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サプライズ



 そうして迎えた勉強会当日――



 家を出るため玄関で靴を履いていると、パパが背後に立ち「今日は何時に帰って来るんだ」としつこい位に聞いてくる……



 夜は恒例である誕生日のお祝いをしてくれるつもりなんだろうが、私もいつまでも子どもじゃない。

 家族より友達との時間を優先したい。

 なんと言っても、初めて自分の誕生日を友達と過ごすのだから。

 実は昨日の夜からワクワクし過ぎて、あまり眠れなかったくらいだ。



「ちょっと遅くなると思う」


 私がそう答えると、パパの顔は一気に険しくなった。



「門限は17時だ!」


「17時って……小学生じゃないんだから!いくらなんでも早すぎるよっ」


「何だと!?パパとママがどれだけ前から誕生日の準備をしてきたと思ってるんだ!なら、今日は何処へも行かせんぞっ」




 そんな私達のやり取りをママが呆れた様子で見ていた。


「アナタ……どっちが子どもなんだか分からないわよ。折角お友達と集まるんでしょ?パパの事は放っておいて、暗くならない内に帰って来なさい」




 流石ママ、話が分かる!

 パパはママに抗議しようとするも、厳しい目で睨まれて何も言えなくなってしまっていた。



「はーい。行ってきます」



 最後までパパは文句を言っていたが、ママに促されて私は足早に家を後にした。




 柔道部の練習中、差し入れをしに何度か来たことがあるトンくんのお祖父さんの家。


 立派な門構えに、手入れの行き届いた植栽。古いが趣のある建物は格式高い様子がして、入るのに余計緊張してしまう。



「これを押せば、トンくんが出てくる……」


 私が玄関先でインターホンを押すのを躊躇っていると、途中で出会ったらしい芹菜と百花ちゃんが合流した。


 私は少し緊張が和らぎ、ホッとしながらインターホンを押す。



 「皆、いらっしゃい」と出迎えてくれたトンくんに案内され、私達は客間に入った。





「ところで……どうして純くんもいるの?」


 私は目の前でニコニコと微笑みながら座っている純くんに向けて尋ねた。


 私達が客間に入った後、純くんが当然の様にやって来て、机を挟んだ私の向かい側に腰を降ろしたのだ。



「どうしてって……ここは俺の家でもあるからね。それにしても酷いなぁ。俺には勉強会のお誘い無かったんだけど?」


 そう言って、純くんは大袈裟に悲しんでみせた。


 

「純くんはこういう集まり嫌いなんだと思ってたけど……」


 素の純くんを知ってから彼の事を見ていると、相変わらず周りには人懐っこい姿をみせるが、あまり深く関わろうとはしない様子が見て取れた。



「うん、そうだね。でも今日は成美ちゃんが居るし」


「……何それ?答えになってる?」


 純くんの答えに私は首を傾げる。



「まぁまぁ、純くんと琢トンが居れば、英語のテストはバッチリじゃん?人数多い方が楽しいし、アタシは大歓迎だよ?」


「本人の家なんだし、ここに居ようが居まいが自由。私は気にしない」


「アハハッ、富岡さんはドライだねー」


 芹菜と百花ちゃんは全く気にしてない風であった。



「ごめん、お待たせ。全員お茶で良かったかな?」


 襖を開けて、両手にお盆を持ったトンくんが入ってくる。


「あ……手伝っ」


「琢トン、アタシも手伝うよー」


 私が「手伝うよ」と言うよりも先に、百花ちゃんがトンくんからお茶の入ったコップを受け取り、テーブルに置く。


 私は伸ばしかけた手を泣く泣く引っ込めた。



「さてと、勉強始めますかー」


 百花ちゃんの合図で、各々苦手な分野の勉強に取り掛かる。


 トンくんも倫理の教科書を読みながら、大事なポイントをノートに書き写していた。




 うーん……


 トンくんにとって特別な存在でありたいと息巻いてみたものの、実際に藤崎さんの事はどう思ってるんだろう?


 それとなく聞いてみる?

 でも絶対はぐらかされちゃうよね……




 頭では違うことを考えながら、私は英語の教科書とにらめっこをしていた。


「成美ちゃん、何処か分からない所があるの?」


 難しい顔をして教科書を眺めていた私に、トンくんが気を利かせて話し掛けてくる。


「へっ!?だ、大丈夫!全然大丈夫だから、気にしないで!」



「そ、そう……?余計な心配だったかな。ごめんね?」




 はっ……!しまった!

 突然声を掛けられたらから、咄嗟に大丈夫って言ったけど……ここは嘘でも何か聞いとけば、会話に繋がったかもしれないのにっ!




