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箱庭の王様  作者: 山司
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第18章 命 8

第18章

命 8





▪️▪️▪️▪️





エリニーフォス•ルニウメンは、ルニウメン皇国皇王の長女として産まれた。


最初の子供と云う事も有り、エリニーフォスは皇王から多大な寵愛を受けて育った。

しかし、エリニーフォスが7歳を迎えた時、優しかった母が亡くなってしまう。


悲しみに暮れたエリニーフォスだったが、其れは始まりに過ぎなかった…………

その年、エリニーフォスは母だけで無く、弟と乳母、2人の侍女を失ったのだ…………


原因は全てバラバラで、流行り病いでも、誰かの謀略でも無く、ただただ、不運な偶然が重なっただけだった。



其れからエリニーフォスは、“人の死”について考える様になった。

人体の構造を学び、医学を学び、回復魔法を学び、ポーションを学んだ。


後にして思えば、悲しみを忘れる為に勉強に没頭し、其れにかまけて周りが見えていなかったと反省する。


優しい父や母と共に、優しく接してくれていた義母の第2妃が、母が亡くなり正妃となった後で、徐々に自分の事を疎ましく思い始めていた事に全く気付いていなかった…………


母が亡くなった事で自分が正妃となり、弟が亡くなった事で自分の息子が王太子となった義母にとって、王位継承権を持つエリニーフォスが邪魔になったのだ。


ルニウメン皇国では基本的には長男が新たな王となるが、長い歴史の中では女王も居た。

義母はエリニーフォスがそうなる可能性が有ると考えたのだろう…………



エリニーフォスが15歳となって成人を迎えたと同時に義母は行動に出た。

成人したばかりのエリニーフォスを現在の魔物街 アコウツウであるルコーツ市の市長として任命させて追い出したのだ。



成人したばかり、政治の事など何一つ分からないエリニーフォスが途方に暮れていると父である皇王が1人の男性を連れてやって来た。


皇国は言った。

「政治の事はこの者に任せて、お前は好きな事をすれば良い。

但し、どんな形でも良い、結果を残せ」



その後、エリニーフォスは父の連れて来た男、タナッシス•エーパーと共にルコーツ市へと向かった…………



ルコーツ市での生活を始めたエリニーフォスは、父の言葉に従い、何かしらの結果を残そうと、現在勉強中だったポーションの研究をする事にした。


人の死について考え続けていたエリニーフォスは、先ず、少しでも多くの人が死ぬ事の無い様に、ポーションを大量に作る事が出来ないかと考えたのだ。


そして、其れは1年も経たずに実を結んだ。

いや、実を結んだ様に思えた…………



エリニーフォスは研究の成果を魔導具とするべく、ルコーツ市に在る魔導具工房と協力して、“ポーション製造増幅魔導具”を完成させた。


此れは従来の“ポーション製造魔導具”にエリニーフォスの新たな理論から出来た“ポーション増幅魔導具”をくっ付けて作ったモノだ。

此れによって、現在の作り続ける状態から、一定量を作っては増幅させて増やす状態にする事で生産量を一気に上げる事が出来る様になった。


エリニーフォスは直ぐにこの研究成果を発表しようとしたが、市長代理を務めてくれていたタナッシスが待ったを掛けた。

そして、自分の正体と本当の役割について教えてくれた。


タナッシスのエーパー家は、なんと、伝説の三賢者の1人、賢者 ラノイツロバーの10人の高弟の1人ヘイパーの子孫だと言う。


