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箱庭の王様  作者: 山司
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第20章 帝国 4

第20章

帝国 4





▪️▪️▪️▪️





「…………ルベスタリア卿、私の申し出を受けて頂き感謝致します」


10m四方くらいの何も無い訓練所で、全身黒づくめの男、カルチャジェイ・レラーキ男爵は丁寧に頭を下げた。


まあ、顔も目の部分以外は隠れているので、礼儀がなっていないのだが…………



「やあ、レラーキ卿、さっきぶりだね。


因みに、対価の賢者 ラノイツロバーの遺産は元々持ってたの?

それとも、わざわざ僕と戦いたくて手に入れたの?」


「後者です。

とは言え、元々持っている者を知っていたから購入して来ただけですが」


「そうか、そんなに僕がキミの監視に気付いてた事がプライドを傷付けちゃったかな?」


「はっは………

確かにプライドも傷付きましたが、貴殿を見た瞬間に、絶対に勝てないと感じてしまいました。


しかし、私もこのイジャラン・バダ帝国を影から支える身。

直接対峙して、貴殿が万が一、我らが帝国の敵となってしまった場合の糸口を掴んでおきたいと考えた次第です」


「なるほどね、随分と正直だけど、本当は“強いヤツと戦ってみたい病”なんじゃないの?」


「はっはっは…………

もちろん、其れも大いに御座いますな。


私も既に最盛期からの下り坂に入っておりますので、今の内に強い者と戦っておきたいと思っております。

どうぞ、胸をお貸し下さい」



そう言って再度頭を下げるレラーキ卿。

其処に、唯一まだ名前を知らない、城門で有った大男が、多数の武器の入った箱を持って来た。



「ルベスタリア卿、此方の武器は全て刃引きがしてありますので、お好きなモノをお使い下さい」


「……刀は無いんだね。

じゃあ、この短剣を借りようか」


僕がそう言うと、レラーキ卿が、「少々、お待ち下さい」と言って、女皇帝に話し掛ける。

すると、女皇帝は少し慌てた様子で、2、3やり取りをしてから、チャーレスに何かを伝えて、チャーレスが駆けて行った。


レラーキ卿と女皇帝のやり取りを見る限り、どうやら女皇帝はレラーキ卿を慕っている様だ。

もしかしたら、レラーキ卿が女皇帝の家庭教師的な存在で、女皇帝は弟子の様な感じかもしれない。



暫くすると、チャーレスが一振りの刀とポーションっぽい瓶の入った箱を持って戻って来た。

そして、瓶を入り口付近に置くと、その刀を僕に手渡して来た。

其処に、女皇帝とレラーキ卿もやって来る。



「ルベスタリア卿、その刀は、前々皇帝、つまり私しの父の愛用していた武器です。

もちろん、刃引きはされていませんので、出来ればレラーキ卿を殺さない様に手合わせをお願い致します」


「其れは別に良いけど、僕はこっちの短剣でも問題無いよ?」


僕の言葉に今度はレラーキ卿本人が、


「いえ、出来れば万全の状態のルベスタリア卿と手合わせをお願い致したいのです」


と、言って来た。

このレラーキ卿、恐らく本当に強い。

ルベスタリア王国でも50位以内には入れるんじゃないだろうか。


とは言え、僕の敵では無いが、渡された刀はかなり業物っぽいので使ってみたくもある。

少し、考えたが、万が一の対策でポーションも持って来た様なので、この刀を試す事にした。



「分かった、良いよ此れで戦っても」


そう言って少し刀を抜いてみる。


完璧な等間隔の互の目の乱刃が美しくも猛々しい刀だ。

そして、優秀な魔導具でも有る。


“抜刀刃 真風”、抜刀術の速さが速ければ速い程、強力な真空波を飛ばす事が出来る魔導具だ。


僕の“千変万化改”も斬撃を飛ばす事が出来るが、もちろん、音声で命じなければ発生しない。


しかし、この“抜刀刃 真風”は抜刀術で高速で刀を抜かなければ真空波が発生しないが、その代わりに命令しなくても真空波を飛ばす事が出来る。




「ねぇ、皇帝陛下。

ちょっと、威力を試したいんだけど、この部屋の下って地下室が有ったりする?」


「いえ、恐らく何も無いと思います。

シェローハン宰相、この部屋の地下には何もありませんよね?」


「はい、御座いません」


「じゃあ、ちょっと床を斬ってみても良い?」


「ええっと、刀が折れたりは致しませんよね?」


「ああ、其れは大丈夫だよ、もしも折れたら言い値で買い取るよ。

ただ、床の傷は責任持てないけど」


「床の傷は問題ありません、此方からお願いした手合わせですので」


「じゃあ、ちょっとその辺の床を斬るから、ネイザーとルーツニアスは横から頑張って見てみて。


行くよ?」



僕は腰を落として左腰の辺りに“抜刀刃 真風”を持って来ると、左手を鯉口に、右手を柄に持って来ると其処で一旦ピタリと止まる。


ゆっくりと息を吸って、吐き出す瞬間に一気に刀身を抜き放つ!!


