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箱庭の王様  作者: 山司
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第20章 帝国 3

第20章

帝国 3





▪️▪️▪️▪️





草木も眠る丑三つ時…………


まあ、僕にとっては、まだまだ、長い夜の途中でしか無い。

僕には愛する女性がいっぱい居るので、そんなに早く寝る事は毎晩出来ないのだ。


そんな、夜の途中にも関わらず、無粋な客がやって来た。



この客達も運が悪い、今僕と一緒にベッドに居たのは、ペアクーレとリティラだ。

2人は、途中で邪魔が入った事でとっても怒っている。

そして、結構容赦無い性格だ。


5人の客は一瞬で、四肢をあらぬ方向にひん曲げられていた。


ついでに言うなら、ペアクーレもリティラも即座にシーツを破って身体に巻いたので、彼らが見たのは僕の裸だけと云うオマケ付きだ。



其処に、落ち着いた感じでノックの音がする。



「ノッディード様、賊でしょうか?

尋問は此方で致しましょうか?」



…………まあ、僕は無事ではあるが、国王が暗殺者に襲われた時の臣下の声掛けは此れで合っているのだろうか?



「…………うん、じゃあネイザー、其方で聞いといてくれる?」


「畏まりました。

ご報告は明日で問題ありませんか?」


「うん、明日で問題無いよ」





エスローバグ・スー・イジャルミア公爵、現皇帝 チパーティアム・ヴァー・イジャランの叔父に当たる人物だ。


彼はチパーティアムの父の弟に当たり、前皇帝 ダトプラー・ヴァー・イジャランが皇帝となった時に真っ先に帝位継承権を返上して、公爵の地位を得た人物だ。


公務としては軍財大臣と云う、まあ、軍の金を管理するポジションに着いている。



このイジャルミア公爵は怯えていた。

理由はチパーティアム女皇帝が兄弟を皆殺しにしたからだ。


もちろん、殺されたのは帝位継承権を持っている者だけで、既に返上した者は手に掛けて居ない事は分かっている。


しかし、其れでもいつ自分の命が狙われるかと、戦々恐々の日々を送っていたのだ。

何故なら、彼は前皇帝派で、今回起こったクーデターに関しては日和見を決め込んで、一切現皇帝に協力しなかったからだ。


自分を役職から外すよりも殺す方が早いと判断されれば殺されてしまう。



なので、イジャルミア公爵は、身を守る為に常に周囲の情報を集めていた。


そんな中、Sランクとは言え、一介のハンターに皇帝が直接会うと云う情報が入った。

イジャルミア公爵は焦った。

此れは自分を殺す為の依頼をしているのでは無いかと。


その予想を裏付けるかの様に、イジャラン・バダ帝国で最も優秀な暗部が極秘命令でそのハンターに張り付いた。

イジャルミア公爵は、皇帝が自分をハンターに殺させて、そのハンターの口封じの為に、その暗部を付けていると考えた。



しかし、彼もバカでは無い。

もしも、全く違う理由だった場合には、自分が皇帝に対して叛旗を翻した事になってしまう。


なので、自分の手勢の暗部にそのハンターを誘拐させて、話しを聞こうとしたらしい。



で、そのハンターは言うまでも無く、僕だ。



「…………なるほどね。

まあ、状況が状況だから、気持ちは分からなくも無いけど、相手が悪すぎだったね。

もうちょっと、僕の事を調べてからにすべきだったよね」



僕はイジャルミア公爵邸の応接室で、昨日教わった、イジャラン・バダ帝国の作法に則って、自白剤入りの紅茶を飲んだイジャルミア公爵から一通りの話しを聞いた。


まあ、暗部を仕向けて誘拐なら、無茶苦茶なヤツでは無さそうだ。



「で、僕はチパーティアム女皇帝に、ガンヒンリン帝国の情報を売っただけなんだけど、そんな僕を誘拐しようとした謝罪はどうやって行うのかな?」


「金を払わせて貰う。

軍の金を着服しているから、貯金はかなり有る。

命だけは助けてくれ。


足りなければ、幾らでも軍の金を持って来る。

だから、命だけは助けてくれ」



自白剤、コワ!!