そして、タナッシスは皇王から、エリニーフォスが何の成果も上げられなかった場合に、エリニーフォスを手伝う様に言われていたそうだ。

だが、逆に大きな成果を上げそうになったら、その成果を皇王が死ぬ直前まで公表させない様にとも言われていたのだ。


その理由は、皇王がエリニーフォスを次の女王にしようと考えていたからだった。


何の成果も無ければ、次期女王に指名するのは難しい。

しかし、逆に大きな成果で注目を集め過ぎると、義母である王妃や義弟である皇子に命を狙われる可能性があるからだ。



自分を此処ルコーツ市へと追い出した時の義母と義弟の顔を思い出したエリニーフォスは、タナッシスの言葉に素直に従って別の研究をする事にした。



新たな研究を始めるに当たって、どうせなら“ポーション製造増幅魔導具”で作れる大量のポーションを活用しようと考えた。


先ず、最も簡単な活用方法として、ポーションを大量に格安で売りまくって研究資金にする事だ。

現状、研究の資金は皇王からの援助で賄っているが、其れではどうしても限界がある。

なので、自分で資金稼ぎを行う事にした。


此れによって、エリニーフォスは湯水の如く資金を使える様になった。


次の活用方法として、ポーションを無駄に大量に使わなければ出来ない研究をする事にした。

其処で行ったのが、全身を再生させるのに、何処まで小さな身体の一部で可能かと云う実験だ。


もちろん、全身が再生したところで、出来上がるのは死体だと云う事は分かっているが、この研究で将来的に、自分の考えた“ポーション製造増幅魔導具”が普及した後、遺体の損亡が激しい場合でも綺麗な姿で葬儀をして上げる事が出来るだろうから、無駄にはならないだろうと実験を繰り返した。


結果、時間は掛かるモノのほんの指先程度でも再生可能であると云う事が分かった。

しかし、やはり出来上がるのは死体なので、直ぐに腐敗し始めてしまう。

なので、試しに隣の“ポーション製造増幅魔導具”で作っていた状態異常回復ポーションの曹に放り込んでみたところ、腐敗を止める事が出来ると分かった。


此れに関しては、現状何かしら特別意味のある研究では無かったので、将来のポーション格安社会での葬儀の為に発表してしまう事にした。


そんな時だ。

エリニーフォスは自身の固有魔法に目覚めた。


エリニーフォスの固有魔法は、“魂を操作する魔法”だった。

しかし、現実的に使い道の有る魔法では無い。


魂を操っても、所詮は外部からの介入の為、本人が絶対にしたく無い事をさせる事は出来ないし、操られている記憶が残るので、恨みを買うだけだ。


ハッキリ言ってこのままでは使えないので、エリニーフォスは、この魔法を分割して、使える魔法に出来ないかと考えた。



先ずは、魂を操る際の、“魂を見る魔法”と“魂に話し掛ける魔法”を切り出す事に成功した。

次に、“魂を操作して肉体を動かす魔法”、そして、“魂を移し替える魔法”を生み出した。


此処で思い付いたのが、“魂を移し替える不老不死”だ。


此処まで研究が進む間に、エリニーフォスは30歳を過ぎていたが、ポーションの水槽に浮かぶ肉体は17歳の頃のままだったからだ。


格安ポーションが普及して、若い頃の肉体をストックしておければ、そこに魂を移し、魂を操作して肉体を動かせば、何度死んでも若い肉体に戻り、やり直す事が出来る。



しかし、上手く行かなかった…………


“魂を移し替える魔法”で新たな肉体に入ると、“魂を操作して肉体を動かす魔法”を使わなければいけないのだが、肉体が動かせないので、“魂を操作して肉体を動かす魔法”の魔導具を使う事が出来ないのだ。



