41 双子 その2
すぐさまコートや制服を片付け、楽な服装に着替える。次いで、飛び込むように居間に戻る。
「おい、お前ら」
「「何?」」
襖を開けた先には、最近買い換えたばかりのテレビに張り付く二人がいた。大型の犬がはしゃいでいるようにも見えてしまう。それだけ、二人は落ち着きがない。
「……何してんだよ」
「いや? 映像飛び出さないのかなぁ、と思って。あのヘンテコな眼鏡ないの?」「違うぜ、参! 最近の3Dは飛び出すんじゃなくて奥行き系らしいぜ?」「マジかよ!」
嬉々としてテレビを指差す。冗談なのか本気なのかさっぱりだ。
「どう見たってただのテレビだろ。アホか」
双子と喋るときは、何時にも増して乱雑な口調になってしまう。
柏と葵は、今は関東のどこかで二人暮らしをしている。格安物件を見つけて、ふうふう言いながら二人で何とか保っている。薫が彼らの元へ行った事は無い。だから、二人の実際の居場所を知らない。
テレビを所持していないどころか、「川のほとりのダンボールに住んでいる」と言われても頷けた。 それでも二人はいつだって楽しそうで幸せそうだ。
「しらねえの、薫? 最近は映画も3Dなんだぜ?」と葵。
「え? お前ら映画とか見るの?」
彼らがじっと座って見ていられるようには思えないし、何より彼らは物語という物語を否定した。
「俺ら映画館に行くような金ねえし」「なあ?」「その金で良作何本見れるか、ってとこだよな」「なあ?」
良作だろうとなんだろうと、彼らは「ストーリー」という視点でそれを見ていないだろう。
「バカ言えよ。映画は映画館で見るから映画なんだろ」
「それはエンターテイメントだからだろ」「俺たちは、時の洗礼を受けたものしか見ない」「貴重な金と時間の無駄だからな」「って言うか、エンタメという文化を享受できるほどの生活水準にいない」
と、非常に真面目ぶった、らしくない言い方をする柏。
「でも、」
薫が反論しかけたとき、柏は頬の内側を噛みながら静止をかけた。
「お前まで、その顔で真面目なこと喋ったら殺す。お前はやることなすこと、俺たちを笑い死にさせるからな。殺される前に殺すぞ」
(顔は関係ねーだろ……)
他方、サヤカは大の物語好きだった。薫も、腐るほど映画鑑賞に付き合わされた。
この二人とサヤカを論争させたら一体何が起こるか。少しだけ気になった。でも、笑ってしまってそれどころではないだろう。彼女も彼女で笑い上戸だ。今から目に見える気がした。
ところで、双子はなぜ、今ここに現われたのか。
薫は、考えるのも面倒だったが、納得できない。本当に藤子は薫が心配だったのか?
玄関にあった掛幅は、恐らく双子の父親が入手してきたものだ。手土産によく骨董を買ってくるのだ。ということは、この二人と彼らの両親は一緒にここへ来たということになる。
(……ってことは、ガレージに叔父さんの車があるよな?)
一応、彼らは親子の縁としては続いているのだ。金の支援は全く受けていないにしても。
「……そんなことは後でもいいんだよ、……とにかく、お前ら今日何してた?」
二人は、ピタリと動きを止めた。
「ん、んん? 何してたっけなあ、参?」「あっれー、何してたっけなあ、衆?」
白々しく首を傾げあう二人。
もちろん、双子だって別々の思考だし、別々の人間だ。しかし、大人になった彼らは「双子は同じ動き・考えをすると『面白い』」という美意識を発見し、わざと互いで同調しあうのだ。
薫の疑念は確信へと変わる。
「その鬱陶しい呼び名は止めろ」
「おお怖!」「生意気!」
「……お前ら、今日市立図書館にいただろ?」
二人は拍子抜けした顔を見合わせた。
意気消沈したように、薫の足元をのそのそと這って通り過ぎた。再び炬燵に体を沈みこませる。
まだつっ立っている薫に向かって、不貞腐れた顔を差し向ける。
「……何で知ってんだよ、今晩からたーっぷりからかってやろうと思ったのに」「なあ、面白い人間に会ったんだよなあ?」
「……どーせ、目つき悪くて五月蝿い阿呆みたいな奴だろ」
「「そいつそいつ! 佐々木俊!」」二人は手を打ってきゃっきゃと笑った。「そいつ、警備員に捕まってやんの!」
(……やっぱり)
薫はため息をつく。
「俺の別の友達が見てたんだよ、それ。どんだけデカイ騒ぎを起こしたんだよ」
「チビ助、友達いたの」と葵。「ああ『お友達』がな」と柏。そしてげらげら笑う。
少し遅れて、自分も炬燵の中に脚を伸ばす。内部は既に、双子たちの独壇場だった。アウェイだからといって態度を控える気持ちは無いらしい。親がいないこともそれを手伝う。
「……話せよ、一部始終を。それが言いたくてニヤニヤしてたんだろ」
二人は楽しそうに食いついた。