第19章 クーデター 1
第19章
クーデター 1
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魔物街 アコウツウで見つけた、皇女 エリニーフォス•ルニウメンをルベスタリア王国に連れて帰って来てからエアポートタワーへと連れて来た。
先ずはアエルゲインに紹介して、肉体に魂を戻すところからスタートだったのだが、アエルゲインは自分の事は余り言わないが、やはり当時凄い人物だった様で、エリニーフォスが大興奮だった。
エリニーフォス曰く、賢者の再来と言われていて、賢者 アエルゴイヌを超えるのではないかと言われていたらしい。
エリニーフォスは是非アエルゲインの助手にして欲しいと言って来たが、もちろん、却下だ。
エリニーフォスには、ルベスタリア王国の代理官制度のルールを説明して、最低でもB級代理官、出来ればA級代理官になってからアエルゲイン本人の了承を得て助手になる様に伝えた。
正直言って、エリニーフォスはまだ信頼に値しないので、ルベスタリア王国の機密を大量に知っているアエルゲインに近付けたく無い。
彼女の魂になる能力で、機密が盗まれ放題だからだ。
アエルゲインにはこっそりと、早めに“魂を見る魔法”の魔導具を製作して欲しいと言っておいた。
次に向かったのはナエラークのところだ。
万が一、ナエラークがエリニーフォスの弟のコロラッド・ルニウメン皇子の対する恨みをエリニーフォスにぶつけたいと言ったら許可するつもり満々で連れて行ったのだが、エリニーフォスの即座の全力土下座にナエラークは簡単に許した。
まあ、そうなるだろうと思っていた。
ナエラークの心は大空の様に広いので、家族だからとエリニーフォスに八つ当たりをしたりしないだろうと予想していた。
まあ、此れは何方かと言えばエリニーフォスの為だ。
ナエラークに対しての後ろめたさを解消しておこうと思ったからだ。
最後に向かったのは参謀部だ。
アルコーラル商国の古代遺跡都市には、何故かゾンビ系の魔物やレイス系の魔物が居なかった。
その理由は、エリニーフォスが魔物達の魂を集めてレイス系の魔物にし、其処を動かない様に命令する魔導具を設置していたからだ。
この魔導具は効果範囲が余り広く無く、古代遺跡都市のあちこちに設置されているそうで、放置し続ける訳にも行かない。
エリニーフォスは気付いていなかったが、レイス系の魔物に限らず、一定以上の魔物が集まっているとお互いに殺し合って上位種の魔物になる可能性が有る。
この魔導具の命令はあくまで留まる事だからその場で殺し合う事もあるだろうし、命令を聞かない場合も有り得る。
そうなれば、この魔導具の近くに強力なレイス系の魔物が彷徨き始めるかもしれない。
さすがに其れは他のハンターにとって危険なので、新たな国民の不始末を代わりに処理してあげようと云う訳だ。
「…………申し訳ありません、長期間放置してしまった時の危険性にまで気付いておりませんでした…………」
丁寧に頭を下げるエリニーフォスはやはり皇女だった為か、気品のある所作だ。
つい先程まで、ドラゴンのぬいぐるみだったとは思えない。
「まあ、其れは仕方ないよ、エリニーフォスにとってレイス系の魔物は脅威でも何でも無いだろうからね。
とりあえず、設置した場所を覚えている限り書き出してくれるかな?」
そう言って広げられた地図に書き込みをして貰う。
詳細な地図が有るのは、アルコーラル商国に在る3つの古代遺跡都市だけで、イジャラン・バダ帝国の古代遺跡都市は、死都 プルトバトールの簡単な地図が有るだけなので、其れ以外の古代遺跡都市に関しては、大まかな地図と共に設置場所を書いて貰った。
ハンジーズ達、参謀部の幹部3人は、その記載されて行く地図を見ながら色々と話していたが、とりあえずは書き込み終わるのを待っていた。
「…………終わりました。
恐らく、これで全てだと思います」
「ありがとう。
ところで、3人は何の相談をしてたの?」
「はい、せっかく大量にレイスの魔核が手に入るなら、何かに活用出来ないかと思いまして。
例えば、もし、命令して人を襲わない様に出来るなら、イジャラン・バダ帝国とガンヒンリン帝国の主要な街にばら撒いて、混乱させるとか…………」
「う〜ん……
さすがに人を全く襲わない様には出来ないだろうから、其れだと被害が出ちゃうよね…………」
「そうですね。
人を襲わない様に命令は出来ますけど、ずっと見ていて、襲いそうになった者を止めないといけないでしょうし、もし、人間側から攻撃して来たら反撃するでしょうから」
エリニーフォスも同意見の様で難しい顔をする。
でも、ハンジーズの云う通り、どうせなら活用したいのも本音だ。
「その他で言えば、デビルゾンビエリアに放置するか、ガンヒンリン帝国に完全に滅ぼされた街に放置するかですね」
「その中で言えば、滅ぼされた街に放置かな?
