第19章 クーデター 3
第19章
クーデター 3
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「ティヤーロ、ありがとう」
僕は控え室のテントで椅子に座って、膝の上に座るティヤーロを優しく撫でる。
何故こんな状態かと云うと、建国祭開催のコールをした後で、僕がティヤーロをお姫様抱っこで控え室迄連れて来て、そのまま座ったからだ。
そして、ティヤーロもとても恥ずかしそうにしながらも、僕の膝の上から降りなかった。
「いえ、私の方こそ本当にありがとうございます。
其れと、勝手な事をして申し訳ありません。
追加で掛かった分は…………」
「いやいや、其処は僕にカッコ付けさせてよ。
其れに、妊娠中の赤ん坊については何も言って無かった訳だし」
「では、お言葉に甘えて…………」
と、もじもじするティヤーロ。
其処に、S級代理官の面々が入って来た。
みんなは裏方で、“空中要塞 メタベァース”への連絡や、プレゼントの金一封を配ってくれたりしていた。
そして、僕の膝の上に座るティヤーロを見て、
「ティヤーロだけズルい!!」
「ティヤーロさんだけズルい!!」
と、イデティカとグレーヴェが指差す。
「ご、ごめんなさい!!」
と、ティヤーロは慌てて僕の膝から降りた。
其処でふと気付く。
現在、妊娠を希望しているのはティヤーロ、イデティカ、グレーヴェの3人で、ティヤーロは妊娠したと今聞いた。
そして、イデティカとグレーヴェが声を揃えて、「ティヤーロだけズルい」と言ったと云う事は…………
「もしかして、イデティカとグレーヴェも?」
「あ!!は、はい、私も妊娠しました」
「ノッド様、何で今聞いちゃうんですか?
私、ティニーマさんの真似して、誕生日に言おうと思ってたんですけど…………」
「え?!あ、ああ、ごめんね、グレーヴェ。
その、2人ともありがとう」
「私こそ、ありがとうございます」
「あ、その、ごめんなさい。
私もノッド様の子供が妊娠出来て嬉しいです。
ありがとうございます」
「うん、じゃあ、みんな揃ったところで、お祭りに繰り出そう!!」
今年のルベスタリア王国建国祭は、ルベスタリア中央広場で開催されている。
去年のバーベキュー大会と違い、現在ルベスタリア王城1階の商業階に出店している各店舗が広場に出店を出してお祭り専用仕様になってくれている。
飲食店であれば、お祭り用の外で食べ易いメニューを提供していたり、お祭り限定のデザートの販売をしてくれたりしている。
衣料品店や雑貨店であれば、お祭り限定の特価品の販売や、商品を景品にした輪投げや射的などの提供をしてくれている。
後は、まだ商品としては出せない、オルゴール職人のバドロウトのところで勉強中の者達が自分の作品を売る露店をしていたり、ちょっと変わったところで言うと、僕の行き付けのマーメイドクラブは、『スカート捲り1回100ルーベ』と云うサービス?をしていたり…………
建国祭は非常に盛り上がっている。
まあ、僕が1人1万ルーベプレゼントして、それを使う様に言ったので、殆どの国民は綺麗に使い切るだろうから、屋台は大繁盛だろう。
因みに、使い切らない可能性が高いのはごく最近になってルベスタリア王国に来た者達だ。
彼らはまだ、学校で基礎の勉強中なので、半日勉強、半日仕事と云う体制が取れておらず、お金自体が僕がプレゼントした1万ルーベだけなので頑張って使っても、お釣りが少し残る可能性が高い。
逆に、元々のルベスタリア国民は、自分のお金を足して完全に1万ルーベが無くなる様に使うだろう。
広場ではナエラークが大勢の人に囲まれて、話しをしていた。
ナエラークの話しは多くが歴史的な伝説の数々だが、実際に本人が体験している話しなので、聞いていて非常に楽しい。
子供だけで無く、大人もナエラークの話しを興奮しながら聞いていた。
僕も国王らしく、広場で寛ぐ妊娠中の夫婦や、赤ん坊をあやす夫婦などを中心に声を掛けて回った。
こうして、代理官では無い国民と話す機会は多く無いので、お祭りを満喫しつつも出来るだけ多くの人と話した。
そんな中、不意に裾を引っ張られる。
今日は全員での行動だったからか、其れとも人が多いのが不安だったのか、久しぶりにエルヴァは僕の服の裾をずっと持っていた。
そして、エルヴァが立ち止まったので引っ張られた訳だ。
そのエルヴァの視線の先にはエリニーフォスが居た。
エリニーフォスも此方に気付いた様で此方に向かって来る。
やはり、元皇女だけあり、歩き方一つとっても気品が…………
…………何故か突然走って来た…………
そして、僕では無く、エルヴァの方に視線が向いている。
「あ、あの!!ノッディード陛下、此方の方は、ノッディード陛下のお子様でしょうか?」
「いや、ちょっと訳ありで面倒を見ている子だよ」
エリニーフォスが急に来て、エルヴァに顔を近付けたからか、エルヴァがサッと僕の後ろに隠れる。
しかし、珍しく直ぐに顔をひょっこり出してエリニーフォスの方を見ている。
そして、エリニーフォスもじっとエルヴァを見ている…………
「エリニーフォス、どうかしたの?」
「あ!!いえ、失礼致しました。
その、此方の方の、魂がその…………」
「え?エルヴァの魂がどうかしたの?」
「!!エルヴァ?!」
「う、うん。
この子はエルヴァだと思う。
残念ながら、そう呼ばれてただけで本人が話せないから本当のところは分からないんだけど、もしかして、エリニーフォスは何か知ってるの?」
「…………いえ、その、有り得ない事だとは思うのですが…………」
と、エリニーフォスが言うと、不意にエルヴァが僕の後ろから出て来て、エリニーフォスに抱き付いた!!
