本当の貴方は
「恐らく寝不足と、新しい環境に対する疲れも出たんでしょうね。貴方が倒れる時に庇ってくれたんだって?お陰で何処も打ってないようだし……今は寝てるだけだから問題ないと思うわ」
「それなら良かったです……あの、もう少し側に付いててもいいですか?」
誰かが話してる声が聞こえる……
「いいけど、貴方も少し顔色が悪いわよ?無理せず休んでなさい。先生は少し席を外すけど、もし彼女が目を覚ましたら私が戻るまで待ってるように伝えてくれる?」
「分かりました。ありがとうございます」
教師と思われる声の主は去っていき、もう一人の足音がこちらに近づいてくる。
カーテンを開ける音がした後、何者かが頭もとで佇む気配を感じた。
うっすら目を開けると白い天井が映り、自分がベッドの上に寝かされているのだと気づく。
「安堂さん、気がついたの?」
視線を横にずらすと、八城くんが心配そうな顔でこちらを覗いている。確かに少し顔色が悪そうだ。
「ここは……?」
「保健室だよ。覚えてない?ボールが飛んできた後、急に倒れたんだよ。体は何処もぶつけてないと思うけど、痛むところはない?」
八城くんの言葉に、少し腕や足を動かしてみるが痛む様子はない。
私が頷いてみせると八城くんは安堵の溜め息をつき、その場にしゃがみこんだ。
「君が僕の目の前で倒れたのはこれで2度目だ……」
八城くんがポツリとこぼす。
その言葉に私は首を傾げる。
「2度目ってどういう事?前にも倒れた事があった?」
「……9年前の夏祭りの日だよ。君は1人、雨に打たれたまま外で眠っちゃったでしょ。いくら呼び掛けても返事はないし、体は冷えきっててまるで生気を感じなかったんだ」
その時の状況を思い出したのか、八城くんは苦しそうな顔になる。
「だって、あれはっ……」
「うん……僕が来なかったからだ」
私はムッとし反論すると、八城くんは申し訳なさそうに笑う。
ふと私は先程の八城くんの発言に疑問を抱いた。
「八城くんもしかして、あの時待ち合わせ場所に来てくれたの?もしかして私を家まで運んでくれたのは貴方……?」
「……」
八城くんは何も答えなかった。
「私、トンくんの事は何でも知ってる気になってた……でも実際に交流があった期間なんてほんの僅かだったんだから、そんなわけないよね」
実際トンくんは私の話を聞いてくれるばっかりで、自分の事は多く語らなかった……
私はゆっくりと上体を起こし、八城くんに向き直る。
「まだ起きない方がいいよ」
八城くんは再度私をベッドに寝かせようとするが、私はそれを拒否した。
「ちゃんと話したいの。私に隠してる事があるなら教えて。何で何も言わずにアメリカに行ったのかとか、私と離れた9年間どう過ごしてたのかとか……知りたいの。私の事も話すからっ」
私は八城くんの目を見て訴える。
八城くんは暫く考えあぐねているようだったが、漸く口を開いた。
「ごめん……実は今朝、富岡さんと井上さんに話してた内容少し聞こえちゃったんだ」
えっ……ウソ!私、結構失礼なこと言ってたんじゃ……
私が目を白黒させていると、八城くんがクスリと笑う。
「僕は成美ちゃんが思ってるようにかっこ良くないし、良いやつでもない……こんな話したら、今度こそ本当に嫌われちゃうかも」
八城くんは自信なさげに項垂れた。
いつも私に勇気と希望を与えてくれたトンくん。確かに私の理想とする彼ならば考えられない光景だろう……
それでも知りたい。私が造り出した虚像なんかではない、本当の貴方を……
「……それでも聞いて欲しい。僕の全部を」
顔を上げた八城くんと視線が絡み合う――……
私はコクりと頷いた。




