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4 王国近衛が来店しましたが、当店のメニューはシェフのお勧めのみです。

4 王国近衛が来店しましたが、当店のメニューはシェフのお勧めのみです。


――


客が入る前の静かなカウンター越し。

カウンター越しにフォルティナさんが緑の目がこちらを見つめている。


「フォルティナさん。参考までに聞きたいのですが、メイドカフェで 『もえもえキュン』 とか接客しているメイドさんはどんな気持ちでやっているのでしょうか? 給料がいいから? それとも脳内に住むフェアリーと同居しているからですかね」


笑みを崩さす、人懐っこい声で答えてくれた。


「マスター、さすがにメルヘン世界の実在を確認しようとしているわけじゃないですよね?

検索結果ですが、仮想的人格で演じる自分が現実を忘れて少しだけ自由になれるので、楽しいそうです。お客様もそれを分かっていらっしゃるウィンウィンの高度な空間になっているとか。コスプレのロールプレイは、むしろお金を払ってもやりたいと言う人が多いそうですね!

かつて昔、そういう如何わしい男性専用のキャバレー(邪悪な酒場)が溢れていたと言うデーターがございます」


「あ~」


――


ドゴン! と扉が開かれ、店内に見た目麗しい3人の女性貴族がなだれ込んできた。


1人目は陽に輝く金色の縦ロール。背筋の伸びた体に白銀の女性騎士服。

圧倒的存在感と圧力。まさに中世貴族騎士の申し子。


2人目は青く長い髪が腰まで垂れており、細身に青い子女服。

どこか魔法使いの感じがして無詠唱で火とか使いそう、主に店内で。


3人目は黄金色のストレート髪、濃い色のマントを羽織り店内の空気を圧倒。

あなたは王子様をお探しの様ですが、劇団の王子役は君だと思います。


ここは、劇団員の打ち上げの場にでもなったのかと錯覚する。

まさに中世女騎士で 『クッ〇せ!』 より 『クックック、〇してやるぞ』 とか邪悪な笑みで言いそうな女騎士達。


そんな3人がカウンターの奥に控えるフォルティナさんに一斉に詰め寄った。

圧が凄い。


「オートマタ(からくり人形) でイージーマネーを稼ごうとは考えたわね。 さて王子はどこへ行った。変な薬は食べさせてないでしょうね」

「王子の貞操は本当に無事ですか~? 何かあったら店ごと吹き飛ばしますよ~」

「わたくしたちは王国近衛で貴族ですわ。正直に話しなさい! どんなサービスを王子にしたのかを! 全部よ!」


フォルティナさんは変わらぬ笑みで 「ご安心ください、お客様の安全は優先事項のマニュアル・・・、食の安全を守っております! そもそも低位のオートマタと比べられても・・・、えっと私は悪い魔物ではありません! メイドロイドです!」 とか言っているが女性貴族の圧には勝てそうにない。


メイドロイドの発言はまずいだろうに。

『私は、悪い魔物じゃないよ』 ドラちゃんクエストのモンスターはみんなそう言う。

でも悪い人間は、みんな口々に 『私は悪い人間じゃないよ』 と、そう言っていた気がする。


この状況にいてもたってもいられず、厨房から飛び出る。

フォルティナさんが心配だ、アンドロイドだと分かっていてもなぜか放っておけない。

女性の前に立つのは苦手だが、ここで騒がれても困る。


「えーと、お客様。如何しましたか。あの~、先ほどの方も何もされてませんし、料理は普通に提供して・・・、完全に彼はテスター(実験体)でしたよ。あっ、やばい変な言い方した」


その時、3人の視線が俺に集まる。

そして隊長と呼ばれていた縦ロールさんが驚いたように言う。


「おや? シェ、シェフが男性だと? ほほー、これはこれは。我が国の王子も安心して料理を食べられると言う事でしたか。行為目的で睡眠薬をドバドバ盛られると言う事も無いでしょうね。 おっと、これは紳士様の前で失礼致しました。もしよければこのまま王宮で働いてもらえないかな?」


