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箱庭の王様  作者: 山司
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第19章 クーデター 5

第19章

クーデター 5





▪️▪️▪️▪️





「…………思う様には行かないもんだねぇ〜……」


「はい、まさか自然災害で帝都ガンヒンリンが半壊してしまうとは…………」


「そうだね。其れに、その所為で帝国軍の幹部は半数以上が死亡、その中で東の勇者も帝国軍元帥も死亡して、皇帝は生き残るなんてね…………」



古代魔導文明時代、“サードストライク”と云う未曾有の大災害は有ったが、其れ以外の自然災害は、古代科学文明時代に比べて非常に少なくなっていた。


理由としては、“セカンドストライク”後に、世界に魔素が広がったのだが、この魔素が自然のエネルギーを消費している為ではないかと云うのが最も有力だ。


その影響で、地震が殆ど無くなり、火山の活動も一気に落ち着き、ハリケーンも規模が大きくなる前に霧散する様になったと考えられている。


しかし、現代は魔素が増え魔力となった事で、魔獣は凶暴化し魔物も生まれた。


その為、現代の都市が最も警戒する自然災害は魔獣や魔物のスタンピートだ。

なので、どの都市も一定以上の防壁を巡らせて、外部からの敵を防ぐ造りになっている場合が殆どだ。


だが、この構造がガンヒンリン帝国の帝都ガンヒンリンを半壊させた。



3日前、10月10日深夜2時過ぎ、帝都ガンヒンリンの北東に在るダンガンヒン山が何の前触れも無く、突然大噴火した。


そして、その日帝都ガンヒンリンには朝から冬を告げる猛烈な風が北東から南西に向かって吹いていた。


まるで、ダンガンヒン山が、ガンヒンリン帝国を滅ぼす為に噴火したかの様に、燃え盛る噴石が帝都に降り注ぎ、津波の様な火砕流が襲い掛かった。


空からやって来る噴石が街を破壊しては燃え上がらせる。

地上に押し寄せる火砕流が街から逃げる事も許さない。

更に追い討ちを掛けて、火山ガスが街中に充満して、多くの命を奪って行った。


帝都ガンヒンリンは地獄絵図と化した…………



最も被害が大きかったのは帝都ガンヒンリン北部の貴族街と帝国軍本部だ。

貴族街と帝国軍本部は完全に消滅した。


殆どの貴族が死に、軍本部の周囲に住んでいた軍の高官や精鋭部隊もほぼ全滅に近い状態となった。




火山の噴火の報を受けてから直ぐに僕も“空中要塞 メタヴァース”へと向かって、被害状況をこの目で見たが、上空から見ると余計にガンヒンリン帝国を滅ぼす為の噴火の様にしか思えなかった。


火口から帝都ガンヒンリンまでは50kmはあるし、裾野からでも10kmは離れている。

此れだけ距離があるなら、火山からの噴石が降り注いだり、火砕流が直撃する様な事は本来なら起き無い筈だ。


しかし、実際に目の前に被害を受けた惨状が横たわっていた…………





余りの状況に、僕は急遽、ナエラークとアエルゲインに来て貰った。

此処まで帝都ガンヒンリンを直撃する為だけの様な噴火に、魔法や魔導具での人為的な噴火の可能性を疑ったからだ。


しかし、2人の意見は…………



「…………で、ナエラークとアエルゲインは、どう思う?」


「私にはただただ運が悪かったとしか言えんと思うがな。


噴火した角度、その日の強風、そして地脈の流れ。

全てが偶然に重なり、あれ程の被害が出た様に思う」


「はい、私もナエラーク様と同意見です。

唯一の人為的な可能性とするならば、火口があの角度になる可能性を高める為に穴でも掘っていた可能性くらいでしょう」


「さすがに、これ程の規模の魔法はあり得ない?」


「…………不可能では無い。

1人が単一の魔法を使ってもこの様な事にはならないだろうが、大勢の魔導士が其々、噴石や火砕流を魔法で起こして重ねるなら、起きるかもしれん。


まあ、此処まで広範囲であるならば、魔法を使った者もただでは済まんだろうがな」


「なるほど、噴火に合わせて、火炎石の魔法を降らせて火事を起こすって事か、其れも大勢で。

火砕流は土壁の魔法で、流れをコントロールするってところか。


いや、もしかしたら『火山を噴火させるって云う概念』から生まれた魔法とか…………」


「その概念を持てるのは、火山自身だよ、ノッディード。

そもそも、火山の噴火と言っても、其れは色々な事象の総称であって、1つの現象では無いのだから、再現するには複数の魔法の組み合わせ以外には無理だろう。


まあ、マグマを生み出す魔法は私は知らないが…………


いや、待て!!


