第20章 帝国 5
第20章
帝国 5
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「…………参りました…………」
僕に最後の攻撃を放ったレラーキ卿は、紙吹雪の様に細かくなって散って行く“バインダップパイソンスキン”を見詰めて、暫く放心状態だったが、僕にスッと頭を下げてそう言った。
「イジャラン・バダ帝国の暗部ナンバー1が、負けを認めちゃって良いの?
折角、勝敗無しの立ち合いだったのに」
「はっはっは…………
もちろん、不味いでしょうな」
「その通りです、レラーキ卿!!
レラーキ卿は表向きにもイジャラン・バダ帝国最強なのですから、そのレラーキ卿が敗れたとあっては大問題です!!」
やっぱり、レラーキ卿が負けたのは不味い様で、チパーティアム女皇帝がプリプリ怒って近付いて来た。
「はっはっは…………
そうですな。
では、イジャラン・バダ帝国最強の名は返上致しますので、どうぞ、今後は陛下がイジャラン・バダ帝国最強を名乗って頂ければ」
「そんなの無理に決まっているでは無いですか!!
私しでは、まだまだ先生の足元にも及ばないのですよ?!」
「其れを仰るならば、私ではルベスタリア卿の足元にも及ばなかったのですから、負けを認めても良いでは無いですか。
私も其れ也の修羅場を潜って参りましたが、此処まで圧倒されてしまったのは、幼少期の父との訓練以来です。
まさに、大人と子供程の差でした。
其れにしても、世界は広い、ルベスタリア卿だけでは無く、此方の従者の御2人にも私では全く歯が立たない様だ」
レラーキ卿は、そう言ってネイザーとルーツニアスを見る。
ネイザーとルーツニアスは其処は答えず、お辞儀だけで済ませた。
多分、肯定も否定もしない方が良いと判断したのだろう。
「まあ、僕は今日の事を言いふらしたりしないから、別に言わなきゃ良いんじゃ無い?
決闘でも試合でも無く、ただの立ち合い、力試しだった感じで。
さっきレラーキ卿も言ってたけどさ、世界は広いよ。
僕も僕の先生には全く歯が立たないからね」
「んな?!ルベスタリア卿よりも更に強いのですか?!
その方は、本当に人間ですか?!」
おっと、チパーティアム女皇帝が鋭い上に確信を突く質問をして来る。
僕の今の戦闘の先生は、人間じゃないドラゴンだ。
僕はより高みを目指すべく、世界最強のドラゴン、ナエラークの指導を受けている。
まあ、此処で『僕の先生はドラゴンだよ』と、言う訳にもいかないので、誤魔化しておこう。
「皇帝陛下、言っておくけど、僕は先生の事に関しては絶対に情報を出さないよ。
先生は最強だけど、性格が優し過ぎて、簡単に人に利用されちゃうんだ。
だから、詮索は禁止だよ」
「な、なるほど、失礼致しました。
とりあえず、レラーキ卿が負けたのは公にはしません。
ルベスタリア卿も無理強いは致しませんが、出来れば先程言われておられた通り、他言しないで頂けると有難いです」
「ああ、もちろん良いよ。
其れにただのハンターの僕がイジャラン・バダ帝国最強に勝ったって言っても誰も信じないよ。
ところで、レラーキ卿、さっきの立ち合いの時のネイザーとルーツニアスの迅速な治療のお礼に、今回の謝礼の賢者 ラノイツロバーの遺産の出所を教えてくれても良いんじゃないかと僕は思うんだけど、どうかな?」
「ええ、もちろん其れがお礼となるならば、お教え致しますよ。
そもそも、宝物庫に有ったモノは、元々がイジャラン・バダ帝国の属国である、ウスーウム王国に、2つづつ有ったモノの1つをイジャラン・バダ帝国に献上されたモノでした。
なので、ウスーウム王国に、もう1つづつ有ったので、其れを買い取って来たのです。
ウスーウム王国の歴史は、この近隣の国々の中では最も古いので、もしかすると、『賢者 ラノイツロバーの10人の高弟』の誰かが身分を隠して建国したのかも知れませんな」
「…………ウスーウム王国…………
もしかして、クラーウスとリーウムが結婚して作った国とか?」
「!!ノッド様、きっとそうです!!
