勝つための秘策
藤崎さん達と別れ、私達は改めて練習を再開する。
「あれ……?あんな事言ってた芹菜はどこ?」
C組の子達に対して「私達に出来る事をするだけだ」と息巻いていた芹菜の姿が何処にも見当たらない。
「さっきまでそこに居たと思うけどなぁ」
百花ちゃんも首を傾げる。
「えっと……あそこみたい」
トンくんが体育館の一角を見つめている。
視線の先を追うと、芹菜が謎の祭壇をこしらえ、怪しげな呪詛を唱えている……
コワッ!
っていうか、どうやって作ったの?あの祭壇……
「せ、芹菜……何してるの?」
私が恐る恐る近づくと、芹菜は血走った目でこちらを振り向いた。
「ヒィッ」
短く悲鳴を上げると、芹菜が何かを呟いている事に気づく。
「……か……ない」
……?
「ごめん、芹菜。聞こえなかった……」
「……こんな素人集団がいくら練習しても勝てるわけない。だから他のチーム全員が謎の腹痛を起こして、大会を棄権するように毎日祈るの……私達に出来る事はこれしかない」
あの時言ってた、私達に出来る事ってソレかいっ!
なんか芹菜が良いこと言ってると思って、感心した私が馬鹿だった……
「何言ってるの。練習しないうちから諦めないの!」
「こんな負け戦やる意味ない……私の食券が……学食が……」
まだ何か言っているが無視をして、私は芹菜を皆の所へ引き摺っていった。
「おー、やっと来たか。それじゃあ作戦立てようぜ」
林くんが皆を集めて作戦会議を始める。
「1回戦が何処と当たるかは分からないが、恐らくどのチームもバレー部経験者を持ってくるはずだ……一方の俺らは経験者ゼロ。そんな俺らが勝つためには相手の虚を突くしかないだろう……そしてこの中でそれが出来るのは――」
林くんは全員の顔を見渡して、一度深呼吸する……
そしてある人物に、指を差してこう言った。
「……お前だ、八城」
「ぼ、僕!?」
林くんに指名され、トンくんは驚愕する。
「だって考えてもみろ……お前みたいな如何にも運動出来ませんって見た目の奴が、相手コートに華麗なスパイクを放つとどうなるか!ノーマークだった奴に点を取られれば、動揺から相手の士気を崩せるかもしれないだろ?」
何かトンくんの悪口を言われた気がする。
まぁ、とりあえず最後まで話を聞いてみよう……
「そうかもしれないけど……僕にそんなことが出来るかな?」
「お前は身長が高いし、ガタイもいい。絶対良いスパイクが打てる。ことわざでもあるだろ?、飛べないブタはなんとやらって……お前は飛べる!自分を信じろ」
ソレことわざじゃないし!
トンくんはブタじゃないし……
やっぱり絶対悪口だよね!?
「ちょっとミッチー、琢トンに失礼じゃない?そうだよね、成美っち」
百花ちゃんの指摘に、私も首を縦に振る。
「うっ……わ、悪かったよ。でもさっきの作戦は本気だぜ?八城、やれそうか?」
林くんの真剣な表情に、トンくんは考え込む。
「トンくん、無理する必要はないんだよ?」
そりゃあ勝てれば嬉しいけど、トンくんだけに負担が掛かってしまうのは本望ではない。
しかし、トンくんは首を横に振った。
「いや、僕にやらせて欲しい。成美ちゃん言ったでしょ?僕も楽しまなきゃって……僕だって皆と勝ちたいんだ」
トンくんの熱意溢れる言葉に、私は何も言えなかった。
「わかった。トンくんがそう言うなら、練習付き合うよ」
それから私達の猛特訓が始まった……
――――――――――――――――
「グラウンドあと5周~。そこ、ペース落ちてるよ~」
「キャー!富岡さんが倒れた!」
地獄の練習メニューは、基礎体力作りから始まり……
「ボールを友達だと思え!絶対床に落とすなよー」
「ちょっ!セリセリ、何処に飛ばしてるのー」
次はバレーには必須のレシーブ練習……
「トンくん、ナイスブロック!」
「富岡ー、全然跳べてねぇぞー」
守備練習……
毎日私達は昼休みも放課後も……球技大会の練習に費やし、遂に本番まで残り1日となった。
……っていうか、芹菜!?