「え?!エルヴァが…………」
「初めて会った人に…………」
「自分から…………」
「抱き着いた?!」
驚いたのは僕だけじゃない。
S級代理官のみんな、全員が驚いている。
そして、抱き着かれたエリニーフォスも驚いているが、驚きと共に涙を流し始めた…………
エリニーフォスの涙が落ち着いてから、僕達は、控え室のテントに戻って来た。
その間も、エルヴァはずっとエリニーフォスに抱き着いている。
とりあえず、席に着いてから、一息ついて、エリニーフォスから話しを聞く流れになった。
「…………先ずは取り乱してしまって申し訳ありません」
「いや、良いよ。
こうして見ると、エルヴァとエリニーフォスって凄く似てるし、何か関係あるの?」
「いいえ、関係は無いと思います。
いえ、無い筈なのですが…………
先程、言い掛けたのは、此方のエルヴァ様の魂が、私の娘の魂と同じ様に見えたからです…………」
「其れって、オアシス村の時の娘さんの事?」
「はい…………
有り得ない話しなのは分かっています。
娘は確かに殺されてしまいましたし、其れは500年近く前の事ですから。
ですが、魂だけで無く、名前迄同じだなんて…………」
「え?名前も同じ?」
「はい、私の娘の名前もエルヴァです。
娘が亡くなったのは、まだ1歳の時でした。
なので、此方のエルヴァ様の見た目が似ているかと言われれば分からないのですが、私の娘のエルヴァも私や此方のエルヴァ様と同じく、金の髪に金の瞳だったので…………」
「…………ねぇ、エリニーフォス。
このエルヴァがキミの娘さんの生まれ変わりかって言われたら確認のしようが無いけど、キミの娘さんかどうかは、魔導具で鑑定出来るけど、試してみる?」
「え?!いえ、しかし、先程も言った通り、娘は500年も前に亡くなっていますから……………」
「もしもだけど、キミの“魂を操る魔法”をキミの娘さんが受け継いでいたとしよう。
そして、殺されてしまった事で肉体から魂が出た。
その後、キミがオアシス村を焼き払った事で娘さんの遺体も灰になった。
でも、実は“魂を操る魔法”は、本当は最初から不老不死の魔法で灰になった肉体が長い時間を掛けて再生した。
其れこそ、数百年と云う時間を掛けて。
そんな事があったとしたら、エルヴァがキミの娘さんだって可能性は全くのゼロでは無いんじゃないかい?」
「…………確かに、全くのゼロでは無いかもしれませんが、限りなくゼロに近い可能性ですね…………」
「まあ、そうだね。
でも、調べるのは簡単だから、ダメ元でやってみたら?
その方がスッキリするでしょ?
