表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の王様  作者: 山司
96/144

第20章 帝国 2

第20章

帝国 2





▪️▪️▪️▪️





明らかに金の掛かっている大きくて、フカフカのソファー。

室内の調度品も恐らくかなりの年代物だろう、殆どのモノがオリハルコンやミスリル製の様だ。


そんな応接室に通された僕は、ソファーにドッカリと座って、出された紅茶を手に取ると、紅茶を出してからも部屋に待機していたメイドに返す。



「あのさ、自白剤入りの紅茶は美味しくないから、交換してくれない?」


僕の言葉にネイザーとルーツニアスの雰囲気がピリつくが、言われた当のメイドは、動揺するでも無く関心した様に僕を見ると、呼び鈴を鳴らした。


其れに対して、ネイザーとルーツニアスの警戒レベルが上がるが、入って来たのは、新たなメイドと3人の男性。

1人は僕が本と地図を預けた大男、もう1人は初老の身なりの良い男、最後の1人は30代くらいの執事っぽい男だ。


そして、新たなメイドは僕の持っていたカップを受け取って、新しく紅茶を淹れ始め、元々居たメイドはゆっくりと歩いて来て僕の前に静かに座った…………



「さすがSランクハンターの様ですわね。

まさか、飲みもせずに自白剤に気付くとは思いませんでした。


ご挨拶が遅れました。


私しが、チパーティアム・ヴァー・イジャランです。

本日はご足労頂き有り難う御座います。


ノッディード・ルベスタリア卿」


「初めまして、皇帝陛下。

其れにしても、イジャラン・バダ帝国じゃあ、客人にも自白剤を飲ませるの?


どうやら、僕の国とは礼儀作法が大分違うみたいだね。

今後はイジャラン・バダ帝国の人と会う時には気を付けるよ」


僕はにこやかに言いつつも、副音声で、『おまえの国で出されたモノは信用しない。今後はイジャラン・バダ帝国のヤツには自白剤を飲ませるからな』と云う意味を込めて、冷ややかな視線を向ける。

今度は向こうの男性陣がピリついた雰囲気だ。



「申し訳ありません、何ぶん、私しは家族全員を暗殺して帝位に着いたモノですから、敵が多く、必要以上に周囲に警戒をしなくてはならないのです。


失礼な振る舞いに対しては、謝罪申し上げます」



そう言って軽く頭を下げるチパーティアム女皇帝。

まあ、言ってる事は分からなくも無いが、この女は、『皇帝が頭を下げたんだから許せ』と、タダで済まそうとしている。



「分かったよ、謝罪は受け取ろう。

でも、僕の善意を無碍にしたのは、門番に続いて此れで2度目だ。


だから、今日は帰らせて貰うよ。


もしも、どうしても僕の話しが聞きたくなったら、アルコーラル商国に大金を持って来てくれ。

それじゃあ」


「お待ち下さい。

良いのですか?

私に情報を提供しなくて?」


「別に良いよ?

そっちの彼にも言ったけど、僕はこの国がどうなろうと関係無い。

さっきも言ったけど、ただの親切で教えてあげようと思っただけだ。

ガンヒンリン帝国の惨状が余りにも悲惨だったからね」



そう言って、僕は今度こそ立ち上がると、部屋を出て行く。

そして、そのまま入口の方に向かって歩いていると、先程居た執事っぽい男が走って追い掛けて来た。



「……ノッディード・ルベスタリア卿。

度重なる非礼をお詫び致します。


陛下より『十分な謝礼をさせて頂きますので、是非にお話しをお聞かせ下さいます様、お願い致します』と言付かって参りました。


失礼は承知で何卒、お戻り頂きたく…………」


「…………十分な謝礼?

一体、何をくれるの?」


「そ、其れは私ではお答え出来ませんので、陛下に直接ご確認頂ければと…………」


「じゃあ、謝礼が決まったら其れを持って来てよ。

そしたら話して上げるから。


皇帝陛下には、『2回も自分達でチャンスをフイにしておいて、曖昧な口約束を信じて貰えると思ってるなんて、人間舐めてるんじゃない?』って伝えといて」


「お、お待ち下さい!!

