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また君に会えたら(琢斗視点)

 その日の帰り道、僕は成美ちゃんと並んで商店街を歩いていた。


 今日こそアメリカへ引っ越す話をしよう……


 両親にあの話をされてから、僕は何度か成美ちゃんにアメリカへ行くことを伝えようとした。しかし、いつも嬉々として次回会う約束を取りつける彼女の姿を前にすると、いつまでも伝えられずにいた。


「あの成美ちゃん……」


「あ、トンくん見て!」


 僕と成美ちゃんの声が被る。


「成美ちゃん先に言いなよ」


 往生際の悪い僕は、少しでも話を先延ばしにしようと悪足掻きをする。


「そう?あのね、今度の土曜日お祭りがあるんだって。一緒に行かない?」


 そう言って彼女が指差したのは、掲示板に貼ってあるポスターだった。

 その祭りは毎年この近くの神社で催され、うちの商店街からも何軒か出店を出している。規模こそ小さいが、地元の人達からは愛されているお祭りである。


 確か純も楽しみにしてたっけ……


「うん、勿論だよ。一緒に行こう」


「やった!じゃあいつもの公園で14時に待ち合わせだよ。約束ね!」


 成美ちゃんは両手を上げて喜んでいたが、暫くしてそういえばと僕の方に向き直る。


「そうだ、トンくんは何を言おうとしたの?」


「ん?僕もお祭りに誘おうと思ったんだよ」


 これはあながち嘘ではない。折を見て誘おうとは思っていたのだ。


 別に今日言わなくてもいいよね。だってまだ、いつアメリカに行くかも決まってないんだから……


「そっか、楽しみだね。……あっ、ママだ」


 成美ちゃん家に着くと、店先に居たおばさんが出迎えてくれる。


「ただいまっ!聞いてママ。今度のお祭りね、トンくんが一緒に行ってくれるの!」


 成美ちゃんはおばさんの元へ駆け寄り、喜びを表現する。


「お帰り成美。フフッ、良かったわね。ホラ、おやつ用意してあるから、手洗ってきなさい」


「はーい。トンくんまたね」


 成美ちゃんは手を振り、お店の奥へと消えていった。


「トンくんいつもありがとうね。貴方と遊ぶようになってから、あの子凄く明るくなった」


「僕は何もしてないよ」


 とんでもないと、僕は頭を振る。


「本当よ?最近は家の中でもトンくんの話ばっかりで、パパがヤキモチを妬いてるんだから。前まで外で遊びたがらない事が多かったから安心したわ」


 おばさんは少し涙ぐみながらもう一度僕にお礼を言った。


 成美ちゃんが変わったきっかけは僕だったかもしれない……でも変わろうと努力したのは彼女だ。きっと成美ちゃんは僕にはない、強さを持っているんだろうな……



――――――――――――――――――


 祭り当日の午前中、道場に通う子ども達は各々お祭りに参加する予定を立て、浮き足立っていた。


 純もその1人で、4日後にはアメリカへ帰ってしまうため、最近は日本でやっておきたい事を全部やるんだ、と息巻いている。


「琢斗もお祭り行くでしょ?一緒にどう?」


「ごめん、成美ちゃんと行く約束をしてるんだ。何だったら、夜にもう1回一緒に行く?」


 純の誘いを断ると、つまらなさそうに口を尖らせる。


「また成美ちゃんかぁ……最近その子にベッタリだね。琢斗のガールフレンドなの?」


「へっ?ち、違うよ!?」


 突然の質問に、真っ赤になって否定する。

 確かに成美ちゃんは可愛いい子だなとは思うけど、好きかどうか聞かれると正直よく分からない……


「ふーん。まぁ、いいけど……じゃあ俺はグランパと行って、たくさん奢って貰おっと」


 純は早速祖父をお祭りに誘いに行ったが、稽古に集中しろと怒られていた。

 まぁ、何だかんだ言って祖父は僕たちに甘いので一緒に行ってくれるだろう。


 稽古が終わり、僕は着替えをするため1度家に帰った。


「母さんただいまー……あれ?居ないの?」


 いつも在宅中であれば、返ってくる筈の声が無い。


 出掛けて居るのだろうか……


 そう思いながらリビングに入ると床にコップが転がっていた。

 中に入っていたであろうお茶は全て溢れ、筋となって台所へと続いている。

 僕はそれを目で追っていく……


 ――するとその先に、倒れている人が見えた。


「ッ……!母さん!」


 僕が駆け寄り、母さんの肩を強く揺らすが反応は返って来ない。


「ただいまー」


 そこへ朝からお祭りの準備を手伝いに行っていた父さんが帰ってくる。


「父さん、早く来て!母さんがっ……」


 僕の必死の叫び声に駆けつけた父さんは、目の前に飛び込んで来た光景に顔面蒼白になる。


「きゅ、救急車……」


 父さんは急いで救急車を呼んだ後、母さんに心臓マッサージを試みた。

 その後からの記憶は曖昧で、気がつくと僕は病院の待合室に居た。

 父さんや救急隊の人の必死の蘇生で運良く、母さんの命は助かったらしい……

 その知らせを聞いた瞬間、僕は緊張の糸が切れてその場に崩れ落ちた。


「琢斗、1度家に帰ろう。母さんは暫く入院することになったから、荷物を取りに行かないと……」


 病院の外へ出ると、空は分厚い雲で覆われており、大粒の雨が降っていた。


「雨か……祭りは中止かもな」


 父さんがポツリと溢した言葉に、僕はハッとする。


 成美ちゃんとお祭りに行く約束をしていたんだった……!


