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おみくじは気休め程度に

「ありがとうございました!またお越しくださいっ」


 活気あふれる店内に、百花ちゃんの元気な声が響く。最初はぎこちなかった接客も大分板についてきたようだ。

 夏休みも2週間が経ち、今日はバイトの最終日。バイト先である海の家マリンは"山姥、海に現るー!"としてSNSで大バズり。連日沢山の人で賑わっていた。


 そしてチャラ男達の一件もあって、制服は水着から海の家マリンとプリントされたTシャツに変更され、あのような事件は起こらなくなった。



 水着と言えば、あの日から全然……


「琢トン全然お店に来ないねぇ…」


「へっ!?」


 突然背後から百花ちゃんの声が聞こえ、私は自分の頭の中を覗き見られたのかと慌てて振り返る。


「う、うん。何だか忙しいみたい」


 林くんはしょっちゅうお店に遊びに来てくれているが、トンくんは何度誘っても都合がつかないと言って来てくれない。


 私何かヤバかったかな?やっぱり水着姿が見るに耐えなくて幻滅された?


「純くんって琢トンと一緒に住んでるんだよね?連れて来れないの?」


「一緒に住んでても俺はバイトもあるし、琢斗は琢斗で忙しそうだしあんまり顔を合わせる機会が無いんだよ。ごめんね」




 ホラ、純くんがそう言ってるなら本当に忙しいんだよ。だから避けられてるわけじゃないんだよ!




 私は半ば自分に言い聞かせるように「全然大丈夫だよ」と返事をした。




「「お疲れさまー!」」


 バイト終わり、私は海の家マリンで働いた皆との打ち上げに参加していた。


「あー……この天使達としばらく会えなくなるの寂しいんですけどぉ」


 舞凛さんはそう言って私と百花ちゃんを抱きしめる。


「とにかく!アンタ達のお陰でお店はチョー成功したわ。ありがとねっ」


 舞凛さんから手渡されたバイト代は、当初話していた額より大分色がついており、百花ちゃんは泣いて喜んでいた。



 その後の夏休みも宿題や授業の予習と復習をしたり、芹菜の店にお邪魔したり、百花ちゃんと遊んだり充実した時間を過ごした。


 しかし依然トンくんからの連絡はない……

 遊びに誘っても断られるのが怖くて、私からも連絡出来ずにいた。


 もし体調がずっと悪いとかだったらどうしよう!

 実は入院してますとか!?


 頭の中は悪い考えばかりが浮んでしまう。

 そんな考えを払拭しようと、日課の早朝ランニングへと向かった。

 体を動かしていると、幾分か気が紛れる気がする。

 いくらか汗をかいて頭がスッキリしたため、そろそろ帰ろうかと商店街へ続く道を歩く。そして商店街の掲示板にふと目が止まった。


「……お祭り」


 商店街の近くの神社で開かれる小さなお祭り。9年前トンくんと行く約束したお祭りである。




 この祭りを最後にトンくんとは離れ離れになっちゃったんだよね……




 背筋を嫌な汗が流れる。




 もしまたトンくんと会えなくなったらどうしよう……

 あの時はおばさんが大変だったから、約束は果たされなかったけど……今年こそはっ!




 思い立ったが吉日!私はトンくんへとメッセージを送った。


「今度神社でやるお祭りに一緒にいかない?……っと送信!」


 するとメッセージには直ぐ既読マークが付き、「いいよ。楽しみにしてる」との返事が帰ってきた。


「や、やったー!」


 内心断られるのではとヒヤヒヤしていたため、思わずガッツポーズが出る。


「そうだ!浴衣とか着てみちゃおうかな……お祭りまで残り5日。それまでに浴衣を準備して、着付けも勉強しなきゃ!お祭り楽しみだなっ」


 私はお祭りの日までに準備するものを考えながら、足取り軽く帰路についた。



 

 そして祭り当日。

 小規模のお祭りといえど、老若男女沢山の人でお祭り会場は盛り上がっていた。

 待ち合わせ場所は昔よく2人で会っていた公園。


「早く着きすぎちゃったかな」


 浴衣が着崩れていないか、髪型は変じゃないか確認しながらソワソワとトンくんを待つ。


 すると入口の方からガヤガヤと話し声が聞こえてくる。

 そちらの方を見ると、なんと昔私を虐めていた3人組がやって来た。




 どうしよう……会いたくないよ。




 私は咄嗟に背を向け、俯きながら気づかれないことを祈った。

3人とは小・中学校で一緒になり、地元も一緒だから遭遇する可能性はあったけど……




 何で今なの!?

