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カオルノキミ 2  作者: 黒炭
第一部
20/92

20 短い昼休憩

 球技大会では決まった昼食の時間は設けられていない。各自が好きなときに摂る仕組みだ。一足先に休憩を配分された薫は、サッカーを観賞しながらもさもさとメロンパンを頬張る。丁度試合は今、佐々木らの3Bと2Aの対戦だった。はっきりって反則だらけの試合だったが、現役サッカー部の審判が3BのOBに縮み上がってしまって殆ど機能していない。一方的な展開だ。ひょっとすると3Bは優勝までいくかもしれない。

 もさもさした口内に珈琲牛乳を流し込もうと昔懐かしの瓶に手を伸ばしたが、空を掴む。確か、ココに置いたはずだ、と思って目線をやると、顔の直ぐ横には真っ白の膝が突き出ていた。毛が……生えていないから女の子だ。

「――大崎。女子、バレー残念だったね」

 珈琲牛乳を奪って飲んでいたのは、3A小さめ女子・大崎涼だった。今日はその長い髪をポニーテールに纏めている。彼女が瓶を地面に置く為に屈むと、立ち上げられたジャージの襟元から真っ白の楚々としたうなじがのぞく。オーバーサイズ気味のジャージは華奢な彼女には似合っていた。

「知ってたの」

 体育館にいなかったくせに試合の顛末を知っているのか、という意味だろう。不在を咎める調子ではない。

「ハイライトが流れただろ」

「ああ、あの馬鹿げた放送のことかぁ。名プレーをした選手の名前まで一々出して、恥ずかしい」

 それには苦笑するしかない。

「おい。執行部の仕事にケチつけんなよ。実行委員長の起こした原稿だ」

「ああ。カワイイ、カワイイ藤堂昌平。……有名だよね」

 何故か吐き捨てるように言う。

「何、藤堂が気に食わないの? ……大崎って厳しいよな」

「別に『品定め』とか身の程知らずな真似してるんじゃないよ。モテる男が快くないだけ」

「……へぇ。珍しいね」

「そう他人事みたいに言ってるけどさ、真野はその筆頭だから」

 彼女が言うほど、自分は嫌われている気がしなかった。彼女は笑っているから冗談なのだろう。

「じゃあ俺に構ってないでどっか行けよ。バスケは? 応援しなくていいの?」

 彼女は首を振る。

「早々に負けてF組の応援してるよ。『皆川くーん』ってね」

 はは、と二人して乾いた笑い声を上げた。

 薫が珈琲牛乳に伸ばした手を大崎は払って、彼女が飲んでしまった。

「……なぁ、中村さんはどう?」

 興味は無いが、ついでなので彼女のために聞いてみた。

「バレーに出てた! あの子、運動オンチだけど一生懸命一緒に練習したからサーブカットできたんだよ!」

 案の定、急に目を輝かせて話し始める。薫は半分以上聞き流しながら、適当な箇所で相槌を打っておいた。




 彼女とそうして話しているうちに、一際大きくホイッスルが鳴り響きサッカーの試合終了が告げられる。

 野太い雄たけびと黄色い歓声が上がって3Bの勝利を讃えている。選手らはピョンピョンとグラウンドを飛び回り、互いに抱き付き合っている。……まだ優勝でもないだろうに。

 しかし、決勝進出は決まったようだ。

「薫ちゃーん!」佐々木が、全力疾走でこちらに向かってきた。近づきながら、備品のゼッケンを脱ぎ捨て、終いには身につけていたサッカー部時代の練習着のシャツまで脱ぎ捨てて半裸になって駆け寄ってきた。

 大崎は、興奮して変態じみた佐々木をケラケラ笑っている。

 ……嫌な予感が頭を掠めた時には既に遅く。薫は逃げ損ねた。彼は勢いを弱めることなく、慣性の働くまま薫に飛び掛って組み敷いた。

 土ぼこりがあがって口の中に砂が舞い込む。背中にはそれなりに強い衝撃を受けたので佐々木を張り倒したくなるが、両手は彼によって地面に押し付けてしまった。いつもの劣勢パターンだ。

 文句を挟む暇も与えず佐々木は薫の口に舌を差し込む。もちろんそれは大崎にしか見えなかったが。

蜜の絡むような濃密な音が二人の間で交わされる。

「う、うわっ! 何してんのあんたら!」

 佐々木は、大崎に見せ付けるように唾液を引き伸ばしながら薫から口を離した。

「あ、いたの、涼ちゃん」

  彼女を見上げた佐々木の目は、熱に浮かされているように潤んでいる。数秒まで走り回っていた彼の体は熱気を帯び、頬は赤く火照っている。触れている薫の体は、生々しく佐々木のその体を感じ取る。

「佐々木。……冗談にしたってやりすぎでしょ……」

「冗談じゃないもん」

 そう言って薫の唇をペロン、と舌でひと舐めする。薫が目を細めてそれを甘んじて受けているのを、大崎は半ば気が遠くなりながら認めた。

「どけよ、バカ犬。背中いてーんだけど」

「……なんで真野も冷静なの」

「たかがキスで」

 大崎は、信じられないといった風に頭を左右に振った。



 勿論、正面の本部席にいる藤堂は、キスまでは見えなくても半裸の佐々木が薫に抱きついたのは認めていた。イライラしながら無線の発信ボタンを押す。

「こちら本部の藤堂です。お休みのところ失礼します、真野先輩、取れますか?」

 薫は佐々木を押しのけてボタンを押す。

「あ、ハイハイ。真野です。大丈夫」

「そこに佐々木先輩がいらっしゃると思いますが、落ち着き次第卓球の方に回るよう伝えてくださいますか?」

「卓球? 解った。あ、俺は今からどこいけばいい?」

「本部に……いてくださいますか」

「了解」薫は砂を払って立ち上がった。「俊。藤堂が卓球の手伝いしろって」

 あからさまに厭な顔をする。

「はぁ? 俺、今からサッカーとリレーの練習が……、独裁者藤堂の暴政だ! 俺を貶める陰謀だ!」

「ったく、馬鹿言ってねーで……お前今日何もしてないくせに。試合の合間だけだし、ちょっと行ってこいよ」

 ぶつくさを続ける佐々木を大崎に預けると、薫は少し早めに昼休みを切り上げることとした。

 次の試合が始まる前に、グラウンドを横切り本部テントに向かったのだ。

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