 父さんの腕時計を見せて貰うと時刻は既に約束の時間を過ぎ、15時になろうとしていた。

 お互い連絡手段も無いため、彼女は待ち惚けになったに違いない……


 でも1時間もずっと待ってるなんて事はないよな……?


 しかもこの大雨だ。流石に家に帰っているだろうとあたりをつける。


 家に帰り着いた時だった。成美ちゃんのお母さんが慌てた様子で僕達の元へやって来た。


「あのっ、トンくん。成美見なかったかしら?あの子この雨の中、祭りも中止になったのに全然帰って来ないの……一緒に行く約束してたわよね?」


 その言葉に、雷に打たれたような衝撃を受けた。


「まだ帰ってないんですか……?もしかして、まだ公園に?僕、探してきます!」


「あっ、おい……琢斗待ちなさい!」


 僕は父さんの制止も聞かずに雨の降りしきる中、傘も差さず飛び出した。


 公園に着くと、遊具の下で雨宿りしている人影を見つける。


「はぁはぁっ……成美……ちゃんっ」


 息も絶え絶えにその人影に近づくと、浴衣姿の成美ちゃんが遊具にもたれ掛かり目を閉じていた。

 呼び掛けても反応が無いため手を握ると、その指先は氷の様に冷たかった。唇は青く、まるで生気が感じられない。

 僅かに上下する胸の動きだけが、彼女は生きていると実感させてくれた。


「こんなになるまで僕の事待っていてくれたの……?」


 目頭がツンと熱くなった。うっすら涙で視界がぼやける中歯を食い縛り、一刻も早く家に送り届けねばと成美ちゃんをおんぶする。

 雨を吸った浴衣は鉛の様に重く、僕の歩くスピードを奪っていった。


 僕が君に酷いことを考えちゃったから、バチが当たったのかな……

 ごめんね……ごめんね……ごめんね……


「成美ちゃんごめん……」


 心の中で繰り返し唱えた謝罪の言葉が、口をついて出た。すると成美ちゃんが身動ぎする。


「ん……ト、ンくん……ありがとう。大好きだ……よ」


 ……!


 その言葉に胸が締め付けられる。


 こんなにどうしようもない僕をまだ好きでいてくれるの?

 おばさんは僕が成美ちゃんを変えたと言うけれど……

 僕の方こそ彼女に何度も救われている。

 成美ちゃんは僕の憧れだ。

 僕もいつか、君みたいに強くて優しい人になれるかな?

 そしたら今度はちゃんと……

 君の目を見て言いたいな――……


「うん……うんっ。僕も大好きだよ……」


 小さな恋心を自覚した瞬間だった。



――――――――――――――――


 成美ちゃんを家に送り届けると、おじさんとおばさんにとても感謝された。


「お父さんから聞いたわ。清香さん、大変だったんですって?それなのに成美の事もありがとう」


「君のお父さんは、お母さんに付き添って今日は病院で泊まるらしい。君も今日はウチに泊まりなさい」


 おじさんの提案を有り難く受け入れる。


「すみません……僕のせいで成美ちゃんが……」


「何言ってるの。成美が好きでトンくんを待ってたんだから。しかもそのまま寝ちゃって……我が子ながら呆れるわ」


 僕が2人に頭を下げて謝罪すると、おばさんが冗談交じりに笑い飛ばす。


 そして僕は話すなら今しかないと、意を決して2人に対峙した。


「あのっ……僕、アメリカに行くんです。母さんの治療のために。……この事成美ちゃんに話すと、多分悲しませちゃうから……成美ちゃんには引っ越したとだけ伝えてください。連絡もしません。その代わりもっともっといい男になって絶対帰ってきます!」


「そこまでしなくても……」


 僕の決意におばさんは困ったような顔になる。


「わかった……半端なやつに成美は相応しくねぇ。やるならとことん男を磨いて帰って来い」


 一方のおじさんは僕の意思を尊重して、激励してくれる。


「もうっ、アナタ!」


「これは男と男の約束だ。お前は口出しするな」


 おじさんはおばさんの抗議をはね除け、最終的にはおばさんも渋々承諾してくれた。





――――――――――――――――



 空港のロビーには多くの人がごった返している。

 飛行機が遅延し苛立っている人、旅先で何処を回ろうかと話している人、中には涙で別れを惜しみ会う人達もいる。


「本当に良かったの?伯父さんと伯母さんはもう少し日本に居るんでしょ?俺と一緒にアメリカに行かなくてもいいんじゃない?まぁ、俺は嬉しいけど……」


 純は空港で買ったお土産をスーツケースに詰めながら、僕に尋ねる。


「うん。早めに行動しないと、折角の決意がブレちゃいそうで……」


 父さんと母さんはアメリカの病院を紹介して貰ったり、手芸店を売却したりと色々な手続きが残っているため、僕だけが一足先にアメリカへ行くことにした。暫くは純の家でお世話になる予定だ。


「ジューン!」


「あ、マミー」


 遠くの方で純を呼ぶ、叔母さんの声が聞こえた。

 柔道のインストラクターである叔母さんは、つい最近日本で行われていた世界選手権に出場する選手に付き添って来日していたらしい。


「叔母さん、今日からよろしくお願いします」


 僕は叔母さんに頭を下げると、正面からギュッと抱きしめられる。


「不安だったでしょ。こんなに小さいのに偉いね……困ったことがあれば叔母さんに何でも言いなさい」


 ッ……!


 瞬間、これまで堪えてきた涙が堰を切った様に流れてきた。




 成美ちゃん……僕は少しでも恥じない自分になれるように成長して帰ってくるよ。

 だから待っててくれるかな?

 いつかまた君に会えたら……今度は自信を持って君にこの想いを伝えるよ。



 こうして僕は叔母さんに連れられ、日本を後にした……


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