きっと、あの2人が結ばれて出来た国だから、クラーウスとリーウムを足して、ウスーウム王国にしたんですよ!!」
メイドっぽく、ずっと大人しかったルーツニアスがいきなり興奮して言って来た。
ルーツニアスは完全に脳筋の肉体派だが、結構読書は好きで、特に史実に則った物語を好む。
なので、『賢者 ラノイツロバーと10人の高弟』の話しもしっかりと読み込んでいるのだろう。
そして、女の子らしく、恋バナが好物っぽい感じのリアクションだ。
「なるほど!!
と、言う事は、リーウムはヘイパーと別れたんですね!!」
…………もう1人の女子、チパーティアム女皇帝がルーツニアスの言葉にすかさず食い付く。
「ええ、きっとそうです!!
きっと、リーウムもクラーウスの命掛けの告白に心打たれたんです!!」
「いえ、きっと、リーウムがヘイパーにとって自分は遊びだと気付いたんですよ!!」
ルーツニアスとチパーティアム女皇帝は、あーでもない、こーでもないと、賢者 ラノイツロバーの10人の高弟の、リーウム、クラーウス、ヘイパーの関係について熱く語り合い始めた…………
まあ、ちょっと、放っておこう…………
「…………まあ、三角関係の話しはどうでも良いんだけど、レラーキ卿は良く簡単に売って貰えたね。
もしかして、ウスーウム王国では、そんなに重要視されて無かったの?」
「いえ、建国時からの宝物なので無碍にしていた訳では有りませんが、現在ウスーウム王国は非常に金欠状態でして、少し色を付けて購入した次第です」
「そうなんだ…………
其れって僕が行っても売って貰えるかな?」
「恐らく普通に行ったのでは難しいでしょうが、私が紹介状をご用意致しましょう」
「え?いいの?」
「ええ、ルベスタリア卿であれば適切な価格で購入して下さるでしょう。
ウスーウム王国の再建はイジャラン・バダ帝国にとっても有益な事ですから」
その後、レラーキ卿から例の箱と共にウスーウム王国への紹介状を受け取り、翌日に僕達は帝都イジャランを後にした。
“エヴィエイションクルーザー”での移動であればウスーウム王国には直ぐに着くが、一応移動時間を考慮して、“空中要塞 メタヴァース”で、各種報告を聞いて1日過ごしてから、翌日の11月3日にウスーウム王国へと向かった。
ウスーウム王国、5,000年近い歴史を持つ近隣の国々では圧倒的に最も古い国だ。
とは言え、あくまでも其れは王国の歴史であって、ずっと繁栄が続いていた訳では無い。
なんと行っても約500年前の“サードストライク”で、世界は崩壊して、国などと云う大きな組織は全て無くなったからだ。
現在の殆どの国は、“サードストライク”以降に、元々住んでいた都市を逃げ出した者達が寄り集まって出来た国だ。
しかし、ウスーウム王国は、その“サードストライク”の時も、王家が先導して国民を逃し、王都を遷都する形で国が継続している非常に珍しい国だ。
古代魔導文明時代は、殆どの王家は魔導士の家系だった為、“サードストライク”の魔導士の魔物化で、滅んでしまっているが、恐らくウスーウム王国は、敢えて魔導士の血を王家に入れなかった事で生き残ったのではないかと思われる。
そんな歴史あるウスーウム王国だが、この国は現在滅亡の危機に晒されていた。
5年前、近隣諸国で大寒波が有った。
しかし、ウスーウム王国の作物は比較的寒さに強いモノが多く、寒波を乗り越えたどころか、食料が非常に高値で売れて大儲けだった。
此れに気を良くしたウスーウム王国の上層部は、多額に資金を投じて、農奴を大量に購入して、農地を大規模拡大した。
だが、その翌年にはかなり売れていた作物が2年後には全く売れなくなった。
