第19章 クーデター 2
第19章
クーデター 2
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8月28日、ペアクーレとルーツニアスがワルトルットゥ師団の面々と共に帰って来た。
北部3ヶ所の監視小屋が無事に完成したのだ。
この監視小屋は、北東のドラゴンと北西の伝説の魔獣及び、周辺国からの侵入を事前に知る為だけのモノだ。
万が一、ドラゴンや伝説の魔獣に襲われたり、人間の軍隊が攻めて来ても防衛が出来る程のモノでは無い。
ただ、小屋の中で監視する者の身の安全だけは確保している小屋だ。
此処には来年からワルトルットゥ師団の代理官が交代で春から秋に掛けて駐留して監視を行う予定だ。
本来なら、国境監視に当たるこの小屋での監視は年中行うべきだろうが、ワイドラック山脈の雪は尋常では無い。
小屋は完全に雪に埋もれるだろうし、中で冬を越させるのは拷問に近いので、冬の間は無人で放置するしかないのだ。
ワルトルットゥ師団の代理官の中には、冬の監視を志願してくれた者も居たそうだが、僕が止めさせた。
小屋の建設に行っていたワルトルットゥ師団の面々には3日程、全員に休みを取らせて、9月からは、空中要塞への物資の運搬に着いて貰った。
空中要塞は、万が一の時のルベスタリア王国民全ての避難場所でも有る。
なので、要塞そのものは既に完成しているが、各施設の設備や避難時の生活物資などの積み込みや設置も街を1つ丸々作る程の量で、運搬だけでもかなりの労働だ。
そんな、空中要塞を眺めながら、僕は頭を悩ませていた…………
空中要塞の名前を決めなくてはいけないからだ…………
僕はつい先日、子供達の名前決めで、圧倒的な批判を受けたばかりなのだ…………
“空中要塞 メタヴァース”
一日中考えた結果、古代科学文明時代の立体空間を現すこの名前にした。
いや、この名前で、やっと許可が降りたと言った方が良いだろう。
こうして、完成を最も阻んでいた、要塞の名前問題が解決した事で、“空中要塞 メタヴァース”は、何とかルベスタリア王国建国祭でお披露目が出来る事になったのだった…………
ルベスタリア暦5年9月9日
此処はルベスタリア中央広場、今、僕の目の前には8,000人を超える国民が居る。
エリニーフォスの様にごく最近このルベスタリア王国に来た者も、普段は各国を飛び回って諜報活動をしている者も、今日は大切な建国祭なので勢揃いだ。
「やあ、みんな。
国王のノッディード・ルベスタリアだよ」
昨年同様に、軽い挨拶を行ったが、昨年の緊張した雰囲気とは違い、大きな歓声と拍手が巻き起こった。
まあ、今年やって来た元奴隷の子供達やエリニーフォスなどは、意味が分からなくて戸惑っている様だ。
因みに、昨年の建国祭よりも今年は1,000人くらい多い。
1つは、今年やって来た者が500人くらい居るから、もう1つは、今年産まれた赤ちゃんが500人くらい居るからだ。
この調子でどんどん国民を増やして貰いたい。
僕が軽く手を上げると。大歓声も一瞬で静かになる。
ルベスタリア王国民は非常に統率の取れた国民なのだ。
「今日はお祭りをしっかりと楽しんで貰いたいんだけど、その前に2つ紹介したい。
1つ目は、アレだ!!」
そう言って僕は北を指差す。
すると、遥か北にあるルベスタリア王国の防壁のその先から巨大な建造物が浮上して行く。
言わずもがな、“空中要塞 メタヴァース”だ。
直径10kmと云う大きさに対して、上下は中央部分でも1kmも無いので非常に薄っぺらく見えるが、其れでも異常な大きさの物体が宙に浮き、ゆっくりと此方に向かって来る姿は恐怖を覚えるかもしれない…………
いや、杞憂だった…………
ルベスタリア王国民からは大歓声がまたも上がっている。
多分、「何だか分からないけど、凄い!!」みたいなノリだろう。
そして、そんな巨大なモノが頭上に迫って来ているにも関わらず、ティヤーロが、
「……静粛に、ノッディード陛下のお言葉があります」
と、言った瞬間、ピタッと静かなった。
ルベスタリア法聖庁の教育は、僕もちょっとビックリするレベルだ。
「アレは、“空中要塞 メタヴァース”だ。
ルベスタリア王国は周囲をワイドラック山脈に囲まれて守られているが、空は無防備だった。
しかし、これからは、あの“空中要塞 メタヴァース”が守ってくれる。
此れで、今迄以上にルベスタリア王国が安全な国になるだろう。
そして、あの“空中要塞 メタヴァース”は、いざと云う時の避難場所でもある。
あの中には、ルベスタリア王城と同等の生活を行える様にしっかりと準備してある。
もしもの時の備えとしても、キミ達の心の安らぎを与えてくれるだろう!!」
僕の言葉にまたも大歓声が上がる。
多分、コレも「何だか分からないけど、凄い!!」みたいなノリだろう。
まあ、それで十分だ。
「……じゃあ、もう1つの紹介をしよう」
僕がそう言って、もう一度、北を指す。
すると、常にルベスタリア王国を守っている“半球開閉式不可侵領域結界柱”の結界の一部が消えて行く。
そして、“空中要塞 メタヴァース”から小さな点が此方に迫って来る。
小さな点は凄いスピードで此方に迫って来て、どんどんと大きくなる。
その姿が近付いて来る中、誰かが、「ドラゴンだぁ!!!!」と、叫んだ瞬間、会場に大混乱が…………
起きなかった…………
またも、ティヤーロが、
「大丈夫です、静粛にノッディード陛下のお言葉を聞く様に」
と、言ったら静かになったからだ…………
まあ、さすがにドラゴンが近付いて来ているのだ、今年来たばかりの者は戸惑っている様だが、周りが落ち着いているのであたふたしている…………
そうこうする内に、迫っていたドラゴンがルベスタリア中央広場の上空を一周して勢いを殺したかと思うと、フワッと僕の横に降り立った。
「紹介しよう。
彼女は、久遠の空の女王 ナエラーク ファースト エタニティスカイ。
色々な伝説で、『ファーストドラゴン』とか、『マザードラゴン』とか呼ばれている、あのドラゴンだ。
そして、僕の大切な家族でもある」
そう言って、ナエラークに手を差し出すと、ナエラークは指先をちょこんと、僕の手の平に添える。
其れを見た国民達が、「おお〜〜」っと、感嘆の声を上げた。
「ナエラークは、此処に居る殆どの者達よりも前からこのルベスタリア王国に住んでいたんだけど、ずっと封印されてしまっていたんだ。
そして、今年、とうとうその封印から出して上げる事に成功した。
だから、今後は僕と一緒にルベスタリア王城に住む事になる。
此れからは、ナエラークの事もルベスタリア王国の一員として接して欲しい」
僕の言葉に会場からまたもや大歓声が…………
起きなかった。
みんなが、膝を着いて、僕に祈り出したからだ…………
いや、理由は分かるよ?
