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10/17

10 値段を決めてから材料が決まる。商品設計のジレンマである。好きな物を好きなだけ食べてもらいたいが適正価格ってのがあるから。だからパスタ。

――


ショータ


――


湯気に包まれたまま、カリヤン君と廊下を歩いていた。

こんな世界で少年として生きるのも中々大変そうだ。

『あっ、見て少年がいるよ!』 とお姉さんに拉致されるシュチュ。あれは異世界でも真理の一つだと思う。


のぼせたのか、カリヤン君の顔がほんのりと赤い。

美少年、この世界では宝石より尊い存在なのかもしれない。


「し、シェフ様。この度はありがとうございます」


「ああ、いいよいいよ。何かあったら何でも言って来てね」


少年は深々と頭を駆け足で戻って行った。


――


さて、食事の時間である。

フォルティナさんと一緒に厨房に立っていた。


モンスターのタコ巨人の触手は食べれるらしいが、あの現物を見た以上は生理的に無理だ。


そして横目でフォルティナさんをチラリと見ると、巨人の触手を 『分解機構』 へ次々と突っ込み、淡々と処理をしている。

排出口の銀色のトレイの上には、ゴトン! とカチカチブロック保存食が落ちてきた。


先ほど 「売れる見込みが立たない赤字ブロックの生産をやめませんか?」 と伝えたところ。


『・・・マスター、私は機械です。ただ指示を永遠と処理する機械なのです! 本能が、プログラムが在庫を満杯に! と私のゴーストが囁くのです』


と、緑の目を暗く光らせながら 『――ワタシハ、ツクル』 と、ロボット風の謎の演技でごまかそうとしていた。 そして在庫欄に輝く、ブロック在庫+1。

多分だけど、人で言う趣味なのだろう。原料が満杯で埋まって無いと落ち着かないタイプの管理者は良くいる。 「材料が足りなくなるぐらいだったら、常に満杯が安心だね」 理論だ。経営者の敵である。