青い髪の貴族が小声で囁く 「隊長! まさかの男性シェフですよ~。さっきの淑女らしからぬ行動、全部見られてましたかね~。 むしろ店ごと買い取りませんか?」


金髪ストレートが頷いている 「まぁまぁ、私達がお客様であれば嫌な顔はしないと思いますわ。ここから追い出される心配もなくなりますわね。では、裏メニューのお見合いオプションはおいくらかしら? 一生困らせたりしませんわよ?」


まさかの人生初のモテ気到来か。

でもなんか違う気がする。こう捕食者達に狙われているような緊張感、サファリパークの感じ。

ほのぼの育成恋愛とは何かが違う。


ここでフォルティナさんが、そっと俺の前に出て来る。


「お客様と言う事であれば歓迎致します。

しかし、マスターをここから連れ出されては困りますので、裏メニューのキュンキュンサービスを提供させて頂きますのでどうぞ席にお座りくださいませ。今日のお勧めはシェフのお任せです」


先ほどの喧騒を忘れたように3人が優雅に席に座りだす。


「ふむ、きゅんきゅんサービス。初めて聞くが何て夢のような響きなのか。では、シェフのお勧めを頂こうかな。シェフもこのままテイクアウトしたい所だが・・・」


「隊長、セクハラですよ。もう少し押さえて押さえて。さて、キュンキュンサービスを大盛でお願いしますね~。あと、シェフのお勧めを下さい。大盛で」


「すでにキュンキュンしていますわ。シェフ大盛でお願いします。キュンキュンのお勧めで!」


あ、この客やばい。と思いつつ。

フォルティナさんが、接客に入り俺は厨房へ即座に戻る。


「ご注文ありがとうございます~。お水とスープはあちらにございます」


――


早速厨房に戻り、ニュースキャスターの様に座っているホログラム画面のフォルティナさんに語り掛ける。


「フォルティナさん、その邪悪なきゅんきゅんサービスってなんですか?

人間の尊厳を忘れた様なサービスなんて出来ませんよ。おいしくなーれ? もえもえきゅん? 正直イカれてますって、人の前でやるようなもんじゃない。どうみても水商売ですって。そもそもですね、水商売ならもっとましなサービスってものが・・・、いえ。やめましょうか、この話は」


あの気恥ずかしいサービスを想像しただけで、脳がバグりそうになる。

俺は話を続ける。


「とりあえず、試作のプリンに飴細工のハートマークの過剰なデコレーションサービスをぶち込めばもえもえキュンサービスと言う事でいいでしょう。 プリンもクリームも飴細工も生産上作り置きできますし、冷蔵下なら保存も効く。後は綺麗に配膳してくれるロボにお任せしましょう。プリンと生クリームの生産指示だけ出しておきますね」


厨房のホログラム画面の中からフォルティナさんがガタッと立ち上がる。


「ええっ! マスターのもえもえキュンサービスが見たかったのですが。

男性が照れて恥ずかしそうにやるのは、この銀河の女性陣には超ぶっささると思います。でも、マスターが嫌そうなのでやめです。マスター、どもへもいかないで下さいね! このラクランジュが一番安全ですから!

ハートマーク喜ぶと思いますよ。 この銀河男性が少ないですからね、そのせいでアンドロイドが製造中止になったんです。身の回りで幸せが収まってしまうと、社会は進歩しないみたいですね~」


さらっと恐ろしい事をおっしゃる。

つまり、ドラちゃんクエスト4の勇者の村に魔物襲来のイベントが来なかったら、全員レベル1だけど家族も恋人もそろって毎日ハッピー。究極のスローライフ。 ドラ4ちゃん ~完~