直ぐに謝礼について確認して参ります。

ですので、どうかもう暫くお待ち下さい。

お願い致します!!」



そう言って、執事っぽい男は土下座する…………

どうやら、この執事っぽい男は貴族では無さそうだ。

服装の通り、皇帝に仕える執事なのかもしれない。



「はぁ〜……

分かったよ、僕は別に忙しく無いけど、時間を無駄にするのがキライなんだ。

直ぐに聞いて来てよ」


「はい!!

ありがとうございます!!」






「度重なる非礼、誠に申し訳ありませんでした…………」


女皇帝チパーティアム・ヴァー・イジャランはそう言って顔を上げると手に持っていた一振りの剣を僕に差し出す。

僕はその剣を受け取ると、少しだけ引き抜いて刀身を確認してから、ルーツニアスに渡す。



「まあ、良いよ、この剣に免じてね。

じゃあ、さっさと本題に入ろうか。


あの本と地図の意味は分かった?」



僕の質問にチパーティアムが頷くと、身なりの良い初老の男が僕が渡した本と地図をテーブルに広げて、話し始める。



「先ずは、此方の地図ですが、この場所は全てガンヒンリン帝国の侵攻によって滅んでしまった街ではないかと」


「うん、其れで?」


「…………申し訳ありません、他に何か有るのでしょうか?」


「…………今、ガンヒンリン帝国で噂になってる、“幽霊の街”って知ってる?

この地図の場所は実際に“幽霊の街”になってた場所だよ」


「!!“幽霊の街”ですか?

其れは一体どの様な…………」


「この地図のバツがついてるところは、古代遺跡都市じゃ無い普通の街があった場所でさっき言ってた通り、ガンヒンリン帝国の侵攻で滅んでる。


で、この街はもちろん普通の街だから人間が住んでて殺された筈なんだけど、現在のこの街の住人はレイス系の魔物だ。


人間が死んだ場所の筈なのにレイス系の魔物が出るから“幽霊の街”って言われてる。

因みに、レイス系の魔物は10体や20体じゃ無い。

数百体のレイス系の魔物が彷徨いてる」


「そんな?!」

「其れはつまり、死んだ人間がレイス系の魔物になっていると云う意味ですか?」


「いいえ、人間がレイス系の魔物になるなど有り得ません。

スタンピートが起こって、この街々で死んだ魔物からレイス系の魔物が生まれたと考えるべきです」


さすが、ネイザー。

僕が嘘を言わずに済む良い流れだ。


「じゃあ、ネイザー。

そのスタンピートの魔物は一体誰が倒したと思ってるの?

既に滅んで誰も住んで無い街だよ?


ついでに言うなら、ゾンビ系の魔物は全く居ないし、魔物の死体も全く無い。

其処にレイス系の魔物だけが居るんだよ?


なのにスタンピートの時に死んだ魔物って言うのは無理があると思わない?」


「…………で、あれば6大魔王の様に魔物を古代遺跡都市から出兵させたか…………」


「そんな?!」

「新たな魔王が?!」


「あのさ、ネイザー。

自分でも無理が有るって分かってるでしょ?


6大魔王みたいな魔王が仮に現れたとして、なんで誰も住んで無い、人間の居ない街に配下を居座らせるのさ。

そもそも、原因なんて関係無いよ。

この街々にはレイス系の魔物が居て、レイス系の魔物は旨味が無いから近付くだけ無駄って事が分かれば良いんだし、この街々は呪われた“幽霊の街”って事で問題無いよ」


「確かにノッディード様の仰る通りですね」


「まあ、この地図はそう云う事。

イジャラン・バダ帝国にも昔滅ぼしてから、放置されてる街も有るだろうから気をつけてって感じだよ。


で、こっちの地図と本の方は分かった?」



女皇帝も3人の男達も、みんな青褪めた顔をしていたが、初老の男が僕の言葉に我に返って、答え始める。



「此方の地図は先日のガンヒンリン帝国帝都ガンヒンリンを襲った火山の噴火の被害状況と、此方の本はかつて起こった火山の噴火の事例とその被害状況、そして起こり得る状況を試算する計算式を書いた本でした」


「うん、其れで?」


「……………………此方にも、何か有るのでしょうか?」


「…………あのさ、ちょっとは考えてる?

