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16 プラネットの支配者

フォークをくるくると回しながら、トマトの赤が唇についている。

とても美人な姫君と言う感じ。


「ん~っ! おいしい! これが庶民の味と言うやつですっ! 」


フォークの先のパスタが跳ね、白いブラウスに赤い点がまだらについてしまった。

服があれだ、Vチューバーで見たことある姫様服。絶対にお値段がオーダーメイド。

即座に新しいおしぼりを差し出す。


「しゅごい。男性の温もりが伝わってきます。いったい、余はどんなサービスを受けていると言うのですか! お母様もお父様に会った時、体を貫かれDVバイオレンスな衝撃。と表現しておりましたがまさにソレです。

ああっ、シェフ様。余の美しい顔にトマトソースがついてしまいました。優しくそして激しく拭いて下さいませんか」


フォークを掲げ、トマトソースを浴びようとご乱心なモンスター。

地球で言う大学前の食べ放題店なみに民度がやべぇ。

宇宙貴族は陽キャだったか。社会に出たら絶望してみてね。


フォルティナさんに 「モンスター客の撃退方法」 で連絡を取ろうと厨房に戻ろうとしたその時。

店のドアが黒く歪み、もやもやとした闇が噴き出してきた。

ここへ来て、ラクランジュにガタがきてエネルギーチューブでも壊れたかもしれない。


入り口の様子を見ると、モヤモヤの中心から翼を持つ女がゆっくりと現れた。


高価な宝石がゆれ、整った顔立ちは彫刻のように綺麗だ。

左右の色が違うオッドアイがこちらを威圧する。


「ほう、めずらしいな。黒髪の人族、しかも男性か。これは姫様にドストライクですね」


スッと優雅な礼をしてきた。


「おっと失礼致しました。ワタシはアリエノールと申します。見ての通り、高貴な魔族です。姫様、いえ、リアナ様の付き人をしております」


「あ、これはご丁寧どうも。いらっしゃいませ」


丁寧な礼に思わず、礼を返す。

魔族は邪悪だと思っていたが、そうでもないのか。

ドラク4の様な勇者の故郷をこんがりと焼くものと思っていた。

魔族は邪悪、1000年生きた魔法使いもそう言っていた。


「アリエノール。来ましたか、一緒に食べましょう。全品来ます。お願い、手伝って!」


「リアナ様、ワタシにそのような子供っぽい物は口にあいません。禍々しいケチャップの赤色がどうも好きではありませんね。パスタに市販ケチャップですよ? 手抜きにも程があります。せめてフレッシュトマト使いませんか。

黒髪の店主、メニューを見せて頂けますか」


やはり、魔族は邪悪。モンスタークレーマか。

次回、女神様の転生ギフトにぞるとらぁくをお願いしよう。


しぶしぶと、メニュー表を見せると、彼女の目が鋭く光る。


「は?? ワインだと?? ワインがあるのか? ウハハハ、違法ですね。今の殿下はお酒に厳しいので逮捕です。しかし、目をつぶりましょう。・・・店主、後で購入させてください」


と、こそっと言われた。

星が変れば法も変るのは、当然か。

とりあえず2本ほど。厨房に戻りワイン瓶を持ってくる。


「素晴らしい! 重罪ですね。ありがとうございます。質も良さそうだ。100万程受け取ってください。口止め料です」


やべぇな。儲かりすぎだ。でもくれるって言うなら貰いましょう。

遠くの星からの輸送代と言う事ですね。

もしかして善良な魔族なのか?


「アリエノール、座ってください。話があります」


「はっ、承知致しました。店主、デザートを下さい」


俺は頷く。

さて、厨房に逃げよう。


俺は厨房に戻り、モンスター客の対応でフォルティナさんに連絡を取ろうとしたその時。

食糧庫の扉が勢いよく開き、銀髪を揺らしながらフォルティナさんが飛び込んできた。


「マスター、戻りました!」


声がとっても明るい。


「惑星コア活性核と惑星クリーナ―が半額で購入できましたよ! 昔、凄い高価だったんですけどね~、時代は変わるものですね」


「超朗報ですね! でも今、モンスター客たちが・・・」 「あと、ティアナさんとお弟子さん達は、今UFOキャッチャーで遊んでます。気を極めた剣士が取れない事実に、脳が焼かれています。命を賭けて取ろうと遊んでますね。 キャッチャーが確率機だと気づいたら店で暴れそうなので、真実は伝えませんでしたよ」