深くは追及しない。

機を見て、建材として在庫ブロックとして叩き売る。在庫を売れば彼女は喜ぶだろう。

店の商品が売れて魔石に変換できれば彼女は幸せらしい。


そして機械は生産を続けるのだ。

勘弁してくれねーかな。売れる算段が無い過剰在庫でこの船は停止の危機に陥っていたのではないか。


さて、本日のメニューは大量に保存されている謎肉とパスタ。

戦士の皆さまは喜んでくれるでしょう。


レストランビュッフェ形式で食べ放題だ。肉は一人600g計算で、十分すぎると思う。

パスタをモリモリに盛ればオッケー。炭水化物のパスタでお腹を満たし、肉をそれなりに食べさせる。

世の中の食べ放題の原理である。

後、女性にはパスタ。デートの教科書にもそう書いてあった。


肉は焼く前の下処理の工程が大事だよ。白い粉のデータを見るんだ。

うま味の白い粉はラーメン屋さんで大量に使われているイメージがあるが、焼肉屋さんの消費が一番なのだ。

つまり、なぜ焼き肉がうまいのか――


「マスター! 肉焼き上がってます」


銀髪をゆらしたフォルティナさんが大きな鉄板を運んでくれた。

ポンと出て来たオーブンからは、色々な種類の謎肉がじゅわ~っと音を立てていた。


ニンニクの油漬け、もといペペロンチーは後から山盛りで運ばれてくる手はずだ。


ホールで口上を伝えるとしましょうか。

肉を積み上げた鉄板がホールへ運び出される。


フォルティナさんとここでの滞在中、魔石の稼ぎ方を決めた。

結論として、提供するのは衣食住。

あの巨人を倒し、魔石を稼いでくれるパートナーになってくれると嬉しい。


レストランホールに入ると全員が胸に手を当て礼の姿勢を取る。

スッと手で立ち上がるのを押さえると、流れるように席に着いた。


フォルティナさんが 「マスター、口上をお願いします。ここで決めれば魔石が回りそうです、カッコよくお願いしますね!」 と、ウィンクしてきた。


俺は山盛りの肉を背景に柄にもなく声を張る。

まさか、異世界で人前に出て話す事になるとは思わなかった。

会議室の隅で、はいはい。とコーヒーをすすりながら上司の口上をただ聞き流していただけたったと思う。

『言われた通り、設計図通りにやる事やればいいんでしょ?』 ぐらいの感覚だったが、守る物があるとこうも前向きになれるのか。


「皆さん、聞いて下さい。俺たちは星を渡り魔石を集める存在です。

道中、俺を捕まえようとする女神様に装甲がやられてしまい、修理を兼ねてこの星に寄らせて頂きました。

魔石を稼ぐ、契約をして欲しいのです。衣食住を提供しますので、巨人を倒して魔石を提供して欲しいのです」


「私達と契約して、魔少女に、いえ魔戦士になってください!」


『はい』 と答えると奴隷契約されそう。

契約を進める時はメリットだけを言う。保険契約の営業とかそんな邪悪な感じだった。


「では、説明を続け・・・?」


後ろに風を感じると、肉の山が平らになっていた。

すでに空皿である。


正面の皆さんを見ると、いつの間にか皿に肉が山盛りになっている。


「早い」 「マスター、早いですね」


まぁ、長話して肉がさめても良く無いな。


「はい、まぁ。肉が冷えますのでこの辺にして。では肉を持ちまして乾杯いたしましょう」


「「「「乾杯~」」」」


同時にガーリックの香りをまとった、山盛りパスタの登場。


「うおおおおお! 炭水化物の時代が来た!」 「陣形を組め、炭水化物に突撃だ!」 

「シェフ様、銀の女神様! ついていきます!」 「見ててください、巨人の首取ってきますよ!」

「アルデンテじゃない・・・」 「味が濃い・・・」


何がアルデンテじゃい。

芯が残った麺は、日本人は好きじゃないんですぅ。


「はい、食べながらでいいので聞いて下さい。星を渡り魔石を集めています。契約してくれるなら、軽度の怪我も治す浴場施設の解放。報酬によって、その日の食事のグレードアップ。いずれ宿泊施設も解放します! みなさん契約しましょう!」


ミラシャさんが先頭に立ち、肯定の言葉を上げてくれる。


「もちろん! 契約します! 共についていきます!」


「神様と契約します! 使徒になります!」 「巨人の首をテイクアウトしてきますよ!」 「神様! ありがとうございます!」

「アルデンテなら・・・」 「味薄くしてくれるなら・・・」


フォルティナさんがすっと前に出て、手にホログラムを灯す。

ミラシャさんに差し出したのは 『パートナー契約書』 と浮かぶ物。

下には選択肢 「はい」「イエス」「了解」 の3つだった。


「フォルティナさん、前も思ったけどソレずるくない?」

「生存戦略です、マスター」


「契約する! 命と魂を預けさせてもらう!」

「はい!」 「イエス!」 「パスタ味薄い・・・」


歓声が食堂を震わせ、フォークの擦れる音が雨のように続く。


――


ミラシャ・リンバ


――


まだテントを照らす影は濃い。湖は青く、遠く見える砂塵が赤く煙る。

何より空気がうまい。十分すぎる環境が体中に力を与えてくれる。

我々は選ばれたのだ。


巨人をぶち〇す。魔石を持ち帰る。それが使命だ。

まず、うちの戦士を全員、光剣を授与されるまで鍛えあげる。

それでも巨人を効率よく倒すには、人数が足りない。

そして聖域の祝福と福音を広げ、仲間を増やす必要がある。

この奇跡をこの星に知らしめたい!


今一度部族を率い、この聖域を守る。

〇ぬきで鍛錬し、戦士全員に光剣に手が届く所までいく。

私は深く息を吸い、各テントへ向けて咆哮を放つ!


「お前たち! いつまで寝ている、さっさと起き――『朝ごはんですよー!』」


幕が一斉にめくれ影が走って行く。


「飯だ!」 「寝ている場合じゃない、朝飯だぞ!」 「まさに福音の声! 今行きます!」

「味薄い?」


そうだな、品性も鍛えあげないといけないと思わないか。

この後、徹底的にやってやる。


まぁ、ご飯なら仕方ないな。朝ごはんも大量に頂けるとは大変ありがたく、申し訳ない。

だが出して頂けるのであれば完食しないのは大変、神々に非礼な事である。


おお、いい匂いがする。


――


まるで遠い未来から来たような形、おそらく神の車だと思う。

その中に巨大な鍋から湯気が上がり、シェフ様が配給を始めていた。


椀に盛られたのは、白く柔らかい餅。

その中身を満たすのは色が黒く、香ばしい香りを放つ汁だった。


「関東風です、どうぞ。 足りない方は関西風もありますが白みそなので実験・・・、いえお腹に余裕があれば試してみてください」


初めての味だ。

餅を箸で割ろうとすると、粘りが糸のように伸びる。

そして熱い汁をすする。


おかわりだ。

みそ味と言われていた方ももちろん頂く。

それと、シェフ様にこの福音を世界に広めてよいかと確認しなければならない。

強い戦士に声をかけよう。この力、この味、この奇跡をもっと大きな輪に!


