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14/17

14 約束がある。でも人は帰りたくても帰れない時、どんな言葉をかけるか。

――


ミラシャ・リンバ


――


1か月で帰ってきてくださる。と言われたが、すでに2か月が過ぎた。

シェフ様と銀神様、剣士ティアナとその弟子を乗せた聖域は、いまだ戻られない。

私たちがついていけば、その帰れない理由も何とか解決できたのだろうか?


残された調理済みの食料は、もう食べつくしてしまった。

シェフ様のお心を知ることはできない。ただ信じて待つしかないのだろう。


だが、不安は形となって現れる。

いつのまにか 『きっちんかぁ』 の周囲に鉄骨の神殿が建ち、皆はそこに祈りを捧げている。

防御のための装飾と言うが、あれは不安を紛らわすための証明だ。


2人の神様がいない今、もしこの聖域がとまってしまったら。

私たちは再び慈悲を忘れ、今日を生きるだけの剣を振る暮らしに戻るのだろうか。


――


米の収穫は順調だった。

1月ごとに新たな稲が実り、余剰分は餅へと加工されていく。

首領リゼットの持ち場で大きな餅は、すでに新たな貨幣として扱われつつある。


残された大量の保存食と言えば、レンガの様な砂味の完全食、甘くないカチカチの氷砂糖。

この先これに頼る事になるのかと恐怖を覚えたが、今は違う。

畑から新鮮な葉物、野菜が並ぶようになり、食生活は改善された。


何かあったときのために、保存食は取っておこう。

それがいい。最後の瞬間まで、どうしてもと言う時まで取っておくとしよう。


「味のある食事! それだけでありがたいです! 保存食は保存しましょう」

「本当にそうだね、信心を試すのはよくないよね! その時まで保存したほうがいいと思う!」

「まさか食事の味で心の在り方がかわるとはね。味はあった方がいいね、でも味は濃くない方がいい・・・」


3人はいつも冗談を言い合っている。

少しだけ不安が和らぐ。


――


魔石庫には、大量の巨人の魔石が積み上げられている。

『きっちんかぁ』 が消費する分をはるかに超える量。

数年は持つほどだ。


シェフ様、銀神様、見てらっしゃいますか。

大好きな魔石がここにあります。


だが最近は巨人を見なくなった。

敵がいないと寂しいと思うなんて、かつての私では考えもしなかった。


米、野菜。余剰の食料が乗算的に増え、消費が追いつかない。

人は増えたが、それでも余る。

だから私たちは遠出をするようになった。

巨人を探し、そして・・・この祝福を伝えるために。


マスクで治療を施し、食料を分け与え、湖畔の聖域へ案内すると。

誰もが涙を流し、忠誠を誓う。


私も、かつて同じ衝撃を受けた。

あの瞬間、この世界の不条理に感謝が打ち勝ったのだ。


仲間を迎える度、皆が優しくなっていく気がする。


――


あれからもう3か月がたった。

とんと見なくなった巨人が、再び姿を現した。

だが、巨人とは全然違う。体が赤く輝く業火を帯びた強大な存在だった。


私たちは今一度、使命を思い出した。

戦わなければならない、負けは全ての終わりを意味する。


巨人の手から業火が噴き出し、大地を焼き払う。

だが、引けない。

魂が肉体から溢れ出すように、全身が熱を帯びる。

農耕をしていた首領たちも駆り出してきたのだ、絶対に倒す!


