表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/28

再会

 次の日。

 私の落ち込んだ気分とは裏腹に空には青空が広がっている。


 日課のジョギングをするべく外に出ると、店の横に停めてあるはずのトラックがない。

 どうやらパパが肉の仕入れに出ているようだ。


「謝りそびれちゃった……」


 結局昨日はどうやってパパに謝ろうか考え続け、授業の予習もあまり手につかなかった。


 心のモヤモヤを吹き飛ばすようにがむしゃらに走っていると、商店街を抜けて大通りに出た。

 この時間帯は車通りも少なく、地元の人達からはよく散歩やジョギングコースとして使われている道だ。今日も何人か走っていて、中には犬の散歩をしている人も居る。

 

 わっ!あの犬モフモフで可愛い。


 通りの向かい側を散歩している犬に釘付けになりながら、前を歩いていた人を追い抜く。するとその追い抜いた人影が私を呼び止めた。


「あれ?もしかして成美ちゃん?」


 後ろを振り向くと、長身の男の子が両手をこちらに振りながらにこやかな笑みを湛えている。


「アラムくん!?こんな所で会うなんてビックリだね」


 「そうだね」と白い歯を覗かせながらニッコリ笑う彼の姿は朝日を背負い、まるで後光が差している様だった。


 くっ……イケメン過ぎる。眩しくて見てられない(物理的に)。


「呼び方、純でいいよ。俺も勝手に名前で呼んでるし。そう言えば成美ちゃんはジョギングが日課って言ってたよね。ここはよく通るの?」


「うん。家がこの近くの商店街にあってね、ここはよく通るよ。じゅ、純くんの家もこの辺りなの?」


 きゃー!トンくん以外の男の子を初めて名前で呼んだ……いや、トンくんは本名じゃないのか。


「商店街……」


 純くんは少し考え込む仕草をして口を開いた。


「成美ちゃん……もしかして君って――」


「コラァアッ!!純、何処をほつき歩いとるんじゃ!」


 純くんの声を遮って、けたたましい声量が何処からともなく聞こえて来る。


「げっ!グランパ……じゃなくてお祖父ちゃん」


 純くんの視線の先には柔道着を着込み、顔を真っ赤にして怒るお爺さんが立っていた。

 そしてその手に握られていたのは、茶碗とお箸……

 何故?


 お祖父さんは純くんを見つけるなり、高下駄を鳴らしながら大股で近づいてくる。


「あの人、純くんのお祖父さんなの……?」


 純くんが何か言いかけていたが、正直お祖父さんの登場が衝撃的過ぎてそれどころじゃない。

 ……っていうか気迫が凄すぎる!


 お爺さんとは思えない程ガタイが良く、力強い足音、鋭い眼光……そのどれを取っても迫力がある。私は本能的に純くんの影にそっと隠れた。


「うん、ごめん成美ちゃん。俺行かないと……じゃあ、今日の日直よろしくね!」


「う、うん!頑張ろうね。また学校で」


 軽く挨拶をし、純くんは急いでお祖父さんの元へ駆け寄る。

 

「お嬢さん、お話し中にすみませんでしたな。純、朝食は家族全員揃って食べるんだと昔から言っておるだろう!」


 お祖父さんは私に頭を下げた後、そう言いながら純くんに茶碗とお箸を押し付けた。


 あれ純くんのだったんだ……


「俺お箸使うの苦手なんだよなぁ……」


「文句言うな。ワシの前で米をナイフとフォークで食べられては、たまったもんじゃないわ」


「俺だってライスにフォークなんて使わないよ。ライスはスプーンの方が食べやすい!」


 何故かドヤ顔で反論する純くんのおでこをお祖父さんがペシリと叩く。


「どっちでも変わらんわっ!箸を使え、箸を」


 私は呆然としながら2人の去っていく後ろ姿を見つめていた。


 朝から賑やかだったなぁ……




――――――――――――――


 学校に着くと、教室には私以外まだ誰も居なかった。

 少し昨日の続きでも勉強しようと教科書を開くと教室の前方扉が開く。


「あれ?絶対一番だと思ったのに」


 私はその声に顔を上げ、笑顔を見せる。


「純くん、おはよう。……あれ、八城くんも一緒?2人とも早いね」


 扉の外には純くんと八城くんが立っていた。


「おはよう成美ちゃん。さっきぶりだね」


「おはよう……安堂さん。純、さっきぶりって何?」


 八城くんは純くんに向かって訝しげに首を傾げる。


「朝の散歩中に偶然会ったんだよ。琢斗も誘えば良かったなぁ。ところでさ……」


 純くんは何やら八城くんに耳打ちする。

 それを受けて八城くんは、困惑したような顔でこちらを見た。


 何だろう……?

 というか、2人とも名前で呼び合う程仲良いんだな。帰国子女同士、通ずるものがあるのかな?


 そんなことを考えていると、急に純くんに声を掛けられた。


「成美ちゃんの家ってお肉屋さんだったよね?」


「へっ?う、うん。そうだよ?」


「やっぱり!俺あそこのメンチカツ大好き。また食べたくなってきたなー」


「純、職員室に用事があるから早く来たんでしょ?時間なくなるよ?」


 八城くんが純くんの言葉を遮って、腕を引く。


「忘れてた。成美ちゃん、ついでに日誌も取ってくるよ」


 手をヒラヒラ振りながら、純くんは八城くんに連れていかれた。


「あ、うん。ありがとう」


 私も釣られて手を振り返し、2人を見送る。


 あれ……私、純くんに家が精肉店だって話したっけ?


 その後再び勉強を開始するも、小さな疑問がずっと頭に引っ掛かる。


「おはよう、成美」 


「成美っち、セリセリおはよう!」


 しばらくすると、次々に生徒達が登校してくる。

 純くんにさっきのことを追及したかったが、純くん達が教室に戻って来たのは朝礼が始まる直前だったため叶わなかった。


 そのまま1時間目の授業を受け、休み時間になる。


「ねぇ、成美ちゃん。日誌の書き方ってこれで合ってるかな?」


 純くんが後ろを向いて日誌を見せてくる。


「うん、大丈夫そうだよ」


 私は答えながら、ふと日直の氏名を記載する欄を見つめる。


 “純・T・アラム”……

 あまり日本語は書き慣れていないのか少し歪な文字達。その中で目を引くTの一文字……


「ねぇ、純くん。このTって……」


「あぁ、ミドルネーム?面倒だから略して書いてるんだ。俺のフルネームは、純・トーン・アラムだよ」


 何てことないように言ってのける純くん。

 「あ、全部漢字でも書けるよ!」と言いながら日誌の端っこに、純・豚・亜羅夢っとヤンキー風な当て字を書いていく。


 え?えっと…………トーン?

 トーン……トン……豚……


 点と点が繋がった気がした。

 もし純くんがトンくんなら、私の実家が精肉店だってことも知っていて不思議ではない。

 純くん昔日本に住んでたことがあるって言ってたし!


 猫っ毛な所だって、笑った時の顔だってあんなに記憶の中のトンくんそっくりではないか……


 私の中で純くん=トンくんの方程式が出来上がりつつあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