まあ、生まれ変わり説の方がまだ可能性は高いだろうけど」
「確かに仰る通りですね。
確認の積み重ねが研究の基本ですからね、可能性が低い事でも確認は必要ですね」
「じゃあ、明後日の日曜日に確認してみよう」
▪️▪️▪️▪️
「ああ、エルヴァ!!エルヴァ!!」
鑑定の結果、エルヴァはエリニーフォスの娘だった。
ハッキリ言って、言い出した僕自身、可能性はほぼゼロだと思っていただけに驚きだ。
しかし、そうなると僕の仮説が正解かどうかの確認が必要だ。
何故なら、もしも僕の仮説が正しければ、エリニーフォスはエルヴァを殺してしまった様なモノだからだ。
そして、もう1つ気になる事がある。
エルヴァが立ち止まってジッと見つめたのは昨日のエリニーフォスが2回目だ。
1回目の時は、賢者 ラノイツロバーの遺産のオリハルコンの箱を見つけた時だ。
なので、僕はエルヴァは賢者 ラノイツロバーの10人の高弟の誰かの子孫かと思っていた。
しかし、エリニーフォスの娘ならば其れは無いだろう。
但し、完全に無関係とも言えない。
エリニーフォスが旧ルコーツ市、現在の魔物街 アコウツウの市長をしていた時の代官、副市長を勤めていたと云うタナッシス・エーパーは10人の高弟の1人ヘイパーの子孫だと言っていたからだ。
「ルーツニアス、悪いんだけど、ちょっとエルヴァを隣の部屋に連れて行っておいてくれるかな」
S級代理官にエルヴァの惨状を知らない者は居ない、ルーツニアスも僕がエリニーフォスにエルヴァの過去を話すのだろうと気付いた様で、エルヴァの手を引いて隣室へと移動してくれた。
エリニーフォスも、エルヴァ本人に聞かせたく無い話しなのだろうと察したのか、真剣な表情で此方を向いている。
「エリニーフォス、此れから話すのは、あくまでも僕が知っている事だ。
だから、其れ以前の事は分からない。
先ずは、エルヴァと出会ったアルアックス王国の現状から話そう…………」
僕は、アルアックス王国の現状から話しを始めた。
アルアックス王国が完全に腐敗してしまっている事、多くの人が苦しい生活を行う中、王族や貴族が行っている非道な行為や差別、そして、このルベスタリア王国の国民の殆どが、その苦しいアルアックス王国での暮らしの中でも懸命に生きていた者達だと云う話しをした。
途中、何度も本人達から聞いた非道な仕打ちを交えて話し、エリニーフォスも何度も顔を歪めていたが、終始黙って聞いていた。
そして、ペアクーレ、ディティカ、イデティカとの出会いについて話し、其処で出会ったエベオベシティ伯爵について話した。
エベオベシティ伯爵が行っていた非道な行為も情報があっただけ説明した後で、そのエベオベシティ伯爵の元でエルヴァと出会った事を伝えた。
その際のエルヴァの惨状と共にエベオベシティ伯爵が言っていたエルヴァを手に入れた経緯も話し、兄と呼ばれていた男が、エルヴァとバンセと云うエルヴァの姉と呼ばれていた者をエベオベシティ伯爵に奴隷として売ったと云う事も伝えた。
エルヴァの惨状については黙って聞いている事が出来なかった様で、涙を流しながら嗚咽が漏れていたが、言葉を発する事は無く、エリニーフォスは聞き続けた。
しかし、エルヴァの惨状は此処からが本番だ。
僕はエルヴァの治療を行った流れと、エルヴァの状態を細かく説明した。
エリニーフォスは人体の研究については第一人者と言える。
エルヴァが生きていた事が如何に奇跡的な状態か分かるだろうと細かく説明したのだ。
案の定、エリニーフォスはエルヴァの惨状に心を痛めながらも、驚きが隠せないでいた。
そして、手術が終わってからの幼児退行について話し、このルベスタリア王国でどの様に暮らしていたかを伝えた。
とは言え、此処は平穏に暮らしていた話しなのと、エルヴァは結構このルベスタリア王国の機密を見てしまっているので掻い摘んで説明した。
「…………と、云う感じだ」
「…………ノッディード陛下、娘エルヴァを救って下さり、心よりお礼申し上げます。
この御恩は、今後の働きにて、生涯を掛けて御返し致します」
「うん、期待しているよ。
其れでだ、エリニーフォス。
今話した通り、エルヴァは心が壊れたまま、ゆっくりと成長はしているがハッキリ言って普通の子供の成長よりも遅い。
もしも、記憶の消去を行えば、此れは改善されるんじゃないかとは思うんだけど、其れをすると、僕の知らないエルヴァの大切な記憶が有った場合、その記憶も失われてしまうと思って、勝手に消す事をしなかったんだけど、母親としてのキミの考えはどうかな?」