聞いて無い、横領まで話しちゃったよ。


其れにしても、このオッさんは、どれだけ死にたく無いのか…………


このオッさんの役職的に、このオッさんの采配次第で、軍の装備が変わって、何万人もの命が動く筈なのに、自分の命への執着が半端ないな。



…………このオッさん、何かに使えないかな…………



「…………イジャルミア公爵、軍は結構奴隷を買ってるよね?

あんたの名前を出せば、奴隷商は大体は言う事を聞くの?」


「ああ、ワシの名前を出して逆らう奴隷商は居ないだろうが、メーチャ奴隷商会だけは前皇帝陛下の直轄だ」


「だったら、僕に最大限の便宜を図って、僕に奴隷を売った事も絶対に漏らさない様にって事を一筆書いてよ。

もちろん、分かってると思うけど、キミも絶対にこの文書を書いた事を言っちゃダメだよ、命が大切ならさ」


「分かった。

言う通りにする」



こうして、僕は軍財大臣お墨付きの証文を手に入れた。

そして、その足でそのまま奴隷商会を梯子して回った。


もちろん、新たな国民を集めるのが目的だ。


奴隷商達も“奴隷解放”を訴えているチパーティアムが皇帝になった事で、現在奴隷を買う者が殆ど居ない上に、もしも奴隷を全員手放す事になったら財産の殆どを失う様なモノなので、非常に安く売り込んで来た。


とは云え、誰でも彼でも購入する訳では無い。


1人1人に、名前と年齢、何故奴隷になったのか?文字の読み書き計算は出来るか?得意な事は何か?を順番に聞いて行く。


まあ、いつもの如くただ聞いているだけだ。


どんな名前で、何歳だろうと、どんな理由で奴隷になっていようと、読み書き計算が出来ようと出来まいと、どんな事が得意であろうと、採用基準には何の関係も無い。


僕が話してみて、信用出来るかどうかだけだ。


やはり、戦争に向けての奴隷の購入が未だに尾を引いていて、若い男性は少ないが、ルベスタリア王国の平均年齢の低さや、女性比率の高さは今更なので気にしてもしょうがない。



各店舗で、購入する者を決めてから、購入する奴隷を風呂に入らせて衣服を購入させる様に指示をしては、次の店舗に向かう事を繰り返した。



そんな中、彼と出会ったのだ…………





5軒目の奴隷商会に入って、奥の商品達が居る部屋へと案内されて直ぐの事。


20歳くらいの金髪金眼の男性が僕を見た瞬間に驚愕の表情をする。

そして、直様、跪いた。


僕はこの男性に見覚えが無い。

しっかりと思い出そうとしても、記憶には居なかった。


しかし、僕が近付いて行くと、



「ノッディード様。

この様な形でお会い出来るとは思っていませんでした」


と、言った。


僕の名前を知っていると云う事は、僕を知っているのだろう。

僕は此処の店主にもノッドとしか名乗っていないので、店主がこっそりと教えた訳でも無い。


そして、驚愕の自己紹介をして来た。



「お初に御目に掛かります。

オレの名は、ヴァンツァー。


もう1人のエルヴァです」


と…………





ヴァンツァーに話しを聞きたいのは山々だったが、生憎と僕はイジャラン・バダ帝国に長居する訳にもいかないので、一旦は、他の奴隷達と一緒にルベスタリア王国に向かって貰う事にした。


そして、ヴァンツァーに会った翌日、僕は約束を守って、再度、イジャラン・バダ帝国の帝城に来ていた。

前回と異なり、城門で声を掛けるとチパーティアム女皇帝の恋人、チャーレスが迎えにやって来た。


チャーレスの案内の下、前回同様の布陣で、ネイザーとルーツニアスを連れて城の廊下を歩いていると、ふと、壁際に立つ門番と同じフルプレートを着込んで顔まで隠した兵士の視線に気付く。