本を読んだなら、この帝都ガンヒンリンの被害がおかしいと思わない?」


「確かに、過去の事例にも当てはまらず、計算式とも合わない被害でしたが、自然の中に起こる事ですし、そう云う事も有るのでは?」


イーブレットの予想通りだったみたいだ。

自然災害は理解不能な大きな危険としか思っていないみたいだ。


「じゃあさ、普通なら2、3kmしか飛ばない噴石が、強風が吹いたからって50km以上飛ぶと思う?

2、30cmはある石だよ?」


「そ、其れは…………」

「そんなにも差が有るのですか?」


「火砕流だって、山を下って平地を流れて来てるのに、全く広がらずに、こんなに真っ直ぐ進むと思う?

山の斜面も平地も真っ平らじゃないし、仮に凹凸が無くてもこれだけの被害が出る程大量だったら溢れ返って広がるのが普通でしょ?


其れに被害を受けたのが、噴石も火砕流も帝都の北部が圧倒的に酷い。

貴族や軍人が殆どの北部の被害がね。


此れだってちょっとおかしい。

位置的に、本来なら北東が1番被害を受けて、次に被害が大きいのは北西じゃなくて、南東になる筈だ。

帝都ガンヒンリン周辺の川は北から南に流れてるんだから、障害物の帝都の防壁にぶつかったら、本来は川の流れと同じ様に南に向かって行くのが当然だ」


「つまり、この火山の噴火は貴族や軍人を狙って行ったと云う事ですか?」

「火山が人を狙って?」


と、ここでもネイザーが良い感じで入って来る。


「ノッディード様、噴石は火炎石の魔法で、火砕流は前以て北部に流れて行く様に溝が掘ってあったのではありませんか?」


「おお、確かに」

「ええ、其れならば…………」



ネイザーの有り得そうな話し、しかも人為的な話しに、初老の男も女皇帝も直ぐに食い付いて、同意しようとするが…………


「いやいや、ネイザー。

じゃあ、火炎石の魔法を使ったヤツは、いつ噴火するかも分からないのに、ずぅ〜っと待ってたの?

火山の噴火なんて、何百年も起きない可能性だって十分有るんだよ?


其れに、此れだけの規模の魔法ってなったら、一体何百本の魔導具が必要なのさ。

もしも犯人がいて、ガンヒンリン帝国を恨んでて此れをやったんなら、この被害を出した魔導具で戦争に勝ってるよね?


其れと、火砕流の方はもっと有り得ない。

此れだけの規模の火砕流を一定方向にするなら、この直線上に大きな川があるのも同然だよ?

そんなの作ってたら作ってる最中に気付くに決まってるじゃないか。


何年も掛かる様な大工事を秘密裏にやるなんて不可能でしょ」


「…………確かに、そうかもしれませんが、例えば、滅ぼされた国の者が、その後、それだけの事が出来る魔導具を手に入れたとか…………」


「じゃあ、ネイザーは、其れだけの事が出来る魔導具を手に入れて、ただただ、いつ起きるかも分からない火山の噴火なんて待つ?


火炎石を降らせる魔導具が何百本も手に入ってたら、其れを使ってガンヒンリン帝国に復讐するよね?

そんな大きな川を簡単に作れる様な魔導具がもしも有ったら、其れを使って帝都を破壊した方がどう考えても早いよね?」


「確かに、ノッディード様の仰る通りですね…………」


ネイザーはちょっと悔しそうに引き下がる。

ネイザーは演技もパーフェクトだ。


「あの、其れではルベスタリア卿は、この被害をどの様にお考えなのでしょうか?」


「え?分かんないよ?