其処で考えたのが、魔核に“魂を操作して肉体を動かす魔法”を刻み、其処に魂を移し替える事だ。

もちろん、魔核に魔法を刻むのは魔導具の基本なので当然出来た。

“魂を操作して肉体を動かす魔法”だけで無く、“魂を操作する魔法”、“魂を見る魔法”、“魂に話し掛ける魔法”、“魂を移し替える魔法”も全て刻んだ。


しかし、この魔法を刻んだ魔核を死体に定着させるのがまた、大変だった。

何度も何度も自分の死体を切り刻んでは、魔核を埋め込み再生させる事を繰り返した。


エリニーフォスのイメージした完成形は、魔獣と同じく、魔核が心臓の代わりとなり、魔素の放出で血液と共に魔素が身体を巡る肉体だった。

此れが上手く行けば、元々の死体を使った不老不死の問題点だった、定期的な状態異常回復ポーションによる腐敗処理の問題も同時に解決してくれる仕組みだと考えた。


長い実験の結果エリニーフォスは、とうとう、自身の死体を魔物と同じ魔核で生きる死体にする事が出来た。


いよいよ、実験の集大成である自分の魂を死体へと移そうかと云う時、世界を震撼させる情報がやって来た。


“サードストライク”の情報だ。


間も無くやって来るだろう隕石が“セカンドストライク”に匹敵するサイズの可能性が高く、“サードストライク”が起きるのではないかと世界中が大騒ぎとなった。



エリニーフォスも、周囲と同様に、隕石衝突の準備を行う事となったが、ふと、『もしも、この隕石の所為で今迄の研究が全て失われたらどうしよう……』と思ってしまった。


自分の人生の大半を費やした研究だ。

そして、その結果も目の前にあるのだ。


エリニーフォスは、隕石衝突の前日、自分の魂を死体へと移す事にした…………





不思議な感覚だった…………

自分の身体から自分が抜け出して、水槽に浮かぶ自分の死体に向かって流れていく…………


そして、“魂を操作して肉体を動かす魔法”を使って、身体の操作権を得る…………


…………呆気無い程スムーズに新たな肉体へと移る事が出来てしまった…………



身体を起こして目を開くと、直ぐ其処に自分の身体が倒れている。

手も指も足も普通に動いて、目も見えれば匂いもするし、ポーションに浸かっている感覚も有る。


元々、この身体の方が自分の身体だったかの様だ。


水槽から出て元の身体を確認すると心臓も止まっている。

其処でふと思った。


もしかして、この状況は自分がエリニーフォスを殺してしまった様に見えないだろうか?と。

なので、元の身体をこっそりと自分の部屋へと隠して、翌日の隕石衝突を待って、状況を見てから自分が若返ったと周囲に伝える事にしたのだが…………




隕石の衝突、“サードストライク”が齎した惨劇は、自身の若返りなど気にする者が居ない程の状況だった…………


途轍も無い地震に荒れ狂う嵐、其処迄は良かった。

“セカンドストライク”を教訓に建てられた建造物は更に進化しており、災害時にも魔導具の数々が中の人々を守ってくれる。


そして、今回は予測されていた事態の為、避難している人々も当面の間は生活に困らない用意も有った。


しかし、其れらは全て、建物の外で起こる自然災害に対してのモノだ。

建物の中で起こる、大量虐殺に対しての備えでは無い。

バケモノを倒す為の備えなど、されている筈も無かった…………





其れからの記憶はエリニーフォスもハッキリとはしていない。


必死に逃げた。

ただそれだけだ。


気が付いた時には、ルコーツ市を逃げ出し、皇都 ルニウメンへと向かう一団に混ざっていた。

“エアーバス”が数台での移動ではあったが、外は分厚い暗雲の下、黒い雨が降り続け、“エアーバス”同士での行き来は無い。


そして、エリニーフォスの乗る“エアーバス”には1人の知り合いも居なかった。