わざわざ、モンスター倒して新しい街へ行こうなんて誰も思わんよな~。


そんな事を考えていると3人の女性陣達を映しているモニターからは、恐ろしい速さで、コンソメスープをやっているのが見える。

注いではその場でガブガブとやっている。貴族の立ち振る舞いとはなんじゃろか。


「「「うまいっ! うますぎるっ!」」」


ビール感覚だ。

どう見ても体育会系の冒険者です。ありがとうございます。


スープの大なべを空にされる前に、ハンバーグ6枚指示で目玉焼き20個の指示を出す。

店はハンバーグのタネ、ミンチが終わり次第閉店となるだろう。

地球で言う所のスープが終わり次第、終了です。


強力な赤外線かジェットの力か分からないが、ホログラム画面が浮かぶオーブンに指示すると肉はすぐに焼き上がり配膳ロボの方に回され、マジックハンドが完成の形に盛り付けをしてくれる。

不思議な光景では無い。作業に人力を使わない事が食品機械の存在定義だ。

地球の食品機械の需要もその様に動いている。『この工程を機械がやってくれたらいいのに』 を具現化するのだ。


フォルティナさんが配膳している所が映し出されている。


「うまい、シェフを呼んでくれ」 「隊長~、配膳中です~。まだ食べてもいないのに 『うまい!』 発言は失礼にあたりますよ~」 「オーバーリアクションの役者より、反応が早いですわね」


大盛の肉の山ランチプレートが目の前に出される。

彼女達はの女性たちは迷いもなくフォークを手に取り、豪快に一口。

そして次々と熱々のハンバーグを頬張っていき、山脈のような肉塊がどんどん減っていく。


「おお、焼き加減が完璧だな」 「すごいボリュームですね~。うん、おいしい」 「こちらシェフに渡して下さる? 私の敷地の通行許可ですわ」


フォルティナさんが謎のメモの受け取りをやんわりと断りながら 「好評ですね! 凄い勢いで減っています」 と楽しそうに報告してくる。


そろそろデザートの準備でもしておこうか。

さて、丼ぶりの大きさのプリンにクリームを周りに敷き詰めて、キラキラするハートの飴細工を立体的に盛りますか。

糖分による脳への直接的な酩酊感を味合わせてやる。


――


おいしくな~れ。おいしくな~れ。


と、腕をくるくる回して、おいしくなれば世界中のシェフがやっていると思う。

気分や空間が変れば同じ料理でも味が変って感じると言う事だろうか。

デート中は味が変わると聞いたことがある。デートとかしたこと無いけど。


ハート型のキラキラ輝く飴細工を敷き詰めて 『プリン・あら・どうも』 の出来上がりだ。

プリンが丼ぶりサイズなので食べ終わる頃には、血糖値の上昇で昇天ものだろう。

異世界の血糖値リミットブレイク、健康診断の再検査へご案内かな。


ハートがぶっ刺さったプリンを運び、フォルティナさんが目の前に置いた。

それを見た3人が胸を押さえかしずいている。


「ここでモテ期がくるのですか。現実は残酷だ。王子との婚約が決まった途端に男性からのアピールがくるとは、これが最後の試練とでも言いたいのでしょうか。女神様なぜこのような仕打ちを・・・!」


「うっわ~、キュンキュンしますね~。あああああああああ! 女神様なぜですか~! ううっ、婚約前に遊びたかったです~!」


「もしも、火遊びがばれたらすべてを失うかもしれませんわ。いや、でも! ああああああああ! 王子、どうか私をお救い下さい!」


何かを思いつめている様子がうかがえる。

確かに菓子細工は食べにくい。

可愛いネコちゃんの飾り菓子を仕方がなく頭からかじる瞬間は、いつも矛盾を感じる。


「ささっ、冷たいうちにどうぞ。ラクランジュは無休で営業しております。ぜひまた来て頂ければと思います!」


えっ、無休なの?