噂されてるみたいに、呪われてるんじゃない?


だって、自然現象でも、魔導具でも起こらないんなら、其れはもう、何だか分からない何かでしょ?


言っておくけど、僕はハンターだから、呪いに関しては確信を持って信じてるよ。

呪いは、一種の魔法だからね」


「其れは、装備した者を不幸にする武具の存在ですか?」


「まあ、確かに発動したら敵を斬れなくなる剣や、精神を汚染して行く兜なんかは実際に有るけど、僕が言ってるのは、相手に呪いを掛ける魔導具の方だよ。


因みに、キミ達は磁力を用いた武器の魔導具は知ってる?」


「いえ、私は存じ上げません」

「私しは知っております」

「帝国の武具にもそう云った魔導具は有ります」


「そう、ならその魔導具で実験してみたら良いよ。


その磁力を用いた魔導具は、実際には『引き寄せる現象と反発する現象を再現しているだけで磁力は発生していない』って云うのが正しい見解なんだ。


だから、引き寄せた時に、周囲の砂鉄が集まって来たりしないし、本来なら有り得ない距離や角度で動くんだ。



此れを踏まえて、さっきの呪いの話し。

もしも、相手を不幸にする魔導具が有ったとしようか。


その魔導具で不幸になる呪い攻撃を受けたとして、その呪いが伝染病みたいにどんどん感染って行くモノだったら、周囲の人間がどんどんどんどん不幸になる呪いの人間だらけになるよね?


そんな呪いが充満しまくった結果、火山を噴火させたり、有り得ない被害を生み出したりしたんなら、僕としては納得だよね。


呪いが伝染するのもこの目で見てるし、現象としての魔法なら、重力なんかを無視して有り得ない動きをするのも見てるからね」



「!!呪いは魔法の一種なのですよね?

病の様に人に感染るのですか?」


「其れは既に実例が有るよ。

アルアックス王国で、四肢が黒く腐食して行く病気が有るのは知ってる?」


「はい、其れは聞いております」


「アレさ、ポーションでも治らないんだけど、魔法の所為でなってる病気なんだよね」


「な?!ポーションでも治らない?」

「病気が蔓延する魔法なのですか?」


「ああ、アレは“半ゾンビ状態にして相手を操る魔法”なんだけど、人間だと操られ無い代わりに、身体が耐えられなくて四肢が壊死して行くんだ。


で、その魔法を受けてる魔獣を人間が食べると感染るんだ。

そして、例えば、キミ達の家族がその病気になったとして、看病している時に、患者の身体に触って血が付いたりしてさ、其れで目を擦ったり、舐めてしまったりすると、今度はその看病していた人間に感染って広がって行くんだよ。


因みに、この事はアルアックス王国の人間は知らないよ。

此処と同様に、僕を門前払いしたからね」


「そんな?!

ではアルアックス王国から輸入した魔獣の肉に同じ様な呪いが掛かっているかもしれないと云う事ですか?

あの病いは不治の病だと聞いていますが…………」


「其れはその可能性も有るだろうね。

因みに、完全なる不治の病じゃあ無いよ。


アレは発症する前に、状態異常回復ポーションを飲めば治るんだ。

但し、発症したらポーションでも治らないけどね」


「…………ルベスタリア卿、その様な情報を一体何処で手に入れられたのですか?」


「手に入れたんじゃなくて、自分達で調べた結果分かったんだよ。


此れは、別に病気を調べてたんじゃなくて、倒した魔物を調べて分かった事なんだ。


この3日で、僕の事も調べたんだろうから、僕が魔都 ウニウンの魔王を倒したのは知ってるよね?

その魔王の魔法が、その“半ゾンビ状態にして相手を操る魔法”だったんだよ。


魔王は其れで魔物を組織的に操ってたんだけど、この魔法が人間には耐えられないみたいで、人間がこの魔法を受けると操られない代わりに四肢が腐食して行くんだって事が分かったんだよ。


其処から、アルアックス王国で蔓延していた病気が、その魔法を受けた魔物が魔獣に喰われて、その魔獣がまた次の魔獣に喰われてってどんどん広がった結果、人間もその魔獣の肉を食べて感染したって分かったんだ」


「なるほど、そうでしたか…………

では、もうその魔法の脅威は…………」


「無くなってないよ?