まあ、寒波の影響で余り美味しくも無い、寒さに強い食材を食べ続けた者達が、通常の食材が出回る様になって迄買う事は多くない。
結果、儲けた分は消え去って、寧ろ若干のマイナスになってしまった。
しかし、今年に入って、イジャラン・バダ帝国とガンヒンリン帝国の戦争の機運が高まり、またもや食料が飛ぶ様に売れた。
今回は戦争だ。
其れも大国同士の戦争だ。
1年や2年で、終わる事は無いだろうと、借金迄して、前回以上に農奴を購入し、農地の開拓も前回以上に行った。
だが、戦争が始まる前に、クーデターによって皇帝が代わり、新たな皇帝は戦争に乗り気では無い上に、“奴隷解放”を訴えている。
もしも、このまま戦争が起こらず、農奴達も全員を解放する事になれば、ウスーウム王国は大赤字で破産しかねない。
そう判断した銀行や貴族等の、ウスーウム王国に金を貸した者達がこぞって返金の要求をして来たのだ。
なので、ウスーウム王国は今、必死に借金の返済を待って貰っており、何よりも現金が欲し様なのだ。
「……初めまして、国王陛下。
僕は、ノッディード・ルベスタリア、Sランクハンターだ」
「うむ、余がウスーウム国王の国王、ベンクロー・シーン•ウスーウムである。
カルチャジェイ・レラーキ男爵からの紹介状は見させて貰った。
ルベスタリア卿は、ハンターであると同時に、歴史の研究もしており、歴史的価値をしっかりと理解されていると書かれて有った。
そして、一国に匹敵する程の財力も持っていると言う事だが、真か?」
「そうだね、歴史はそこそこ学んでる。
其れと、個人資産は、そうだろうけど、とは言え、現金は大手商会程度だと思うけどね」
「ふむ、レラーキ卿からの手紙には、貴殿に宝物庫を見せれば、価値の不明なモノすら高価なモノに変わる可能性があると書いて有ったが、貴殿はその審美眼はどの様に培ったのだ?」
「審美眼って云うのは語弊があるね。
レラーキ卿の紹介状には、『ウスーウム国王の宝物庫だったら』って書いて無かった?
僕は、賢者 ラノイツロバーの遺産を集めてるんだ。
だから、『賢者 ラノイツロバーの10人の高弟』、クラーウスとリーウムが作ったっぽい、ウスーウム国王の宝物庫だったらそういったモノが出て来るんじゃないかと思って紹介状を書いて貰ったんだよ」
「……………………ルベスタリア卿、その話しは一体何処で聞いた?」
国王らしく、威厳の有る感じだったウスーウム国王の雰囲気が急に剣呑なモノに変わる。
国王の背後の騎士達にも緊張が走り、今回も同行して来たネイザーとルーツニアスも警戒心を上げる。
「?なんの事?」
「ウスーウム王国の始祖が、クラーウスとリーウムだと云う話しだ」
「……って事は正解なの?
良かったね、ルーツニアス、クラーウスの命掛けの告白が実ったみたいで。
国王陛下、言っとくけど、誰からも何も聞いてないよ。
イジャラン・バダ帝国に有った箱も、レラーキ卿が買った箱も元々はこの国に2個づつ有ったって聞いたから、『賢者 ラノイツロバーの10人の高弟』の内2人がこの国を作ったんじゃないかと思って、其れで、この国の名前が『ウスーウム』だから、クラー『ウス」と、リ『ーウム』をくっ付けたんじゃないかと思っただけ。
ただの予想さ」
「!!レラーキ卿に売った箱が、『賢者 ラノイツロバーの10人の高弟』の証だとでも?」
「そうだよ。アレは賢者 ラノイツロバーが10人の高弟に贈った遺産の一部だよ。
まあ、魔導士の居ない現代だとただのオブジェだけど、古代魔導文明時代だったら、とんでも無い代物だね。
きっと、国がひっくり返るくらいのモノだった筈だ。
まあ、このまま、何百年も何千年も大切にしとけば、いつか魔導士が復活した時には凄い価値が出ると思うよ?」
「なに?!そんなに重要なモノだったのか?!