アエルゲインよ、あるではないか、マグマを出す魔導具が。

“オルトネトレイションスピア”だ」


「!!なるほど、確かに“オルトネトレイションスピア”ならば、マグマが出るでしょう。

もしも、元々噴火の兆候の有る火山に向けて放てば、そこから噴火して、噴火の方向を定める事は出来そうですな」


「“オルトネトレイションスピア”って、もしかして、“グングニルの槍”の事?」


「さすがはノッディード陛下、仰る通り、“オルトネトレイションスピア”は、その通称“グングニルの槍”です。


歴史上、たった2度しか使われず、『大海おも沸騰させた』と云う伝説だけを残して消えた兵器です。


生み出したのは、三賢者の1人、賢者 ウィーセマー。

そして、2度の使用実験を行ったのは、魔導帝国ルベスタリアです。


因みに、2度しか使われなかった理由も陛下はご存知でしょうか?」


「いや、使われなかった理由は知らないね。

威力が強すぎたの?

それとも、欠陥兵器だったの?」


「理由は欠陥兵器の方です。


“オルトネトレイションスピア”は、質量兵器として、重力魔法と強化魔法を極限まで詰め込んだ兵器だったのですが、その余りの強化故に貫通力が強すぎ、質量兵器としては全く効果が無く、地面に小さな穴を作るだけの兵器だったのです。


しかし、貫通力は凄まじく、地殻を貫きマグマを噴出させて『海を沸騰させた』と云う伝説を生み出したのです。

但し、小さな穴である為、噴出の勢いは高くとも、範囲は狭く、兵器としては微妙だったのです。


そして、2度目の実験で、“イモータルウォール”を貫けないかと云う実験を行い、失敗に終わった為に、兵器として後の世に残りませんでした」


「ああ、その実験の事なら、本で読んだよ。

でも、賢者 ウィーセマーは、そもそもマグマを出させて新たな島を生み出す為の魔導具で、実験は成功、大型化すれば人工的に島を生み出せる筈だって書いてたけど?」


「なるほど、其れは私は知りませんでした。


もしかしたら、賢者 ウィーセマーの考えていたコンセプトと、魔導帝国ルベスタリアの上層部の考えに乖離が起こっていたのかも知れませんな」


「まあ、その“オルトネトレイションスピア”なら、火山も好きな方向に噴火させられる可能性があるって事か。

だったら、意図的にガンヒンリン帝国を潰しに掛かった可能性も捨てきれないよね………」


「ノッディードよ、しかし、その仮説が万が一真実であったなら………」


「うん、そうだね、ナエラーク。

この仮説を成り立たせるなら、『空を飛べるナニカ』を持ってるヤツが居るって事だ…………」






火山の噴火から一週間、状況は更に悪化した。


イジャラン・バダ帝国との国境付近に集結していたガンヒンリン帝国軍の約半数が、帝都の復興の為に後退したのだ。


其れによって、及び腰だったイジャラン・バダ帝国軍が、逆侵攻を計画し始めた。

間も無く冬がやって来るので、通常であればイジャラン・バダ帝国の侵攻は春を待ってからと云うモノになりそうだが、新たな皇帝 チパーティアム・ヴァー・イジャランは、皇帝暗殺すら、僕達の想定を遥かに超えて早い時期に行った。


なので、ガンヒンリン帝国への逆侵攻も、機を見て素早く行動する可能性も十分にあり得る。



そして、当のガンヒンリン帝国の方だが、未だ火山灰が降り続き、帝都から逃げ出す者が後を絶たない状況だ。

やはり国民性なのか、帝都から逃げ出す者も手ぶらでは無く、焼け野原となった貴族街を漁って、金目のモノを掘り起こしては持って逃げている。


この状況に対して、ガンヒンリン帝国の皇帝は、何も手立てを打つ事が出来ず城に閉じ籠っている様だ。



ハッキリ言って、この状況は非常に不味い。


元々は、ガンヒンリン帝国が侵攻を進めて、ルベスタリア王国の南方に大帝国を築かれたら困ると思っていた訳だが、ガンヒンリン帝国の方が滅んで、イジャラン・バダ帝国の方が大帝国を築いてしまったら、もっと困る。


何故なら、ガンヒンリン帝国の帝都に比べて、イジャラン・バダ帝国の帝都はルベスタリア王国に遥かに近いのだ。

ルベスタリア王国の存在が気付かれる可能性が上がってしまう。




「…………と、云う訳で何か良いアイディアは無いかな?」


僕は幹部の大半を“空中要塞 メタヴァース”へと集めて、会議を開く事にした。

ぶっちゃけ、僕の中で良い対策が思い付かなかったからだ。


なので、現状の説明をハンジーズが一通りしてくれた後の僕のみんなへの問い掛けは、こんな大雑把な問い掛けだ。



「あの、ちょっと気になるんですけど、イジャラン・バダ帝国の女皇帝は、奴隷解放を訴えてて、現状のイジャラン・バダ帝国の兵士の多くが、結構無理矢理な方法で奴隷にされた者達ですよね?