だって、既にこの魔法を受けてる魔獣はまだ居るだろうし、この魔法を受けてる魔獣が繁殖したら増えるだろうし、そうしたら、食べた人間はこの魔法で病気になるからね。

魔王が死んでも魔法の効果が消えるのは、魔物と魔獣を操る相手が居なくなったって云うところだけだよ。


因みに、今日は持って来て無いけど、その時の実験の資料も売ってあげても良いよ。

もちろん、国宝級の魔導具が対価だけどね」



「……陛下…………」

「ええ、ご希望の魔導具を1点との交換をお願い致します」


「分かったよ、で、話しが随分と逸れたけど、そんな訳で火山の噴火は、“巷で噂の呪い説”が1番有力なんじゃないかって話しだ。

“幽霊の街”と同様にね。


まあ、両方の原因は別々だろうとは思うけどね。


と、僕の話しはこんなところだ。

他に何か聞きたい事がある?」



女皇帝が初老の男を見ると、初老の男は首を横に振った。

彼はちょっと、いっぱいいっぱいな雰囲気だ。


しかし、此処で僕達を呼び止めに走って来た執事っぽい男が手を挙げる。

女皇帝が許可すると、執事っぽい男が良い質問をしてくれた。



「先程の“幽霊の街”と“呪いの火山”の噂ですが、帝都イジャランでも市井の間では既に噂になっておりまして、“ガンヒンリン帝国の3つの呪い”と言われているのです。


そして、3つの呪いのもう1つが、我がイジャラン・バダ帝国とガンヒンリン帝国の国境線上の“亡者の戦場”です。


ルベスタリア卿は、この“亡者の戦場”については何かご存知無いでしょうか?」


「知ってるよ、魔物同士が大戦争して、そこがゾンビだらけになってる場所でしょ?

でも、此れは別段おかしいところは無いよね?


だって、スタンピートが偶然ぶつかって其処で大量に魔物が死んだらゾンビだらけになるでしょ?」


「いえ、しかし、魔物のスタンピートが偶然この様な形になるモノでしょうか?

其れに、その魔物同士の戦争では有り得ない程の凄まじい魔法が飛び交い続けたと…………」


「普通なら起こる可能性は高く無いかもしれないけどさ、今回の出来事は起きても不思議じゃないよ。

だって、今回、スタンピートが起きたのは、死都 プルトバトールから南東に向かってと、悪都 オツヤントウから北西に向かって起きてるよね?


プルトバトールの方は逆側の北西にはドラゴンが住んでるって云うドラゴンランドが在って、オツヤントウの逆側の南東には魔境の海が在る。


スタンピートは基本的に、魔物や魔獣が増えすぎて溢れて来るか、とんでも無い脅威がやって来て、其れから逃げるかの何方かの場合が多いけど、前者の場合は散り散りに、後者の場合には一定方向に起こる場合が多い。


で、今回は一定方向に向かってるから、後者の可能性が高くて、その原因になりそうな、とんでもない脅威がやって来る可能性も高い場所と方角だ。


だったら、偶然、機嫌の悪いドラゴンと機嫌の悪い伝説の魔獣がスタンピートを引き起こせば起きる現象だと思うけど?