威在火星流いざいかせいりゅう兀咬コツゴウ!!」


一拍遅れて、刀が抜き放たれた、キーーーーンと、云う澄んだ音と、ズバァァァンと、云う床の石畳が斬り裂かれる音が後からやって来た。


どうやら、この“抜刀刃 真風”の真空波は、刀身と同じ長さと幅で放たれる仕様の様で、床には刀身と同じ長さの傷が出来ている。



「「「な?!」」」


イジャラン・バダ帝国の5人が声を揃えて驚いた後、女皇帝とレラーキ卿は走って床の傷を見に行く。

そして…………



「そんな?!この穴は一体何処まで?!」


「信じられない…………

此れが、“抜刀刃 真風”の真価なのか…………」


2人して床に出来てしまった穴を覗き込むと、固まってしまう。

残る3人も同様に穴を覗いては自分の目を疑っていた。



「どうだった?ネイザー、ルーツニアス」


「申し訳ありません、全く見えませんでした」

「私は飛んで行った真空波は見えましたけど、ノッド様の動きは見えませんでした」


「そっか、2人ですら、今くらいのレベルでも、まだ見えないんじゃ、SS魔獣はまだ無理か」


「申し訳ありません、精進します」

「はい、もっと頑張ります」


「うん、頑張ってね。


とは言え、この威力じゃあ建物を貫通しそうだから、真空波は使えないな。

まあ、普通に使おうか。


じゃあ、レラーキ卿、始めるかい?」



僕の作った穴を取り囲んで、あーだこーだ言っているレラーキ卿に声を掛けると、ハッとして、此方に来た。

どうやら、僕との手合わせの事を忘れて、先生モードで解説していた様だ。

やっぱり、女皇帝はレラーキ卿の弟子っぽい。



「失礼致しました。

宜しくお願いします」


「うん、で、ルールはどうするの?」


「宜しければ、帝国の訓練法で用いられる、『10分間参ったと言う迄戦い続ける』ルールでお願いしたいのですが」


「…………其れって、殺したり気絶させたら負けって事?」


「いえ、此れは『明らかに相手の方が強くても、諦めなければ負けない』と、云う事を教える時に行われる訓練で、基本的には勝者が出ない様に行われる手合わせです。


ハッキリと申し上げて、1本勝負では私が何も出来ずに終わってしまう可能性が高いので」


「なるほど、少しでも僕の手の内を暴きたいって事か。

まあ、良いよ、其れで行こうか。


じゃあ、審判も要らないよね。

始めよう」


「では、参ります!!」


言うが早いか、レラーキ卿は、地面に貼り付く様な走り方で、一気に迫って来ると短剣で僕の足を刈りに来る。


この動きは良く知っている。

ルベスタリア王国の諜報局のメンバーもイカルツウィンとデンツウィンから習って使う動きだからだ。