アレは一体、何だったのだ?!」
ウスーウム国王が、身を乗り出して聞いてくる。
もしかしたら、レラーキ卿はあの箱を二束三文で買ったのかもしれない…………
「僕は別に言っても良いけど、後ろの兵士達に聞かれても良いの?」
「ん?!ああ、問題無い。
この4人は全員、余の息子だ。
宝物庫へ行くかもしれんから、普通の兵は付けられんからな」
「そう、だったら話すけど、3つ並んだ箱の方は、古代魔導文明時代の象徴とも言える、空中都市を作る為の魔導具を小型化したモノで、もう1つの空っぽの箱は、賢者 ラノイツロバーが行った非道な実験について書かれた懺悔の書って呼ばれているモノを読み解く鍵だ」
「く、空中都市を作る?!」
「賢者 ラノイツロバーが行った非道な実験?!
そんな、バカな!!」
国王が王子だと言ったからか、其れとも驚き過ぎたからか、国王だけで無く、4兄弟もガヤガヤ言い出した。
そして、国王は、「そんな貴重なモノをあんな端た金で…………」と、ブツブツ言っている。
仕方ない、元気付けてあげよう。
「国王陛下、そんなに落ち込む事は無いよ。
さっきも言った通り、魔導士が居なくて魔導具が作れないなら、3連の箱もただのオブジェだし、賢者 ラノイツロバーの懺悔の書だって、非道な実験も魔導士が魔導具を作る為のモノだから、魔導士の居ない今は、知ったところで何の価値も無い。
幾らでレラーキ卿に売ったのかは知らないけど、歴史の研究なんてしてる人間は多く無いんだから、そもそもが、大した値段の付くモノじゃ無いよ」
「た、確かに、歴史研究をする者は多くない。
しかし、其れでも10万アルは、安すぎると思わんか?
其れも、2つで10万アルだぞ?」
「そっか、其れは随分と買い叩かれたね。
僕なら10倍以上出しただろう…………」
…………まあ、最初の1個、ビレジン親子から買った時は1個1億、併せて2億アルで買ったので、2,000倍の値段で買っている。
2,000倍と云う事は、もちろん10倍以上だ。
「そうであろう?!
くっ!!やはり、レラーキ卿は油断ならん男だ!!」
「まあ、其れは仕方ないよ、レラーキ卿も価値を知らなかったんだから。
単に僕が欲しがってたから、僕との交渉材料にしようと思って買っただけだからね。
まあ、僕はちゃんと其れ也の値段を出すよ。
其れにもちろん値段が気に入らなければ、売る必要は無いから」
「う、うむ、そうだな。
貴殿には、歴史を重んじる心が有る様だから、正しく評価して値を付けてくれそうだ。
では、早速宝物庫に案内しよう」
「…………此れはまた…………
既に大分、売っちゃったんだね…………」
「うむ、ハッキリと値がつくモノは殆ど売ってしまった。
残っているのは、用途不明のモノや、何らかの部品や故障品が殆どだ」
国王の言う通り、国の宝物庫とは思えない程、財宝の無い状態だった。
とは言え、僕の目的は、其処では無いので良いのだが、其れでも魔導具類も結構少ない。
先日見たイジャラン・バダ帝国の宝物庫と広さは変わらないが、モノは10分の1くらいしか無かった。
そんな宝物庫をウスーウム国王と並んで見て歩く。
「……国王陛下、先ずは此れと此れを売って欲しいんだけど」
「うむ、此れらはどんなモノなのだ?」
「分からない。多分、此れはモノを弾き飛ばすモノで、コッチは全く分からないけど、其れでも一応、1つ100万アル出すよ?」
「なに?!分からないモノに100万アルも出すのか?」
「分からないから、100万アルしか出さないんだよ。
もしかしたら、1億アル以上の価値が有るかもしれないし、完全にゴミになっちゃうかもしれないからね」
「な、なるほど、分かった売ろう」
「うん、ありがとう。
…………国王陛下、コッチの壊れたパネルの魔導具も100万アルで買取るよ?」
「なに?!壊れているのにか?」
「うん、コッチは、さっき話した賢者 ラノイツロバーの遺産の1つだ。
壊れてるから使えないけど、歴史的には十分に価値が有る」
「なに?此れも賢者の遺産なのか?
