15 楽しい遠足のはずが
――
転生の女神様
――
そしてショータさんは、何処かの星に隠れていると言う事でした。
「じゃあ、いきましょうか。ダンジョンへ」
私は軽くパンパンと手を叩く。
地球のテレビ番組で見た事がありますのよ。
こうやって、人をまだ知らぬ地へ連れて行くのですよね。
その後、時の人となるでしょう。
ちぎれた手を治療で繋ぎながら、推しの炎髪のミラシャさんがギョッとこちらを見る。
超イケてる精鋭の3人も治療マスクを吸いながら、こちらを凝視している。
そのぐらいの怪我で止まらない優秀な戦士たち、最高にドラマチックですわ。
「時空の裂目と言っても、ただのダンジョンですのよ。
時空の裂目、でぃえるしぃ(ダウンロードコンテンツ)の後だしク〇商法とは違いますわよ。ちゃんとしたダンジョンですの。
99Fの翡翠の巨人を倒したあなたたちは次元を渡り、思いを形にする資格は十分ありますの」
戦士たちは首をかしげる。
「ダンジョンですか? よく分かりませんが時空の裂目・・・、星を渡れると言う事ですか。
きっと貴女が来たのもお導き、ショータ様の所へ飛びたいと思います」
「渡ります! ここの全員と、分社も持って行っていいですか?」
「もちろん、渡ります! 畑の土水も全部持っていきたいと思います。宜しくお願いします」
「えっと、ついに夢見た異世界無双がこの手に・・・! 異世界で絶対王朝を開き、誰もが苦しまなくて良い国を作り上ますッ!」
良い答えです。最高に。
でも、望みすぎですわね。
「ああ、すみませんね。渡れるのは資格があるものだけです。波長が合う世界に行けたり、神様に会えたりしますわね」
それぞれが 「神様なのに、渋いな」 的な顔してます。神様あるあるですわね。
神様だって万能じゃないんですよ。願いすぎじゃないですか?
万の軍勢を倒す力なら与えてもいいですが、次元操作とかできるほど器用じゃないのです。
でも、答えは決まっていますでしょう?
ショータさんを助け、この星を何とかしてもらう。
グットエンドと言う事です。
そして再会し、感動の嵐の中でショータさんをさらうのでそこで、私と戦えたら最高です。
完璧で正当な戦闘理由。私の事を見ている神々も物言いをつけれませんわね。
ショータさんは、本来この次元に飛ぶはずではなかったので、この後に転生先のナーロッパに飛んでもらいます。
後で最後に立ちはだかる威厳ある神のセリフを練習しておかないとなりませんね。
段取りは大事ですから。
――
ミラシャ・リンバ
――
「では、ミラシャさん」
女神様の黄金の気が大気を震わせ、地が響くような声。
「ダンジョンまでの道のりまで見えませんし、このク〇ったれな砂塵を消し飛ばします。
あ~、人間よ、代わりの対価を差し出せ。な~なんて、思いまして。え~っと、来世。私とやってみませんか? あなたの崇高な精神で星を照らしてみませんか。あっ、頷くだけでいいですわよ」
なにか申し訳なさそうに、チラッ、チラッとこちらを見ている。
この星の戦士は気づいている。神様たちも出来る事のルールがあるのだと。
シェフ様と銀神様のように。
目的は一つ。
シェフ様を助け、この星を救ってもらう。
この事に変更はない。
「はい」
「わ、私もお願いしますっ」
「ついでに私もお願いします」
「できるだけ長生きしようね」
その瞬間、地鳴りのような音が響く。
女神様の足元に、黄金の蓮華が花開く。
黄金の粒が周囲に舞い上がり、彼女の周りに渦巻いた。
「では、この制裁神の力をお見せしましょう」
制裁神様が右手を掲げる。
天に向かって放たれる黄金の光線。
ズドォン!
空が吹き飛び、世界が割れる。
聖域の外が全て晴れ上がり、赤と青が混じった空が顔を出す。
誰もが、超越した奇跡に立ち尽くしていた。
一体、この女神様に追われているシェフ様は追われるほどの何をしたのか。
「さて、来世のパートナーたちよ。ショータさんを迎えにいきましょうか」
運命は決戦と導いているのだろう。
神は戦いをご所望のようだ。
――
マスター・ショータ
――
これは、魔石を売ろうと出港して少し経った時。
宇宙は綺麗だな。
星の光と人工衛星の群れ、どうみてもSF映画の世界。
フォースとともにあれ~、そして暗黒面は素晴らしいぞ~。
「マスター! 右手をご覧ください、銀河宇宙問屋のオリオンです!」
そして、騒ぎ出す剣士たち。
「宇宙凄い超凄いです! 全ての悩みが全て小さい事に思えます! シェフ様に使えればすべてが解決です!」
「師匠、剣とかもう時代じゃないですよ! 剣が何かの役に立つんですか? あの巨大な砲を見てください。これからは、大艦巨砲主義! 主砲の時代です!」
「いや! 師匠、これからはお金ですよ! 資本を回し、この銀河を手中に収めるのです!」
「シェフ様、こいつらを斬ります。人選を間違えました、教育しなおします」
フォルティナさんのキラキラした声、そして興奮が最高潮の剣士ティアナさんと弟子たち。
俺もテンションが上がっている。
魔石の交換レートがフォルティナさんが言う通りなら、俺たちは大金持ちだ。
問屋の宇宙ドッグと言われていたが惑星サイズの人工惑星が見えて来きた。
デカい! デカい!