「ノッディード陛下、私にはエルヴァの母親として接する資格はありません。
ノッディード陛下の予想通りであったなら、私がエルヴァを殺したも同然ですし、私は此れまで、エルヴァに何もしてあげられて居ないのですから…………」
「まあ、そう思っちゃうか。
だったら記憶についてはこのままにしておこう。
其れと、キミも受けたと思うけど、適性検査についてだ。
現在、ルベスタリア王国民は全員、適性検査を受ける義務が有るんだけど、エルヴァは以前怖がったから受けていないんだ。
でも、最近のエルヴァの様子なら受ける事が出来ると思う。
そして、エルヴァの固有魔法が分かれば、エリニーフォスがオアシス村と共に焼いてしまったのが原因で長い時間を掛けて生き返ったのか、其れとも、全く別の理由なのかが分かるんじゃないかい?」
「そうですね、本人が嫌がらないのであればお願い致します」
「うん、じゃあ、最後に1つ気になっている事があるんだけど、エリニーフォスがオアシス村で結婚した旦那さんは、タナッシス・エーパーじゃあ無いよね?」
「ええ、違います」
「あのさ、エルヴァが何かに反応したのは、実は2回目で、最初に反応したのが、賢者 ラノイツロバーが10人の高弟に残した遺産だったんだよね。
このくらいのオリハルコンの箱なんだけど…………」
「あ!!其れは…………」
エリニーフォスは僕の云うオリハルコンの箱に思い当たる事がありそうだが、微妙に気不味い感じだ。
何やら言いたく無さそうな雰囲気ではあったが、大きな溜息を付いて、語り出した。
「其れは恐らく、賢者 ラノイツロバーの懺悔の書の解読シートが隠されていた箱だと思います」
「そうそう、その箱だよ」
「え?!ご存知だったのですか?」
「うん、ルベスタリア王国には、高弟の1人のプレンテスの子孫が居て、その家族がその箱も日記の“アーカイブ”も持ってたからね。
で、その家族と出会うキッカケになったのが、エルヴァがその箱に反応したからなんだよ」
「なるほど、そうでしたか。
では、エルヴァがその箱に反応したのは、その箱を私が持っていたからでは無いかと思います。
もう、今更ですから、申し上げますと、私はタナッシスと不倫関係でした。
ルコーツ市に派遣されて、私は未婚のままでしたが、タナッシスはエーパー家を残す為に結婚しました。
エーパー家の家訓により、爵位を上げる事も、高位の家と結婚する事も出来なかったので、皇家の私とは結婚出来なかったのです。
ですが、タナッシスは私への愛の証として、あの箱をくれました。
もちろん、中身はエーパー家に残していましたが、エーパー家の家訓に背くギリギリのプレゼントだと言って…………」
寂しそうに微笑むエリニーフォス…………
エリニーフォスにとっては、哀しくも大切な思い出なのだろう…………
しかし、タナッシス・エーパーの名前を僕は知っていた。
いや、以前エリニーフォスの話しを聞いた後に思い出したのだ。
「エリニーフォス、キミの思い出を穢す様でちょっと言い難いんだけどさ。
タナッシス・エーパーは多分、弟のコロラッド・ルニウメン皇子と繋がってたよ。
其れも結構な待遇を受けてた筈だ」
「え?!ど、どど、どう云う事ですか?!」
「ナエラークが捕らえられていた経緯は話したよね。
で、其処の研究所には3人の最高責任者が居たんだけど、その内の1人がタナッシス・エーパーだった。
更に、旧ルコーツ市、今の魔物街 アコウツウで僕達が見つけた凄く豪華な“エヴィエイションクルーザー”の持ち主もタナッシス・エーパーだった。
キミの話しだと、キミに功績を示させて、次期女王にする為に協力するって話しだったけど、多分、タナッシスが功績を立てる協力をしていたのは、弟のコロラッドの方だったんじゃないかな?
因みに、ラノイツロバーの懺悔の書の内容は知ってる?」
「いいえ、世界中を大混乱に陥れてしまう程の秘密であるとしか…………」
「そうか、まあ、確かにそうなんだけど、賢者 ラノイツロバーは結構非道な実験をしてて、其れも自分の私利私欲の為だったんだよね。
だから、もしもその内容が公表されたら賢者 ラノイツロバーと一緒に10人の高弟の権威も地に堕ちる。
其れを防ぐ為に、エーパー家はラノイツロバーの遺産を処分して、自分達の地位を守りつつ、10人の高弟の子孫だと示す事が出来る“アーカイブ”だけを手元に残したんじゃないかな?
