3話 代償
第3話 代償
「それで、お前は一体だれなんだ?」
男からは、かなりの疲れを感じる。
「僕はただのしがない商人ですよ!」
ルークはゆっくりと自分の荷物を下ろしながら、そう言った。
「なんで手を貸してくれたんだ?」
「さっきも言った通りです、特に大きい理由があったけではないですよ。人が苦しんで助けを求めているのに、助けないわけがないじゃないですか」
「たとえそれがぼったくり宿屋のお母さんだったとしても・・・か?」
男はいつにも増して真剣な目つきで男に問う。
「ぷっ、はは!面白いことを言いますね!ぼったくりする人は助けちゃいけないんですか?」
よほど面白かったのか、ルークはずっと郎笑していた。
「なんで誰かもわからない人に手を差し伸べられるんだ!?」
男の目には、嫉妬とも言える炎が燃えていた
その炎を鎮め(しずめ)ながら男は話を続けた
「もしかしたら、それが迷惑になるかもしれないし。その人を傷つけるかもしれないだろ?」
「そんなこと心配してるんですか?たとえそれが間違ってたとしても、人を助けることが悪のはずないじゃないですか」
ルークは、男の怒りを片目に確信してそう言った
「希望を見出すやつには、必ず絶望が付きまとうぞ」
男は真剣にかつ自分の不甲斐なさを叩きつけるかのようにそう言った
そして男はゆっくりと目を瞑り深い眠りについた
(なんでそんなこと言うんだろう・・・そんな人には見えないのにな)
ルークもまたつられるように眠りについた
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ガンさん・・・わたしが・・もし・・世界から・・・消える時は・・・
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「は、またか・・・」
男は、相当にうなされていたようで、寝汗でベットが雑巾状態になっている
「おっはーよーございまーす!」
相変わらず、溌剌とした声で男の朝を迎えた女は、昨日のことがなかったかのように話しかけた。
あさ・・と言っても周りに光は無いのだが
「おう、おはよ」
相も変わらずぶっきらぼうな返事である
「お母さんの調子はどうだ?」
「あの人の手当が良かったみたいでだいぶ落ち着いてますよ!」
女はとても嬉しそうだ
「そうか、なら良かった」
男も安心したようでほっと、胸を撫で下ろした
「あ!ルークは?」
男はやっと、部屋にいない一人の異変に気づき女に尋ねた
「ルークさん、って言うんですね。かなり早くから街を出ていったみたいですよ、私が起きた時にはもういませんでしたから」
「そうか」
男はゆっくりとそう言うと木材の床に足を下ろした
「あの人すごくいい人でしたね」
「そうだな、いい人じゃ収めきらないだろうね」
「え!ガンさんが真面目!今日はヤリが降りますね!」
女は茶化すようにそう言うと、お母さんの様子を見に行った
「この様子だともう2、3日で回復しそうですね、当たりどころが良くてよかったです」
ドアを押し開けながら男に話しかけた
「そうか、ひとまず油売りは中止だな」
「そうですね・・・」
「ガンさん、少し話をしましょう」
女はベットに腰を下ろし、真剣に男の目を見つめ話し始めた
「ガンさん、ここのお母さんは本当にぼったくりをしていたんですか?」
「なんで・・そう思うんだ?」
「確かにおかしいと思ってたんですよ、宿屋なのになんで大量に油を買ってくれるのか、普通、高くて外でしか使わないものをなんで買ってくれるのか。」
男は女の意志を汲み取り答え始めた
「じゃあ、お母さんがぼったくりをしたと言ったら、信じるかい?」
女は想定外の回答に唖然としたが、しっかりと男を見つめ答えた
「私は、信じられないです」
「そうか」
男は続ける
「結論から言うと、彼女はぼったくりなんかしていなかった」
男は落ち着いてそう答えた
それを聞いた女の表情はゆっくりと溶かされ、笑顔が戻った
「でも、じゃあなんでお母さんはあんなに油を買ってくれたんですか?」
「お母さんは、毎回泊まりに来る人に油を無料で渡していたんだよ」
この発言に女の疑問の糸はさらにからまった
「え!じゃあなんで、ぼったくりなんて言われてるんですか!?」
「それは、さっきマリアが言ったことそのままだよ」
男は女を見つめそう答えた
しかし、女の疑問の糸はまだ解けないようで少し首を傾げた
「普通、外に出ない宿屋で大量の油を買うのはおかしい、普通はそう思うだろう?
そうなると、人間は色んなことを想像するんだ『もしかしたら、危ない取引をしているのかもしれない』、『もしかしたら、高値で売りつけられのかもしれない』なんてありもしない、既成事実を脳内で作り上げる。」
女は何か気が付いたかのようにハッとした
それに気づいた男は、ゆっくりと話を続ける
「こうなったら、もう止まらない、『あそこの宿屋は危ない取引をして、油を売りつけられる・・・かもしれない』そう人に伝わってく。そのうちにどこまでが真実かわからなくなり、ありもしない噂として町中に広がった・・・というわけだ。」
「そんな!じゃあ、お母さんは何も悪くないじゃないですか!」
女はいきりたってそう答えた
「そうだな・・・これが、優しさの“代償”なんだろうな」
そのあと、男と女はしばらくの空白を挟み、ゆっくりと部屋を後にした
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