「〇ななければ安いものだ!」


骨が砕かれようとも、血を吐こうとも。

統率された意思の元、光剣を突き立てる。

澄んだ音が響いた。


未熟だった剣士たち、やる気の無かった銃部族たちも立派に戦った。

その姿に思わず涙が溢れる。

免許皆伝だ、シェフ様が戻ってきたら光剣を授与されるに値する。


倒した巨人から得られた魔石は、驚くほど透き通っていた。

まるで魂そのもののように。


――


私たちは3日程寝込んだ。

全員ボロボロだが、絆はより深まった。


そして、シェフ様の信心はますます強くなった。

皆を早く救わねば。ここに、この場所にこそ救いがある。


――


そして、5日後の事だった。

砂塵の向こうに、緑一色の宝石の様な体の巨人が静かに立ちそびえていた。

私たちの挑戦を誘うかのように。


光剣を弾き返す。

神剣が通らない。


ならば素手で外皮を剥ぎ取り、拳を叩き込む。

生きているのが不思議なくらい骨は砕かれたが、誰も怯まない。


全員の命を賭けた突撃。

外皮を剥ぎ取り、光剣を突き立てる。


翡翠の巨人はついに崩れ落ちた。

その魔石は、さらに澄み切った光を放っていた。

私たちの覚悟を讃えるかのように。


――


あれから、砂塵の動きは激しさを増し、外へは行けなくなった。

ついにこの日が来たのか? 星の終わりが。

『きっちんかぁ』 への祈りはさらに増している。

どうか、どうか。 シェフ様、銀神様、私たちをお救い下さい。


――


そんな中、一人の女が湖畔へ現れた。


女神。

そう思わせるほどに彼女の周囲だけ砂塵が避け、金のオーラがきらめいていた。

私と3人は直感でわかった。人ではない。


彼女が口を開く。


「あれ?? この辺りにいるはず。でも宇宙船が見当たりませんね?

 集落ですか、魔石ならあります。お腹がすきました、ご飯を食べる事ってできます?」


全身が恐怖で震える。

この女、強い! シェフ様の代わりに何という女神が現れたのか。


――


黒い長髪に黒い瞳。

どうみても、シェフ様の何かだ。

服がチョウチンと同じ配色。シェフ様から授かった2つ名と同じ雰囲気だ。

偶然にしては出来すぎている。


「震えが止まらない。伝承にはシェフ様を追う女神のお話があったはず!」

「待って、慎重に。シェフ様への手がかりだ。聞かずにはいられない」

「どどどどど、どどどどうしよう。私たちの殺気に気づかれ逃げられたら終わりだ。丁重にお出迎えだ!」


私は深く頷き、沙汰を下す。


私は今や、立場が変わっている。数多の部族たちを迎え入れ、話し合いを重ね、この湖畔の代理を担っている。

シェフ様に直接助けられた古参と、私たちが助けた者たちとで派閥が出来ている。

私がその調停役なのだ。


「迎え入れる」


その言葉に湖畔の皆は警戒をしていたが。女神は優しく迎えられた。

私たちが最初に迎え入れられた時のように。

いまだに忘れぬ慈悲を思い出す。


皆が女神を迎え入れた。


「さぁ、旅のお方どうぞ。まもなく食事の時間です、たくさん食べてください。そしてあなたを迎え入れます」


「ようこそ、ここが最後の聖域。ここまでこれたあなたは幸運です。ここで暮らしていかれると良いでしょう」


心がこもった米を食べてみると良い。

なぜか、いつも光り輝く稲穂を。


女神が何かあわてている。


「えっ? あなたたち、戦士です? ショータさんが私を倒すために戦士を鍛えていた? 心技体が揃った戦士たち?

なんて女神思いな、ショータさん!!!  まさかこの様な才能があったとは、そして私への反証。

それが最高の戦士を育成が答えと言う事ですか! 私はおおいに反省しなければなりませんね!」


次の瞬間、女神は倒れた。

これが空腹による昏倒だと思いたい。


――


転生の女神?


――


湖畔にご厄介になって数日。


いや~、お米がおいしい! 太古の昔、私に意識が初めて宿った時の味です。

人が豊穣を祈り捧げる供物、米! 餅! 野菜! 最高においしいです!