さっきから全然、練習に付いてこれてないよね!?
「富岡さん大丈夫?」
運動が苦手なトンくんにまで心配されるレベル……
「くっ……私の事は放っておいて。皆は次の練習メニューに進んで……」
芹菜が苦しげにその場に倒れ込む。
「うん、セリセリ練習サボろうとしてるでしょ。ダメだよ?」
「チッ……」
百花ちゃんの指摘に芹菜は舌打ちする。
「でも……明日は球技大会本番だし、今日の練習は早めに切り上げるか。あー、腹減ったぁ……」
林くんが壁に掛けてある時計を見て、皆に撤収の合図を送る。
「とうとう明日が本番かー」
「どんな結果でもさ、終わったら皆で打ち上げしようよ」
「いいねー!皆これだけ頑張ったんだもん。ご褒美があった方が当日も頑張れるし」
「……!それなら是非、カフェ・パーチェをご利用ください」
百花ちゃん達が打ち上げをしようと話をしていると、さっきまでへばっていた芹菜が急に元気になって営業を始める。
やれやれ……とそんな様子を眺めていると、コートにトンくんがまだ残っているのが見えた。
「トンくん?帰らないの?」
私が近づいて話し掛けると、トンくんは額の汗を拭いながらボールを拾う。
「もうちょっとだけ……スパイクの練習したくて。成美ちゃんは先に帰ってて大丈夫だよ?」
「何言ってるの。付き合うに決まってるじゃん!」
そう言うと私は後ろを振り返り、扉の側に立っていた皆に向かって叫んだ。
「ごめーん、もう少し練習していくねー。先に帰っててー」
「えっ……安堂さんが残るなら俺も……」
「はいはーい、ミッチーはお腹空いたんでしょー。途中で何か食べて帰ろうよ」
「それなら是非、カフェ・パーチェへ……」
林くんの両腕を百花ちゃんと芹菜が各々掴む。
「ちょっ……待っ、あー!安堂さーん」
林くんも居残り練習を願い出たが、百花ちゃんと芹菜にそのまま連れて行かれてしまった。
その様子をトンくんと一緒に、苦笑しながら見送る。
ダァアアンッ
私達以外誰も居なくなった体育館に、ボールが打ちつけられる音が響く。
「凄いよトンくん。たった1週間で本当に上手になったよね」
トンくんは自分で言う程運動のセンスは悪くなく、寧ろ教えられたことをどんどん吸収して身につけていった。
「ありがとう。でも全部皆のお陰だよ。この1週間、皆と練習してるのが凄く楽しかったからね」
私はトンくんの言葉に少し安堵した。
「良かった……本当はね、トンくんをバレーに誘ったのが少し強引だったかなって思ってたんだよね。でも、トンくんと球技大会に出られたら絶対楽しいだろうなって思ったから……」
「僕もだよ。成美ちゃんと一緒なら絶対楽しいと思ってた。誘ってくれてありがとう」
トンくんが柔らかく微笑んだ。
きゅん。
何故だろう……ちょっと鼓動が早くなった。運動した後だからかな?
汗のせいなのか、トンくんもやたらキラキラして見えるような……
私は自分のこの状況にいたたまれなくなって、話題を変えた。
「で、でもこのメンバーでバレー出来るのも最後かぁ……寂しくなるね」
「フフッ、今生の別れじゃないんだから。まだ大会も終わってないし……大会が終わっても、またいつでも皆とバレー出来るよ」
トンくんの言葉に私は頷く。
「そうだね。まずは明日の大会だよ!頑張ってきた成果を見せつけてやろうね!」
「うん、頑張ろう」
私達は明日の大会に向けて気合いを入れ直し、ハイタッチをした。




