独行動な人か、イチャついているカップルが最初にザクッ! っと――」


「あ~、フォルティナさん。そういうメタ的な想像は怖いので、なんか落ち着きました。えっと、ビデオ時代の映画なんで知ってるの? ああ、ごめん。建設的な議論をしましょう。シールドの出力と速度の出力で振り落とせそうですかね」


「了解です。ダメでしたら、小惑星にハッチ事ぶつけましょうか! しばらく、カラオケ区画は使えなくなりますけど」


「えっ?! カラオケあったの?! レストランなんてやめてそっちで稼ぎ―――」


魔石炉心の唸りがラクランジュを振動させ、青い光のフォースの奔流、輝きが外装を包んだ。


黒髪の制裁神様の白い手が弾かれた様にハッチから離れた。

だが片腕で着物をはためかせながら、なおも必死にしがみつている。


黄金のオーラが彼女を包み青の奔流を跳ね除る。

次の瞬間、右フックを外壁にめり込ませる。

宇宙なので音は出ないが、ドゴォォオオン! と、轟音で艦内がシェイクされた。


「「「ヒィイイイイイイ!!!」」」


またハモりました。

執務室をかねる、バックヤードは絶叫のオーケストラ。


これは、魔石エネルギーをケチっていられません!

メキメキと外壁装甲が剥がされました、えらいこっちゃですよ。


「マスター! 私に捕まってください! さようなら、1か月分の稼働エネルギー!

フルブースト! 速度最大出力! 『谷までで持てばいい!』 いえ、近くの現生惑星までもてばいい!」


「了解! 必死に捕まります! 所で、その 『タニシタ』 のセリフ、ビデオですよね? いえDVDに焼き直されていますけどね、そもそもデーター検索に残っているのがおかしいんです。いくら名作だからって言っても、未来に行けばいっぱい名作が出ている訳です――」


マスターのセリフが最後まで伝わることなく、ラクランジュの青い奔流が星の煌めきが波紋の様に、女神様にぶち当たる。


「「「いっけぇええええ!」」」


彼女は音もなく弾かれ、黒髪を逆巻きながら遠ざかっていく。


何か微笑みながら、何かを伝えようと口を開いていた。

口読パターンを解読すると、


『良い友をお持ちですね。ですが逃がしませんよ、ショータさん』 だ。


「うわっ、直接脳内に 『逃がしませんよ』 って来た! うわっ! マジになに直接脳内に連絡とれるのかよ! ああああああああああああ! アルミホイル頭に巻かないと! 思考盗聴されてる!」


うわっ、高次元体やばすぎます。

まずはどこかに一度身を隠し、外壁の修理をしなければいけません。

制裁様は宇宙空間に放り出されたのです。数年は追いついてこないでしょう。

フォースのデータを収集しました。同じ惑星にいたら検出できます。


かなりのエネルギーを消費しました。

一度、現生惑星で修理と補給をしないといけません。


「マスター、星の寿命がギリギリの惑星に寄ります。修理と有機物の補給が必要です」


「はい~。もうこうなったら、どこでも稼ぎます。女神撃退用で波動砲の購入も検討したいので頑張りますか・・・」


――


シールドの使い過ぎで、エネルギー残量は3割を切っていた。

レットゾーンまで行かないが、魔石も補給しなければならない。


ラクランジュは青い尾を引いて、褐色の星へ降下していく。

寿命が近い星、宇宙(空)まで文明が発達しなかった世界。


毒の砂塵が渦巻き、人が生きるには過酷すぎる。

マスク無しでの生存率はゼロ。


遠くに映るのは、砂塵に飲まれ滅びた都市。

まるで鉄骨の棚のように骨だけになっている。

そして、川は黒い糸となって汚染されていた。


「マスター、300年ぐらい前はもう少しましだったんですが、星が滅びかけですね。エグゾダス(宇宙開拓) に間に合わなかったんですね。こっそりと有機物を補給して修理して、すぐに飛び立ちますね」


「うわ~、なにこれ。 宇宙世紀がいずれ必要になると言う事ですか、2億年後に地球も終わりになるみたいだし。今からエグゾダスの準備しないとまずくないですかね」


「マスターの所は、女神様がいるから大丈夫じゃないですか? あんな化け物が・・・、いえ、神柱が、沢山おわしてたら惑星1つ簡単に復活すると思いますよ!」


「あ~、逆に不安になってきたわ」


確かに不安ですね。

そしてラクランジュは赤い雲を抜け、黒い湖の近くにこっそりと降りて行く。

魔石エネルギーを使い、大気の原子と構造式を書き換えるプログラムを起動する。


褐色の砂塵にまみれていた大気に、青白い波紋が広がる。

毒の分子結合が切り替えられ、大気が澄んでいく。


「はい、酸素濃度、基準値を回復。毒素中和完了。周囲20kmなら、マスク無しで呼吸可能です。『胞子を飛ばしている、マスク無しだと5分で――』 って言わなくても済みそうですね」