賢者 ラノイツロバーの遺産の中には、“エヴィエイションクルーザー”や、“飛行ユニット”や、“重力操作ユニット”の現物が有ったんだけど、其れらは“エヴィエイションクルーザー”の研究所には無かったけど、研究所の情報はラノイツロバーの遺産の“アーカイブ”の情報と同じモノも有ったからね」
「…………私はずっと、タナッシスに騙されていたのですね…………」
「多分だけどね。
まあ、男女の関係の部分は何とも言えないけど、少なくともナエラークを苦しめた一味の1人だから、僕にとっては良いヤツとは言えないね。
とりあえず、エルヴァがあの箱に反応した理由は分かったよ。
其れと10人の高弟の1人ヘイパーの持っていた遺産が紛失している可能性が高い事が分かったし、良しとしようかな」
「あの、ノッディード陛下、私は本当にこのままこのルベスタリア王国に居ても良いのでしょうか?」
「其れって、コロラッドの姉で、タナッシスの不倫相手だから?」
「はい…………」
「其れは別にキミが悪い訳じゃ無いでしょ。
ナエラークも直ぐに許してくれたじゃないか。
僕としては、大昔に死んだ弟や不倫相手の責任を感じる事よりも、今生きてる娘の為にこのルベスタリア王国の発展に尽力してくれる方が有り難いしね」
「…………はい、分かりました。
先程申し上げた通り、今後の働きにて、生涯を掛けて御返し致します」
「うん、そうして欲しい。
じゃあ、エルヴァの適性検査に行こうか」
ルベスタリア王国では、現在全ての国民に適性検査を行っている。
此れは、賢者 ラノイツロバーの“アーカイブ”から得た情報で、魔導士で無い者も殆どの者が何かしらの固有魔法を持っている事が分かったからだ。
なので、生まれ持った固有魔法を知る事で、どんな仕事が向いているかを知る為と、新たな魔法の発見の為に行っている。
しかし、初めてエルヴァに適性検査を行おうとしたのは、エルヴァの幼児退行が何かしらの魔導具の影響が無いかを調べる為だったので、エルヴァがまだルベスタリア王国に来て間も無い頃の僕に常にべったりだった時期で“ラーニング•プラクティス”を怖がったので中止したのだ。
まあ、どう見ても精神的な理由が強いだろうと云う事は分かっていたので無理強いしなかった。
そして、今日、エルヴァの適性検査を行ったのだが、結果は…………
「…………結論から申し上げて、エルヴァ様の固有魔法はエリニーフォス殿下の“魂を操る魔法”ではありません」
言い難そうな表情で、アエルゲインがそう言うと、エリニーフォスは僅かに緊張が緩んだ様だった。
自分の固有魔法を受け継がせてしまったせいで、エルヴァを苦しめていなかったと分かったからだろう。
しかし、僕は逆に緊張感を高めた。
アエルゲインの表情から、間違い無く、良い話しでは無いからだ。
「…………エルヴァ様の固有魔法は、“魂を固定する魔法”です…………」
「…………“魂を固定する魔法”ですか?」
エリニーフォスはこの“魂を固定する魔法”を知らないのだろう、疑問顔で聞き返す。
しかし、僕もアエルゲインもこの魔法の事は知っている…………
恐らく、この結果を説明し難い故にエルヴァ本人を同席させなかったのだろう。
「アエルゲイン、つまり、エルヴァの魔法は、“普通に死ぬ事が出来ないだけ”の魔法と云う事か…………」
「はい、残念ながら仰る通りです…………」
「!!その魔法は一体何なのですか?
“普通に死ぬ事が出来ないだけ”とは、どう云う意味ですか?」
エリニーフォスの質問に、アエルゲインが『答えても良いか?』と、云う視線を向けて来る。
僕は頷いて了承した。
「…………ノッディード陛下が“不老不死”であると云うのは聞かれておりますか?」
「は、はい、お伺いしております」
「では、陛下の“不老不死”は、“不老不死の固有魔法”によるものだと云う事は?」
「い、いいえ、私とは違い、真の“不老不死”であると云う事とだけしか……」
アエルゲインが再度僕を見て来たので、僕ももう一度頷いて了承を応える。
「陛下の“不老不死”は、“不老不死の固有魔法”によるモノです。
この“不老不死の固有魔法”は、121個の通常の魔法陣が組み合わさって出来ています。
そして、この121個の魔法陣の1つ、全ての魔法陣の中心に在るのが、先程申し上げた、“魂を固定する魔法”の魔法陣です。
しかし、この魔法は単独では何の意味も無い、寧ろ害悪となってしまう魔法である事が分かっています。
この魔法の効果は、“魂の固定”です。
ですから、じわじわと苦しめられて殺される時、人は途中で耐えきれず完全な致死に至る前でも魂が抜け、死んでしまう場合が殆どですが、完全な致死に至るまで死ぬ事も出来ません。
そして、例え死んでしまっても、魂が世界に還る事無く、その場に留まり続けてしまうのです。
ハッキリと申し上げて、“呪い”としか言いようの無い魔法です」
「そ、そんな…………
何か、エルヴァを救う方法は無いでしょうか?
私に出来る事ならば、何でも致します、どうか、エルヴァを!!」
「…………現段階では、何とも言えません。
私としても、エルヴァ様をお救いしたいのは山々ですが、残念ながら、ノッディード陛下の“不老不死の魔法”については再現が不可能と言って良い程の可能性の低さなのです。
ですから、全く別のアプローチが必要ですから…………」
「…………可能性が低くとも、再現が可能なのですか?