この攻撃は、後退すれば追い続け、飛び上がれば横凪の攻撃が垂直に軌道を変え、攻撃を防ごうとすればもう一方の手に隠し持った暗器で攻撃して来ると云うモノだ。


対処方法は2つ、1つは左右に避ける。

そうすると、武器を投擲して来るので、其れを更に避ければ相手の攻撃手段を減らせる。

もう1つは、前進して先に攻撃を当てて倒してしまう。

しかし、此れには問題が有る。

最も攻撃し易いのは敵の頭なので、斬りつけても、蹴り上げても相手を殺しかねない。



仕方ないので、僕は右に避けて武器の投擲をさせる事にした。


予想通り、短剣を投擲して来たので、それも右に避けて、更に隠し持っていたナイフも投擲して来たので、其れも右に避けて僕の位置がレラーキ卿の真後ろになった所で、靴の踵からも針が飛んで来たのでまたもや右に避けて、するとまた隠しナイフが飛んで来たのでまた右に避ける。


ついでなので、そのまま元居た正面まで戻った所で、レラーキ卿の蹴りが飛んで来た。

先程の低い姿勢から飛び上がる様な上段の後ろ回し蹴り。


此れも諜報局のメンバーがよく使う攻撃だ。

蹴りを止めれば、先程の針の暗器が飛んで来て、避けると反対の足の二段回し蹴りが来る。


此れの対処は簡単だ。


僕は、ルベスタリア王国での訓練時と同じく、足を斬り飛ばして、やって来た二段目の回し蹴りの足も斬り飛ばした。



「先生!!」

「「「レラーキ卿!!」」」



思わず大声が出てしまった女皇帝達に比べ、まあ、見慣れているネイザー達の対応は早い。

ネイザーが直ぐにポーションの瓶を取りに動いて、ルーツニアスは倒れたレラーキ卿に駆け寄る。


ネイザーが投げたポーションの瓶をルーツニアスがキャッチして、直ぐに斬り飛ばされた足を元の位置にして、ポーションを掛ける。


そして、ネイザーが追加で持って来たポーションをレラーキ卿の覆面を剥いで口に突っ込んだ。


ネイザーとルーツニアスの余りの処置の速さに、女皇帝達だけでなく、レラーキ卿本人も呆気に取られていたが、直ぐに我に返って、



「素早いご対応、感謝します」


と、軽く頭を下げる。

ルーツニアスは一つ頷いて、両足がキチンとくっ付いている事を確認してから、ネイザーと2人、元の見学していた位置に戻った。


其処に、女皇帝達が駆け寄って来る。



「……あの、先生の、いえ、レラーキ卿の怪我は大丈夫でしょうか?」


「はい、問題無く繋がったので大丈夫です。

このまま、立ち会いも続行出来ると思います」


「え?!続行?!」


「?10分間戦うのでは?」


「いえ、でも、その今、大怪我を…………」


「あの程度なら大丈夫です。

直ぐに繋げたので、大した出血はしていませんから」


「あの程度?!