しかし、此れは幸いだった。


誰にも自分の事を話す必要が無かったからだ。


エリニーフォスの乗った“エアーバス”は結局、皇都 ルニウメンに辿り着く事は無かった。

途中で、皇都 ルニウメンから逃げ出した一団に出会ったからだ。


途中で進路を変えた一団は、現在のアルコーラル商国のあるオアシスへとやって来た。

其処で一団の意見が2つに割れる。


1つは、「此処に新たな街を作ろう」と、云うモノだ。

このオアシスは近くにある別の街、エルプルノラ市の水源となっていて、そのエルプルノラ市は、ルニウメン皇国の農業と畜産業の中心地だった。


恐らく、エルプルノラ市もバケモノの巣になってしまっているだろうが、食糧と水の確保が出来る場所に新たに街を作る方が安全だと云う意見だった。



もう1つが、現在のアルアックス王国にある、「小さな村に行こう」と云うモノだ。

村であれば、このオアシスとは違って住む場所があるし、食糧と水も有る。


そして、ルコーツ市から逃げて来た者達と合流した皇都 ルニウメンから逃げて来た者達の意見を擦り合わせた結果、バケモノになったのは殆どが魔導士だと分かった。


小さな村には魔導士は殆ど居ない。

僅かなバケモノなら倒してしまえば良い。

と、云う意見からだった。



意見が割れた事で、2つのグループとなってしまったが、エリニーフォスは、オアシスに残る方を選択した。


小さな村へと行くグループに入り、自分が魔導士だと分かれば、バケモノにならない様に自分を殺そうとする者が居るかもしれないと思ったからだ。



其れからは、オアシスでの村作りが始まった。

とは言え、エルプルノラ市へと赴いて、魔導具や保存食をバケモノを倒しながら奪って来る日々だ。


最初の内は、魔導士である事がバレない様に、魔法は使わない様にしていたが、何度か物資を手に入れる過程で、魔導具の武器を手に入れられる様になり、魔法も普通に使いながらバケモノ達を倒す様になった。


エリニーフォスは研究者だったとはいえ、皇王家の娘だ。

他の一般人の者達とは違って、幼い頃から魔法も剣術も嗜みとして教育されている。


なので、いつの間にかオアシス村の物資集めのリーダーの様になっていた。

其処で気付いた。

自分が成長している事に。



エリニーフォスの研究の集大成である自身の身体。

この身体は死体である筈だ。


その事で、エリニーフォスはこの身体は不老不死だと考えていた。

なので、自分の年齢が不自然になる前には、この村を逃げ出さなくてはいけないと思っていたのだ。


しかし、確実に筋力が付き、身体付きも17歳の肉体よりも女性らしさが増し、何より歳をとっていると分かる。


エリニーフォスは、長年の研究が失敗だったと思い、この滅びかけの世界で普通に生きて普通に死のうと思った…………




エリニーフォスは身分を隠し、エニーとして暮らしていたが、その偽りの身分のまま、ある男性と恋に落ちて結婚した。


其れが彼女を不幸にした…………





その男性と連れ添い10年が経とうかと云う頃、エリニーフォスの家が村人達に取り囲まれた。


その頃には、既に魔導士が“サードストライク”でバケモノとなりバケモノは魔物と呼ばれ、魔導士は滅んだとされていた。


しかし、エリニーフォス達の息子が、魔導具無しで魔法を使ったと言うのだ。

「もしもエリニーフォス達の息子が魔導士であるならば、魔物になる前に殺すべきだ」其れが村人達の総意だった…………


エリニーフォスは、息子は魔物にはならないと主張する為に、自分の正体を明かし、不老不死の実験の失敗で自分が若返った事と、その影響で自分が“サードストライク”以降も魔物になって居ない事を説明した。


