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カオルノキミ 2  作者: 黒炭
第二部
43/92

43 双子と佐々木 その2

 双子は立ち上がって、少年を見下ろした。そして更に、一歩後退する。

「は?」「薫『ちゃん』?」「チビ助のこと?」


 ごにょごにょと二人は顔を見合わせた。


「ちょちょちょ、薫ちゃん、どうしたのその頭? てか何で私服? 学校は? あ、俺が言うなってカンジだけど」


 急に親密な気配になって、少年は明るく笑う。少年――佐々木俊も、閲覧者用の椅子から立ち上がった。

 と、同時に二人は、頭の上で電球が光るように気づいた。「この少年は薫の友人らしい」と。にんまり、悪巧みの笑みが広がる。

 佐々木は、銀髪――葵の髪に触れる。薫に似て(薫『が』似たのだが)柔らかい感触だ。葵は突然の接触にも驚かなかった。


「何? これカツラ?」


 葵はにっこり笑った。笑った顔は、益々薫に似る。しかし、佐々木は葵の髪をしげしげと見ていた。


「そうだぜ?」

「へえ? なんでまたこんな格好で。悪かったな、うるせーとか言って。しかも、……なんでこんな金髪男といるの?」


 最後は睨み付けるようにして柏を見た。葵は薫よりも小さい。ただし、柏とは数センチは違う。佐々木も、柏は見上げる形になる。


「どういう関係?」


 葵は焦った。

 何をもってこの男がそう聞くかが解らなかったからだ。何と言えば、(薫にとって)より甚大な不都合が生じるか。

 ダメージや混乱を大きくすることが彼らの楽しみだ。そのために有効な行動は何か、と考えている。おまけに、目の前の男は遠慮なく葵のパーソナルスペースに侵入してくる。


(こいつ……薫に、いつもこんなに馴れ馴れしいのか?)


 困ったように柏を振り返る。彼はにんまり笑って「任せろ」という目線を送った。

 柏は一歩踏み出し、葵に触れた佐々木の手をなぎ払う。


「……俺のオトコに気安く触ってんじゃねえよ。『薫』は俺のもんだ」

「……っ!」


 そのまま、ぐいっと葵を腕に抱え込んだ。柏の想定外の動きに対し、葵が驚きと嫌悪の入り混じった表情を見せた。それが生々しいので、事実らしく見せた。


「はあ!?」


 辺りが振り返るほどの大声を上げて、佐々木は叫んだ。もはや、双子よりも佐々木の方が害悪でしかない。


「ふざけんなよ! 薫ちゃん、嫌がってんだろ!」 

「い、嫌がってねーよ。お、俺もこの男が好きだ」と、引きつった笑顔の葵。

「嘘付けい! そんな話聞いてねえよ! クソ! 俺が必死こいて勉強してる間にとんでもねー害虫が付いてきやがった!」


 腰に手を当てて、舐めあげるように柏を見た。


「てめえ……。さては薫ちゃんを夜の世界に引きずり込もうとするヒモ男だな?」


 柏は、堪えきれず吹き出した。可笑しくてたまらないらしい。

 想像以上に好ましく過敏な反応をする少年を、すっかり気に入ってしまった。その腹を葵がどつく。


(笑ってんじゃねーよ、参)(だってよ……だって……)


 佐々木は更に興奮して噛み付いた。ずいと二人に近寄る


「笑ってんじゃねーよホスト男! てめえに薫ちゃんは渡さねーからな!」


 と、葵の腕を胸に抱きこんだ。しかし。


「…………あれ?」


 抱えた彼女の腕を見下ろして、きょとんとした顔をする。


 

 

 もはや、彼らの寸劇は衆人環視のもと行われていた。


「すみません! ここは図書館なのでお静かに……、」


 利用者の報告を受けて、警備員がようやく駆けつけた。

 その制止には無反応で、佐々木は目を丸くして葵を見ている。佐々木はようやく異変に気がついたのだ。


「……あんた、誰? 薫ちゃんの、何?」


 双子は、にんまり笑う。「さて、誰でしょう?」


「あのう、どうされました?」警備員が佐々木の肩を叩く。


「ああ? 取り込んでんだよ、後にしろ!」


 佐々木は警備員にも不機嫌を振りまく。

 他方、双子は一瞬の内に完全に被害者めいた顔をして縮こまった。(髪の色はともかく)彼らの血筋の顔が幸いして、それは構図的にふさわしかった。目つきが悪くて反省の色の無い不良めいた高校生と、美しい顔をした二人組。

 警備員は、佐々木と二人の間を引き離しにかかった。

 そのどさくさに紛れ、双子はその場を抜け出す。


「あ! 待てよてめえら! 誰だ!」


 負け犬の遠吠えのように、警備員に抑えられながら彼は叫んだ。

 

 くしゃくしゃになった競馬雑誌だけが、床にぽつんと残っている。




「ぶあっはっは! 聞いたかよ、衆!」

「ぶあっははは! 聞いたよ、参!」

「こりゃあ完全に、」「間違いねえな!」

「「ホモだ!!」」


 二人は図書館の前の芝生で、文字通り笑い転げた。服や髪に芝が付くのも気にせずに。まるで子猫のようだ。

 ひとしきり笑った後、二人は向き合って口々に言った。


「しばらく会わねーうちに、チビ助、ホモになってたんだな!」

「あの男、薫の彼氏か?」

「まあ、そこそこにいい体してたな」

「うん、運動はしてるな」


 葵は、親指を顎に当てて含み笑いをする。


「……俺、あいつ好きだな」

「俺も。チビ助よりは面白そう」

「あ! 彼氏ならチビ助の家知ってるんじゃねえの?」


 葵は手を打って、目を輝かせた。


「賢いな、衆! 用務員室から出てきたところを捕まえようぜ!」

「だな! 案内してもらおうぜ!」


 ふてぶてしい。

 彼らにとても似合う言葉だ。

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