 後悔してももう遅く、トンくんは既に自分の勉強に戻っていた。


 あれから藤崎さんに負けないように積極的に話し掛けようと努力はしているが、どうにも気負い過ぎて上手くいかない。



 前はどうやって話してたっけ……




 なんとなくギクシャクした様子の私達を見て、純くんは愉しそうに笑う。


「何?2人とも喧嘩でもしてるの?」


「え!?喧嘩なんてしてないよ。……それとも成美ちゃん、何か僕に怒ってる?」


 純くんの発言を最初こそ否定したが、不安そうな目をしてトンくんが私に尋ねる。

 私はとんでもない!と慌てて否定した。


「ち、違うよ!怒ってなんかない。喧嘩もしてないし……」




 私が自然に接する事ができないだけで……



「ふーん。そっか」


 純くんは私を訝しむ様な目で見るが、それ以上は追及されなかった。




 それからは余計な事を考えないように、黙々と勉強をした。

 時々芹菜と百花ちゃんがする会話に相槌を打ったり、笑ったり……

 いつもより賑やかな誕生日を過ごした。




「はぁー……疲れたぁ。結構勉強も捗ったんじゃない?」


「たまにはこういうのも悪くないね」


 百花ちゃんが畳の上で大の字になって、寝転がる。純くんも皆との勉強会を楽しめたようだ。




「モモチ、そろそろ……」


 芹菜が百花ちゃんに目配せする。


「そうだった!」


 そう言って百花ちゃんは飛び起きると、私の方に向き直る。


「どうしたの……?」



 ニコニコと笑顔のまま百花ちゃんは皆に目配せし、「皆いくよー!せーの……」と音頭をとる。




「成美ちゃん」

「成美っち」

「成美」



「「誕生日おめでとー!」」



 パーン!!



 一斉にクラッカーが引かれ、私はいきなりのことに面食らう。



「えっ……今日が私の誕生日って、知ってたの!?」



「うん、アタシはセリセリから聞いた」


「僕はこの前安堂精肉店に行ったときに、おじさんとおばさんに教えて貰ったんだ」




 パパもママもそんな事一言も言ってなかったのに……




「誕生日会は琢トンが、勉強が終わった後にやらないかって提案してくれたんだよ。その為にこの場所も提供してくれたしねっ」


「俺はそんな皆に便乗しちゃった」




 そんな事全然知らなかった……

 まさか自分の誕生日を友達と過ごせるだけでなく、こうして祝って貰う事が出来るなんて……



「みんなぁ……ありがとう」


 私は感動のあまり、涙目になって感謝を伝えた。



「泣くのはまだ早い。成美、これ皆からのプレゼント」


 そう言われて、芹菜から包みを渡される。

 開けてみると、そこには可愛いスポーツウェアと前に雑貨屋で見たシュシュが入っていた。


「成美ちゃんは毎朝ジョギングしてるでしょ?是非それを着て走ってよ」


 純くんが「俺のお勧めのブランドだよ」と教えてくれる。




「あと、そのシュシュはねー……じゃーん!アタシ達とお揃いでーす」


 そう言うと百花ちゃんと芹菜は自らの腕につけたシュシュを見せる。私のはピンク、芹菜は白、百花ちゃんは黄色だ。


「お揃い……嬉しい!」


 人生で初めて友達とお揃いのものを持った喜びに、破顔する。




「友達に誕生日を祝って貰えたのは、初めてだから嬉しいっ」


「え?初めて?セリセリは今まで成美っちの誕生日お祝いしてなかったの?」


 百花ちゃんが私の発言に疑問に思って芹菜に聞くと、思いもよらない答えが返ってきた。



「してたよ。誕生日の月はウチのカフェの飲食代5%割引にしてたでしょ?」


「えっ!?確かにたまに安いときあるなーって思ってたけど、アレってそういう意味だったの?」


「わ、分かりにくい祝い方だねぇ……」


「まぁ、セリセリっぽいと言えばそうだけど」




 皆が芹菜の話に苦笑していると、またしてもトンくんが両手にお盆を抱えて何かを運んで来た。


「豆乳クリームで作ったケーキだよ。これなら罪悪感無く食べられるでしょ?」


 トンくんが持ってきたケーキは生クリームの代わりに豆乳を使ったイチゴショートケーキで、ダイエットをしている私の為に考えて作ってくれたそうだ。


「あっさりしてておいしー」


「クリームが全然豆乳臭くない。八城くん、後でこのレシピ教えてくれる?」


「うん、勿論だよ」



 皆の反応に期待しつつ、私も1口ケーキを食べてみる。


「んっ!美味しい……トンくん、これスッゴく美味しいよっ」


 フワフワのスポンジに甘すぎないクリームが甘酸っぱいイチゴと合わさって、凄く美味しい。私はフォークを持つ手が止まらず、ダイエットの事も忘れてペロリと完食してしまった。