星ウォーズのデスス〇ーなんて目じゃないよ、完成してるんだよ! 共和国は終わりだな。
そしてネオンの 『おかげさまで9999%』 セールってなんだよ。
ラクランジュ号は、宇宙ドッグに収納されて巨大なアームで接続された。
「マスター、商業認可が下りました。
あの~、あんまりはしゃぐと少し恥ずかしいと言うメモリが出力されてます。
私たちはモダンでノスタルジックな型なので営業が許可されてますが、今の基準だと色々とまずいので騒ぎは起こさないでくださいね! 色々ちバレると捕まります」
「了解致しました。大人しくしています。 ここでも、レストラン営業ができるって事ですか」
「はい、宇宙でおでんが売れますよ!」
おでんは、売る気はないけども。
まて、おでん?! 日本語じゃん。
――
窓から見えるドック内は、光に包まれ広告で埋め尽くされていた。
「時間を止めて、老けない保湿ジェル。 (個人差があります)」
「自動で栄養素を逆算してくれるマルチタスク、プリンター鍋。複合コピー機もここまで進化」
「使い方を間違えると銀河まで吸引するパラドックス掃除機 ~ブラックホールエンジン搭載~」
宇宙へ来ても、過大表現の広告だ。
マジに過大表現で、あって欲しい。
はしゃいでいる我々 『おのぼり様』 にフォルティナさんが、少し声を落とす。
「マスター、すいません。この辺から男性は出歩くと危険なんです。簡単に言うとですね、銀河の中心に行くほど貞操観念が逆転してます。え~と、ティアナさんたちは余裕がありますよね。都市と違って殺伐とした取り合いにならないからです」
「余裕ないです、ショタのタリヤン君の成人を待つ前になんとかヤれないかと」
「そうです、余裕ないです。上玉の取り合いになるのが見えています」
「はよ、やらせ―― 『おらっ』」
弟子たちは、ティアナさんにより静かになった。
連れてきて良かったと思う。
フォルティナさんは銀髪をふりふりと揺らしながら続ける。
「マスター、出歩くときは顔を隠して女装していただけますか~?
もしくは、ここで在庫管理か営業をお願いしたいのです。銀河の中心に近づくほど、女性の皆さまは必至なのです。
マスターの常識は通用しないと思ってください。宇宙空間は無法地帯で男性に飢えています。スラム街を美女が歩くとどうなるか、マスターの文化圏ならわかりますよね」
「社会構造がいびつです? いや、生まれる数に違いが出ても、生物学だと5:5になるはずでは」
「10が1を捕まえて、30になるを繰り返すと、簡単に男女比が100:1とか300:1になりますよね? 強固な意思を持った存在のサンプリングに意味はないのです。星の戦士の意思も凄かったですよね? 終焉モンスターとか普通勝てませんよ!」
「なるほど、宇宙って凄いですね」
――
仕方が無いので、弟子の3人を接客担当にして開店。
そして俺は厨房に軟禁。師匠のティアナさんはフォルティナさんの護衛。
つまり男性もアンドロイドも肩身が狭いと言う事である。
この男女比が逆転している銀河の中心で、完璧な創造物が男性と歩いているとボコされるらしい。
そして 「店でも顔を出すと中世の反応レベルではすみませんよ! 銀河版SNSで晒され略奪に会うので、厨房でお願いします」 と言われた。
この銀河どーなってるんだよ。
「女性にはパスタですよ」
うちのアンドロイドが文明開化の80年代の余計な知識を与えてくれた。
聞いたことがある気がする。洋食で喜ぶ時代だったかな。どちらかと言うと、寿司で上から高い順が喜ばれる港区女子の時代だけども。
と言う事で、「宇宙ナポリタン・カーニバル」開店。
辺境の粉で作ったモチモチのパスタ麺。
トマトソースの香りが漂い、鉄板の上でチリチリと油が弾ける。
ケチャップの赤が照明に映えた一品。
と言えば、聞こえがいいが。」パスタ麺に作り置きが出来るのだ。後は混ぜ合わせて焼いて提供なので、時間短縮できて客の回転率がとても高い。
値段には理由がある。外食はやめて自分で作ろう。
300年前の形の宇宙船のため、宇宙ドッグの中で注目を集めたのが意外だった。
時代と流れた共に、失われたデザイン。妙に懐かしく感じる、ブラウン管テレビやゲームぼういを見た時の感覚。
懐かしさは金になるのが定石だったか。
