運命量産型トンくん
前回までのあらすじ。
純が仲間になりたそうにこちらを見ている……
仲間にしますか?
▶はい
いいえ
――――――――――――――
「ねぇ、琢斗。調理部は何処で活動してるの?」
「えっと……家庭科室だから、西館の3階だね。丁度この下だよ」
トンくんが下を指差し、教えてくれる。
私達の通うこの高校は、正面玄関のある本館、そして連絡通路を挟んで私達が普段授業を受けている教室のある東館、職員室や理科室、家庭科室などの特別教室がある西館に分かれている。
「ここだね」
「わぁ……何だかいい匂いがするね」
家庭科室の前に到着すると、甘酸っぱいフルーツの香りや香ばしいクッキーの様な香りがしてくる。
「へぇ、何か作ってるのかな?」
純くんが扉を開けると、そこには和気あいあいとスイーツを作る部員達。そして私達同様に見学に来ていた1年生女子が3人居た。
「貴方達も見学?じゃあこの子達と一緒に部の説明を聞いてくれるかしら?」
私達は先輩に呼ばれ、他の1年生と合流する。
「私は部長の清水です。見ての通り、部員は私含め10人。毎回テーマを決めて、それに沿った料理を各々好きに作ってるの」
部長がおっとりした口調で一通りの活動内容を説明してくれる。
「今日のテーマはフルーツを使ったデザートよ。折角だから皆さんも一緒に作らない?」
その提案に他の1年生から歓声が上がる。
「じゃあ、エプロンを貸すから着替えて来てね」
私達は教室の一角に集まり、エプロンを着ける。その際、簡単な自己紹介が始まった。
「よろしくね。俺はA組の純・T・アラム。」
純くんがスイーツよりも甘い笑みを浮かべると、女の子達は黄色い声を上げた。
……いつもの事ながら凄いな。
「僕は同じくA組の八城琢斗です。よろしくね」
さっきとは打って変わって、冷静に「あ、うん。よろしく」と返していく女子達。扱いの差が酷すぎる。
そんな中、1人トンくんを凝視している子がいる。
「八城くん……もしかして私の事覚えてない?」
そう言ったのは丸眼鏡を掛けた、おさげの女の子だった。
「えっと……?」
トンくんは思い出そうとして、顎に手を当てて考える。
「私はC組の藤崎桜子。ホラ、入試の時にこのお守りを一緒に探してくれたでしょ?無くした時はどうしようと思ったけど、貴方が見つけてくれたの!」
藤崎さんはポケットから手作りのお守りを取り出して見せた。
「あぁ!あの時の子か。確か妹さんの手作りだったよね。お互い入学出来て良かったね」
トンくんが微笑み、喜びを顕にする。
まったく……トンくんは色んな所で人助けしてるよね。まぁ、ソコが良い所なんだけどね。
そして藤崎さんはとびきりの笑顔でこう続けた。
「本当だね!でも、こんな所でまた会えるなんて……”運命“みたいだねっ」
…………………………はい?
今何て言いました?
運命……?
私だって9年ぶりにトンくんと再会出来て、運命感じましたけど?
入試以来ってことは、2ヶ月ぶり位?
待ってた年数は断然、私の方が長いんだからっ!
私が藤崎さんに対して勝手に対抗心を燃やしていると、純くんに耳打ちされる。
「クスッ……成美ちゃん、顔恐くなってるよ?」
えっ!ウソ?
私は慌てて表情を戻した。
「おーい、1年生。こっちで果物切ってよー」
先輩に呼ばれ、私達は各々作業台の前に立つ。
「トンくんの分まで頑張るね」
「ありがとう、成美ちゃん」
利き手を怪我して包丁が握れないトンくんに変わり、私はやる気を表明した。
すると隣からトントントンとリズミカルな包丁の音が聞こえてくる。
見ると、藤崎さんが精密機械の様な緻密さと速さでフルーツをスライスしていく。
す、凄い……
「藤崎さん上手だね」
「そ、そうかな?妹にせがまれてよくお菓子作りはするから……こんなことも出来るよ」
トンくんに誉められ、調子付いた藤崎さんは、スライスしたフルーツを使って薔薇の花を形作っていく……
私だって負けてられない……!
普段料理はしないけど、切るだけだもんね?
余裕余裕!
そう意気込みながら、私は苺めがけて包丁の刃を一気に振り下ろす――
「エイッ!」
ダァアアンッ!