「お前たち! 食事が終わったら鍛錬だ。その後、探索へ出るぞ、各自装備の点検を怠るな!」


――


地獄のような鍛錬を終え、出発の時。

精鋭の3人を引き連れ、巨人の探索と他部族を訪問しようと言う時に神具を授けられた。


「これを持って行ってください、おみやげ提灯です。未来の照明器具なので思ったよりすごかったです。砂塵を押し返し闇を照らします。 あ~、その「まぁず」 「じゅぴたぁ」 の意味は俺の故郷の星の名前です?? よね??」


「マスター、太陽系とかよくわかりません。仕入れの時に気分で購入したも・・・ザーッ。売れると思ったんですよね!」


つまり、シェフ様の故郷の名を頂いたと言う事。

私達の命その物である


マスクを深くかぶり、マントを肩に巻き付ける。

湖を離れ砂塵へと歩みを進めた。


掲げた小さな灯が渦巻く砂を押し返す。

このチョウチンはただの照明ではない。導きの神具だ。


少し進むと、セラドナが口を開きリシュエナ、サズサが相槌を打つ。


「いや~、祈るのを忘れた頃に神様って来てくださるんですねぇ」

「本当にそうだね、柔らかな肌。黒い瞳。無限のやさしさ。感謝の力がこんなにも凄いなんてね」

「まさに希望の灯。でも味薄い・・・」


味の感想を言っていたのはお前かサズサ。

感じ悪いぞ。


「その通りだな、感謝で力が溢れてしょうがない。丁度いい、左方に黒い霧を確認。やってやるか」


左方に黒い霧の山が動く。


「いや~、光剣を振りたくて仕方ありませんでした。どうしょうもなく美しく惹かれる光ってあるんですねぇ。昨日の部族を照らす緑の光がまだ脳を焼いています」


「本当にそうだね。またシェフ様に褒めて頂けるかな。想像するだけで震えが止まらない」


「これで味を濃くしてもらえる? 力が溢れている。ブチ〇そう」


――


巨人との戦闘を終えて砂塵を抜ける。

たどり着いたのは岩と砂に囲まれた洞窟。

岩壁からわずかに水がにじみ、透き通る雫が床を濡らしていた。


洞窟にはフードを被った少女が立っていた。


「久しぶりだな、祝福を届けに来た」


少女は驚き首を傾げた。


「お久しぶりです。祝福・・・? 水のことですか? ミラシャさんの部族を満たす水はありませんよ。

奪いに来たとしても師匠はまだ戦えます。道連れぐらいできますから」


威勢を張る中、セラドナ、リシュエナ、サズサの3人がすっと餅を取り出し、何個も差し出した。


一瞬、硬直し少女は言葉を紡ぐ。


「食料で、わ、私をどうにかしようと・・・。はい、お客人様、いらっしゃいませ。お伝えしてきますね」


餅を両手に抱えると、小走りで洞窟の奥へ消えて行った。

だが、追うようにそのまま進む。待っていられない。


奥にいたのは、灰色の髪を垂らした女戦士。

ティアナ・グロッタ。

体のあちこちが黒く変色し病が彼女を蝕んでいた。


「・・・何をしにきた。食料をただで貰うほど、怖いお願いは無い」


「シェフ様の祝福を授けに来た。仲間になれ。巨人を狩るのには、お前の力が必要だ」


ティアナは乾いた笑いを漏らす。


「仲間になれと言うのか。今更、私に何が出来る。足手まといだろうよ。

だが、巨人については忠告しておこう。やつらが誘われる様に黒い湖の周りに集まっている」


さて、どうしたものか。

あの聖域での感動をどう伝える?

無理やり、連れ帰れば戦闘になるだろう。


その時、後ろの3人娘が同時に声を上げた。


「祝福を受けましょう! 何も心配ありません、祝福を受けましょう!」


「さぁ、ティアナ様も少女たちも完全な仲間になるのです」


「ところで祝福って何? まだ私も説明聞いてないんだけど」


ティアナは目を見開く。


「セラドナ? リシュエナ? サズサ? 暫く合わない内に、性格が変ったな。お前たち、大丈夫か? 絶望して薬にでも手を出したか? 祝福って一体なんだ?」



いつもありがとうございます。

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