デビルゾンビエリアだと両国の軍隊に見つからない様に捨てるのは難しいでしょ?」
「確かに、捨て易さで言えば、滅ぼされた街に捨てるのが1番良いのですが、其れによってガンヒンリン帝国に与える影響が余り無いので…………
出来れば、アルコーラル商国の様な大混乱を引き起こしたいので…………」
「え?!其れはまさか…………」
ハンジーズの言葉にエリニーフォスの表情が青褪める。
アルコーラル商国の各街に自分の身体を探す為にレイスを仕向けたのはエリニーフォスだ。
其れによって大きな被害が出ていれば、其れはエリニーフォスがやった事に他ならない。
「ああ、さっきネクジェーに聞いたよ、暴動になり掛けてるって」
「え?暴動ですか?」
「ああ、エリニーフォスの放ったレイス達が街中を彷徨きまくったせいで、『アルコーラル商国の上級議員の誰かが、古代遺跡都市の秘宝を奪って、レイス達が取り戻しに来た』って噂が昨日の内に広まってね。
今、アルコーラル商国では、上級議員の家の周りを国民が囲んで抗議しているらしいよ。
あ、エリニーフォスが心配している様な、レイス達に大勢の人間が襲われたとかって事は無いからね」
「そうだったんですね。
其れにしても、昨日の今日で暴動にまで発展するなんて…………」
「はい、思った以上に効果的な作戦でした。
其れだけ、アルコーラル商国の国民が議会に対して不満を持っていたからでしょう」
「作……戦?」
「はい、『アルコーラル商国の上級議員の誰かが、古代遺跡都市の秘宝を奪って、レイス達が取り戻しに来たのかもしれない』と、云う噂を流したのはルベスタリア王国軍の諜報局の人間ですから」
ハンジーズの軽い種明かしにエリニーフォスが僕をキッと睨む。
自分が行った事を利用されたのがイヤなのか、それとも…………
「何故、暴動など起こさせるのですか?
市民の暴動は、確実に無益な血を大量に流す事になります」
やっぱり、僕が暴動を起こした事が気に入らない様だ。
しかし、彼女の考えは古い。
古代魔導文明時代であれば、多くの魔導具の武器や自ら魔法が使える魔導士達が居た為、暴動が起これば大惨事になる事もあっただろうが、現代の暴動など、ただの集団による喧嘩だ。
死者どころか、大きな怪我をする者すら殆ど居ないだろう。
そう言った事を現代の武力や軍事力を含めてエリニーフォスに説明した。
エリニーフォスも一応は納得した様だが、そうなると、逆に生まれて来る疑問。
「其れ程の影響力の無い暴動なら、何故起こさせたのですか?」
「まあ、そう思うよね。
でも、ちゃんと意味が有る。
暴動は一見すると、上級議員と国民を対立させる為に起きている様に見えるけど、目的はそこじゃない。
暴動事態は、大々的に上級議員の誰かにレイス達がやって来た原因が有ると思わせる事だ。
此れは、国民にじゃあ無くて、上級議員達に対してだ。
レイス達がやって来た事も、暴動が起きた事も、上級議員の誰かの責任。
だったら、上級議員達は誰が原因なのかお互いに調べ合うよね?