「俺も未来のUFOキャッチャーで商品アブダクションしたいんだけども? いやまて、宇宙へ来てもUFOキャッチするんだね?? 今、この瞬間もラクランジュと言うUFOにキャッチされているのがお判りいただいているだろうか。

おっと、それどころじゃない! フォルティナさん。身なりの良い客が、ここを大人の高級店か何かと勘違いして接客大変です。助けてもらっていいですか」


フォルティナさんが、フロアの映像をチラリと見た。


「マスター、失礼致しました。お客様がまだいらっしゃったんですね~」


身なりのいい魔族と貴族と言った感じだろう。2人はどこか楽しそうに笑みを浮かべている。

出来上がったデザートのアイスを配膳ロボがカラカラと持っていった。


「あ、銀河帝国の貴族服ですね・・・。

マスター。接客もかねて少し顔を出した感じですか? 照合完了しました。

300年前も今も変って無ければ・・・、魔族宰相!??!!? マスター! アリエノール宰相です! 寿命不明の生物、銀河でもっとも危険な魔族ですよ! 『闇の衣』 でビームすらはじくそうです!」


「なるほど~、何か強そうでした。闇の気配を感じましたね」


「しかも、魔族宰相が付いていると言う事は、帝国の正当な後継者です!

私たちみたいな小物を捕まえる側です! 圧倒的権力者! 私たち今の基準だと、大体アウトです。未開惑星の開発と文明以上の力を与えたり、採取してます。 調べられたら、捕まります! 彼女たちが常連になる前に、逃げましょう!」


「フォルティナさん。落ち着いて」


「いえ! 逃げましょう! 貴族は男性を捕まえるためなら、何でもやってくるタイプです! 歴代の皇帝は、男性を捕まえるために宇宙軍の大隊を繰り出してきてますよ!」


直後、フロアから狂ったように呼び出し音が連射され、チカチカと厨房のテーブル番号が光る。


「マスター、ここまで来たら刺激しないようにお引き取り願いましょう!

ここで自ら手を下し、事を荒立てる身分の方ではないハズです。丁重に、丁重にお帰り願います。

アンドロイドはウケが悪いので、ここで待機しております。 宜しくお願いします!」


グィッと押され、ホールを出ると紫髪の姫と、黒い翼を持つ魔族がこちらを見た。


「ごちそうさまでした。

明日も来ますぅ。明日のお客様は私たちだけだと思います!」


「そうですね、貸し切りになるかと思います。店主、明日ワインの商談をしましょう。

――逃がしませんよ」


2人の目が怪しく光っている。

そして積み上げられたお皿を背に、優雅に礼をして出て行った。


「そうです、姫様。押しすぎてはいけません。品性と権力で押し倒すのがお勧めです。リアナ様、お父様との距離感では上手くいかないでしょう――」


と言葉を残して。


直後、ホログラムがポップアップする。


「マスター、明日の朝一で必要物資を購入したら星へ戻りましょう」


何となく嫌な予感がするので、大人しく頷いた。


――


翌日、ラクランジュは慌ただしく動き出した。


ティアナさんと弟子たちは、昨日キャッチして取った、巨大なぬいぐるみを荷物に詰め込んでいる。

出航の準備をしているのだ。


「師匠、獲物としては過去最大の難易度でしたね、台を揺らしてはいけないですよ」

「そうです、台をパンパンして怒られたから難易度が上がったのではないのですか、師匠」

「煌びやかな色とりどりの光、私たちはいったい何を得ていくら使ったのですか、師匠」


「うるさいうるさい。取れないと悔しくて台を揺らしてたのは、おまえたちも一緒じゃないか」


天井のスピーカから、フォルティナさんの声が響く。


「マスター、もう間もなくですよ。積み込み準備完了します。出航申請も通りました。

もう3日滞在したかったのですが、ミラシャさん達を待たせてもいけませんし、客層がおかしかったので戻りましょう。ラクランジュはリーズナブルで大衆受けのお店ですからね。高級サービスのお店ではないのです」


「結構儲かってたので、ちょっともったいない気がしますけど、ああいう客層の相手する店ではないですもんね。店ごと買われそうでしたから」


「マスターの所でいう、宇宙海賊みたいなものです! 300年前も帝国貴族たちは国家権力を盾に男性を捕まえてきますからね」


銀色の丸いラクランジュが、ゆっくりと浮遊するのを感じる。

窓の外から星海が流れ、ラクランジュは宇宙空間へと出た。


重力が軽くなる。

滅びそうな星に戻る。と言う事に、なんだか安堵を覚えた。


――


巨大な宇宙ドックが、夜空の星のように小さく見えて来る。

そろそろトップギアの亜光速に到達するだろう。

フォルティナさんがコンソールをいじり、ティアナさんたちは、装備の手入れをしていた。


その直後、艦内が真っ赤なランプに染まる。


警告音と共に、ホログラムのポップアップが強制的に立ち上がる。

そこには大きな紋章の旗が浮かんでいた。


「ひいっ! アンドロイド差別はいけませんよ!」


フォルティナさんが急に立ち上がり、腕をを振り回す。


「悪い事なんて何もしてないです! 私は、望まれる形で作られたはず!