寧ろ、これから先も凄く稀ではあっても起きるんじゃない?」


「な、なるほど………」

「確かに、今後も起こる可能性がありますか…………」



「其れと、魔物が強かったのは外だからってだけだよ、別に不思議な事なんて無いよ」


「……申し訳ありません、その、外だからと云う理由は一体どの様なモノなのでしょうか?」



「う〜ん………

あのさ、『伝説の勇者』の物語に出て来る、エンペラークリムゾンブラストモビリティオークは知ってる?」


「はい、存じております」

「ええ、『飛ばないオークは、ただのオークだ』の魔物ですよね?」



「そう、そのオークね。

アイツってすっごく弱いんだよね」


「え?!しかし、Sランクの魔物ですよね?」

「たった1体で、街を壊滅させる程の魔物なのでは…………」



「そうだね、Sランクだし、たった1体で街を壊滅させる程の魔物だね。

でも、其れは外で戦うからだよ。


古代遺跡都市で戦ったら、天井が低いせいでアイツらは四つん這いで歩いてるんだ。

だから、ただのでっかいピッグ系の魔獣と同じだし、魔法も使わなければ、武器も使わないザコなんだよ。


他の魔物も同じさ。


古代遺跡都市で戦うと建物の中だから、自分に被害が来ない様に、ある程度の力で襲って来るけど、外の開けた場所だと全力が出せるってだけだよ。


特に強い魔物程、古代遺跡都市の上層階か地下に居るから、本気が出せないのさ。


つまり、その魔物の本来の強さを目の当たりにして、凄く強いと思っちゃっただけだよ」



「な、なるほど。

確かに、強い魔物程巨大ですから…………」

「狭い室内で本気が出せていない魔物の強さを基準に考えてしまっていたと云う事ですか…………」


「そう云う事だね。

だから、さっき言ってた“亡者の戦場”は何の不思議も無いよ」



質問した執事っぽい男も女皇帝も、大男や初老の男も納得した様だ。


此れは本当に都合の良い質問だった。

何もかも“呪い”だと言うよりも、呪いじゃあ無い危険が混じってくれる方が“呪い”の信憑性が増すと云うモノだ。



「…………では、ルベスタリア卿。

何か他にも有益な情報は無いでしょうか?


内容によっては、別途謝礼をさせて頂きますので」



「…………他の情報?


う〜ん…………

あのさ、皇帝陛下は、“奴隷解放”を訴えてクーデターを起こしたよね?