 っていうか何か近づいて来てない!?



 あろう事か3人はこちらにどんどん近づいて来る。


「あのー」



 は、話し掛けて来た!!ど、どうしようっ!



 私が固まって動けないで居ると、もう一人別の誰かが駆け足で近付いてきた。


「お待たせっ!ハァハァ……あの、連れに何か用ですか」


 振り返ると、私と3人組の間に見たことないスラリとした男の人が立っていた。絡まれてると思って急いで助けに来てくれたのか、肩で息をしながら3人組に対峙する。


「チッ、男連れかよ。行こうぜ」


 そう言うと3人組は興が冷めたとでも言うようにこの場から立ち去った。


 それを見届けて、先程の男の人が振り返る。咄嗟に私は頭を下げてお礼を伝えた。


「ありがとうございました。私、友達と待ち合わせしていたので助かりました」


「え?……う、うん」


 男の人は少し困惑した様な声を出した。

 しかもその人は、いつまで経ってもその場から離れようとしないので疑問に思って顔を上げる。

 すると目の前の男の人とバチリと目が合った。


 緩くウェーブの掛かったフワフワな髪の毛、私を見つめる優しそうな瞳。

 これらには見覚えがある。でもその記憶の中の人物と今目の前に居る人は印象がかなり違って見えた。


 だって彼はー……


「えっと、お待たせ成美ちゃん」


「は!?ト、トンくんなの?えっ……何で!?」


 私は衝撃のあまり、トンくんの体をベタベタ触りまくる。

 だって無いのだ……

 トンくんの肉が!!



 お腹は?腕!太腿!お尻のお肉までっ!!

 触るとただ痩せただけでなく、適度な筋肉がついていることが分かる。


「ちょっ、成美ちゃん!?そんな……待っ」


 トンくんのあられもない声を聞いて我に返る。


「ご、ごめん!完全に犯罪だよね!?自首してきます」


 自分の仕出かした事に顔を真っ赤にした私は、慌ててそのまま立ち去ろうとする。


「待って!フフッ……自首って、前にも同じ様な事あったよね」


 トンくんが私の手を握って引き止める。垂れた目尻が更に下がり、涙を堪えながら笑うその姿は幼い頃のトンくんそのものだった。



 キュウッ


 心が締め付けられる音がした。懐かしさから来るノスタルジーなのか何なのか……




 ポッチャリのトンくんも熊さんみたいで可愛かったよ?

 でもこれは反則じゃない?