両足が斬れ飛んだのに?!」


「訓練中に手足が斬れるなんて、良くある事です。

その為の怪我回復ポーションでしょう?」


「「「……………………」」」



ルーツニアスの言葉に女皇帝達が完全に固まってしまっている。


この辺りはちょっと、僕の教育が良く無かったかもしれない。

ルベスタリア王国での訓練では、B級以上の代理官にとって、手足が斬れるなんて事は日常茶飯事だ。

怪我回復ポーションも湯水の様に使って訓練している。


しかし、一般的な場に於いて、ポーションは非常に高価なモノで、緊急時の保険の様な存在だ。

今、この場に持って来たのも、僕が真剣を使うので、もしもの時の回復の為に持って来たに過ぎない。


ネイザーはその辺りの事も分かっている様で無言を貫いているが、接近戦主体のルーツニアスは普段から、当然の様にポーションを飲みまくっているので、全く自覚が無い様だ。



ルーツニアスとチパーティアム女皇帝の会話を聞いて若干驚いた顔をしていたレラーキ卿だったが、直ぐに気持ちを切り替えた様で、先程投擲した短剣を拾いに走る。


固まっていたイジャラン・バダ帝国の面々も、レラーキ卿が動き出した事で、ハッとして僕達の方に視線を戻す。



短剣を拾ったレラーキ卿は、今度はゆっくりとした摺り足で、徐々に近付いて来た。

そして、恐らく僕の間合いと判断したっぽい位置でピタリと止まった。


…………残念ながら、その位置は僕の間合いでも何でも無い。


そもそも、この10m四方しか無い狭い空間では、何処に居ても僕が一足飛びで届く距離だ。



レラーキ卿は僕の動き出しを警戒しつつ、刀を持たない僕の左側へとゆっくりと回って行く。

僕はその動きを目で追うだけで、レラーキ卿が動き出すのを待ち、動かない。


レラーキ卿は、僕の視界から外れて、左斜め後ろ。

僕の持つ刀から最も遠い位置になると、一気に距離を詰めて来た。


短剣に刃は無いが、僕の心臓を後ろから突く様に迫って来る。


僕は後ろを振り向きもせずに、左手に持っていた鞘を左斜め後ろに突き出す。



ボキン!!!!


と、大きな音がして、レラーキ卿が吹き飛んで行く。


僕の突き出した鞘がレラーキ卿の突きを放っていた右肩に突き刺さって、レラーキ卿が吹っ飛んだのだ。


その衝撃でレラーキ卿の肩が折れて大きな音が響き、


ドゴン!!!!


と、レラーキ卿が壁にぶつかって、またもや大きな音がした。


そして、レラーキ卿が壁にぶつかった瞬間には既にネイザーとルーツニアスが動いており、またもやレラーキ卿の覆面を剝いで口にポーションを突っ込む。


さすがに今度は驚きながらも、ルーツニアスに、「すまない」と、一言言っていた。

立ち上がるレラーキ卿を見て、ネイザーが、


「ノッディード様、レラーキ卿。

怪我回復ポーションはあと1本しかありません、お気をつけ下さい」


と、言う。



「レラーキ卿、まだ半分以上時間は有るけど、どうする?」


「……残念ですが、其れでは最後の一合をお願い致します。

…………参ります!!」



真っ直ぐに走って来たレラーキ卿は、僕のかなり手前で飛び上がる。

そして、天井を蹴って、突っ込んで来た。


前から、後ろからと来て、最後は上からの様だ。


とは言え、本来なら自分よりも速いと分かっている相手に対して、空中からの攻撃は悪手だ。

簡単に避けられるのは目に見えている。


と、なれば避けられた後、防がれた後に対しての追撃こそが本命。

そして、恐らく本命は、アレだろう。

せっかくなので、性能を見せて貰おう…………



僕は、後ろに下がって、飛来して来るレラーキ卿の攻撃を避ける。

レラーキ卿はまるでバウンドする様に着地と同時に跳ね上がって、僕へと追撃を仕掛けて来た。


その攻撃に対して僕は後方にジャンプして逃れ様とした。


其処にレラーキ卿の本命の攻撃が来る!!



「“バインダップパイソンスキン”、捕らえろ!!」


突き出された左腕から、レラーキ卿の命令に従って、巻かれていた布がまるで生き物の様に、畝りながら僕へと迫って来る。


空中に居る僕には、この追尾して来る攻撃から逃れる事が出来ない!!


と、普通ならなるのだろうが、残念。

この後方へのジャンプはこの攻撃を釣る為のモノだ。


僕の凄メガネは、立ち会った時からこの左腕の魔導具を見破っていた。

最後のタイミング迄、魔導具を持っている事自体を隠していた様だが、そもそも、ルベスタリア王国は魔導具だらけで、多くの代理官達が、色々な魔導具を使うので、魔法を用いた攻撃が来るのが通常だ。


威在火星流いざいかせいりゅう十乙トイツ…………」


僕は迫り来る黒い布を本気で滅多斬りにして、粉々にした後で、スッと着地した…………






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