11 マスター、つらみを感謝に変換すると幸福物質が出るらしいですよ! 感謝プロトコル起動。不思議ですよね? 私たちはそれを模倣できないはずでした。
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ミラシャ・リンバ
――
銀色の神殿 『ラクランジュ』 が開かれていく。
暴れるティアナをその中に引きずるように中へ連れて行った。
「なんだなんだなんだ、ここなんだ? 空は青く、水は透明。畑仕事までおこなっている。灌漑農地? なに? ここはあの世なのか? 〇んだのか?」
そうだな、少し見ない間に畑が出来て芽が生えている。
非戦闘員が祈りながら育てて始めていた。
「奇跡の力だ」
「まだ〇んではいません、すべては祝福です」 「そうだね、完全に祝福です」 「初耳なんだけど。奇跡で灌漑農地はたぶんできないよ?」
そのままティアナをレストランホールに寝かす。
病に侵された彼女の肌は黒く滲み、息は浅くとぎれがち。
それでも、武器のノコギリはしっかりと握っていた。
そして黒髪のシェフ様が慌てていらっしゃった。
「おおう、大丈夫ですか? 今、治しますね」
まず慈愛の言葉に耳を疑い、黒髪の男神様に目を疑う。
ティアナの口元にはマスクが当てられ、光が全身を包む。
黒い染みがゆっくりと消えていく。
「バカな!? 治っていくだと! あなた様は一体!? ああっ、痛みが消えていく」
「まぁまぁ、暴れないで落ち着いて下さい。まだ治っていませんよ。さぁ、息をすって」
そして心が射抜かれる。
いや、射抜かれるではない。稲妻でも雷鳴でもない。
もっと根本的な何か。魂を揺さぶれられる衝撃。
後ろで銀神様が少女たちを同じように治療していた。
セラドナ、リシュエナは胸を押さえ震え、サズサは座り込んでいた。
「よし、良さそうです。でも衰弱状態を治すには食べるしかないですね。今、食事を用意します。うどんにしましょう。粉ものカロリーは高いからたくさん食べてくださいね」
ここできっと涙があふれてくるだろう。
「ぶぶぶあ、あああぶぶぶぶぶあ。あぶぶぶう」
ティアナが飛び起き、服を脱ぎだし、装備を捧げる構えをとる。
そうなるだろう。
顔がぐしゃぐしゃ、顔から汁と言う汁が出ている。
当然、何を言っているか分からない。
品性と言うのがいかに大切かわかる。
少女の戦士の卵たちも同様に服を脱ぎだし、忠誠を示す。
私たちと同じく、この世界に神を見たのだろう。
「この装備と引き換えに、忠誠を受け取ってください!」
弟子の方が品性がある。
粗暴なティアナから育てられたとは思えない。
その声は確かなものだ。
シェフ様は静かに首を振る。
「ハハハッ。ありがとうございます。ですが戦士の装備を奪ってしまっては貰いすぎでしょう。気持ちだけ頂いておきます。 できたら一緒に戦ってくれるとうれしいです」
空気、運命が変るのを感じる。
なぜこの様な世界に生を繋ぎ生まれたのか、そしてなぜ戦士として生きるのか。
まもなく答えが見つかりそうだ。
強くなろう。すべてにおいて。
――
さっそく食事が出された。うどんと言う食べ物らしい。
大きな椀に満たされた湯気の中、白い紐が旋律を奏でるように揺れている。
出汁の香りが胸を打つ。
ティアナたちは震える手で、その白い紐を救い上げる。
せっかくなので、私たちも頂こう。
麺をすするとつるんと喉を通り熱が体に落ちていく。
泣きながら、ティアナたちは食べ進めていた。
が、ときおりこちらを見て、強烈な視線を向けて来る。
私たちの大切な装備品のチョウチンを見ているのか。
激しい感情の波。砂塵渦巻く荒野の殺気だ。
これは、ただの光ではない。闇を払う希望の灯だ。
シェフ様から頂いた使徒の二つ名 「まぁず」 そして、セラドナたちに与えられた 「じゅぴたぁ」 だ。
そう譲るわけにはいかない。
資格がなければ、与えられる事はないだろう。
さて、腕は鈍って無いか。剣士よ。
「さぁ、おのれの価値を示して欲しい。巨人狩だ」
――
フォルティナ・ギンレイ
――
申しあげますと、回復手段がうどんです。
完全治療の医療ポットはお値段が張ります。道の駅 『ラクランジュ』 にあると思いますか?
せいぜい美肌マシンがいい所ですよ!
そして召し上がっているのは醤油味のうどんに見えました?
