12 祭りと言えば襲撃者
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マスター・ショータ
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「マスター、想像以上です! 売却時に買いたたかれても十分な魔石の量です!
ひゃああああああああああ! このまま魔石を溜めて対宇宙生物用殲滅レーザー砲を買いますか?!
それともラクランジュをフレアカラーのイケイケな黄金船にしますか!?
一度、マスターの星のドンきぃ駐車場にいる品の無い色、あれを再現してみたかったんですぅうぅううう!」
目の前に積み上げられた魔石の山。
経費と戦士達のマスク分を差し引いてもまだあまりある。
魔石は銀の壁に反射して煌めく赤く光り、青い湖より激しく輝いていた。
人間の感覚で言ったら、黄金の山だ。人を狂わせるには十分な光だと思う。
現に、アンドロイドのフォルティナさんが正気を失っている。
ドンきぃ仕様のヤンチャな宇宙船なんて見たくない、未来へ行っても感性を疑うあれを見るのか。
絶対にやらせないぞ。
支配人アンドロイドは魔石の山にピョンと飛び上がり、ガシャンと魔石の海に飛び込む。
「ああああああああああああっ! これですこれですこれですぅうううううう!! 」
大事そうに両手で抱きすくめ、頬ずりを繰り返す。
人の所業より酷い光景を見ている気がする、人間でもここまではやらないだろう。
札束は愛してくれないぞ、できるだけ推しグッズに変換したほうが幸せになれるのだ。
「フォルティナさん、それ以上は体に毒です。銭の根は赤いって知っていますよね」
フォルティナさんの肩を引っ張り、魔石から引きはがす。
「ああああっ! 大しゅきホールドが! その花は大輪の白の様です!」
「ところでフォルティナさん、こういう商売でもうけ過ぎは良くないです。還元しましょう。大切なのは信頼とリピートだと、仕事で上の人間が言ってました」
「ええっ! いえ・・・。マスターがおっしゃるなら、そう致しましょう! でもそれは人の感情の配慮ですか?」
冷静を取り戻した、緑の瞳がのぞき込んでくる。
なんでだっけ。少し考えて言葉にしてみる。
「俺の星だとまだ求道者のシステムが機能していて、その話を動画で聞ける時代でした。
人は修行しても 『嫉妬』 と言う感情を消せないそうです。富の独占もそれにあたると思います。部族の人たちと仲良くやるなら還元しましょうか」
フォルティナさんは、こくりと頷き。
魔石の山を見上げる。
「と言う事で、祭りを開くことにしましょう」
それを聞いて激しく頷く、支配人アンドロイド。
「承知しました! ついにラクランジュの外観を彩るナイアガラ式ビーム光を使う時が来たのですね!
今までエネルギーがもったいなくて使えなかった機能をつかいまして256色のイルミネーションで湖を照らし、いえ! ラクランジュは周辺を照らす虹色ミラーボールとして輝いて見せましょう!」
「過度な散財もまた嫉妬を買うわけですので、ほどほどでお願いしますね」
フォルティナさんは浪費が大好きなのは知っている。
人の事は言えない。地球の時、グッズ系の物販購入がやめられなかった。
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さて、では祭りをやろうか。
魔石感謝祭と、そして話に出ていた上覧大会もまとめて開催してしまおう。
皆に伝えるためタラップを降りると、ラクランジュの外装が虹色に光り出した。
7色のライトが夜空に走り、湖と言う名前のプール、突如現れたナイトクラブ。
フォルティナさんの感性がなんか古い。
だって、内装はモダンなレストランで、大浴場は和テイスト。外だけ発色するネオン。
なんだろう、旅館のバー(酒を飲むところ) だけ異色のミラーボールが配置されているあのレトロな感覚。俺の親世代のセンスな気がする。
すると輝く虹色の光に驚いたのか、ミラシャさんと取り巻きの3人が秒でタラップの前にひざまづいてきた。
「シェフ様! そのご神体の禍々しい色は!? 銀神様がお怒りとかでしょうか? つ、次こそ倍の魔石を収めますので、どうかご慈悲を!」
「ご容赦くださいませ! 強烈な視覚効果で頭が割れそうですぅ!」