この男は…………



「…………やあ、今日は城内の警備なのかな?」


「…………まさか、お気付きになられるとは。

ご挨拶させて頂きます、ルベスタリア卿。


私は、チパーティアム・ヴァー・イジャラン皇帝陛下の直属、カルチャジェイ・レラーキ男爵です。

以後御見知り置きを」


「じゃあ、一応、初めましてレラーキ卿。

僕は、ノッディード・ルベスタリアだ。


おっと、チャーレスさん悪いね、行こうか。

それじゃあね、レラーキ卿」



カルチャジェイ・レラーキ男爵、彼は先日、チパーティアム女皇帝の命令で僕を監視していた、イジャラン・バダ帝国の暗部ナンバー1の男だ。


まさか、暗部のナンバー1を城の警備にまで使っているとは、ちょっと働かせ過ぎでは無いだろうか。

其れに、まさか偶然出会うなんて…………



「ねぇ、チャーレスさん。

レラーキ卿って、普段から城の警備までやってるの?」


「いいえ、恐らくですが、ルベスタリア卿がいらっしゃったと聞いて会いに来られたのでしょう。

御自分の監視に気付かれていたと聞いて驚いておられましたから」


「…………ああ、なるほどね。

ちゃんと、手ぐらいは振ってあげたら良かったね」



どうやら、彼の暗部ナンバー1のプライドを傷付けたらしい。

本当に、気付いたのか試す為に、わざわざ一般兵の格好で立っていた様だ。


そうこうする内に、前回と同じ応接室に通されて、「少々お待ちください」と言ってチャーレスは出て行った。


今日は、前回女皇帝と入れ替わったメイドが最初から居る。

まあ、多分このメイドも皇帝直属の暗部なのだろうが…………


そして、しばらくすると、女皇帝が前回と同じ4人組で入って来た。



「…………お待たせ致しました、ルベスタリア卿。

わざわざ、ご足労を頂き有難う御座います」


「いや、今日は此れを渡すだけのつもりだったから、わざわざ皇帝陛下が来るとは思って無かったよ。

僕が自分で来た所為で逆に手を煩わせちゃったかな?」


「いいえ、お越し頂けて良かったです。

この度は、我が叔父、エスローバグ・スー・イジャルミア公爵がご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」



そう言って頭を下げる、チパーティアム女皇帝。

前回もそうだったが、この皇帝は結構簡単に頭を下げる。


まあ、『謝って許して貰えるならタダだ』と云う雰囲気が隠し切れていないが…………



「いや、其れについては、別に皇帝陛下が謝る事は無いよ。

僕は1ハンターとしてこの国に来てるんであって、親善大使として来てる訳じゃ無いから、イジャルミア公爵の責任はイジャルミア公爵に取って貰ったから」


「御心遣い感謝致します。

では、早速、資料の方を拝見させて頂いても宜しいでしょうか?」


「うん、どうぞ。

其れはコピーだから、そのまま上げるよ。


僕の希望としては、もしも、イジャラン・バダ帝国で薬の開発なんかが出来たら、出来るだけ、庶民でも買える金額にして欲しいって感じだけどね」


「…………分かりました。

研究費用の採算を取らない訳には行きませんが、もしも、薬の開発に成功した場合でも無闇に利益を取る様な事はしないとお約束致します」


「うん、其れで良いよ。

因みに、何か聞きたい事があれば、今ならタダで教えて上げるけど?」


「一通り目を通すまで、お時間を頂いても宜しいでしょうか?」


「うん、構わないよ。

ねぇ、キミ。

こっちのネイザーとルーツニアスにもお茶を貰える?

ネイザーとルーツニアスも座って待ってなよ」


僕がそう言うと、ネイザーとルーツニアスは、「畏まりました」と一言言って直ぐに僕の左右に座った。


其れを見て、イジャラン・バダ帝国の面々は非常に驚いた顔をする。

まあ、彼らからすれば、貴族である僕の横に使用人が平気で座った様に見えたからだろう。


ただ、その様子に驚きは有っても注意は特に来なかった。

僕がハンターをしていて、この2人はハンターとしてのパーティーメンバーでも有るのだろうと思ったんじゃないだろうか?


暫く、女皇帝とシェローハン宰相、チャーレスが資料を順番に読んで行き、そのまま少し話し合い、質問タイムが始まった。



「…………お待たせ致しました。

では、質問させて頂きます。


此方の資料では、汚染された魔獣の見分け方についての記載が無かったのですが、ルベスタリア卿は何か対策をされているのでしょうか?」


「ああ、ちょっと曖昧だから、研究資料としては書いて無いんだけど、汚染された魔獣の肉はただ焼いたり茹でたりしただけで、味付けが薄いと、ちょっとだけ不味いんだ。

だから、食べたモノが不味かったら、状態異常回復ポーションを飲む様にしてるよ。


まあ、単純に料理自体が不味い場合もあるだろうけどね」


「なるほど…………

しかし、その対策では国として行う事は出来ませんね…………」


「まあ、ポーションは高いし、かと言って値段を下げるのも難しいしね。

だから、僕個人としても、薬が開発される事を期待してるよ」


「そうですね、其れしか無さそうです。


では、次の質問ですが、この病いの原因の“女王鬼の髪の毛”は、まだお持ちでしょうか?

