6.そしてまたもや結婚式
「ヒリアーエ殿か、そちらは奥方じゃな? 何とも美しいではないか。そなたには勿体無いほどの良き女子じゃのう。妾はアーミュティースと申す、よろしく見知りおかれよ」
…………は?
アケイシャの思考がちょっと止まった。
異国から来た姫君は目を見張るほど美しいが、言葉はロサ属とは異なるのだろうか___しばし考えてからやっと何を言われたか理解し、立ち上がってドレスを摘み上げ、腰を屈めた。
「アケイシャと申します、ペルシカの姫様。遠いお国からようこそおいでになりました。こちらでの日々を楽しんでいただければ嬉しく思いますわ」
「うむ、そうなれば良いがと妾も思うておるよ。こちらは涼しいので過ごしやすそうだな」
アーミュティースと名乗った女性は何の屈託もなく微笑んだ。アケイシャは混乱している。側室として来たはずではないの? わたくしに対して何の含みも無いような口をきくのね。
「アーミュティースよ、後で部屋を訪ねるからな。あまりはしゃぎ過ぎぬようにせよ」
ヒリアーエの言葉が再びアケイシャの耳を打つ。部屋を、訪ねる? 妻たるわたくしをお披露目したその夜に?
アケイシャはものを考える間も自制する暇もなく、自分の鋭いトゲをヒリアーエの喉に突き刺した。
悲鳴、ガタガタと何かが動く音、叫び声。
次期長老を害した罪人としてアケイシャはその場に切り捨てられた。
*****
そしてまた真っ白な光の中。
アケイシャがそっと目を開けると、それは結婚式の真っ最中。
夫ヒリアーエがアケイシャの手を取り、聖堂の前方、主神の像の前へエスコートしていく。
司祭の祈りと誓いの言葉を機械的に繰り返しながら、ああ、やはり結婚式に戻るのか___と考えていた。
何度巻き戻ってもやり直しのスタート地点は変わらないのだ。この男とは関わりたくないとどんなに思っても聞き届けられない。飾り物のように扱われ、一族のために結婚するのだと、愛情など一欠片もないのだと見せつけられる日々。
だが、毎回全く同じというわけでもないことにアケイシャは気がついた。
神殿を出て邸に連れて行かれると、邸の様子も前回とは違ってずいぶんと大きく、高い城壁に囲まれた上に尖塔までついている。この城を造った頃には戦でもあったのかしらと思っていると「兄上! 義姉上!」と呼びかけながら近づいてくる男がいる。
兄上ということは、今回はヒリアーエに弟がいるのか。
「シノウィルソニー、そなたは全く! 宴に間に合わぬかと思ったぞ」
ヒリアーエが見たこともないような笑顔で出迎え、相手の肩や背をぽんぽんと叩いている。この男ったら、いつも彫像みたいに冷たいくせに、こんな顔もするのね。
弟らしき人物はヒリアーエよりだいぶ小柄で細い体をしている。ありふれた麦色の髪に丸い茶色の目、顔立ちも人目をひくとか怜悧という感じではなく、感じのよい親しみの持てる顔だった。
「すみません、隣国との話がまとまるのに思ったより時間がかかってしまって。ロサ属を敵に回せば立ち行かなくなるのは自分達だろうに、やはり私では足元を見られてしまうようで」
シノウィルソニーと呼ばれた男は恥じ入るように目を伏せたが「いえ、めでたい日にこんな話は無粋でしたね。義姉上、ご挨拶が遅れて申し訳ない。私はロサ・シノウィルソニーと申しまして、ヒリアーエの弟です。これからは義姉上ともきょうだいとなりますので、何でもお申し付けください」と如才なく話しかけてきた。
「あ、ありがとう。わたくしはミモサ国から参りましたアケイシャ・ディアラベータでございます。慣れぬ土地ゆえ、不調法がありましてもお目溢しくださいませね」
何とか挨拶を返した。シノウィルソニーがキラキラした目で舐め回すように見つめてくるのが、何となく居心地が悪かった。