だったら、本来なら、女皇帝は戦争を中止して、兵士になってる奴隷を解放するべきなんじゃないですか?」


「はい、ラウニーラートさんの仰る通り、“本来なら”そうすべきでしょう。

しかし、チパーティアム・ヴァー・イジャランは、皇帝の地位に就いてから、“奴隷解放”についての一切の行動をとっていません」


「…………帝位に就く為の嘘だったと云う事ですか?」


「其れは分かりません。

現在の何の行動も起こしていない状態がチパーティアム女皇帝の意志によるモノなのか、周囲の妨害によるモノなのかも不明です。


さすがに諜報局でも、イジャラン・バダ帝国の帝城内で自由に諜報活動は出来ていないので」



確かにイジャラン・バダ帝国は、本来ならチパーティアムが帝位に就いて戦争を止めると思っていたが、戦争の気運は徐々に高まっているのはおかしな話しだ。


「…………例えばですが、もしも本当に女皇帝が“奴隷解放”に真剣に取り組んでいたとします。

しかし、今の段階で全ての奴隷を解放した場合、イジャラン・バダ帝国の戦線は崩壊し、ガンヒンリン帝国の前線指揮官が独自の判断で攻めて来る可能性を考慮して行動出来ずにいると云うのは考えられないでしょうか?


そして、兵士として出兵していない奴隷に関しても、冬を越えるまでは奴隷のままの方が安全だと考えて、現状を維持している可能性は無いでしょうか?


そうであるならば、女皇帝はガンヒンリン帝国への牽制の為だけに、逆侵攻の準備をしているのでは無いでしょうか?」



…………なるほど、確かにチパーティアム女皇帝が本気で“奴隷解放”を考えているならあり得るかもしれない…………

其れなら、暫く様子見でも良いのか?



「…………ラウニーラートさん、その可能性は有るかもしれませんが、もしも、違った場合には、戦争が始まってから動く事になってしまいます。

そうなれば、最早見守るか、大きく介入するしか無くなってしまいます」



…………ハンジーズの答えも尤もだ。

戦争自体が始まってから動くのはデメリットが大きい…………



「…………宜しいでしょうか?


イジャラン・バダ帝国で、ガンヒンリン帝国が『呪われた国』だと云う噂を流すのはどうでしょうか?


今回起こった、“火山の噴火”、そして、国境線の、“デビルゾンビエリア”、それと、滅んだ人間の街でレイス系の魔物が大量発生した、“幽霊の街”、この全てがガンヒンリン帝国の受けた呪いの所為だと云う噂を流すんです。


そして、そんな呪われた国とは関わりたく無い、若しくは、ガンヒンリン帝国を征服してしまったら、今度はイジャラン・バダ帝国が呪われてしまうといった噂が流れれば、イジャラン・バダ帝国がガンヒンリン帝国を手に入れようとはしなくなるのでは無いでしょうか?


もちろん、強欲な者であれば、普通はそんな噂などは無視するでしょうが、今回の火山の噴火で最も被害を受けたのは、ガンヒンリン帝国の貴族と軍の高官です。


なら、イジャラン・バダ帝国の貴族達も、自分の身の安全を優先する可能性は十分にあると思います。



ノッディード様やネイザーは博識なので、火山の噴火を見て、本来なら起こり得ない状況だと思われたみたいですが、私やティエットはネイザーから話しを聞いても、『火山の噴火って怖いんだね』って思っただけです。


ですから、イジャラン・バダ帝国の貴族達も同じ様に、思っている筈です。


でも、そこに、噴石の飛距離が本来なら有り得ない距離だったとか、火砕流が広がる事無く一直線に帝都に向かって行く事は有り得ないとかって云う何か呪いめいた内容が加われば、イジャラン・バダ帝国の貴族達も、自分の身の危険を感じるんじゃ無いでしょうか?」



「!!イーブレット、そのアイディアは良いと思う!!


確かに、普通なら起こらない事が立て続けに起きてるって云う印象は既にイジャラン・バダ帝国の人間も感じてるだろうけど、火山の噴火に関しては、知識が無ければ単に運が悪いってだけで終わっちゃうからね。


まあ、実際には本当に運が悪いだけの可能性も十分有るし、誰かが魔導具を用いた可能性も有るけど、全部呪いの所為にするのは良いアイディアだ」



イーブレットの『不思議な事は全部呪いの所為作戦』を採用すると決まってからは、とんとん拍子に話しが進んだ。

この『不思議な事は全部呪いの所為作戦』が上手く行けば、今度こそ戦争が止まるだろうし、例え、ガンヒンリン帝国が内乱で滅んで、支配下だった国々が独立したとしても、イジャラン・バダ帝国は侵攻に二の足を踏むだろうから都合が良い。


因みに、イーブレット自身は呪いの類は、全て魔法だと割り切っている様だが、彼女はルベスタリア国営庁 国民経済部 部長だ。

なので、ルベスタリア王国内の商人達と最も関わる幹部なのだが、商人達は、ゲン担ぎをしたり、ルーティーンをしたりと、迷信めいた事も結構するので、其処から出て来た発想だったそうだ。



そして、10月25日、僕はイジャラン・バダ帝国の帝都イジャランへとやって来た…………







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