僕の後ろで、ティヤーロ達3人の聖女が僕に祈ってるんでしょ?
…………やっぱり…………
まあ、良いけど…………
「……敬虔なるルベスタリア王国の民達よ。
私は、久遠の空の女王 ナエラーク ファースト エタニティスカイだ。
私は、ノッディード・ルベスタリア王を心から愛している。
故に、ノッディードの守らんとするこのルベスタリア王国を、ノッディードと共に未来永劫守ると此処に誓おう。
ルベスタリア王国に悠久の安寧のあらん事を!!」
ナエラークの言葉に今度は、「ノッディード陛下万歳!!ナエラーク様万歳!!」と、大きな歓声が上がった。
…………此れは、絶対に法聖庁とナエラークが結託して行った仕込みだろう…………
まあ、ナエラークが僕を愛してくれている事も何かあったらルベスタリア王国を守ってくれる事も別に何の嘘も無いのだが、こう言う言い回しで言ったのは、絶対に台本があったからに違い無い。
鳴り止まない万歳コールに、今度はレアストマーセがスッと手を上げた。
やっぱり、一瞬でピタッと静かになる。
「じゃあ、みんな、此処からは楽しいお祭りだ。
今日は、見ての通り沢山の出店が出ているから、しっかりと飲んで騒いでくれ。
その為に、僕のポケットマネーから1人1人に1万ルーベ、プレゼントするから、ちゃんと使い切るまで遊ぶ様に!!」
僕がそう言うと、また大歓声が上がった。
まあ、1番嬉しいプレゼントは、やっぱりお金かな?
と、ティヤーロが僕の横に来た事で、またも、会場は静かになる。
「ノッディード陛下、お言葉だけで無く、更なる多くの幸福を賜り、誠に有り難う御座います。
皆さん、偉大なる我らがルベスタリア王国の国王、ノッディード・ルベスタリア陛下に礼拝を…………」
ティヤーロの言葉で全員が僕に祈りを捧げる。
チラッと見たナエラークは、まるで自分の事の様に満足そうだ。
「…………皆さん、顔を上げて下さい…………
では、此処からノッディード陛下からのプレゼントをお配りします。
各列の端から配って行くので、全員、ノッディード陛下への祈りと共に開封する様に。
そして、ノッディード陛下は、産まれたばかりの赤ん坊にも、お腹の中の赤ん坊にも、全てのルベスタリア王国民へプレゼントして下さいます。
なので、妊娠している者は、配布に来た代理官にその旨を伝える様に」
…………アレ、妊娠中の子供も対象にしたっけ?
そう思って、ティヤーロの方を見ると、ニッコリ笑って、自分のお腹を摩る。
「……ティヤーロ、もしかして…………」
「はい…………」
ティヤーロには珍しく、恥ずかしそうに俯いてから、チラッと上目遣いで僕の方を見る。
プレゼントの配布の対象は赤ん坊にもとは言ったが、妊娠中の赤ん坊にもとは言っていなかったが、妊娠中の赤ん坊は対象外とも言っていない。
多分、自分の妊娠の事を僕に伝える為だけに勝手に妊娠中の赤ん坊にも配る事を押し通したのだろうが…………
許そう!!!!
ティヤーロがこう云う事をするのは珍しい。
妊娠中の赤ん坊が2、300人居たとしても、たかが2、300万ルーベだ。
この珍しく悪戯をしてしまって恥ずかしそうにするティヤーロの姿には其れ以上の価値が十分に有る!!
僕は大観衆が見ている講演台の上でゆっくりとティヤーロを抱き寄せると、衆目の集まる中で、唇を奪った。
驚きで目を見開いたティヤーロが、国民達の方に視線を向けたのには気付いたが、其れでも離さない。
多分、近くに居た者が僕達のやり取りを聞いていたのだろう。
「聖女様、御懐妊、万歳!!」
と言うと、壇上の僕達に気付いた国民達が、「「「聖女様、御懐妊、万歳!!」」」と、歓声を上げ始めた。
瞬く間に、ルベスタリア中央広場は、聖女コールに包まれたのだった…………