分かった。どうせ壊れているのだ、宝物庫で眠らせるよりも貴殿に大切に保管される方が先祖も喜ぶだろう」
…………ふっふっふ…………
ウスーウム国王は、完全に目の前の金に目が眩んで、僕が何でも無さそうなモノに次々に其れ也の値段を付けて行くから、どんどん売ってくれる雰囲気になっている。
ハッキリ言って、この辺のモノなんて、最後の2つを買う為の布石だ!!
宝物庫に入った瞬間から見えている1番のお宝。
賢者 ラノイツロバーの遺産の真骨頂、“エヴィエイションクルーザー”が2隻、宝物庫の1番奥に、檻の様な箱に入れられているのが見えているのだ!!
僕は、その“エヴィエイションクルーザー”を気にしながらも、順番に変わったモノを見つけては、次から次へと購入した。
途中で、賢者 ラノイツロバーの日記の“アーカイブボックス”や、其れとは別の“アーカイブボックス”も見付けて購入した。
恐らく、もう一方は、クラーウスとリーウムの残したモノでは無いだろうか?
そして、最後の一品、2隻の“エヴィエイションクルーザー”の下にやって来た…………
「…………本物だ。
本物の“伝説の空飛ぶ船”だ…………」
「うむ、まさしく“伝説の空飛ぶ船”だ。
しかし…………」
「……もしかして、この箱から出せないの?
確かに、扉も何も無いような…………」
「うむ、此れらは、出す事が出来ない。
その上、この檻には人が入れる場所も鍵穴や、何かしらのギミックの様な場所も何も無いのだ…………」
「…………つまりは、デッカイ置き物って事か…………
何か、此処から出せそうな伝説とか、残ってないの?」
と、言いながら、僅かでもこの檻から出せないモノか悩む素振りをする。
まあ、普通は出せない事は分かっている。
此れは、世界最強のナエラークですら出られなかった、“イモータルウォール”の檻だ。
「いや、寧ろ出せない方の伝説が残っている。
始祖が残した言葉は、
『師より預かりし未来への希望を我ら夫婦は、永遠に封印する』
と、云うモノだ。
長年、調べた様だが、全て破壊不能な板で出来ており、この檻を動かす事は出来ても、中身を出す事は不可能な様なのだ。
更に、この檻は、この宝物庫からすら出せん、城を破壊しない限りな…………」
クラーウスとリーウムは本当に完全に封印しようと思ったのだろう。
ただ、やっぱり師匠からの貰い物なので、捨てるに捨てられなかっただけでは無いだろうか。
僕は、此処に来るまでの廊下や庭の位置を思い出す。
「…………此処からだと、先ずは扉と階段を広げて、一階に上がった所の壁を壊さないと出すのは無理か…………」
「うむ、余としては、このまま此処で眠らせるよりも、其方になら売っても良かったのだが、流石にな…………」
国王陛下は、僕が諦めようとして呟いていると思っている様だが違う。
僕は、この城の何処を壊せば持って帰る事が出来るかを考えているだけだ。
「…………国王陛下、この船1隻当たり1億アル、壁や階段の修理費に1億アル、合計で3億アルで売ってくれない?」
「なに?!3億?!