苦しい、開拓の時期を共に頑張って来た村人達なら分かってくれると思っていた…………

今迄の様には行かなくとも、このまま、魔物にはならないと信じて見守ってくれると思っていた…………



エリニーフォスは、後ろから首を落とされた………………

斬ったのは、夫だ。


その後、夫は、息子をそして、まだ幼い娘を殺し、そのまま、自身も自害した…………


エリニーフォスは殺された直後から、魂だけとなって、その光景を見ていた。

もちろん、子供達を殺そうとする夫を必死に止めようとしたが、魂だけのエリニーフォスには何も出来なかった…………



…………此処までであれば、エリニーフォスも悲しみに暮れた事だろう…………


魔物によって大切な人を失った者も多いし、“サードストライク”直後の魔物による蹂躙は誰しもの心の中で、大きな恐怖になっている事も理解していた。

自身もそうだったからだ…………


しかし、エリニーフォス達4人が完全に死んでいる事を確認した村人達は、誰とは無く、大声で笑い出した…………

エリニーフォスや夫だけで無く、息子や娘の遺体をも罵声を浴びせながら踏み付け、家中のモノを奪って行ったのだ…………



エリニーフォスは泣き叫び、怒り狂った。

まさに文字通り、魂の叫びだ。


エリニーフォスは、ルコーツ市を目指した。

新たな肉体を手に入れる為に…………

村人達に復讐をする為に…………



この時は、悲しみと怒りと憎しみの為に気付かなかったが、そもそも、魂だけとなった自分には魔法は使えない。

つまり、“魂を移し替える魔法”も使えないのだ。


自分の死体が有ったところで、復活はエリニーフォス自身の理論で云うなら出来ない。


しかし、我を忘れていたエリニーフォスはそんな事を考える事も無く、ポーションの水槽に浮かぶ自分の死体の予備の中の入った…………





何事も無いかの様に、以前同様、普通に身体に入る事が出来、当然の様に動かせた。

勝手知ったるルコーツ市役所だ。

当然、武器も何処に保管されているか知っているし、エリニーフォスには全てのセキュリティ権限が有る。


魔物との戦いにも慣れたモノだったので、苦も無く、武器の数々を手に入れ、自分の“エアーカー”に乗って、オアシス村へと向かった…………


エリニーフォスの家へと乗り込んで来た者達は全員殺し、周囲を囲って居たものは分からなかったので、村ごと焼き払った…………


関係の無い者が死んだかもしれないし、家を囲った者が生き残っているかもしれないが、エリニーフォスは、もう、どうでも良くなっていたのだ…………





オアシス村を滅ぼした後のエリニーフォスは、ルコーツ市へと戻った。

魔物に囲まれていようと、人間に囲まれていようと、結局は敵に囲まれている事に変わりは無い。

其れに、長く魔物を狩っていたから、自分が魔物には同類に見える様で魔物の方からは殆ど襲って来ない事を知っていたからだ。



暫くは何もしない時間が続いたが、エリニーフォスは不老不死の研究を再開する事にした。

する事が無かったと云うのも有るが、この研究が成功すれば、二度と大切な人を失わなくて済むと思ったからだ。



先ずは、自身の想定していた理論との違いから検証して行く事にした。


違いは大きく4つ。


1つ目は、“魂を操作して肉体を動かす魔法”で、肉体の感覚まで全て掌握出来た事。

想定では、見ようとしなければ見る事は出来ず、触覚を知ろうとしなければ感じない筈だった。

其れを十分な時間を掛けて感覚を馴染ませる必要があるだろうと思っていた。


しかし、実際には“魂を操作して肉体を動かす魔法”を使った瞬間から、直ぐに自分の身体だと感じられて、動かす事も、感じる事も全て当然の様に出来た。


此れはもはや、“魂を操作して肉体を動かす魔法”では無く、“肉体を乗っ取る魔法”だ。



2つ目は、この死体の肉体が成長した事だ。

エリニーフォスの想定では、この身体はあくまでも入れ物なので、成長も老化もしない筈だった。

しかし、魔物と戦い続ける中で、筋力が付いていったし、明らかに身体付きも変わっていった。

そして、何よりも子供を妊娠して、産む事も出来た。


つまり、間違いなく生きた肉体だと云う事だ。


3つ目は、魂だけで行動出来た事だ。

此れについては全く理由が分からない。

“魂を見る魔法”で、魂は死後、辺りを暫く漂ってから次第に薄れて行くか、大地へとそのまま吸収されて行くかのどちらかだった。

前者は魔物に多く見られ、人間は大体が後者だった。


しかし、自分の様に自由に行動するモノを見た事が無い訳では無い。


レイス系の魔物だ。


但し、レイス系の魔物には魔核が有り、昼間は魔核の中に入っている。

其れに引き換え、自分は魔核も無ければ昼間も行動していた。




そして、4つ目は、“魂を移し替える魔法”を使っていないのに、自分の死体に入れた事だ。

そもそも、魂だけの存在だったのだから、魔法が使える訳が無い。


レイス系の魔物ですら、魔核と云う肉体で魔法を使っている。


では、死体に入れたのは、魔法では無いのか?