「あれ?成美ちゃんどうしたの?」


 完全にフリーズした私に、トンくんが目の前で手をヒラヒラさせる。


「ハッ!ごめん、ノスタルジーが!」


「ノスタルジー?ああ、お祭りとか僕も小さい頃行ったきりで懐かしいよ」


 ニコニコと笑うトンくんが、私を見て真面目な顔に戻る。


「浴衣着て来てくれたんだ?可愛いね」


「カ、カワッ……ああ!浴衣が(・・・)ね!芹菜と百花ちゃんに一緒に選んでもらったんだ!可愛いよね。あ、そろそろお祭り行こっか!」


「え?いや……」


 突然の賛辞に勘違いしそうになる頭を殴り飛ばし、トンくんが何か言おうとしていたのにも気づかず私はお祭り会場に向けて早足で歩き出す。



「成美ちゃんはここのお祭り何回か来てるの?」


「うん、出店を覗いたりおみくじ引いたりね」



 でも友達いなくて、ボッチだったから滞在時間はものの10分ほどで直ぐ帰ってましたけどね……



 仄暗い過去は胸にしまって、トンくんと何処を周ろうか話し合う。


「あ、射的がある。でもこういうのって絶対取れないんだよね」


「僕に任せて」


「トンくん得意なの?」


「何を隠そう、僕は昔ちびっ子カウボーイ選手権で1位になったことがあるんだよ!」


 得意げに銃を構えて胸を張るトンくんに、私は笑いを堪えるのに必死だった。


「フフッ……ちびっ子……それは凄い腕前だね?」


「あ、信じてないでしょ。どれが欲しい?取ってあげる」



 じゃあ、取りやすそうなものを選んで……



「えっと……あの左のキャラメルと…か」


 「どうかな?」と言おうとしたが私がわざと取りやすそうな物を選んでいるとバレているのか、トンくんがジト目で見つめてくる。


「うっ、じゃあアレがいいかな」


 圧に負けて私が指さしたのは景品棚の一番上、ド真ん中にデーンと鎮座しているブタのぬいぐるみだった。


「分かった。アレだね!」


 大物を狙う方がゲーム性があるし、トンくんは嬉しそうだ。


「はい、玉は3発です」


 お店の人から玉を受け取り、慎重に狙いを定めるトンくん。


 本当は、会って色々聞きたいことがあった。

 どうしてバイト先に来てくれなかったのかとか、会ってない間何してたのかとか、どうして急に痩せたのかとか……

 でも今はこの楽しい時間を精一杯楽しみたい。



 ーーーカランカランカラン


 鐘の音が聞こえ、私の思考はストップする。


「おめでとうございます」


「わぁ!やったよ、成美ちゃんっ」


 目の前に差し出されたのは、ふてぶてしい表情をしたブタのぬいぐるみ。


「す、凄い!本当に取れちゃった!」


 ぬいぐるみを胸に抱き、興奮気味にトンくんを見る。

 トンくんも得意げな顔でピースサインを作りこちらを見ていた。


「ありがとう。大事にするね」



 また宝物が増えちゃった。

 何だか私ばっかりトンくんに貰ってる気がする。



 申し訳無さを感じた私はトンくんに提案する。


「私も何かお礼がしたい!何でも奢るから言って」


「うーん、そうだなぁ。奢りはいいから、一緒におみくじ引かない?」


 そうトンくんに誘われて、神社の本殿の方へ向かった。

 私達と同じ様におみくじを買いに来た人や、お焚き上げを見てる人、中には参拝してる人もいた。


「折角だし、お参りしていく?」


 私の提案にトンくんも「いいね」と賛成し、参拝客の列に並ぶ。


 順番が回ってくるまで特に何を話すわけでもなく、お互いこの場の雰囲気を楽しんでいた。



「足元気を付けて」


 私達の順番が回ってくると、そう言ってトンくんは私の手を引いてお賽銭箱の前まで連れて行ってくれる。


「あ、ありがとう」


 当たり前のように注がれるトンくんの優しさが恥ずかしいようなこそばゆいような……些細な行動1つでドキドキしてしまう自分が居る。


 目を閉じて合掌するトンくんの横顔を盗み見る。

 9年前叶わなかった風景が今ここにある……




 私はゆっくり目を閉じて、神様に願った。




 どうか……どうかずっとトンくんと一緒にいられますようにーー






ーーーーーーーーーー



「はぁっはぁっ……」


 息荒く、私は目の前へとゆっくり手を伸ばす。

 極度の緊張で額からは汗が流れ、顎を伝ってポタリと落ちた。


「トンくんもうダメッ……私やっぱり出来ない」


「成美ちゃん力抜いて?こういうのはリラックスしてるのが一番だよ」


 切羽詰まった私に耳元でトンくんが優しい声で話し掛けてくれる。


「だって……」



 だってっ!