いや、しかし、此処から出す事は出来ん、本当に何をやってもこの檻は壊れんのだ」
「うん、知ってるよ。
この檻は、“イモータルウォール”って云う、古代遺跡都市の壁なんかに使われているモノで、破壊不能の魔法が掛かってるから、壊す事は出来ないって。
でも、其れを差し引いても、“伝説の空飛ぶ船”には、価値が有るよ。
まあ、本当は1隻で十分ではあるけど、どうせ壁の修理代を払うなら、両方とも買い取らせて貰いたい」
「う、うむ。
貴殿が其処迄言われるのであれば、もちろん、心良く売ろう。
いつの日にか、貴殿の子孫がこの封印を解き、大空へと羽ばたく日が来る事を願うとしよう」
「はっはっ……
国王陛下は詩人だね。
でも、出来れば、僕が此れで空を飛びたいね」
…………まあ、人目に付かないんなら、この檻は僕の“千変万化改”の“イモータルデマイス”でぶった斬って、イジャラン・バダ帝国の宝物庫から貰った操作パネルを繋げば、いつでも飛べるんだけどね…………
その後、ウスーウム国王と、何処をどう壊すかの相談をして、2日後に、“エヴィエイションクルーザー”の檻を運び出す為の台車を持って来ると同時に、買取品のお金を払う約束をして、お城を後にした。
…………いやぁ〜……、其れにしても…………
「…………こんなに安く買えるなんてね…………」
ホテルに戻って、一息付いたところで、思わず声が出てしまう。
まさか、こんなにも安く買えるとは思っていなかった。
破産しそうとはいえ、相手は国王で、国の再建資金が足りずに困っているのだ。
それ也に値段を釣り上げて来たり、結構な額を吹っ掛けて来るんじゃ無いかと思っていたが、まさか、僕が一般の商人だったビレジンから2億アルで買ったモノを、たったの10万アルで売っているとは思ってもみなかった。
まあ、その情報のおかげで、かなり低い金額で済んで良かったのだが。
因みに今回の買い物は5億アルも掛かっていないが、予定では100倍以上の出費でも、色々と買い取ろうと思っていたのだ。
僕の呟きに、ネイザーが同意する。
「そうですね。
予算の1,000億アル出せば、城ごと買えたかもしれませんね。
其れにしても、ウスーウム国王の金銭感覚は、まるで庶民の様な口振りでしたね」
「だよね、幾ら質素な国とはいえ、こんなにも他の国と差が有るなんてビックリだよね」
「……恐らくですが、そもそもの金銭の基準が低いのではありませんか?
このホテルの料金も、帝都イジャランの10分の1程の値段でしたし…………」
と、ホテルのチェックインをしたリティラが言う。
そう言えば、このウスーウム王国に来てからまだ何も買って無いので国の物価に対しての感覚が無かったが、そもそもの金銭感覚が低い可能性は十分に有る。
ルベスタリア王国は王都ルベスタリアしか無く、基準がアルアックス王国と同じくらいにしているが、同じ通貨でも都会と田舎では、金銭価値が違う場合は結構ある。
特にこの辺りの通貨で有るアルは、結構広範囲で使われているので、自給自足が基本の小国では、1アルの価値が違うかもしれない。
「なるほど…………
確かに、今迄行った国は、結構大きな街だったもんね。
此れは、もしかしたら、明日は凄く良い買い物が出来るかもしれない…………」
本来なら高価な本が凄く安く買えるかもしれないし、食材も安くて良いモノが手に入る可能性も十分に有る。
其れに…………
「……明後日、ウスーウム国王にお金を払う時に、農奴を安く買い取れないか聞いてみようか…………」
「なるほど、良いかも知れませんね。
恐らくウスーウム王国の最も大きな赤字は、奴隷の価格の暴落でしょうから」
「うん、其れに放っておいたら、チパーティアム女皇帝が“奴隷解放”をしちゃってから、大量の浮浪者が出かねないからね。
まあ、食品の物価も凄く安かったら大丈夫なのかもしれないけど…………」
「正直言って、其処迄考えて行動する様な国王には見えませんでしたが…………」
「…………うん、多分、何も考えずに行き当たりばったりで行動する国王だろうね…………」
僕とネイザーのため息が、揃ってしまったところで、ペアクーレが、ビシッとネイザーを指差す。
「ネイザー、他の国の国王をノッド様と同じレベルで考えたらダメ。
ノッド様以外の国王は、全員何も考えて無いボンクラ!!」
「ペアクーレ、幾ら何でも…………」
「失礼致しました、ペアクーレ様。
ですが、僕も他国の王がノッディード様と同レベルとは考えていません。
其れでも、ノッディード様の10分の1でも知性があればと思ったのです」
…………言い出したペアクーレもだが、僕の10分の1でもって、ネイザーも大概、他国の国王を見下し過ぎだ…………
しかし、このネイザーの答えに待ったを掛けたのは、シイーデだ。
「ネイザー、ノッド様の10分の1は不可能です。
なんなら、100分の1でも、其れは立派な国王だと思います!!」
シイーデは、ネイザーよりも他国の王を見下している…………
いや、もしかして、僕への評価が高過ぎるのか?