残念ながら、鶏ガラベースのちゃんぽん風でした。
砂塵に耐えられる丈夫な方々なので、カロリーさえあればすぐに回復すると思われます。
戦闘系の方々が 「あぶぶぶぶ」 の嗚咽がすぎて汁をとっては汁を戻しておりますが、データーベースでも何をしているのか解析不能です。
ともあれ、この方たちは良き協力者となって頂けるようです。
やさしさと言うのは、この星では対価あって成り立つ価値感みたいですね。
マスターの 『ありがとう』 と、微笑みの衝撃は凄いのです。心臓がない私でもドキッとします。
さて、本題に戻りましょうか!
ラクランジュ外壁修理工程が8割終了です。
部族の皆さまから時間を見ては鉄材を集めてもらっています。
「マスター! 鉄くずを集めて、汽車の宇宙船を作りましょう。汽車の宇宙船、お好きですよね? 機械の身体を貰いにいきましょう」
「フォルティナさん、今の発想にジェネレーションギャップを感じました。知ってますけど、ちょっと違うんですよね。時代的に巨大ロボでバンバン戦う感じか、鉄くずを集めて戦車を作るって感じですね。人間のク〇は鉄のクズを集めるああああああああああああああ!」
マスターの何かのトラウマに触れたようです。
違いましたか汽車のレトロの宇宙船で旅をするのがロマンではないようです。
普通に外装板の歪みを矯正しつつ灌漑農地プログラムを起動しました。
はい、畑です。
船腹から人工照明を当て、そこに緑が芽吹いております。
昨日まで剣しか振れなかった部族が、今は鍬を持ちあっという間に灌漑農地が出来上がりました。
「フォルティナさん、未来はこんな感じでいいかと思います。いや~、スローライフが近づいてきましたねぇ」
「マスター、農業は最小にとどめます。神様撃退用の波動砲を優先して購入しなければなりません!」
「そうね・・・。でも波動砲だけでいけるかな、10億かけた桃太郎ロボでも負ける世知辛い世の中なんだよなぁ・・・」
拝金主義の私営電車の事でしょうか、マスターが考え込んでいます。
でもこれが 『ラクランジュ』 がもたらす祝福だと思います。
戦うだけでなく、生きるための循環を回す。
船を直し、畑を作り水を巡らせる。地場産の農作物の収穫ですね。
それがマスターの戦略です。魔石の戦いにいずれ限界が来ることを懸念しておりました。
つまり戦闘フェーズの前に農地を入れることで、心を休ませつつ次の巨人戦に期待を持たせる。
はい。
あ、補足いたします。
この農地が循環すれば、うどんの原料である粉の供給も安定します。
次のうどんは泣かずに食べられる、はずです。
それか笑ってるかもしれませんね。
――
――翌朝
夜を越えた湖畔に、剣士の部族も合流しました。
新たな仲間たちは早くも朝の鍛錬に加わりまして、剣と殺陣の稽古で熱を帯びております。
と、申しますか。
稽古と言うより、命のやり取り一歩手前です。鉄棒を交えた火花。
解析プロセスではガチと判断してますね。
骨は折れたら治りませんけど。浴場施設は美肌ポットなので皮膚しかなおせませんよ!
と、聞いてみた所。
「銀神様、骨は気合で繋ぎます」 「折られる方が悪いのではありませんか」 「〇ななきゃ安いです」
「聖域の飯を食えば、骨ぐらい治ります」
未開文明ですか。
マスターも困った顔をしておられます。
「まぁ・・・、2度目の人生もあるし。いいんじゃないかな?? セカンドライフも中々大変です??」
「神託がおりたので、続行だ。倒れたら倒れるまで鍛錬だぞ」 「神託だ。骨は256本ある。1本ぐらい折れたからなんだと言うのですかぁ。半分までやるりましょう」 「〇んでも次機があるみたい。1回ぐらい生死を彷徨ってみたら? いくよ」
ダメそうですが、マスターがそうおっしゃるならいい気がしてきました。
彼女たちが言うには 「闘争こそ生きている証」 だそうです。
私にはよくわかりません。
さて、ここで持ち上がったのが装備の授与問題です。
お土産の定番であります木刀ビームソードでございます。
昔の売れ筋商品と言う事で仕入れいたしました。今や宇宙光線銃やロボットで撃った方が早いので過去の遺物です。
一応50本ほどストックはございますが、マスターのおかげで想定以上に人気が集中しました。
「自分こそふさわしい」 「いや、我が先だ」 と声が上がり、争奪戦になりかけた時に、マスターの一言 「上覧大会で決めていいよ」 と言う事で、優勝者に授与する事が決まりました。
さらに提灯――
マスターから 『希望の灯』 として授けられた品も同じく熱望されています。
どこか遠いい銀河の彼方の星の名前が書かれた9個の名前。思考プロセスに 「これは売れるッ!」 と電流が走り購入しまして、300年前に 「あーす」 が売れましたよ!