「これで私の1年の運勢が決まるー……!」


「な、成美ちゃん?おみくじでそんなに身構えなくても……もっと気楽にね?」


 私達の目の前には大量のおみくじが入った箱がおいてある。

 そう、私は今おみくじを引こうとしているのだ!


 トンくんはああ言うが、ボッチ時代は相談する友達とか居なくて、このおみくじのお告げだけが私の人生の助言だった。

 起源とされる平安時代から今日まで、人々の悩みにアドバイスをして導いてきたおみくじ輩センなんだよ!?

 そんな輩センの言葉を胸に私はここまで頑張ってこれたのだ。



「引かせていただきます、輩センッ!」


「ぱいせん……?」


 トンくんや周りの人達も若干引いていた気はするが、そんな事は構わない。

 私は箱の中から1つおみくじを取った。


「じゃあ見てみようか」


 境内の脇に移動して、お互いおみくじの結果を見てみることにした。



 お願いします!どうか良い運勢をっ!




『凶』

『願い事……難しい。多くを望むことなかれ』

  ︙

『恋愛……自ら動かなければ叶わない』

『学問……常に励め』

  ︙

『病気……安心出来ない』

  ︙

『失物……諦めよ』



「ア゛ア゛ァッ!」


 あまりの運の悪さに膝から崩れ落ちる。


「成美ちゃん!?どうしたの!?」


「お、おみくじが……トンくんのはどうだった?」


「僕は大吉だったよ。成美ちゃんは……凶か」


 トンくんは私のおみくじを見て、何て声を掛けようか困った表情をする。


「えっと……凶が出た時点の運勢が一番最悪なんだって。だから後は運気が上がるだけだよ!」


「全然上がっていってる気がしない……」


 私の反応にうーんとトンくんは悩んだ後、ハッと閃いたようにこう告げた。


「おみくじ頂戴」


 「うん」と私はおみくじを渡すと、トンくんは2枚のおみくじを重ねて折り、近くにあった木に結びつける。


「こうして大吉と凶を一緒にしておけば、小吉くらいにはなるんじゃない?……ってならないか」


 トンくんが少し恥ずかしそうに鼻の頭を掻く。

 私の事を元気づけようとしてくれるトンくんの姿に感激し、涙ぐみながら顔を上げる。


「ううん、絶対なるよ!なんか運気上がってきた気がするし!」


 私が両手でガッツポーズをして見せると、トンくんは柔らかく笑った。


「僕が成美ちゃんの側にいて、凶運から守ってあげる」


「あ、ありがとう」


 恥ずかしげもなく甘いセリフを言うトンくんにタジタジになってしまう。



 その後もトンくんにエスコートされながらお祭りを堪能して、そろそろ帰ろうかと言う時だった。



 ヤバい……鼻緒の所痛くなってきた。


 履き慣れない下駄でずっと歩いていたせいか、足が痛くて歩くのが辛くなってきた。


「成美ちゃんどうかした?」


 浮かない顔の私に気づいたのかトンくんが顔を覗き込む。


「あ……足が痛くなっちゃって。でも大丈夫!家もすぐ近くだし」


 何でもない風に装って言ってみるが、トンくんには通用しなかったようだ。


「見せて。あぁ、擦りむけてるね。少し血も出てるし……」


 しゃがんで私の足の状態を確認するトンくん。


「ちょっと触るね」


「えっ?ひゃあっ……」


 突然の浮遊感に悲鳴を上げた。

 なんとトンくんにお姫様抱っこされているではないか。


「卜、トンくん!重いから降ろしてっ」


 どうにかして降ろしてもらおうとワタワタと暴れると、更にギュッと腕に力を込められる。


「危ないから動けないで。それに成美ちゃんは天使の羽根の様に軽いよ」



 て、天使の羽根……?




