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思ってたのと違う

 ウソウソウソ……!?

 純くんが、トンくんなの?本当に?

 待って、落ち着け私。ちゃんと純くんに確認しよう!


 私は舞い上がる気持ちを抑えて、純くんに声を掛けようとした。しかし……

 

「純くーん、今日の放課後なんだけどさー」


 流石は初日から人気者だった純くん。あっという間にクラスの女子達に囲まれてしまい、話し掛けることが叶わなくなってしまった。


 仕方ない……次の休み時間にしよう。



 キーンコーンカーンコーン――……


 2限目の終了を告げる鐘が鳴る。


「……では、これで学級委員長と各クラス委員が決定しましたね。1学期間よろしくお願いしますね。日直さん、後で板書を消しておいてく下さい。あぁ、アラムくんは配布物があるので職員室まで取りに来てくれますか?」


 大津先生が教壇を降り、私達に仕事を頼む。


「はい……」

「はい。成美ちゃん、行ってくるね」


 純くんは大津先生に付いて教室を出ていってしまう。


 もぅ、今度こそ純くんに聞きたかったのに!


 私は肩を落としながら黒板まで近づく。

 黒板には一糸乱れぬキレイな文字で、上から下までビッシリ板書がされている。


 くっ……一番上の文字に届かない……


 それ程身長が高くない私は、つま先立ちになりながら手を伸ばすも、一番上までなかなか届かない。


 すると後ろから他の手が伸びてきて、代わりに文字を消してくれる。


「1人じゃ大変でしょ?手伝うよ」


 振り返るとそこには、八城くんが立っていた。


「八城くん、いいの?助かるよ」


 私は有り難く申し出を受け入れた。

 八城くんと並んで黙々と黒板をキレイにしていく。ふと隣を見ると、八城くんの髪に白いチョークの粉が降りかかっていた。


「八城くん、ちょっとしゃがんで?」


「うん?」


 八城くんが前屈みになり、お互いの顔が近づく。「ちょっとごめんね」と断りを入れ、私は髪に付いた汚れを手で払った。


 よく見ると八城くんの髪って少し茶色がかってるんだ……あ、ちょっとフワフワで気持ちいいかも。


 細く繊細で、フワッと軽く癖が付いた毛先は小動物を撫でているかの様な気分にさせられる。今朝見たモフモフワンコを思い出しながら、私は無意識に八城くんの頭を撫で回していた。


「あ、あのー……安堂さん?」


 ハッとして八城くんを見ると、耳まで真っ赤に染まり、恥ずかしげに俯いていた。


「ご、ごめん!こんなことするつもりじゃなくて、つい出来心で……」


 私は急いで手を離した。


「何だか犯人の供述みたいだね」


「は、犯人って……悪い事はしてないでしょっ。いや……これってもしかしてセクハラ?セクハラって犯罪になるの!?」


 1人百面相をしていると、耐えきれないと言うように八城くんが吹き出す。


「プッ……あははっ。ごめん、からかうつもりはなかったんだけど……大丈夫。アメリカで多少のスキンシップには慣れてるから」


 八城くんは気にしてないと言うように、目尻を下げてくしゃりと笑う。


 ……?何だかその笑顔に既視感を覚えた。


「えっと、黒板消し助かったよ。ありがとう」


 「どういたしまして」


 私は自分の犯した失態にいたたまれず、お礼を言うと自分の席に逃げ帰った。


「成美っちお疲れ様。何かやけに八城くんと親しげだったじゃーん?」


 さっきの様子を見ていたのか百花ちゃんがニヤニヤと笑いながら尋ねてくる。


「見てたの!?あ、あれは頭にチョークの粉が付いてたから、取ってただけだよっ」


 嘘はついてない!

 必要以上に撫で回してしまったが、あれはあくまで汚れを取ろうとしただけだ!