「フフッ、喜んで貰えて良かった」


 私の反応を見たトンくんは目を細めて笑った。




 あ……

 なんだかトンくんの笑顔を久々に見た気がするな……




 トンくんの笑顔を見ただけで、私は胸の辺りがじんわりと温かくなるのを感じた。





「そろそろお開きにしますかー」


「そうだね。そろそろいい時間だし」


 時刻は18時半を過ぎ、窓の外は薄暗くなっていた。




「皆、本当にありがとう。今までで1番の誕生日だったよ」


 私は改めて皆に感謝を伝える。


「俺達も楽しかったよ。またこういう集まりがあったら呼んでね」


「うんうん、また皆で盛り上がろー!」


「店の手伝いが休みの時ならね」


 私だけではなく、他の皆も楽しめたようだ。




「そろそろ帰ろうか。トンくん、純くんまた学校でね」


「あ!待って、暗くなってきたし僕も送って行くよ」


 私達が玄関を出ようとすると、そう言ってトンくんが追いかけてくる。



「じゃあ琢トンは成美っちを送ってあげなよー。アタシ達は2人で帰るからさ」


 百花ちゃんは芹菜の腕を取り私の家の方角とは逆方向へ歩みを進める。


「また月曜日に」


 芹菜もこちらに手を振って、私達から遠ざかっていく。


「うん、またね」




 2人と別れた私達は、横に並んでゆっくりと歩く。しかしその距離は今だ少し開いており、2人の間には微妙な空気が流れていた。



「それにしても驚いちゃったなぁ。いつからこんなサプライズ用意してたの?」


 私はさっきまでの楽しい余韻に浸りながら、気になることを聞いてみた。



「成美ちゃんから勉強会の誘いがあった時だよ。本当は今日僕がデートに誘おうと思ってたんだけどね……折角なら大勢でお祝いした方がいいと思って」




 デ、デート……!?




 サラッとトンくんが発した単語に動揺しつつも、過剰に反応し過ぎるとキモいと思われそうで、平静を装ってみる。


「そ、そうなんだ。準備大変だったでしょ?」


「そうだね。大変と言えば大変だったけど……成美ちゃんの喜ぶ顔が見たかったし、準備する間も楽しかったよ」


 そう言ってトンくんはいつもの様に優しい笑顔を浮かべた。




 そういうとこー!

 そういうところ反則だよっ




 トンくんの言葉が、まるで私の事を好きだと言っているみたいに錯覚させる。




 トンくんは誰に対しても優しいんだから……

 勘違いしないようにしないと!



「あのさ、成美ちゃんにプレゼントがあるんだけど……」


 私が煩悩を振り払っていると、トンくんは真剣な顔つきになり、歩みを止めて私の方に向き直る。

 そしてポケットから小さな薄い箱を取り出した。



「え?でももうプレゼントは貰ったのに……」


「それは皆からでしょ?これは僕個人から。受け取ってくれる?」


 私が遠慮がちに言うと、トンくんは私の手にプレゼントの箱を乗せた。




「開けてみて」


「うん、ありがとう」


 トンくんに促されて、丁寧に掛けられたリボンを解く。箱を開けるとそこには白いハンカチが入っていた。


 しかしただのハンカチではない……



「わぁ……キレイ」


 ハンカチにはN・Aのイニシャルと、色とりどりの糸で紡がれた、花の刺繍が施されている。



「これ……どうしたの?」


「僕が縫ったんだ。昔、母さんが刺繍したハンカチを見て凄く喜んでくれたでしょ?だから、プレゼントしたくって。気に入ってくれた?」


 トンくんはハニカミながら笑った。



「嬉しい……うん、うん!スッゴく気に入った!ありがとう、大事にするねっ」


 私はハンカチを大事に胸の前で抱えて、お礼を伝えた。



 そこで、はたと気づく。


「もしかして、この刺繍糸って」


「うん、この間鉢合わせたお店で買ったんだ。僕はアメリカに居たから、この辺のお店に詳しく無くて……藤崎さんなら手芸屋さんを知ってるかなって、相談したんだよ」




 確かに私の誕生日プレゼントなら、私に相談するわけにはいかないし……藤崎さんならその手のお店の情報に明るそうだ。




 なんだ、そうだったのか……




「フフッ、芹菜の言う通りだったな……」


 1人で勝手にモヤモヤしていたのが馬鹿らしくなり、私は笑いを堪えられず吹き出す。



「え?富岡さんがどうしたの?」


 突然の事にトンくんは困惑していたが、私は「何でもない」と頭を振った。



「本当に今までで1番の誕生日だなって思ったの。今度はトンくんの誕生日もお祝いさせてね!」




 トンくんにはいつも何かを貰ってばっかりだな……

 それは物だけでなく、優しさだったり勇気だったり元気だったり。

 いつか貰ったもの以上のお返しを返したいな――

 


「ありがとう。楽しみにしてるよ」



 いつの間にか私達の間にあったなんとも言えない空気は取り払われ、足元に伸びた2人の影は距離が縮まった気がした。



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