「うわっ、モダンな店ね! この形の船、まだあったんだ。とっくに時代に淘汰されたと思ってた」
「うわ、おばあちゃんの時代の船じゃん! まだ動くのに驚きだよね。わっ、パスタか~。ラーメンの方がいいかな」
「麺がやわらかい!? この食感、素朴な味!」
「このトマトソース、辺境産だぞ! 違法採取じゃなかったか!?」
客たちは口々に驚き、笑う。
ナポリタンは、時代を超えて味覚の記憶を呼び覚ますのだろう。
それとですね。お客様の声は、店主に聞こえて言います。オブラートに包むか、おいしい以外の反応は店の外で言ってもらいたいものだ。
ともかく味も好評でよかった。
――
営業がひと段落し、夕方近くになった。
「みんな、外に出て観光してらっしゃい。俺は少し店を片づけます。
閉店の看板を出しておくのでいってらっしゃいまし。 次の新メニューの思考してますね」
「いってまいります! では護衛中の師匠を横目においしい物でも食べ歩かない? 見たこと無い顔をすると思う!」
「それおいしそう! 早速師匠の所に向かおう。 食べ物が倍おいしくなると思う」
「では、シェフ様! 行ってまいります! 銀神様にも報告してきますね!」
邪悪な弟子たちが笑顔で飛び出していく。
ラクランジュのドアを閉めようとした、その時――。
カラン、と入り口で電子音が鳴った。
扉が開き、一人の少女が入ってきた。
紫の髪。黒い瞳。
「・・・お父様?」
と、何が喋った気がしたが、少女は立ち尽くしている。
弟子たちが出て行ってしまったため。接客をしなければ。
これで本日の最後のお客様と致しましょう。
「いらっしゃいませ~。おひとり様ですか? ナポリタンの店へようこそ。 ナポリタンにトッピングの目玉焼きベーコンがお勧めですよ」
「あ~の。 こここ、こんな事ってあります? 黒髪の男性が接客ですか? 懐かしい匂いに引かれ入ってみたものの、まさか大人のお店でしたか? いえ、知識では知っています。
私のために料理を作ってくれる男性がお父様以外に入ないと聞き、余の銀河に絶望していた所、これですか?」
よく分からない言語を発するので、椅子を引くと戸惑いながらも上品にスッと座ってきた。
マナーがある。服装から見るに未来貴族と言う感じ。
「パスタですか。ナポリタンのやわらかめの甘めでお願いしますベーコンを山のように乗っけていただけますか。あ・・・後、お店ごと購入致します。当然、シェフ様もついてきますか?」
「承知致しました。えっと、お店は売れません。お水はセルフでどうぞ~」
シュンとする少女。
店ごと買うのは、お金持ちの発想か。
指示を出すため厨房に戻ると、黒い瞳でガン見してくる少女が少し怖い。
男性は珍しいと言ったか、中世の星でもそんなニュアンスだったが、たしかに星が変れば輪をかけてひどく感じる。
「マスター、顔出し厳禁です。自分をVチュバーだと思ってください! 『でも、絵の方が可愛いから顔ぐらい大丈夫じゃろ』 とか言う甘い考えではいけませんよ」 とフォルティナさんの忠告がリフレインする。
そして店員呼び出しボタンが、連射されピカピカ光っている。
やっちまったかな。シェフを指名をする店じゃねーんだぞ。
フォルティナさんが口をすっぱく、この辺りで顔を出すなとはこういう事だったか。
彼女がモンスタークレーマーになる前に、紫の少女にお伺いをする。
「はい、お待たせ致しました~」
「あの。追加で高い物を上から順に全部お願いします。各2個ずつ。
安心してください、貴方の料理を残したりする貴族ではありません。あ、少しでもこのお店に貢献できるように今、従者を呼びますのでお待ちください」
いそいそと通信機器を取り出し通信を始める少女。
「アリエノーォオオオオル。 私を泳がしているのでしょう? すぐに余のサポートに、入ってください! 絶対に亡くなったお父様の星の人族、ヒューマン族です。 ありったけの私のお小遣いを持ってきて!」
めんどくさい客がきた。
追い出せないかな。
いつもありがとうございます。
こういうのを書けば良かったんだなと思いますが、苦手な事が強みになる流れにしました。
グルメの作品は料理がおいしいんじゃない、流れがおいしいにつながるのがおいしいんだと言う事がなんとなくわかりました。