もしもお持ちであれば、譲って頂く事は可能でしょうか?」


「残念ながら、手元には無いね。


ただ、魔都 ウニウンの玉座の間には、まだ残ってる可能性も僅かには有ると思うよ。

実験結果に有る様に、強力な酸で無いと溶かせ無かったから、僕が倒す以前の髪の毛が玉座の間に落ちてるかも知れない」


「そうですか、此方も現状では強力な兵を、今直ぐに調査に向かわせる訳にはいきませんから、アルアックス王国から仕入れた肉の調査しか出来そうに無いですね。


では次の質問ですが、この研究で以前仰られていた様に、発症前なら状態異常回復ポーションで治るとなっていますが、此れは、状態異常回復魔法の魔導具では治る可能性は低いでしょうか?」


「いいや、其れは分からない。

僕は状態異常回復魔法の魔導具を持って無いからね」


「なるほど、で、あれば試してみる価値はありそうですね。

もしも、其れで治るならば、全国民に実施出来れば…………」


「因みに、その状態異常回復魔法の魔導具の効果はポーションに比べてどれくらい違うの?」


「残念ながら、ポーションで云うならば、下級から中級くらいの効果です。

しかし、ポーションと違って、消費が無いので無制限に使う事が出来ます」


「そうか…………

じゃあ、試してみる以外は無いね。


状態異常の鑑定をする魔導具は有るの?」


「はい、御座います。

兵の中にも数名、既に病いの毒素に侵されている者がおりましたので、ポーションを与える前に試してみようと思います。


結果をご報告致しましょうか?」


「いや、僕も状態異常回復魔法の魔導具を手に入れたら、その時は自分で実験するから良いよ。

回復魔法系の魔導具は今の時代のハンターには中々手に入らないからね」


「確かに、既にどの古代遺跡都市でも回収されているでしょうからね。

其れに、持っている者は絶対に手放さないですから、オークションなどでも出回る事は無いでしょうし…………」


「其れより、他に質問は無い?」


「はい、質問は以上です、有難う御座います。


ところで、ルベスタリア卿。

1つ不躾なお願いが有るのですが、もし、宜しければ、カルチャジェイ・レラーキ男爵と一度御手合わせ頂け無いでしょうか?」


「ハンターの僕に手の内を晒せって事?

言っておくけど、この前の情報料以上の対価を要求するよ?」


「ええ?!前回以上の対価ですか?!」


チパーティアム女皇帝は慌ててシェローハン宰相を見る。

シェローハン宰相も、ちょっと動揺しているが、僕の方を見て本来なら女皇帝が話す予定だったであろう続きを言った。



「ルベスタリア卿、実は対価に関しては、レラーキ卿が自分で準備をしておりまして、前回お選びになられた、賢者 ラノイツロバーの遺産と仰られていた3連の箱とオリハルコンの箱を見付けて来ているのです。


陛下はあくまで、レラーキ卿の仲介としてお話しをさせて頂いただけでして…………」


「なるほど、イジャラン・バダ帝国としてじゃなくて、レラーキ卿が個人で僕と手合わせしたいって事か。


其れなら良いよ。

但し、皇帝陛下もその手合わせを見たいなら見学料を支払って貰うけどね」


「…………シェローハン宰相…………」



チパーティアム女皇帝が、シェローハン宰相を縋る様な目で見ている。

女皇帝は、こう見えて兄弟達を自分の手で全員暗殺する程の武闘派だ。

僕とカルチャジェイ・レラーキ男爵の試合が凄く見たそうだ。


「はぁ〜……

分かりました。


ルベスタリア卿、宝物庫の魔導具1点で、我ら4人の見学料で、如何でしょうか?」


「分かった、其れで手を打とうか」



こうして、僕はイジャラン・バダ帝国の暗部ナンバー1、カルチャジェイ・レラーキ男爵と対峙する事となった。


もちろん、見学料は前払いで、前回諦めた、何の効果か分からない腕輪の魔導具を貰った。


そして、向かったイジャラン帝城内の屋内訓練所。

其処には、全身黒づくめの男性が1人佇んでいた…………





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