「地球、それ地球のアニメですよね?? 後で、地球に関して詳しく聞いていいですか。

にしても・・・、科学ってスゲーですね。魔石って凄い。もう、誠心誠意、魔石を稼がせていただきます。魔法の白い粉やマヨネーズ、リバーシだってなんだって使って商売無双してみせますよ」


私は、ニッコリと微笑む。

マスターが新たに決意を述べてくれました!

暗黒面に落ちている気がしますけど。


さらに、湖にむけてエネルギーを注ぐ、黒い湖面が粟立ち、油膜が透き通っていく。


「飲料基準値に達しました。では頂戴するとしましょう! 周囲に微弱な生命反応のみ。危険はありません。修理に廃墟の鉄骨も欲しいので、外に出てみましょうか」


「了解。 フォルティナさん、いつもこうして星で借りぐらしみたいな事を・・・?」


「マスター、借り暮らしって何ですか? もちろん所有権に乗っ取り、頂戴しているのです!」


マスターが驚いたような、何か言いたそうな表情をしていた。



――


マスター・ショータ


――


プシューとハッチが開き、外へと出る。

赤い大気の中にかすかな清涼感がある、魔石の力だろうか。


『マスク無しでは5分も持たないと言うのに』 何てセリフ、金ロードショから10年ぶりに聞いた。

後で、しっかりフォルティナさんと話し合いたいと思う。

地球、知ってるだろ。


宇宙船ラクランジュが、ゴウンゴウンと湖の水を凄い勢いで吸い上げている。

映画で見た侵略型エイリアンがこんな事をしていたような気がするが、俺はもうラクランジュのクルー(搭乗員)だ。

ラクランジュのためなら悪にでもなる、と思う。


塵だらけの湖の周辺を歩いていると殺伐とした風景の湖の横に違和感が目にはいった。

黒い金属板を身に着けた人が倒れている。


ううん?

人影が倒れている。人かどうか顔を見ようと近づいたが胸がざわつく。

〇体かもしれない。凄惨な最後を迎えた骸である可能性高い。

SF映画の荒野の始まりなんて、いつもそうだ。


恐る恐る近づくと、ピクリと動いた。


ああああ?! 生きてる!? 中身が虫に食い破られているとか無しだぞ!


即座に駆け寄り、無事を確認する。

倒れているのは女性だった。肩幅が大きく、黒い金属板の近未来な装備を付けている。

その手に持っている防毒マスクが、まだらに黒くなっており故障している事がわかる。

喉元が黒く変色し、呼吸が浅い。

生きてはいるが、時間の猶予が無い様子だ!?


「もしもし!? 大丈夫ですか?! あ、大丈夫なわけないか。 おおい! フォルティナさん! 医療パック持ってきて頂けますか!? 人が倒れております!」


湖を見ながらホログラムをいじっているフォルティナさんに叫ぶと、シュタタタタとこっちに走ってきてくれた。


「人がこんな所に?! もしかして星の資源を吸い取る所を見られました?! おっと、生命反応は微弱、人体スキャン結果は汚染ですね。マスクの故障が原因です。 でも頑丈な方ですね、普通は〇んでますよ! 簡易医療マスクを吸ってもらいましょうか」


メイド服のポケットからゴソゴソと透明なマスクを彼女の口元に張り付ける。

口内を泡が満たし、顔色そして黒く変色した部分が褐色の肌に戻っていく。


1分もしない内にマスクを外すと、呼吸が戻り意識がもどった。

瞬間、女性の視線が突き刺さり睨まれた。冒険者の眼力だ。


次に透明な湖を見た瞬間、体が震え、安堵で表情がやわらかくなった。


「泡の神様・・・? あなた様はいったい、どちらから」


とりあえず、〇にそうなので何か食べらした方がいいな。

病人はおかゆが良いと言われている。

『中華2番』 のマンガで覚えた、鶏がら系の白湯おかゆでも作ってみようか。




いつもありがとうございます。


本編始まります。

異世界恋愛、貞操観念逆転、グルメ、SF、なろう。笑いと感動を頑張って、画面の向こうの貴方様に伝えてみたいと思います。


では引き続き、宜しくお願い致します。


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