もしも、エルヴァの“魂を固定する魔法”の周囲に、残りの120の魔法陣の書き込みが出来れば、僅かでも可能性が有るのですか?」
「…………ゼロでは無いと云うだけです。
1万分の1や、1億分の1と云うレベルではありません、言うならば、無限分の1です。
確かに、ノッディード陛下の“不老不死の魔法”陣の書き込みは可能です、エルヴァ様は魔導士ですから可能性は有るでしょう。
しかし、発動するには、正しいルートでの魔法の使用が必要です。
このルートは、全ての魔法陣を巡るだけではありません。
同じ場所を何度も巡って、同じ魔法を何度も繰り返しながら最終的な結果として、“不老不死の魔法”が発動するのです。
ですから、魔法の正しいルートは無限の可能性の中の1つなのです。
そして、既に発動してしまっているノッディード陛下に再現して頂く事も出来ませんから、延々と無限の可能性の中から探す事になります。
ほぼ不可能だと言いましたが、一般的には絶対に不可能だと言うでしょう。
其れよりも、全く別のアプローチを試みる方が良いと思います」
アエルゲインの言葉にエリニーフォスが項垂れる。
エリニーフォス自身も研究者だ、アエルゲインの言っている意味が理解出来るからだろう。
静かになってしまったので、僕の方の疑問点の話しをしようか…………
「ねえ、アエルゲイン。
“魂を固定する魔法”で、どうやってエルヴァは生き返ったと思う?」
「…………奇跡的な可能性ですが、エルヴァ様の遺体の僅か一部が、怪我回復ポーションに浸かったのでは無いでしょうか?
其れが、徐々に回復して行ったか、或いは、その怪我回復ポーションを偶然、まだ魂の宿っていない赤子を宿した者が飲み、其れを吸収した赤子の身体にエルヴァ様の魂が固定されたか…………」
「…………でも、前者だと、ポーションの瓶の中に身体の一部が浮かんで気持ち悪い状態になるだろうし、後者だと、エリニーフォスとエルヴァが親子だって判別されないんじゃない?」
「確かに、その通りですな。
しかし、他の可能性は…………」
「う〜ん…………
難しいね。
実はエルヴァが最初から死んでなかったとしたら、この500年の時間が不明になるし、“魂を固定する魔法”が有るから生まれ代わったって事は無いし、そもそも、生まれ代わりなら親娘にはならないからなぁ〜…………」
僕とアエルゲインがうんうんと唸っていると、今日はずっと無言だったネイザーがスッと手を上げた。
気遣いのスペシャリストのネイザーは、恐らくエルヴァの事は僕とエリニーフォスの家族の問題だと、口を挟まなかったのだろう。
だが、僕とアエルゲインの話題がエルヴァの生き返った理論的な会話になったので参加する事にした様だ。
「アエルゲインさん、アエルエンタープライズの怪我回復ポーションは、作成の段階で、薄めて作ると早く作れたりしますか?」
「いいえ、作成手順はポーションの効果の強弱とは関係ありません。
敢えて効果の低いポーションを作っても作成に掛かる時間は同じです。
其れならば、作成した後で水で薄める方が早いでしょう」
「なるほど、やはりそうですか。
ノッディード陛下、エルヴァの復活の理由の可能性ですが、先程、アエルゲインさんが言っていた偶然ポーションの中にエルヴァのほんの小さな一部が浸かった事で長い時間を掛けて全身が戻ったのではないでしょうか?」
「ネイザーがそう考えた理由は?」
「はい、僕達は、ルベスタリア王国で普通に怪我回復ポーションを使っていますが、アルアックス王国やアルコーラル商国で販売している怪我回復ポーションには、最高級品質から最下級品質まであります。
しかし、そのポーションの作成がアエルエンタープライズでの作成と同じ魔導具から作られているなら、最初から出来上がったポーションは全てルベスタリア王国のポーションと同じ筈です。
と、云う事は、アルアックス王国やアルコーラル商国では、水で薄めて品質を下げていると考えられます。
ならば、恐らくアエルエンタープライズの様に作成後に直ぐに瓶に詰めるのでは無く、一旦タンクの様なモノに作り出して、其処から原液で瓶詰めするか、水に薄めて瓶詰めするかと云う形で品質管理を行っているのでは無いでしょうか?
もしも、そうなら、そのタンクの中で、エルヴァが回復して、タンクで溺れる赤ん坊を掬い上げたとは考えられないでしょうか?」
「なるほど!!