「トンくんってさ……ちょこちょこアメリカナイズされてるよね」


「え?そうかな?」


 私は照れて赤くなった顔を隠すように、トンくんの胸に頭を預ける。

 そして恥ずかしさを紛らわすため、とりとめのない会話を続けることにした。


「お、おばさんの体調はどうなの?」


「調子良いみたい。この前父さんとハイキングに行ったみたいだよ」


「そうなんだ!元気になって良かったね。ねぇ、アメリカでの生活ってどんなだったの?美味しい食べ物もあった?」


「えっと、向こうでも大体日本食を食べてたからなぁ。あ、アレは美味しかったよ。確か名前は……」




 トンくんの居なかった9年間を埋めるように私達は色んな話をした。



「しょうくん待ってよぉー」


 私達のすぐ横を幼い男の子と女の子が走り抜ける。

 何だか昔の私達みたいだなって、またノスタルジーに浸ってしまったのがいけなかった。


「トンくん、夏休みの間何して過ごしてた?どうして全然会ってくれなかったの?」




 しまった。こんな事聞くつもりなかったのに。

 別に会う約束をしてたわけじゃなかったし……こんなの彼女でもないのに束縛してくる痛い女じゃん。




 そう思うが、一度開いた口は止まってくれない。


「9年前、トンくん私には何も言わずにアメリカ行っちゃったでしょ?私寂しかった……嫌われたのかなとか、やっぱり私なんかと一緒に居たくないのかなとか。今回もさ、私また何かしちゃったかな?」


「そんなわけないよ!」


 私の言葉を聞いて、トンくんは直ぐに否定する。


「成美ちゃんのバイト先に行った時の事覚えてる?そこで成美ちゃんが男の人に絡まれてて、助けなきゃって思った。けど僕は相手の言葉に乗せられて、更に状況を悪くしただけ……」


「私は庇ってくれて嬉しかったよ?」


 気にしてないと伝えたかったのに、トンくんは苦い表情で首を横に振った。


「アメリカに行って、少しは変われたと思ったけど、まだまだ僕は考え無しの子どもだった。今度は成美ちゃんの隣にいても馬鹿にされないように、まず見た目を変えようと必死に努力したけど……僕はまた間違えたんだね。成美ちゃんを悲しませちゃった」


「私のために痩せたの?前のままでも気にしないよ?」


「君ならそう言ってくれるよね。でも、今なら成美ちゃんが痩せようと思った気持ちが僕は分かるよ。僕が成美ちゃんに少しでも痩せて格好良くなった姿を見せたかったんだ」


 


 私にカッコイイって思って欲しかったの?

 それってトンくんもしかして、私のこと……




「後連絡しなかったのは願掛けかな。一切の欲望を振り切って精進すれば、早く目標に到達出来るかなって……不安にさせてごめんね」


「ほ、本当だよ!もしかして入院してるんじゃないかとか色々考えたんだからね!もう隠し事は無しだよ?」


 頭に浮かんだ自惚れた考えを隅に追いやり、平常心を装って反論する。



「うん、そうだよね。ちゃんと言葉にして伝えないといけないよね……成美ちゃん可愛いよ」


「へっ?あ、あぁ!さっきも言ってくれたよね。この浴衣私もお気に入りでっ」


「じゃなくて、その浴衣を着た成美ちゃんが可愛い」


「わ、わたし?」


 顔中に熱が集まる。


「あと……水着姿も可愛い過ぎて死ぬかと思った」


 トンくんが目を逸らしながらボソリと呟く。


「へぁっ!?……あ、ありがとう」


 私は恥ずかしくてトンくんの胸に顔を埋めると、どちらの物とも分からない程心臓の音が大きく聞こえてきた。



 その後は2人とも終始無言だったが、直ぐに私の家に着き、別れの挨拶を交わす。


「明後日から新学期だね。また学校で会おう」


「うん、今日はありがとう。またね」



まだ少し火照った顔を冷やすため、家の前でトンくんを見送る。


「ねぇ、私のこと好きなの……?」


 遠ざかるトンくんの背中にポツリと呟いた。

 途端、冷静さを保っていた脳がパンクし、その場にへたり込む。


 体中が熱を持っているのはこの夏の暑さのせいだろうか?


 こうして悶々とする気持ちを抱えながら、私達の夏休みは幕を閉じたのだった。

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