 私は誰に言うでもなく、心の中で言い訳をした。


 その後も休み時間になる度に純くんと接触を試みたが、既に友達に囲まれ談笑していたり、それぞれ日直の仕事を頼まれたりと2人で話をする暇がなかった。


「成美、今日……気持ち悪い。挙動が変。何か悪い事をしたのなら謝りなさい」


 5限目の休み時間、芹菜が開口一番にそう言った。失礼である。


「確かに、今日1日ずっとキョロキョロしてるよねー。誰か探してるの?」


 百花ちゃんにも訝しげな視線を向けられる。


「じ、実は……まだ確かじゃないんだけど……」


 私は2人に、今朝あった出来事を話す。


「えっ!?純くんがトンくんかもしれない?スゴーい。こんな所で再会出来るなんて運命的じゃん」


「でしょ?私もビックリしてさ!…」


「でも、まだ確認したわけじゃないんでしょ……過度に期待しない方がいい」


 興奮する私達に芹菜が水を差してくる。


「わかってるよー……」


 それでも期待せざるを得ない。

 だって9年間待ち続けたんだよ?

 トンくんが成長した姿はどんなだろうと何度も妄想したこともあった……


 授業中、私はこっそり純くんを眺めては、にやける顔を抑えられずにいた。


 ……あれ?本当にキモいな私。


 放課後になるや否や私は純くんに話し掛ける。


「純くん、ちょっと話があるのっ」


「丁度良かった。俺も話があったんだ!おーい、林くーん」


 何故か純くんはクラスメイトの林くんを呼ぶ。

 現れた男の子はあまり背は高くなく、ツンツン頭に、程よく日焼けした肌、そばかすのある顔には人懐っこい笑みを浮かべている。


「林くんも成美ちゃんと仲良くなりたいみたいだよ?話があるみたいだから聞いてあげてよ。日誌は俺が出しとくから大丈夫ー」


「えっ……ちょっと、待って」


 私の制止も聞かず、純くんは颯爽と教室を出ていってしまう。


 そんな……

 純くん、マイペースにも程があるよ……


「あの、安堂さん!俺の事あんまり印象無いと思うけど……ほら、副委員長になった林通孝(はやしみちたか)です。出来れば仲良くなりなりたいなと思ってさ……良かったら連絡先交換しない?」


 林くんは少し遠慮がちに聞いてくる。


「えっと……」


 どうしよう。純くんの紹介だけど、林くんとは話したこと無いからどんな人か知らないし……いきなり連絡先交換するのもな……


 私が困っていると、背後から助け舟がやってくる。


「成美のアドレスは安売りしてない。欲しければ、相応の対価を払って」


「そうだよ、ミッチー。対価が必要かは別として……純くんに協力してもらって連絡先ゲットするなんて男が廃るよー」


 女子2人からの反発に林くんは後退る。


「うぅ……分かったよ。安堂さん、俺出直してくる!」


 そう言い残し、林くんは走り去っていった。


「芹菜、百花ちゃんありがとう。ごめんね私がちゃんと断れば良かったのに……」


「成美はそういうの苦手でしょ」


「困ったときはお互い様だよっ」


 2人の優しさが心に染みる。私は2人を抱きしめ再度お礼を伝えた。




――――――――――――――



 はぁ……結局トンくんのこと確認出来なかったな。


 あの後、ダメ元で純くんを追いかけてみたが、姿は何処にもなかった。

 仕方がないので、今日は諦め帰路に着く。


 家に帰ると私は自宅と店舗とを隔てる扉を少し開け、ママに帰宅したことを告げる。


「成美帰ったの?早くおいで!トンくんが来てくれてるわよっ」


 ママのその声を聞き、心臓が飛び跳ねる。


 ……なんで?あ、純くんウチのメンチカツまた食べたいって言ってたもんね?早速買いに来てくれたんだ!


 私は半開きの扉を開け放ち、ゆっくり視線を上げてその姿を確認する。その間心臓がうるさいくらいに拍動する。


 ママ越しに見える人物は、長身で、広い肩幅、緩くクセの付いた猫っ毛な髪。見覚えのあるウチの学校のブレザーを着用していた。


 やっぱり!トンくんは貴方だったんだね――……


 2、3歩駆け寄り、その人物の姿を捉えた瞬間、私は動きが止まった。



「え……八城……くん?」


 そこには、私が思い描いていたトンくんの姿はなかった……


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