確かに、その可能性なら有るかもしれないし、辻褄も合いそうな感じだ!!」
「ええ、確かに可能性がありそうですな。
ポーションを薄めて販売する詐欺は有りましたが、まさか其れ自体が通常の商売となっているとは…………」
「まあ、それだけ今の時代は魔導具が希少だって事だよ。
其れにしても、さすが、ネイザーだ」
「有難う御座います。
其れと、もしも、今の仮説が成り立つなら、エルヴァの“魂を固定する魔法”の問題も解決します。
エリニーフォスの肉体と同じ様に、前以てスペアを準備しておき、遺体を火葬すれば、最も大きな身体であるスペアの肉体に魂が向かうでしょうから。
ただ、今の様に死んでいる状態での保存では無く、生きている状態で保存する必要があるのと、生きている状態に出来た場合にその肉体がクローンの様に別の人物になって仕舞わないかが問題ですが」
ネイザーの話しに先程まで項垂れていたエリニーフォスの両目がカッと開かれる!!
エルヴァを救う方法が見つかったかもしれないのだから当然だ。
そして、ネイザーの上げた問題点についても考え始めた様で、1人でブツブツ言い始めた。
「…………ネイザー、その仮説は調べてみる価値が十分に有ると思う。
とりあえず、諜報局に、ポーションがどんな感じで保管されているかと、タンクみたいなモノでの保管だった場合には、そのタンクで溺れているところを見つかった赤ん坊が居なかったかの聞き込みをして貰って」
「はい、畏まりました」
「と、云う訳でエリニーフォス。
キミは出来るだけ早く学校を卒業して、最短で代理官になれる様に頑張って。
言っておくけど、キミが如何に優秀だろうと、学生にも代理官じゃ無い一般国民にも、此処で研究する資格は無いからね。
もちろん、僕もエルヴァが大切だから、エルヴァを救う為の方法の模索はして行くけど、キミが自分で何とかしたいなら、出来るだけ早く代理官になる事だ」
「はい…………」
「まあ、焦らなくても、エルヴァとは…………
そう言えば、エルヴァと一緒に暮らす?
学生の間は恋愛禁止だから、夫婦で暮らす事は出来ないけど、親子で暮らすのは問題無いよ?」
「!!そ、その、よ、宜しいのでしょうか?」
「エルヴァ本人がエリニーフォスと暮らしたいなら問題無いよ。
少なくとも、エリニーフォスが母親だって分かってるみたいだし」
「でしたら、エルヴァと一緒に暮らしたいです。
お願い致します!!」
エリニーフォスは、何と土下座して頼んで来た。
今迄はやはり、皇家の生まれの為か、丁寧に頭を下げるだけだったが、よっぽどエルヴァと暮らしたいのだろう。
そして、土下座すら、気品のある土下座だ。
「エリニーフォス、キミの気持ちは分かったけど、あくまでエルヴァが一緒に暮らしたいならね」
「あうぅ〜………あうぅ〜………」
「申し訳ありません、ノッディード陛下…………」
大泣きしながら僕に縋り付くエルヴァ。
適性検査の後、エルヴァにエリニーフォスと一緒に暮らすか聞いてみたのだが、まあ、もちろんエルヴァは話せないので、答えなかったがイヤそうでは無かったので、エリニーフォスが連れて帰った。
そして、エリニーフォスと一緒にお風呂に入って、夕食を摂り、いざ寝ようと云うところで、急にエルヴァが部屋の中をうろうろとし始め、全ての部屋を見て回った結果、泣き出したらしい。
何とか宥めようとエリニーフォスも頑張った様なのだが、何時迄経っても泣き止まず、仕方なく役所に行って僕に連絡したと云う事だった。
「まあ、仕方ないよ、きっと初めての場所で不安になったんだろうから…………」
「ノッド様、其れは違う」
僕はさりげなく、エリニーフォスが落ち込まない様にフォローしたつもりだったが、一緒に迎えに来たペアクーレが一瞬で全否定して来た。
ペアクーレの言葉に、フォローされたと思っていたであろうエリニーフォスもあからさまにショックを受けている感じになっている。
「エルヴァはノッド様に捨てられたと思って泣いてる、女として」
「いやいや、僕が捨てたって…………って、女として?」
僕もペアクーレの言葉に驚いたが、僕以上にエリニーフォスが驚いている。
そして、瞬く間に、その表情に激しい憎悪が浮かぶ。
「ノッディード陛下、まさか、まだ何も分からないエルヴァに…………」
「いやいや、もちろん、何もして無いよ。
って、ペアクーレ!!」
自分から冗談を振っておきながら、ペアクーレは僕に殺気を向けたエリニーフォスの首筋に一瞬で剣を当てている。
エリニーフォスはSランクハンターをしていたと言っていたが、ペアクーレの抜剣に全く反応出来なかった様で、完全に固まっている。
「ノッド様に殺気を向けるなんて不敬、例えどんな理由があろうと許されない」
「いやいや、エリニーフォスもペアクーレの冗談を間に受けちゃっただけなんだから、剣はしまいなよ」
僕がそう言うと、ペアクーレは何事も無かったかの様に剣を納めながら、「冗談じゃ無い」と言って真剣な目で僕の方を見る。
「エルヴァは上手く伝えられないだけで、ノッド様の事を1人の女として愛してる、間違い無い」
「…………其れって、ペアクーレの女の勘?」
力強く語るペアクーレにちょっと引きつつも聞き返すと、ペアクーレはフルフルと首を横に振る。
「目を見れば分かる、エルヴァは本気でノッド様を愛してる。
其れに、ティニーマさんも、そう言ってた」
くっ!!まさかここでティニーマの名前が出て来るとは…………
ティニーマの女の勘は100発100中だ。
もう、確定された未来と言っても過言では無い!!