昔の人々は、そのままの素材を捧げてくれてましたから、こういう味が胸にしみますわね。


私は制裁神。

暇をしている神々たちを監視し、勝手に転生させるような神々をぶちのめす存在です。

この世の理を見つからないように書き換え、永遠の暇つぶしとして、脱法転生を繰り返したりする輩を成敗する役割ですわよ。

私の監視に気づいた転生のク〇女神がショータさんの魂を放置して逃げやがったので、私がその役割を急きょ担当しました。


そのショータさん?

ダンジョン99Fでレクチャーしようとしましたら逃げられましたね。

必死に生きて、〇ぬような目に合えば人は変われます。なぜ理解してくれないのでしょうか。

脳幹を鍛えると真人間になる理論は、地球で流行ったはずではありませんか!


まぁ、いいです。

戦士たちの鍛錬を眺めるのもいいですよね~。ほんと昔を思い出します。

鍛えるのです! 奪われないように。

強くなるのです!奪うように。そして規律が生まれ文明が始まる。

まさに最高のスペクタル、ここに住みたいぐらいですわね~~~!


「あ、そういえば・・・・」


こんな事をしにきたのではなかった。

ショータさんを転生先のナーロッパに連れて行かなければなりません。


「ショータさん、遅いですねぇ」


ご飯中に何気なく口にした瞬間、場が凍り付いた。


「あれ? ショータさんを来るのを待ってるんじゃないのですか? あそこの神殿、ショータさんのお仲間の車ですよね」


赤髪の女戦士が答えてくれる。


「シェフ様の真名を知っている、やはり女神様でしたか」


あ、やっちゃった? 女神バレちゃったかしら?  神様とばれると良くないのですけど。

ごまかさないと。


「あ、女神じゃないぞ。人間よ。 えっと、高速移動は時間のズレを起こすから多少は時間が遅くなるものですけど、それにしても遅い。トラブルでしょう。でもショータさんは善人だから、必ず戻ってくるはずですが」


ざわ・・・ざわ・・・。


精鋭の3女戦士が、剣呑な雰囲気で私を瞬時に囲む。

えっ、命を賭けて私に挑む気ですか? こんな上質な戦士が、存在をかけて戦うと。

あ~、やっちゃいますか。 不可抗力ですよね、戦いを挑まれたなら仕方が無いですし。


「んほっほほほほほ。 異世界転生、いいですね~。

やっぱり、ショータさんの転生先は太古の戦士の世界にしましょうか」


「教えてください。一体何がどうなっているのかを。私たちは一体これからどうしたら!」

「貴方がとても強い事がわかる。でもここで聞かずに引けるわけがない。答えて」

「たとえ女神様と言えども、力ずくで聞き出す!」


私の口角が上がっているのがわかる。

わくわくが止まらない。


「うふふふ。いえ。私に挑むに値する人々よ、私に勝てたならどんな願いでも叶えてやる。

この星を救いたいか? それともショータさんに、ここに戻ってきてもらいたいか? 渇望するなら、命を賭して叶えて・・・」


ドゴォン!


