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カオルノキミ 2  作者: 黒炭
第一部
33/92

33 『後夜祭』 その3

藤堂は、慎重で疑り深い上目遣いで皆川を見上げた。

 と、同時に佐々木に対して呆れる。自分も人のことは言えないが、男を好きだと言うことを隠そうともしないのはむしろ薫に対する迷惑になる。

 友人らを見ていても、同性愛に理解のある人間はなかなかいない。その分野の話題になると、冗談で揶揄する連中ばかりだった。そのたびに、彼は自分の姿は隠しておこうと思うのだった。

 佐々木の様子が変わったのは最近だ。前までは、ただ仲の良い二人にしか見えなかった。今の佐々木は完全なる捕食者だった。


(俺は……前から見ていたから解るんだ)


「……はあ、『邪魔してこい』とでも言われたんですか?」


 皆川は、フーン? とクエスチョンマークの付いている息を漏らす。唇を窄めて困った顔をした。


「俺も良く解んないよ、あの暴れん坊将軍のご意思は。『藤堂の様子がおかしい』、あいつが言ったのはそれだけ。それだけじゃ、牽制なのか心配なのかわかりゃしない。……でも、どっちにしろ様子を聞いてきて欲しかったんだろ」


 藤堂は目を丸くすると、ぶっと噴出した。


「そんなことを言ったんですか、佐々木先輩」

「何が可笑しいんだ?」


 急に噴出した藤堂に、彼は少しだけ戸惑っている。


「多分、佐々木先輩は俺のこと心配してるんです。……結局、先輩面しちゃうんですね。おまけに、『サッカーしたい』って言ったのにしないから、やきもきしてるんです。蹴球馬鹿だから」


 ここは、「薫ちゃんから離れろ」とでも言われそうな場面だった。

 しかし、藤堂は佐々木の心情が変化したことに気づく。


(ホント……笑っちゃう。俺が勝負に負けたからって上に立ってる気分なんだろうな。『あの勝負はチャラにしてやっても良いぜ』とでも言いたいんだろう)


 一方、皆川が食いついてきたのは別の箇所だった。

 

「蹴球馬鹿か。あるよな、そういうの。俺も、バスケの大会で『籠球馬鹿』ってプリントされたTシャツをチームで着てる連中見たことある。格好良いけど恥ずかしいよなぁ、日本土産みたいで」


 くしゃりと人懐こい笑みを見せる。

 話が完全に横道へそれた。

 そして藤堂にとってはなるべく聞きたくない話題でもある。運動人間は、好きなスポーツのこととなると、話が止まりにくくなるきらいがあることを藤堂は嫌と言うほど知っていた。

 球技大会のせいか、今日はこの話題がことごとく自分の周りに溢れる。

 しかし、薫にまつわる不毛な恋の話題よりかは数段ましだった。ひょっとしたら、意図的な話題転化なのかもしれない。皆川も、自分と同じく察知能力が高いのも、藤堂は承知している。

 彼の作った流れに身を任せてみることとする。


「……そうなんですか。一高のバスケ部は確か、地区予選で二回戦までいきましたよね?」

「つまるところ、一回しか勝ってない。……しかし、『スラムダンク』の赤木みたいなのが後輩にいなくて良かったよ。『恥ずかしくないんですか』なんて言われたら、俺、泣ける」

「……解ります。……精一杯練習したんですから」


 一生懸命練習できる資質が揃っているのに、しないのは罪だ。藤堂はそう思っている。

 皆川は、ここでようやくベンチに座った。俯いている藤堂の頭に、皆川は優しく手を載せた。


「昌平。球技大会も終わると暇になるよね?」


 にこにこと楽しそうに言う。


「でも、もうすぐ受験勉強始めますから、」


 すると皆川は肩を引いて大げさに驚く。 


「え、早すぎないか? 俺は今からスタートダッシュなんだけど」

「それは遅すぎですよ!」 藤堂は笑う。「先輩の頭があったら大丈夫でしょうけど」

「だって俺、医学部志望じゃないもーん」

「奇遇ですね。俺もです。理系では肩身狭いですよね……」

「『猫も杓子も国立医大』だからな。で。昌平は、どこ受けるんだ? ……って話を高二とするなんて微妙な心境だな」

「地元の国立にします」

 

 藤堂の答えを身を乗り出して待ち構えていた皆川は、ぐっと拳を握った。そしてその何かを確信し喜んだ気配そのままにして、藤堂の肩に手を置いた。


「ならさ。昌平、バスケ部入れよ」


 突然の勧誘だった。


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