グシャッ! ビシャッ! ビチャッ……
苺は塵となって辺りへ飛び散り、一瞬にして周囲はスプラッター状態となってしまった。
「キャー!」
周辺に居た人達はその光景に悲鳴を上げる。
「な、成美ちゃん!?大丈夫?」
周りの人達がドン引きした表情で見てくる中、純くんは大爆笑し、トンくんだけが心配してくれる。
おのれ……純くん。
「貴方は包丁の握り方からお勉強する必要がありそうね……?特別に私が教えてあげるわ」
あのおっとりした部長が青筋を立てて、私の両肩を掴んでくる……
こ、恐い!
「こっちにいらっしゃい」
私は部長に引きずられるようにして、皆と別の作業台に連れていかれた。
うぅ……こんなはずでは……
横の作業台を見れば、トンくんと藤崎さんは楽しそうにタルトにフルーツを盛り付けている。
ちょっと2人共近すぎない?
「えっ!八城くんも林檎が一番好きなの?私もだよ。色んな果物があるなかで同じ物を選ぶなんて……なんか運命みたいだね」
藤崎さんの楽しそうな声が聞こえる……
今度は林檎で運命感じてるの?
ちょっとトンくん、運命を量産し過ぎじゃない!?
トンくんと藤崎さんの事が気になって、モヤモヤしてしまう。
何でさっきから藤崎さんに対して対抗意識が湧いちゃうんだろう……?
確かに前までトンくんが好きだったけど、それは思い出に縋った私が造り出した理想のトンくんにだ……
実際に今のトンくんと会ってみて、等身大の彼を知りたいと思った。だからまだトンくんのことが好きなのかと聞かれると、正直わからない……
トンくんと一番仲の良い女友達は私だと思ってたから、嫉妬しちゃったのかな……?
「貴方……私の話聞いてるの?ちゃんと集中しないと危ないでしょう」
「す、すみません」
部長の一喝に、私はこの例えようのない感情を無理矢理に頭から追い出した。
こうして部長とのマンツーマンレッスンは終了し、私の包丁の腕は何とか苺を潰さずにスライス出来るところまで成長した。
「成美ちゃん、お疲れ様。今皆で出来上がったスイーツの試食会してるんだ。おいでよ」
トンくんが隣の席に私を呼んでくれる。
「純くーん。私のケーキ食べてっ」
「ズルい!私のもっ」
「すみません……俺、甘いもの得意じゃなくて」
純くんは先輩方からも人気で、誰の料理を食べて貰うかでお姉様方が揉めていた……
「私もダイエット中だから甘いものは……」
目の前のスイーツ達を前にして申し訳なさそうに断ると、トンくんが何かを私の前に差し出した。
「そう言うと思って……はい、コレ。余ったフルーツを使って、オーブンで簡単だけどドライフルーツを作ってみたんだ。これなら多少は罪悪感が薄れるでしょ?」
私の事を考えてわざわざ作ってくれてたの?
その事実だけでさっきまでのモヤモヤが嘘のように消えてしまった。
「トンくん、ありがとう」
私は感激しながらそれを受け取った。
その様子を見ていた藤崎さんは眉をしかめながら私に聞いてくる。
「安堂さんだっけ?何で八城くんの事、トンくんって呼ぶの?名前は琢斗だよね?」
「あ、えっと……話せば長くなるんだけど」
「それはね」と私が話す声に、横から純くんが被せてくる。
「確か琢斗の事、豚と間違えたからだよね?」
ちょっと純くん!?言い方ってもんがあるでしょう!
それだと、私がトンくんを見て豚って言ったみたいじゃん!
案の定藤崎さんは「安堂さんってそんなこと言う人だったの?」と顔つきが険しくなる。
「純、言葉が足りないよ。成美ちゃんとは昔からの知り合いでね。小さい頃に僕の”琢“の漢字を読み間違えたんだよね?」
咄嗟にトンくんがフォローしてくれる。
「そうそう!もう今じゃ恥ずかしいレベルの間違い」
アハハハ……と私は苦笑いする。
「そうなんだ……昔からの知り合い……」
藤崎さんはそう呟くと、ジーッと私を見つめる。
その目には何だか闘志がみなぎっており、居心地が悪くなった私は話題を変えた。
その後部活見学はお開きとなり、後日私はトンくんと一緒に入部届けを出したのであった。
調理部では全員が集まれる日に新入部員の歓迎会が開かれたが、その中に藤崎さんの姿もあったのは言うまでもない……