このシイーデの言葉に、ネイザーは…………
「はっ!!確かにそうですね!!
僕が間違っていました…………」
と、項垂れた…………
いや、ネイザー、キミは別に間違って無いよ、キミの意見でも十分に他国の王を見下してるよ…………
ネイザーの反応に、ペアクーレとシイーデは満足気に頷き、リティラ、ルーツニアス、ツナフォーテ、ヴィアルトも頷いている。
…………僕は一体何を見せられているんだろう…………
まあ、全員、出身国のアルアックス王国の王族や貴族が嫌いで、実際に国王に会った事が有るのは、ネイザーとルーツニアスだけなので、まあ、見た事も無い人の評価だから、言いたい放題なんだろうが、其れにしても、酷い良い様だ…………
そんな感じで、その日は終わり、翌日には買い物をして周ったが、確かに物価が非常に安い。
食べ物に関しては、予想はしていたが、衣類や日用品、更には本や魔導具までが安い。
そりゃあ、此処で仕入れて、他国で売る行商人は大儲け…………
では無いらしい。
ウスーウム王国に隣接している国は、イジャラン・バダ帝国だけで、イジャラン・バダ帝国へ入る場合の関税が異常に高いらしい。
つまり、ボロ儲けをしているのは、イジャラン・バダ帝国そのものだった。
まあ、ウスーウム王国を完全に植民国家にしているのだろう。
…………しかし…………
僕に関税は通用しない!!
何故なら、僕は関所を通らない!!
他国での販売もしない!!
なので、安く買ったら、僕のルベスタリア王国で安く売るだけだ!!
ああ、僕はボロ儲けをするつもりは無いからね。
そんな訳で、しっかりと買い物をして、夕方には手配していた台車を引く“エアーカー”モドキがやって来た。
この台車は、“エヴィエイションクルーザー”を運び出す為のモノで、“エアーカー”モドキは、“飛行ユニット”搭載型の、“エヴィエイションカー”だ。
そして、またウスーウム王国の王城に向かい、みんなには、王城の破壊をして貰いつつ、僕は国王に、ちゃんと代金を支払った。
「……はい、確認出来ました」
と、身なりの良い4人の青年が渡した4億7,300万アルを頑張って数え終わった。
先日居た4人の王子達だ。
その間、僕は国王に取り組んでいる農作物の話しや、ウスーウム王国で買った食材の美味しい食べ方なんかを聞いて過ごしていた。
「うむ、では約束通り、持って行ってくれ」
「はい、では。
ネイザー、運び込んでも良いって伝えて来てくれる?」
「畏まりました」
ネイザーにはこのまま、現場の指揮を取って貰う予定だ。
今日は、普段一緒に行動する事の少ない、シイーデとツナフォーテが僕に着いている。
「ところで、国王陛下、街で聞いたんだけど、農奴がとても余ってしまっていると云うのは本当なの?」
「うむぅ〜……
そうなのだ、イジャラン・バダ帝国とガンヒンリン帝国の戦争に備えて食糧を大量に作ろうとしたのだが、戦争が起きない可能性が高いらしくてな、拡大した農地での作物が余ってしまいそうなのだ。
そうなれば、此れ以上開拓しても仕方ない、なので農奴達も仕事が無くてな…………」
「なるほどね、確かに、チパーティアム女皇帝の雰囲気的に、戦争は望んで無いかもね。
其れに、“奴隷解放”も必ずやるって言ってたしね」
「!!やはり、チパーティアム陛下は“奴隷解放”を行うのか…………
そうなれば、我がウスーウム王国は…………」
「別に“奴隷解放”になっても、農奴を買ったのは国王陛下なんだし、普通に国民として受け入れれば良いんじゃない?」
「いや、我が国には其処迄の仕事が無いのだ。