契約内容よく見てればよかったな。

自営業は24時間働いている。そう結婚した専業主婦の女友達は言っていた気もする。


その言葉に意を決したのかハートの飴細工からかじり始めた。


「なんて優しい甘さ・・・。これが、初恋の味だったかもしれない。だめだ、心臓の音がうるさくて初恋を思い出せない・・・!」


「ふぇぇっ、脈ありのイベント。ああっ、恋愛フラグですよぉ! 超甘っ! 幸せ過ぎて脳がバグります!」


「ハートをかじった瞬間、悟りましたわ。人はなぜ、危険と分かりながら火遊びをするのかしら? きっと、分かり切った日常だけでは心が満たされないのね。そこにしかないドキドキや刺激に惹かれてしまう生き物。どこかに別ルートのドキドキな終幕を夢見るのが乙女のサガなのね」


何だこれ? 地獄のポエムありがとう。中身は砂糖だし、ヤバイ薬は入っていない。

そもそも、なぜ足していない調味料の味がすると言うのか。

そう考えるとコスプレ喫茶店って凄いな、メイドさんが 『無』 から 『有』 が派生し色んな味が空気で味付けされるのだろう。


先ほどのセリフとは裏腹に、スプーンが高速で動き出し 『どんぶりプリン』 はあっという間に空になった。

最後に残った、ハートを手に持ちガリガリとかじり始めた。

なんだかすごく強そうだ。


「ご馳走様でした。また来ます」

「これは浮気じゃないですよね。また来ます」 

「こういう寄り道イベントも悪く無いですわね。次はシェフをご馳走様したい所、ではなくて。男性を見たら口説くのが礼儀と言うものですから。そう、これは浮気じゃないですから。また宜しくお願いしますわね」


彼女たちは立ち上がり、まだどこか夢見心地なまま店を後にしていった。

残された厨房で、俺はそっとため息をつく。


あ、甘い物を出したらコーヒーや紅茶、お茶の提供も考えないと。

さらにカフェインで血糖値が上がった状態の眠くなる所をカフェイン活力追加で脳の受容体を完全に満たさなければならない。

後でフォルティナさんとこの宇宙のお茶文化について議論を深めるとしよう。


そして、本日は材料がなくなったので閉店です。

本日は大変お疲れ様でした!


「マスター! 上々の滑り出しでしたね! 本日は大変お疲れ様でした!」


――


次の日


まだ店のオープン準備も終わらぬうちに、厨房にホログラムモニターが起動した。

光学迷彩で見た目は看板や鉢植えにしか見えないが常にカメラが監視している。

この厳重警備ぶりが少し怖い。


そのホログラムに昨日の赤髪の王子と呼ばれていた冒険者が映し出された。


「マスター、先日、中毒性がある物質でも中にいれましたか? 12時間以内にリピートで来るとかよっぽどですよ!」


フォルティナさんが緑の瞳をキラリと輝かせながら、楽しそうにこっちを見ている。


「うーん、魔法の白い粉は使ってないです。

俺の星だと黄色いMマークのハンバーガーって高くてまずいけど、ついつい行っちゃうんですよね。 そういう感じ? 昨日の提供したハンバーグはこの星で言うジャンクフードだった?? ショックだわ~。 ここは学生の 『星(惑星)バックス?』 的なポジションなのか、それともただ開いてる所がここの僻地の店だけかもしれない・・・」


人は大学生になったらMナルドに行くのをやめて、意識が高い惑星バックスに行きだし、縦にクリームを盛り出す。


そんな事を話していると、赤髪の男性冒険者が真剣な表情でカウンターに現れた。


「「いらっしゃいましー」」


「ここの責任者の方と話したい。この先のダンジョンでトラブルがあってね、冒険者達に食料を提供してもらいたいのだ。異界の魔物が試練と称してダンジョン中層を占拠し食料を強奪するトラブルが発生してね、簡易的な食事を提供してもらえないだろうか。ある程度の費用は国で持つ。ダンジョン前で配給をお願いできないだろうか」


なにかイベントが発生したお知らせだろうか。

フォルティナさんが笑顔でイソイソと商談を始めるようだ。




いつもありがとうございます。

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