其れとも、魂にも魔法が使えるのか?




此れら4つの問題をまたも長い年月を掛けて、検証、実験をして行った…………






4つの問題の実験は、幾つかの副産物を生んだ。


1つは、魂だけで自由自在に動ける様になった事だ。

別に死ぬ必要は無く、自由に肉体から出入り出来て、好きに行動出来る。


もちろん、何かを触ったりする事は出来ないが、逆に何処でも擦り抜けて入る事が出来、魂だけの存在であっても、人の魂に直接話し掛けて会話が出来ると云う事が分かった。



次に、レイス系の魔物を生み出したり、操ったりする事が出来る様になった。


レイス系の魔物を生み出すのは、漂っている魔物の魂からだけで無く、大地に吸収される前の人間の魂からでも生み出す事が出来る様になった。


操る事に関しては、そもそも、レイス系の魔物には、別に生前の怨念などが有る訳では無く、基本的に魔物の魂から生まれるので、習慣として人間を襲っているだけで、特に意志らしいモノが無いと云う事が分かった。


なので、“魂に話し掛ける魔法”で、命令すれば、何でも言う事を聞くと云う事が分かったのだ。



最後に、魂の抜けた死体であれば、中に入って動かせると云う事とその肉体に居ても、自分の死体の魔核に刻んだ魔法が使えると云う事が分かった。


どうやら、“魂を操作して肉体を動かす魔法”は、やはり、“肉体を乗っ取る魔法”だった様で、中に入ってしまえば肉体を自由に動かせる魔法だった。

但し、魂の有るモノには入れず、外部から他の生き物の魂を動かそうとすると、簡単な命令しか出来なかったり、本人の意思に拒まれたりする様だった。


そして、魂と肉体は繋がっている様で、エリニーフォスのコピーした死体もエリニーフォスの肉体として反映されているらしく、体内に埋め込んでいる魔核に新たに魔法を刻んだら、魂だけであっても、別の肉体に入っていても使う事が出来ると云う事が分かった。




そして、4つの問題も無事に理論が立った。


1つ目の、“魂を操作して肉体を動かす魔法”は自分に使うのか人に使うのかで、効果の異なる魔法だった。


2つ目の、肉体については、魔核で生きる生命体になっていて、魂が入った時点で生き返っていると云う事だった。

なので、魔獣や魔物と同様に成長するが、老化はしない理想的な肉体になっていると云う事が分かった。


3つ目の、魂だけで行動出来たのは、魂と肉体が繋がっていて、“魂を操作する魔法”が使えたからだった。


4つ目の、問題も同様に、魂で肉体から“魂を移し替える魔法”を使ったからだった。



…………この問題が解決した事で、エリニーフォスは、自身の研究が全て無駄だった事を知った…………



此れらの事は、全て、以前実験して失敗していた事が成功して行った事で分かった結果だ。


では、何故以前は失敗して、今回は成功したのか?