残るは6個しかありません。
「びぃなす」 「せが」 「ぷるぅと」 「うらぬす」 「水星」 「ねぷちゅうん」 素晴らしいインパクトです、売れそうなおみやげ提灯ですよね? ですよね?
使徒のご指名を今か今かと待つ、戦士達に伝えなければなりません。
「数には限りがあります! 人気により購入制限・・・、いえ制限授与になります! 使徒の提灯はふさわしい時に渡します」
支配人アンドロイド人生で言ってみたかったセリフ。
数が足りなくなるほどに売れる日が来るとは人生何があるかわかりませんよね。
私、アンドロイドですけど。
「せ、制限ですか?!」 「ま、魔石でいくらでも払います!」
「人気の無さそうな末端の 『せが』 でいいです! 贅沢はいいません!」
提灯に付加価値つきすぎですね!
これって宇宙系アイドルの物販みたいですよね~?
横目でマスターのリアクションを確認いたしますと
「なんだろう、身に覚えがある。Vチュバーのコラボ空気清浄機を買った時のような付加価値を感じああああああああああああウゥ頭がああああああ!」
商標ロゴ入りで値段は倍違いますからね!
商売の妙と言う事でしょう。
さて、鬼気迫る鍛錬も終わりまして朝ごはんの時間です。
食事後、彼女達は魔石を取りに砂塵へ突っ込みます。
いつ今日が最後の日になるかわかりません、出来る限り力が沸く物を食べさせてあげたいと言う、マスターの願いです。
肉盛りチャーハン。
鉄板で焼かれた謎肉を山盛りに刻み、白米と共に強火で炒め、仕上げに卵を絡めて黄金色の粒をマスターが作り上げました。
キッチンカーが山盛りに湖へ運んできました。
戦士たちの目が、さっきまでの剣よりも鋭く輝いております。
「うおおお! これぞ勝利の匂い!」 「肉が! 米が黄金色だ!」 「味薄い?」
――味が濃い方がお好きではありませんか?
「では、マスターから口上をお願いします!」
「ビームソードと提灯はのちほど配布方法を詳しくお伝えします。皆様お気をつけて、誰一人なく欠ける事なく戻ってきてください。安全第一、ご安全に!」
戦士たちが肉盛りチャーハンを頬張りながら 「はい!」 と応える声が響き渡ります。
補足いたしますと恐ろしい速さでチャーハンをかきこんでおります。
マスターは次に備えて、チャーハンをすでに二回戦を指示済みです。
――
ミラシャ・リンバ
――
砂塵がうなり、赤黒い大地を巨人が踏み砕いた。
その轟きに一斉に雄叫びを上げる。
「突撃ぃいいいい! 囲んで脚を狙え! 飛びあがり背を取れ!」
剣閃と砂煙が交錯する。
気力が満ちて誰もが勝利の未来しか見ていない。
「はいっ! いや~、光剣を振るうって最高ですねぇ!」
「そうだね! この瞬間のために鍛えたのよ、魂が震える!」
「骨折れてるけど、なんとかなるね」
私は叫びながら、巨人の太腿に刃を叩き込む。
血飛沫のような黒い砂塵が舞う。
この高揚、闘争こそ生の証!
そこへ、ビームソードを授かった剣士たちティアナが割り込んできた。
巨人の挟撃や複数相手が取れるようになったのは大きい。
シェフ様により大きく貢献できるはずだ。
「ハッハッハ! 私こそ選ばれし剣士、道を開けろ!」
「師匠! 私も選ばれましたが!」 「わたしたちも光剣持ってるんですからね。わたしにやらせてください!」
「使徒の証のチョウチン・・・、欲しすぎます。貰えるその時まで、ただ斬るッ!」
巨人が咆哮を上げるが、その声すら戦意をかき立てるだけだ。私たちは砂塵を蹴立て、飛びあがり、駆け上がり、光剣を一斉に突き立てた。
「「「せぇい!」」」
巨人が崩れ落ち、砂煙の中で歓声が爆ぜる。
魔石が光り輝き、我らの勝利を証明した。
次は3匹の複数を狙おう
魔石大量ゲットだ。
いつもありがとうございます。
SFっぽく書けている気がします。
時代はサイエンスフィクションからサイエンスファンタジーじゃないですかね。
もっと貞操観念が逆転した肉欲的なキレのやり取りを求めてらっしゃる方が多いと思っておりますが、苦手な事を進めております。
学者が 『吾輩は猫である、なんと愚かな人間どもめ』 って、話だからSFだよね。
宇宙ネコの話じゃないかとスターウォーズ世代は申しておりました。
今、世に出るとするならば
擬人化したネコがなろう系日常生活を、ほめたたえるか、もしくは 「私はねこです。また公爵夫人が追放されてます。 こっちはマヨネーズまみれ。なろうの世界は、餓鬼世界の無限地獄。なんておろかな人間どもめ」 と、メタ的な何かが面白そうです。




