第10話 勇者、欲望まみれの町に潜入する
転移魔法で送ってもらったのはハラクローイ北端にある町ヨ・クボウノ。
かつての名前はヘイワナ町。
1年前まではウサギ獣人が暮らしていた。
今はハラクローイに占領されて、ハラクローイの領土となっている。
争いごとを好まないウサギ獣人は、なすすべもなく故郷を追われた。
「幸運を祈るぞ、ルーザー」
「任しといてくださいよリューガさん。中の状況バッチリ探って来くるから」
俺はやる気満々でヨ・クボウノ町に踏み込んだ。
城下町より人が少ないけど、町人や巡回の兵、商人の馬車が行き来している。
もう完全に人間の支配下ダヨネ……。
あ、でもウサギ獣人もちょっといる?
【カスラ王別邸】と札が立っている建設現場に、ウサギ獣人が5名。
みんなおそろいの真っ黒な首輪を付けている。
『あー、あれ従属魔法っすね。術者に逆らうと首が吹っ飛ぶ魔法っす』
「なにそれこわい」
ハラクローイはこの地を乗っ取っただけじゃなく、獣人を何人か奴隷にしてるってことでOK?
『そそそそ。ルーくんバカだけどそういう理解は早いっすね』
「褒めてんの? 貶してんの?」
太い材木を運んでいたウサギ獣人の女の子が転んで、材木が地面に落ちた。
足も手もボロボロで、すごく痩せている。
「大丈夫か?」
俺は駆け寄って手を出す。
「たす、けて」
今にも死んでしまいそうなかすれた声で、女の子が言う。
監視役の魔導兵が鞭を振った。
「そこの男、余計なことをするな! そいつの仕事は命をかけて陛下の別邸を建設をすることだ」
かっちーん。
なんでカス王、こんな子どもを奴隷にしてるわけ。
俺は自分が一番かわいいクズだけど、カス王もゴミクズじゃねーか。
「この子に従属魔法かけたの誰? あんた?」
「それがどうした」
頭硬そうなオッサンがのたまう。
だから俺は、誠意を示すことにした。
「この子たち俺がもらうわ」
「は?」
ハラクローイの紙幣は1000ENまでしかない。
1EN、10EN、100EN、1000EN。
そこから先は硬貨。
銅貨1万EN、銀貨10万EN、金貨100万EN。
100万を札で持っていたのは、札のほうが細かい買い物に便利だから。
金貨で支払っても、小さな商店は釣りを出せない。
惚けるオッサンに、俺は皮袋の中身をぶちまける。
「これだけあれば足りるよな?」
足元に飛び散る金貨、およそ1000枚。
「これあげるから、この人たちを俺にちょうだい。かわりに人間を雇いなよ」
ニッコリ笑ってお願いしたら、オッサンはすぐさま全員の従属魔法をといてくれた。
オッサンは「ふははは、これを陛下に献上すればわたしの地位は上がるに違いない。こんな辺鄙な街で終わる男じゃないんだ!」なんて言いながら散らばった金貨ーーもといミミックをかき集めている。
ウサギ獣人たちを連れ歩くわけにいかないから、俺はいったんヨ・クボウノ町をあとにした。
ルーザー「あとよろしく、ミミックのみなさーん」
ミミック「はーい!」(人間には聴こえない)