「許してください! そ、そのサイゲデリックな怒りを収めては頂けないでしょうか! 次こそは倍稼いできます! チャンスをくださいませ!」
「えっ、むしろ幻想的でキレイに見えるけど。歓喜の象徴じゃないの?」
なるほど。アレか。
64とかプレステとか、あの頃はまだ画面がピカピカ光って、3D酔いと一緒に視覚効果で吐き気を誘ってきた。 あの現象だ。
首を垂れるミラシャさんの肩にそっと手を置く。
「いえ、ミラシャさん。驚いているだけです。予想以上の魔石を頂きました、本当にありがとうございます。これでラクランジュの修理とここ場所の維持が確保できたようなものです」
「「「シェフ様・・・!」」」
「これでは貰いすぎです。これでは嫉妬や疑念を生んでしまいます。だから、感謝を祭りの形に変えたいのです。ミラシャさん、協力して頂けますか?」
ミラシャさんの目が大きく見開かれる。
「このミラシャにお任せください!」
「「「祭りだー!」」」
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ミラシャさんと打ち合わせが終わり、虹色ラクランジュの下で湖の祭りが始まった
食事が並び、提灯を賭けた上覧大会の舞台も用意される。
祭りと言えば串焼きだ。
泣く子も黙るような禍々しい赤いリンゴ飴や7色に発色した 『わたあめ』 ではない。そう、後ろで虹色に輝くラクランジュの様に。
フォルティナ支配人のテンションがMAXである、助けて欲しい。パチン〇屋のネオンよりひでぇや。
食べ放題、肉の一斉放出。串焼きの山がどんどんキッチンカーに立てられていく。
フォルティナさんは次の魔石の収入で仕入れに行くと言っていた。
宇宙の問屋 と言うのはどういう感じなのだろうか。星ウォーズを知っている世代としては、ワクワクしてくる。
さて、聞いて欲しい事があるんだ。
おいしい肉や品質の高い肉は高いし、ブランドの名前がつく。
でもその臓物は、ハツ、レバーとして売られる。ブランド牛、豚からとれたはずなのに。
レバー、ハツ、臓物部位として投げ売られているのだ。
鮮度に対して価値が暴落する。半日だけおいしい食べ物って実は 「マスター! 焼き上がってますよ!」
そうね、焼き上がっている。
焼き上がるたびに戦士たちが歓声を上げて串を掴みかぶりついている。
では、席につきましょう。上覧大会の時間です。
光るラクランジュを背景に、即席の闘技場が鉄骨により組まれている。
隣には炎髪のミラシャさん、そして女性陣にねっとりとした目で見られる未成年のタリヤン君。
演出はフォルティナさんだ。とっても効率的な演出をしてくれている。
タラップの上の観覧席からその様子を見下ろす。
戦士、剣士の皆様が手を振りながらタリヤン君をいやらしい目で見ている。
隣の席にいたまえ。俺もそんな目で見られて見たい。
「「「シェフ様! 提灯を頂きたい!」」」
「静まれ! 実力があり信あるものでないと渡すわけには行かない。今回は剣士ティアナに勝ったものに渡す事になった。 ティアナも勝ち残れば 『ぷるぅと』 の提灯を授与されるであろう! まずは勝ち残れ! 実力の無い物は挑む事は許さん!私が相手になるぞ!」
大声で秩序を保つミラシャさん。
何か矛盾している気がするが、こういう関係は任すとしよう。
「さぁ、始まります! 第一試合! ミラシャ陣営から選ばれし弟子! いきなり師弟対決ですよ!」
剣士ティアナさんと取り巻きの弟子が舞台に上がった。
「師匠! 病が治る前の片手のみの使用でお願いしますッ! 治ったから両手使うとかおかしいと思うんです! 寝ててください。いきますね!」
「うむ! 育て方を間違ったようだな。フハハハ、その性根叩き直してやる!」
フォルティナさんのプロレス実況。
実況セリフもなんか古くない? それに乗る剣士陣営もえらいな。
俺の感覚がおかしいのか?
そして隣のタリヤン君が青ざめている。
『あの・・・、絶対〇し合いになります。こんなに心配になるなら、草や木になりたかった』
おしゃれな言い方。
「タリヤン。よく見ておけ。お前の一夜を巡ってこれからこの様な決闘があるだろう。しっかりと見極めるのだ」
とんでもない世界だ。
娯楽が少ないと、男女を巡って争うと言うのを何かの研究結果で見た事がある。
そんな剣士ティアナさんが無双しているその時だった。
ズドォオオン!