そうすれば、今迄は信頼していた議員すら、全員が敵に見えて来る。
だって、アルコーラル商国の上級議員には、潔白なヤツなんて居ないからね。
その結果、上級議員達は、自分の商会の発展に尽力する様になる。
自分以外は信じられないからね。
で、アルコーラル商国は今以上に経済が発展して、議会も癒着や談合が減って少しは健全な状態になるだろうって感じだよ。
まあ、どの程度の結果が出るかは分かんないけどね」
「アルコーラル商国を発展させる為ですか?
それこそ、一体何の為に?」
「アルコーラル商国が商人の国だからだね。
商人にとって1番儲かるのは、少し離れたところで、ずっと小規模な戦争をしてくれる状況だ。
これが近い場所だと巻き込まれるし、大規模な戦争になったら、経済自体が停滞するからね。
だから、アルコーラル商国は今、イジャラン・バダ帝国とガンヒンリン帝国が全面衝突しようとしているのが都合が悪い。
アルコーラル商国としては、小競り合いをずっと続けてくれた方が良いからね。
その為に、両国への輸出を調節しようとしているんだけど、さっき言った商人同士の競争が起こると、多分、我先にと輸出を始める。
結果、全面戦争が余裕で出来るくらいの物資が両国に揃って行く。
で、最後の最後で、戦争が無くなれば経済が破綻して、両国が瓦解するって寸法だ」
「…………戦争が無くなればですよね?
全面戦争になってしまったら意味が無いんじゃ…………」
「多分、大丈夫だと思うよ、ちょっと引くくらいウチの諜報局は優秀だから…………」
そう言ってハンジーズを見ると力強く頷いた。
全面戦争が起きない事に関しては、確信を持っている様だ。
「現在、イジャラン・バダ帝国では、皇帝と宰相を、皇帝の弟と妹が暗殺しようと計画を立てています。
そして、ガンヒンリン帝国では、皇帝と勇者と帝国軍元帥が、お互いに暗殺計画を立てています。
何方の国も国境線に兵力は集めていますが、戦争が始まれば、内乱が同時に起きる計画だった様です。
しかし、現状、戦争をする前にノッド様の起こしたスタンピートの原因究明を行う事になってしまったので、暗殺計画を練り直して戦争前に内乱を起こそうとしています。
そこに、アルコーラル商国から物資が購入し易くなれば、恐らく春を待たずに暗殺計画を実行するでしょう」
「と、云う訳で、戦争が起きる可能性は低い。
因みに、現状の戦力から、内乱は、イジャラン・バダ帝国は皇帝の妹が勝利、ガンヒンリン帝国は勇者が勝利すると予想している。
この2人が新たな皇帝になれば、取り敢えずの戦争は無くなる筈だ。
皇帝の妹は、イジャラン・バダ帝国での奴隷撤廃を訴えているから、内乱に勝利しても当分の間、国内の内政に手を焼くだろうし、勇者は、幾ら功績を評価されても、延々と前線に出される事が不満な様で、皇帝になって贅沢な暮らしがしたいらしいから、金の掛かる戦争を行わなくなるだろう。
そして、さっき話した経済の破綻がやって来る訳だ。
高確率で両帝国からの独立を訴える国が出て来るだろうから、2つの帝国は瓦解して行って、以前の様に小国が乱立する事になって行くだろうね」
「…………貴方様は、本当に世界をコントロールされているのですね…………」
「言っておくけど、僕が暗殺や内乱を計画した訳でも、仕向けた訳でも無いよ?
あくまでも、情報収集をして、ちょっとリークさせているだけで、別に何も指示して無いし。
…………ちょっと、話しが其れちゃったね。
で、レイス達の魔核だけど、やっぱり滅ぼされた街に捨てる方向で行こう。
直ぐに効果は無いだろうけど、その内、ガンヒンリン帝国にとって都合の悪い噂になるだろうからね」
「分かりました。
では、運搬のタイミングなどの調整を行っておきます」
この後、エリニーフォスはサウシーズに預けて、他の移民達同様に、ルベスタリア王国での生活を始めて貰った。
まだまだ先の事だろうが、いつか、エリニーフォスがアエルゲインと協力して、このルベスタリア王国に更なる発展を齎してくれると思う…………




