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1.始まりはいつも結婚式

 輝く銀の刃に胸を貫かれた___次の瞬間、目の前が真っ白になった。


 わたくしはまた、ここからやり直すのか。


 歪んだ笑みを浮かべながら静かに目を開けると、思った通り自分、アケイシャは花嫁衣裳をまとって。

 隣では夫となるべき男が冷たい目で見下ろしている。


「そなたら二人、新たなるロサ属の父となり母となることを誓うか」


 長老と紹介された高齢の男性が厳かに言う。


「誓う」「誓います」


 そんな気など互いにさらさらないものを。



*****



 簡素な婚姻の式典が終わると、アケイシャはなかなか贅沢な造りの邸に案内された。白い石造りの外壁、窓には透明度の高い水晶が嵌め込まれている。床も白く堅い石であるらしく、踵の高い靴がコツコツと音を立てる。

 重厚な黒っぽい木の扉の向こう、夫婦の部屋に入るとふかふかした緑の絨毯が敷き詰めてあった。


「新たなるロサ属か、はっ」


 夫となった男は吐き捨てるように呟いた。


「そなたも災難だな、アケイシャ」

「そうね、せいぜい好きに生活させてもらいますわ」


 ロサ属の次の長老と定められたこの男の名はヒリアーエ。銀色の艶やかな髪を長く伸ばし、血の気のない顔に完璧に配された鋭い眼は夜闇の黒。飾って眺める分には素晴らしく美しい姿をしているが、およそ他者の気持ちを考えるということなど知らないような傲岸な態度だ。

 広い領土を持ちながら国を構えず、一部族として繁栄を続けているロサ属から隣国のミモサ王家に婚姻の打診があったとき、アケイシャはこの男も次代を生みだすために妻を娶らされる、一族の被害者なのだろうと考えていた。側室腹で王家の中では身分の低い自分が、思いがけずその相手として選ばれてしまった時も、お互い貧乏くじを引かされたものだと同情すらしていたのだが。


「ミモサ王家の言によれば『滝のように流れる黄金の髪に煌めく金茶の瞳、甘い果実の如き唇と豊満な肢体が実に美しい金の姫君』、だったか。まるで芸妓の売り文句だな。まあ、見目だけはたしかに美しい。娶ってしまったからにはせいぜいそなたで楽しむとしよう。

 全く、長老どもときたら頭が硬いことよ。我の血を引く子ならば他に幾らもいるというのに、血統が良く見目の美しい新品種を作らねばと言って他国の姫を無理矢理(めあわ)せることにしやがった」


 アケイシャはぐるっと振り向いた。


「子さえ成せば、わたくしの役目は終わりだとおっしゃるの?」

「そういうことだな。そなたに我の楔を打ち込み、新しい品種のロサが生まれれば良いがな。こればかりは励んでみなくてはわからぬだろうよ」


 アケイシャは震える拳を握りしめた。わたくしは、ただの、土台。ロサ属を、新たな品種を生みだすためだけに、隣国の王家からわざわざ連れてこられたというのか。この男は、新妻と共に一族を繁栄させようとかこの地方を豊かにしようとか、そんなことは考えてもいなかったのだ。確かにあのままミモサ王家に留まっても、いずれ他国の有力者を従わせる道具として嫁ぐだけの身ではある。それでも、嫁ぎ先と穏やかな関係を築き、いずれは夫となるひとを愛して互いに幸せになるのが夢だったというのに。

 怒りの籠ったアケイシャの眼など気づきもしないヒリアーエは、長い指でアケイシャの美しい顔を仰向かせた。


「なるほど甘い果実のようだな」


 ぞんざいに口付けると、アケイシャの細腰を掴んでベッドに放り込んだ。彼女はこの不実な男にせめて自分の鋭いトゲを刺してやろうと思ったが、それまで他者の悪意を受けることはあっても暴力でやり返したことなどない。あっけなくヒリアーエの力強い手に絡みつかれ、意のままにされてしまった。

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