巨人の咆哮とは違う轟音。
場の空気が一瞬だけ止まる。
おそらく銃声だ、映画と同じ音がする。
闘技場の外、砂塵の向こうから現れたのは黒い装束の集団。
肩に銃を抱え、マスク越しに笑っていた。
「乱入者ですかね?」
フォルティナさんがマイクを構え直し、声を張り上げた。
「まさかの挑戦者乱入! 銃部族の登場です! ミラシャさん勝てそうですか!? 無理そうならラクランジュのシールド内にお入りください!」
「いえ、ぶち〇してきましょう。銃を持っていても病に蝕まれているやつらに後れを取るわけがありません。あやつらの心臓を銀神様のために「ミラシャさん、彼女達を捕まえてくれませんか? 話を聞きたいので」
ミラシャさんが提灯を掲げ、ビームソードを引き抜く。
「皆の者聞くがよい! シェフ様の神託が下った! 敵を生かして捕まえ住処を吐かす! 財と男、全て奪い返すぞ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおお!」」」
湖畔に響く、最高の演出。
狂気に光るラクランジュが彼女達を照らす。
蛮族達がこんな奪い合いを繰り返してたら、そりゃ文明の進歩とまりますわな。
蛮行をなんとかしなければ。
――
「魔石を光に変えて何してるんですかぁ~? 狙ってくださいと言っているようなものですよねぇ」
砂塵から現れたのは、首領と思われる黒マスクの女性。
銃を構え余裕の表情だ。
「ふっふっふ、撃たれてもひるまないんですか? すごいなぁ~。でも、こっちは銃でハチの巣にしますよ~。近接剣士がどんなに強くてもねぇ。弾丸の雨には勝てないでしょう」
銃声が響く。
シールドの効いた観覧席からタリヤン君と狂気の夜を眺めていた。
弾が砂を弾け飛ばしている。
部族達は怯まずに飛び込んでいく。
「銃に怯むなぁああああああ! ここを失う恐怖を思え! 突撃ぃいいい!」
ミラシャさんの咆哮が響く。
人の動きではない。残像が敵の腕を次々と切り飛ばしていく。
弾丸が肩を腹をえぐろうと止まることなく、道を切り開いていく。
「うわっ、グロっ。フォルティナさん、手とかくっつきます? 魔石で医療ポット買った方がいいですかね?」
「マスター、傍観者となりますと冷静ですね?! 1時間以内なら、酵素ポットで接合可能です。
あ、何名か 『魂の力』 に目覚めてますね。俗にいうスキルってやつですよ。まさかスキルがあるからって間違っても参戦しようとか思わないで下さいね、マスター!」
「参戦はしないかな。くっつくなら、このままやってもらって大丈夫ですか」
戦場は血しぶきの渦。
「戦士に後れを取るんじゃなぁい! シェフ様、銀神様に、この剣でより多くの心臓を捧げるのだ! そして祝福の提灯を頂くのだぁああああああ!」
「「「「うおおおおおおおおお!」」」」
ティアナさんも大暴れ。
剣士と言うより、バーサーカーだろ。
スキルにスーパーアーマーとか持ってない? 銃で止まってないじゃん。
「フォルティナさん。人の心臓欲してました? それとティアナさん、人の話聞いてくれるタイプですかね??
血は眠らない、一度流した血は獣のように戦争を欲すと 『シヴィライと楽しい文明作り』 で学ばなかったのでしょうか」
「マスター、心臓のウザがらみやめてください~! 不思議ですよね、星は違うのになぜ心臓を捧げる文化が残るのでしょうか」
銃の部族が必死に引き金を引いている。
「くそっ! 当たっているのに!」 「なぜ倒れない!」
うん、当たっている。
俺から見ても当たっている。
でもビームソードが振り降ろされるたびに、砂に沈んでいく彼女たち。
「ひぃっ・・・、撃たれても怯まないんですかぁ!?」
銃部族の首領が、後退を始めている。
俺もそう思う。おかしいんだよ。
銃を突きつけられたら、大人しく財布ごと渡す。これが海外旅行の時のルール。
次の瞬間、呼応したかのように部族が一斉に突撃。
強打を浴び、地面に叩き伏せられさらに強打を浴びせられる。
激しいダウン追い打ち。死体蹴りとで言うのか。
やがて、銃声は聞こえなくなった。
隣のタリヤン君になんて物を見せるのか。
「ミラシャ! そのままもっと殴りつけて! 男をさらい慰み者にする盗賊どもめ!」
なるほど、負けたらタリヤン君がそうなるのか。そりゃ必死だよね。
Dえるサイトによく販売されているやつか。
さて、勝ったか。まずは治療だな。
「フォルティナさん、治療からですかね。治療マスクの用意をお願いします」
「承知しました。 マスター、ここの部族の人、戦闘能力がめちゃくちゃ高いですね。スキルが肉体と共鳴してます。これなら、他の星で魔石稼ぐこともできますよ」
――
ミラシャ・リンバ
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「・・・シェフ様がお前と話がしたいそうだ。変な真似をすれば、おまえの部下を砂塵にまき散らす事になる」
首領の肩に光剣を突き刺さす。
焼けた布と肉の匂いが立ち上り、首領の顔が苦痛に歪む。
だが、その青い瞳には反骨の光があった。
背後で3人がにやりと笑って声を上げる。
「リーダー、腕の1本もいっておきます? すぐに素直になりますよぉ」
「そうだね、足もいらないよね? 口さえあれば十分だし」
「先に部下からまき散らさない? ほら、すぐに言う事を聞きたくなると思うよ」
これは優秀なセラドナたちのセリフだ。そうとう効くだろう。
首領からあっと言う間に、抵抗感がなくなった。
「あ、あんまり怖い顔をしないでくださいよぉ~。
部族の仲間のために誰だって本気なんですよ。わかるでしょ? と、とりひきをしませんか? 銃装備を捧げます。 それで、ど、どうでしょうか」
私は、さらに光剣を押し込み微笑む。
「よし、大人しくシェフ様の前にでるんだな。
お前の命も、お前の部族の命もシェフ様と銀神様の裁きにゆだねられる」
プリズムな光に照らされながら首領は頷いた。
いつもありがとうございます。
少しキャラの引き出しを増やすために動かしたことのないキャラを動かしてみます。