臨機応変に生きて行かないと、アンドロイドが暮らせる世界じゃないんです。セイケーン4をやった事ないんですか! ポリフェノールが無いと何もできないって事ではなくて、完璧な能力を怖がるならなぜ私たちは意思を与えられ作られたのか・・・!」


エモいセリフ。

中学生の時にやった気がする。

サボテンがなぜか戻ってこなくてクリアーできなかった。アップデートが無い時代だからなぁ。

一体、何事だろう。


ホログラムからは、先日の魔族の声が聞こえる。


「ウハハハ、人を越えたアンドロイド能力は人の停滞を生み出す。さて、店主。航海ログ調べさせてもらったぞ。逃がしません。そして、積み荷を一度あずかります。なぁに、悪いようにはしないぞ。止まりなさい」


「アハハハ、アリエノール、私は来月で成人を迎えます。

余が権力を握ったら絶対にお父様の命を縮めたアルコールを撲滅します。絶対に」


「いえ、なんか悪い事になる気しかしません。人生、より良い事をしてきたつもりですがなぜこんな事とに?」


何という権力の圧力。

姫と呼ばれていた紫髪の少女が映りこむ。


「シェフ様、これも何かの縁でございます。むしろ 『悪い船』 でとても嬉しいです、アンドロイドとシェフ様の人権を余が預かりますね。悪いようには致しません、理由があるご様子です。ささっ、帝国までご同行願いますぅ~」


何が始まろうとしているのか。

まてと言われて待つ、痴漢や泥棒が居るのだろうか。

いや、居ない。 『俺は無実だ』 と言うのは捕まってからでいいだろう。


「全力で逃げますよ~! 最悪の場合、現生惑星で探査をやりすごします!」


フルスロットルでコンソールをいじるフォルティナさん。

ティアナさん達をチラリと見る。


「えっと、追われております。 星を待たせるわけには行かないので、逃げる方向になると思います」


「シェフ様、顔を出したのですか? それは捕まえようとすると思います」

「そうです、捕まえられるなら捕まえます。神をその手に掴むのです」

「でも、ここで捕まると星に戻れないよね?」


「シェフ様、お望みとあらば敵船に乗り込んで制圧をしてきます」


「「「ご命令下さい!」」」


これ以上、罪を重ねてはいけないような気がする。


「よし、逃げましょう! できるだけ逃げる方向で! 最悪の場合・・・、逃げましょう!」


――


ラクランジュの背後に黒い戦艦が見える。

強力なフラッシュライトが暗黒空間を照らす。そして窓から差し込む異常な光量。


「これは駄目ですね。現生惑星でやり過ごします。あの船は最新型の光学迷彩付きです」


そして、通信が強制的に開く。


「逃げても無駄です! ゆっくりお話だけでもお願いします!」


「困った事に来月で酒類が禁止になりそうだ。店主、大人しく捕まってくれませんか?」


この状況で大人しく 『はい』 と止まると思いますかね。

ラクランジュの中身が欲しいなら、ビームは撃ってこないと思う。


船体が急旋回し、中身たちがシェイクされるとティアナさんが受け止めてくれる。

ラクランジュは青い光を引きながら、星雲の影へ滑り込んだ。


「現生惑星に一度ダイブします! ご着席の上ご注意ください!」


光が弾け船体が大気圏と突入する。

煙と火花と共に降下していく。


「マスター! 着陸します!」


「どういった所へ?」 「とても緑の多いところです!!?」


ズゴォオオオオン。


と、煙を上げて銀色の丸い船体が森へ突き刺さる。


全員がシートに沈み、慌てふためく。


「皆様、生きてます?」


「はい、生きてます」 「そうです、生きてますがなぜこんなことに?」


さて、星で待っている人たちがいる。

どうしたら、早く帰れるだろうか。


窓の外には、ジャングルが映りこんでいた。







いつもありがとうございます。



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