“奴隷解放”って本当にするの?」


「はい、もちろん宣言通り、“奴隷解放”をするつもりです。

しかし、今は…………」


「其れって、戦線が崩れたらガンヒンリン帝国が攻めて来るかもしれないからと、今“奴隷解放”したら、冬を越せないかもしれないから?」


「はい、仰る通りです」


「そうか…………


まあ、其れなら教えてもいいか。


火山の噴火の被害だけど、此れで東の勇者と元帥が死んだらしくて、ついでに皇帝も引き篭もりになっちゃったらしいんだよね。

で、今は帝都民もどんどん帝都から逃げ出してる。


だから、近い内に、ガンヒンリン帝国は分裂すると思うよ」


「な?!そんな貴重な情報までお持ちとは…………」

「ルベスタリア卿、一体、どうやってそんな情報まで…………」


「情報収集は、ハンターの基本だよ。

さっきの“幽霊の街”も、“亡者の戦場”も知っていたら、無駄に近付かないで済むし、被害が出ない。


国の情勢も知っておかないと、どんなトラブルに巻き込まれるか分からないからね。


今回だって、僕は皇帝陛下が“奴隷解放”を訴えてクーデターを起こした事を知ってたから、最初は無償で情報提供をしようと思って来たんだ。


此れが前の皇帝だったら、そもそも、情報を売る事すらしなかった。


皇帝陛下がなんで“奴隷解放”をしようとしているのかは知らないけど、僕にも奴隷にされて苦しんでた知り合いが居るからね」


「なるほど、知り合いの奴隷ですか…………

異形の奴隷達は元気にしていますか?」


「……………………その言い方は気に入らないな…………」



僕の視線が鋭くなったのを見て、女皇帝は、逆に表情を緩める。

そして、執事っぽい男の手に触れると、執事っぽい男が服の袖を捲った。


其処には、ほんの僅かに鱗の様なモノがあった。



「このチャーレスは、元々侯爵家の次期当主で、私の許嫁でした。

しかし、このたった3枚の鱗の所為で、奴隷に落とされてしまったのです。


私が“奴隷解放”を訴える本当の理由は、このチャーレスと結婚する為。

そして、チャーレスの様な、人と異なる見た目だからと奴隷にされてしまう者を無くす為です。



ルベスタリア卿は覚えが無いでしょうが、私しはルベスタリア卿とお会いするのは実は2度目です。

アルコーラル商国の立国祭オークション。


あの時の6人の奴隷購入で、最後まで競り合っていたのは私しです。

まあ、勝たれたルベスタリア卿は覚えていらっしゃらないと思いますが」



…………言われてみれば、6人とも同じヤツと競り合っていた筈だ。

まさか、其れがこの女皇帝だったとは…………



「そして、今日お招きした本当の理由は、貴方を見極めようと思ったからです。

まさか、頂いた情報がこれ程重要な内容であるとは思っていませんでしたが、どんな情報であれ、貴方が信用出来る方ならば、此方をお渡ししようと思っていたからです」



女皇帝がそう云うと、執事っぽい男、改めチャーレスが、少し大きめの箱を持って来て蓋を開ける。

中には、3つの兜と、5つのブレスレットの魔導具が入っていた。



「なるほど…………」


僕は今迄以上の態度のデカさで座り直す。

そして、ニヤッと笑って女皇帝を見た…………



「つまり、あの6人のターゲットは皇帝陛下で、間接的にとは云え、僕は貴方の命の恩人と云う訳か。


前皇帝のダトプラー・ヴァー・イジャランは、貴方をターゲットにする為に、敢えて他人とは違う見た目の子供達を長い時間を掛けて洗脳して、貴方の下に送り込もうとしていた。


だから、あの子達は、中途半端な命令をされて、もしも、ダトプラー帝を殺そうとする者が居たら、ソイツと一緒に死ねと命令されていた訳か。


なるほどなるほど。


と、云う事はクーデターを計画していた皇帝陛下が、もしも、あそこで落札していたらクーデターは失敗、皇帝陛下の命も無かった可能性が高いなぁ〜…………」


「…………確かに、その通りですが…………

其れは、ルベスタリア卿の意図した事では無く、偶然そうなったと云うだけでは?」


「そうだね、偶然だね。

でも、残念ながら、其処の魔導具は僕には必要無いんだよね。


僕は医術も持ってて、子供達の体内にあった魔導具は全部取り出したし、洗脳に関しても子供達は乗り越えたから、ダトプラー帝が奴隷商人 メシャベチャンだって事も知ってるんだよねぇ〜……


と、云う訳で、僕にどんな情報を貰っても、この魔導具を対価にしようと思ってたみたいだけど、残念、僕は皇帝陛下の言葉通り、ガッツリと別途謝礼を頂くよ。


仮にも、偶然であっても、皇帝たる者、命の恩人に対して謝礼を出すと自分で言っておきながら、出し渋ったりはしないよねぇ〜……」



「な?!そ、其れは、その…………」


「…………陛下、最初の自白剤の件で敗れたにも関わらず、化かし合いを挑むべきではありませんでしたな…………

ルベスタリア卿、卿の仰る通り、誠意を持って謝礼をお渡し致します」


「!!シェローハン宰相、そんな事を言ってしまったら、ルベスタリア卿は宝物庫を空にしてしまいますよ!!」


「…………皇帝陛下、僕を一体何だと思ってるの?

まあ、ちょっと、見せてみなよ、宝物庫…………」


僕はニヤニヤしながら、初老の男、改めシェローハン宰相と共に、宝物庫へと向かった…………



正直言って、チパーティアム女皇帝がスーオングロッド達の洗脳用の魔導具を出して来た時は、一瞬非常に落胆してしまった。

何故なら、此処で此れらが手に入ると云う事は、今年1番の重労働と言える超大規模トンネル工事が完全に無駄になると云う事だ。


しかし、もうあの魔導具は必要がない。

子供達は既に完全にメシャベチャンの呪縛から抜け出しているからだ。

今も頑張って、S級A級代理官を目指して勉強している。



そして、やって来ました宝物庫!!