故に、農地の開拓が終われば、また奴隷として奴隷商に売る予定だったのだが、“奴隷解放”の機運が高まっている現在、奴隷の価格が暴落していて手放そうにも買い手が無いのだ。
此処で“奴隷解放”宣言が成されれば、我が国は職の無い者が溢れ、大いに乱れる事となってしまうだろう…………」
…………そうだろうね、分かってるよ。
ちゃんと自分達で、そう云う認識を持っているかどうかの確認の為に聞いただけだからね。
「なるほど、其れは大変だね…………」
そう言って、僕は少し考える素振りをする。
完全に素振りだけだ。
何故なら、こう云う流れになると分かっていて話しを振ったんだから…………
「だったら、国王陛下。
もしも、2つの条件を呑んでくれるなら、現在の買取り価格じゃ無くて、現在の販売価格の方で買い取っても良いよ?」
「なに?!本当か、ルベスタリア卿!!」
「うん、ちゃんと条件を呑んでくれたらね。
1つ目は、僕が自分の目で見て選んだ奴隷しか買取らない事。
もう1つは、僕が買取った事を秘密にする事だ。
ハッキリ言って、今の状況的に奴隷を売り込める国は、ガンヒンリン帝国しか無い。
でも、イジャラン・バダ帝国に属するウスーウム王国としては其れは出来ないでしょ?
僕は何処の国にも属していないから、どうにでもなるけど、今、僕がガンヒンリン帝国に奴隷を買って向かったって知られたら、僕がイジャラン・バダ帝国と敵対して、ガンヒンリン帝国に協力してるみたいに見えちゃうから、其れは僕としては困る。
僕は何処の国にも味方はしないけど、何処の国の国民にとっても味方であるハンターだからね。
だから、絶対に秘密にしてくれるなら、其れ也の人数を買い取るよ?」
「…………分かった。
他言は絶対にせぬと誓おう。
しかし、農奴は3,000人以上居るが全員と会うのか?」
「ああ、そのくらいなら問題無いよ。
ただ、買い取る奴隷をその場で1人1人金額と一緒に言うから、誰かその価格で売るかどうかの判断をして欲しいんだけど?」
「うむ、では息子の1人を着けよう」
「ありがとう。じゃあ、現在の販売価格だけど、だいたいこんな感じだけど大丈夫?」
そう言って、僕は先日自分が買った奴隷の価格を10人分、性別や年齢がバラバラになる様に記入した紙をウスーウム国王に見せる。
「…………う〜む〜………
余が購入した時に比べると、5分の1程か…………
いや、しかし其れでも有難い。
出来るだけ多く買い取って貰いたい」
「うん、分かったよ。
ただ、前以て言っておくと、僕は能力よりも性格重視だから、犯罪奴隷が多めに残っちゃうかもしれないけど大丈夫?」
「ああ、問題無い。
そもそも、全員を野放しにする可能性すらあったのだからな」
「分かった、じゃあ、今から見に行ってみようか。
多分、1日で全員は無理だろうから、早めに始めよう」
「分かりました。
では自分がご案内します」
こうして、3,000人の集団面接を行ったのだが…………
まあ、なんと言うか、ウスーウム国王は、完全に奴隷商人に騙されている…………
農奴と言いながら、奴隷は女子供ばかりだったのだ…………
僕としては、犯罪奴隷少な目で口減らしに売られた者が多かったので良かったが、またルベスタリア王国の平均年齢が下がって、女性比率が上がりそうだ…………
結局、3,000人の内、1,700人程を購入して、“エアーバス”で何十往復もしては、深夜こっそり“エヴィエイションクルーザー”で運ぶ事を繰り返して、3日掛けて、購入品と奴隷を運び出す事が出来た。
こうして、僕達は、色々と手に入った楽しいウスーウム国王旅行を終えたのだった…………