僕が戦慄していると、固まっていたエリニーフォスが復活して、謝りつつもペアクーレに反撃しようとする。
「ノッディード陛下への非礼はお詫び致します。
ですが、エルヴァは身体は大人でも、心はまだ幼い子供です。
女性としてノッディード陛下を慕っていると云う訳では無いと思いますが?」
「其れは違う。
エルヴァは精神年齢が幼くなってるだけ、心は子供に戻った訳じゃ無い。
その証拠に、エルヴァはノッド様の前を絶対に歩かない。
ノッド様と一緒の時には服も着くずさないし、ノッド様の仕事中には邪魔にならない様にずっとジッとしてる。
ちゃんと、ノッド様の立場を分かってて、ノッド様の側に女性として立つならどう有るべきか考えてる」
驚いた…………
言われてみれば、エルヴァは幼児退行してしまっていると思っていたが、確かに、何処かに駆け出して行ったりしないし、僕の仕事中にはペアクーレ達と同じ様にずっとジッとしている。
普通なら、子供は興味のあるモノの方に突然駆け出したり、長時間ジッとして居られないモノだ。
エリニーフォスも驚いている。
ペアクーレの話し的に、僕以外と一緒の時にはそういった行動もとるのだろう。
多分、今日一日一緒に過ごして、其れをエリニーフォスは見たに違い無い。
そして、僕も今気付いたが、泣き止んだエルヴァはいつの間にか僕とエリニーフォスの間を塞がない様に僕の後ろに立っている。
「エルヴァ。
エルヴァは一人の女性として、ノッド様を愛してるよね?」
…………ペアクーレのストレートな質問に、エルヴァは頷いた…………
それも、少し恥ずかしそうに…………
エリニーフォスの目がヤバいくらい見開かれている!!
「エ、エルヴァ、本当に?」
慌てて再度聞いたエリニーフォスの言葉にも、エルヴァは頷いた。
そして、いつもの様に裾を掴んでいた手を僕の腕に回して抱き着いて来た。
「そんな…………
やっと一緒に暮らせると思ったのに、初日でお嫁に行ってしまうなんて…………」
崩れ落ちるエリニーフォス…………
まあ、言っている事はアレだが、言いたい事は分からなくも無い。
しかし、そうなると…………
「いや、エリニーフォス。
僕はS級代理官になった者としか女性として接さない、其れ以外の者は全て僕にとっては一国民だ。
其れと、僕は“不老不死”の国王だから、結婚もせず、王妃も娶らない」
「…………ノッディード陛下、そのお言葉は私にとっては何の慰めにもなりませんよ?
娘を男性に奪われる母親である事は変わらないんですから…………」
「いやいや、十分慰めになるでしょ。
だって、次のA級代理官試験は4年後だけど、エルヴァの今の状態だったら、其れは難しいだろうし、そうなったら、その次の試験は9年後だよ?
十分に親子として過ごす時間はあるでしょ?」
「確かに其れなら…………」
「だから、まあ、明日からは、日中だけ一緒に過ごしてエルヴァが慣れて来たら泊まりに来させて、其れから一緒に住む様にしたら良いよ」
「はい、御心遣い感謝致します、ノッディード陛下。
じゃあ、エルヴァ、また明日ね」
こうして、エルヴァは、もう暫く僕のところに住む事になった。
そして、現在エリニーフォスは学校に通っているので、丁度良い機会なのでエルヴァも一緒に学校に行かせる事にした。
エルヴァはまだ話す事が出来ないので、読み書きを習うにはまだ早いかもしれないが、ルベスタリア国立学校は別に何年通っても問題無いので、エリニーフォスと一緒に通える内はその方が良いし、親子の中も深まる事だろう。