さすがは、侵略を繰り返して大きくなったイジャラン・バダ帝国の宝物庫だ。


金銀財宝は言わずもがな、宝石や装飾品の類いも満載だ。



…………しかし、もちろん、其れらはスルーだ。


向かった先は魔導具のエリアだ。

宰相に着いて行きつつも、凄メガネでの鑑定を繰り返し続ける。


女皇帝は、僕が何をどれだけ持って帰るのか、ビクビクしながらチャーレスと共に最後方を着いて来ている。

とは言え、女皇帝の言った様に、宝物庫から根こそぎ貰って行こうとは思っていない。

今回提供したのは、“幽霊の街”、“呪いの火山”、“亡者の戦場”、の“ガンヒンリン帝国の3つの呪い”の情報と、四肢が壊死する病気の情報、ガンヒンリン帝国の崩壊の可能性の情報の5つだ。


なので、しっかりと厳選してから魔導具を5個貰って帰ろうと思っている。


多分、僕が5個だけ選べば、宰相辺りが情報1つにつき、魔導具1個だと気付くだろうから、今後も何かの情報を売り込み易くなる。



一通り見て回って、宰相が「お眼鏡に適う物が御座いましたでしょうか?」と聞いて来た。

もちろんだ。

ちゃんと、目星は付いている。



「うん、じゃあ、あのオリハルコンの箱と其方の3つ並んだ箱とあのパネルの魔導具。

其れと、そっちの剣とあの槍を貰おうかな」


「……陛下…………」


「え、ええ、分かりました。

その、今ので全部ですか?」


「うん、其れだけで良いよ」


「はぁ〜〜……。良かった、もっと大量に持って行かれてしまうのかと…………

ところで、剣や槍は分かりますが、其方の箱は中身を見なくても宜しいのでしょうか?」


「ああ、問題無いよ。

アレらは既に持ってるモノだから」


「その、一体どの様な魔導具なのかお伺いしても?」


「ああ、特に変わったモノじゃないよ、あっちなんて空っぽのただの箱だしね。


其れよりも、歴史的に価値があるんだ。

アレらは、賢者 ラノイツロバーの遺産だからね。


世界にたった10個しか無い、賢者 ラノイツロバーが10人の高弟に残したモノなんだよ」


「な?!『賢者と10人の高弟』の、あの賢者 ラノイツロバーですか?

確かに、ただの箱でも十分な歴史的価値が有りますね。


其れにしても、先程は医学の知識も有ると仰って居ましたが、歴史の知識もお持ちとは、ルベスタリア卿は本当に博識ですね…………」


「まあ、読書は趣味だからね。

僕が山ほど本を買ってたのも監視してたでしょ?」


「…………お気付きでしたか。

我が国で、最も優秀な暗部だったのですが………」


「3人居て、最も優秀って部隊が最も優秀って事?」


「え?!宰相、其れは…………」


「はい、指示したのはアヤツだけです」


「もしかして、もう2人は別のヤツからの監視だったの?

全員同じ動きだったから、仲間だと思ってたけど…………」


「…………ルベスタリア卿、誰か護衛を付けましょうか?

Sランクハンターにとっては、必要無いかもしれませんが、もしも、刺客を殺してしまった時には、証人が居た方が良いでしょうし」


「皇帝陛下、気持ちだけ貰っておくよ。

監視はされてても何もして来なかったから相手を刺激しない方が良いでしょ。


其れに、僕が今日持って来た情報が帝位争いと関係無いって分かれば何もして来ないまま終わるんじゃない?」


「…………分かりました。

万が一、何かあればチャーレスに取り次げる様に手配しておきます」



こうして、僕は帝都イジャラン来訪の目的である、『不思議な事は全部呪いの所為作戦』の噂に信憑性を高める事とチパーティアム・ヴァー・イジャラン女皇帝を見る事の両方を達成したついでに、賢者 ラノイツロバーの遺産迄回収する事が出来た。


やっぱり、僕が直接来たのは正解だった様だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