いい所でしたが、邪魔者の登場の様ですね。


――


ミラシャ・リンバ


――


湖畔に緑の巨人が3体。

その翡翠の体が砂塵を押しのけて姿を現した。

あの強敵が3体、誰もが息をのむ。


女神様の黒い髪がさらりと揺れて、体が金色に輝く。


「あらあら、私が時空の裂け目から出て来たからダンジョンの安全弁がひらいたのね。この巨人は私を追って来たのですわ。私がやりましょうか?」


その言葉に、どよめきが走る。

だが、誰一人として武器をおろそうとはしない。


「いいえ、女神様」


女神様の前に進み出る。


「私たちは、もう分かっているのです。この場所、この世界にいる限り、滅びはまぬがれないと。

ですが何かに守られるだけでは、誇りまでも失ってしまう。 たとえ、滅ぶとしても自分たちの手で抗いたい」


「戦って燃え尽きる命を選びます」

「ここで逃げる事は、ありえません」

「いまさら、行く所も無いしね」


その瞬間、空気が変った。

女神様が小さく目を細め、笑みを浮かべる。


「そうですか。ならばその生を見せてください。輝きを、魂だけが超えることができるエントロピーの超越を!」


私は光剣を構え、炎髪が紅蓮に揺らめく。


「抜刀! いくぞーーー!!」


「「「「「「「我ら今、ここで戦う!!!」」」」」」」


――


3体の巨人が咆哮し、業火が大地を焼く。

銃部族が先陣を切り、魔石弾を撃ち込むため首領リゼットが飛び出す。


「先輩~。後は頼みますよぉ~。吹き飛んだ手足は回収しておきます!」


魔石弾で外皮が削られ、そこに剣士たちが光剣を突き立てる。

巨人が悲鳴のような光を放つ。


薙ぎ払いの度、戦士の手足が吹き飛ぶが、ここで攻撃の手を緩ませる事は壊滅を意味する。

どうすれば命を繋ぎ〇なないか、自分たちがわかっているだろう。

手足が1本ぐらいもげたぐらいで、怯む訳がないよな。


私は無我夢中で、魔石の部分に光剣を突き立てていく。


片手をもがれ業火に焼かれながら、最後の1体が倒れると同時に湖畔に静寂が訪れた。

私たちは勝ったのだ。


治療で手を繋ぐとき、他人の手と間違えないといいなとぼんやり思う。


そして、次の瞬間。


「ブラボオオオオ! ぶらぼぉおおっ! すばらしいッッ!」


女神様が後方で狂ったように拍手と賛辞を送っていた。

黒い瞳に涙がにじんでいる。


「人よ! 見事だ! ここで世話になった礼と、ショータさんとの運命の交差。エントロピーを越えた褒美です!

さぁ! 願いを言ってみよ! 今なら、簡単な願いを一つだけ叶えてあげます!」


3人が顔を見合わせる。


「えっ!? じゃあ、永遠に女神様を奴隷にして願いを叶え続けてもらう!」

「天才だね?! 願いを100個に増やして、何でも叶える事に書き換えてくれますか!」

「私を不老不死にして! タッカラプトポッポルン・・・ガ!」


「人間?! も~、いつもコレですよ~。空気とか読んでくださいってば。ハイと言うわけないでしょう。

だから、願いに簡単! と言う上限をつけているのです。

本当に、いつの時代も人の欲に限りがないわね~、そもそも・・・」


あ、説教が始まりそうだ。

私はふっと願いを口に出した。


「シェフ様たちと、ここからお話することはできますか?」


「そうそう! そういう願いを待っていましたわ。叶えましょう~! では私の手を握ってください。直接ショータさんの脳に話しかけますわ」


いつのまにかギュッと手を握られる。

その手からもやもやとした光が立ち上り、湖畔の空に映像が浮かび上がる。


そこにシェフ様の姿が映し出された。


「「「「シェフ様!!!!」」」」


「ショータさん、ショータさん。今、あなたを思う人々の力を借りて、あなたの脳内に直接語りかけています」


映像の中のシェフ様がビクッとこちらを見る。


「うわっ、いきなり脳にきた! うううん?! そこに女神様! あっ、ミラシャさんも?

えっと、到着遅くなり申し訳ありません。銀河帝国軍に追われて、今近くにいるんですけどもちょっと動けない状況です。どうしましょう。そっち大丈夫ですか? いえ、問題大ありですね。女神様いったいそこで何を?!」


シェフ様の姿を見た瞬間、湖畔にいた半数が涙を流していた。





いつもありがとうございます。


人と猿の違いは遺伝子的にほぼないなんて言いますが、感謝回路で文明を作る人間とは別のいきものじゃないかなと思いました。

そんな事を思いながら、カモノハシは両生類か哺乳類かと考えたら、哺乳類か鳥だと思いました。

めっちゃ、嫉妬し自己確立が強く愛くるしいじゃない。両生類の進化ではないなと思います。



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