其れは、実験の被験者が死刑囚では無く、自分だったからだ…………

他の者では、1番最初の“魂を移し替える魔法”が失敗する…………



魔導具を使わせて、魂が新たな肉体へと移るところ迄は見えている。

しかし、その後、新たな肉体は活動しない。


エリニーフォスは魂が新たな肉体に移ると、その新たな肉体の魔核で“魂を操作して肉体を動かす魔法”を最初から使っていたと思っていた。


しかし、1番最初の1回目の“魂を操作して肉体を動かす魔法”は、倒れていた前の肉体を使っていたのだ…………


ただの肉体の複製ならば、その肉体の魔法を使う事が出来るかもしれないが、魔核を埋め込んだ肉体は既に別の肉体なのだろう。


エリニーフォスの様に、複製後の肉体の魔法を使う事が出来ない。



エリニーフォスの魔法は、“魂を操作する魔法”では無かった。

エリニーフォスの魔法は、“自分の魂を操作する魔法”だったのだ…………



以前であれば、“サードストライク”の前であれば、僅かに意味の有る研究だったかもしれない。


“魂を操作する魔法”に適正の有る魔導士ならば、“魂を操作する魔法”を身に付けて、自分と同じ事が出来ただろうからだ。


しかし、もうこの世界に魔導士は居ない…………



この不老不死のシステムは、エリニーフォスたった一人にしか意味の無いモノになってしまった…………




また、暫く何もしない日々が続いた…………


すると、ルコーツ市に以前は少なかったハンターが大勢来る様になった。


研究の合間に、周囲の街に赴いて、情勢を聞き込んだり、ハンター登録も行って、稼いだお金で日用品を買ったりもしていたので理由は知っている。


エリニーフォスが長らく研究している間に、オアシス村の在った場所には新しい国が出来、このルコーツ市の近くにも街が出来たからだ。



ハンター達にこのルコーツ市に住んでいる事を知られると面倒なので、エリニーフォスはこの市役所に誰も入れない様にセキュリティを掛けて、元オアシス村、アルコーラル商国の首都 アルコーラルへと移り住んだ。


仕事も身分も転々としつつ暮らす日々を送り、またハンターとして活動していた時、別行動をしていたパーティーメンバーが死んだ。


パーティーメンバーを殺したのは、レイス系の魔物で、キャンプ中を襲われたらしい…………



エリニーフォスは悔やんだ。

自分が一緒に居れば、こんな事は起こらなかった。

いや、寧ろ、自分と一緒のパーティーに居た事で、レイス系の魔物には襲われる事は無いと勘違いして、夜間の警戒を疎かにしてしまったのかもしれないと思った。


エリニーフォスはまたルコーツ市へと帰った。

そして、死んだ魔物の魂を一ヶ所に集めて、レイス系の魔物を生み出し、その場に留まり続ける魔導具を生み出した。


そして、その魔導具を近隣の古代遺跡都市へと設置して回るようになった。


此れが死んだパーティーメンバーへの手向けになると信じて…………




レイス系魔物を操る魔導具は、効果範囲が余り広く無く多数必要で、エリニーフォスが余り魔導具を作る事が得意では無かった事から、設置して回るようになってから多くの年月が経過した。


其れでも、エリニーフォスには悠久の時間が有る。

なので、地道に魔導具の設置を行っていた。


しかし、その設置を行っていた現在の古代遺跡都市 死都 プルトバトールでスタンピートが発生した。


エリニーフォス自身も、魔物達が古代遺跡都市から逃げ出す理由は理解出来た。

未だかつて、感じた事の無い程の凄まじい存在感を放つナニカが、突如死都 プルトバトールにやって来たのだ。


ハンターとしてもSランク級の実力を持ち、普段から魔物の方から襲って来る事も無く、プルトバトールの魔物は、レイス系に近いリビングアーマー系で、命令すれば大体は言う事を聞いたので、完全に油断していたエリニーフォスは、スタンピートの波に呑まれ、殺されてしまった…………



以前であればショックを受けたかもしれないが、エリニーフォスは長い実験の過程で、何度も何度も死んでいるので、まあ、こんな事も有るだろうと、気楽に考えて、ルコーツ市に戻る事にした。


スタンピートの原因も気にはなったし、魂の自分ならば見つからないだろうとは思いつつも余りにも怖くて逃げ帰ったのだ。




魂なので、空も飛べるし、眠る必要も無い。

程無くして、ルコーツ市役所へと帰って来たエリニーフォスだったが、帰って来ると何と地下が土砂で埋もれてしまっていたのだ。


エリニーフォスは慌てて、魂のまま土砂の中を擦り抜けて確認した。


すると、土砂の中は完全に空っぽで、エリニーフォスの研究施設自体が無くなっていたのだ。


考えられるのは、誰かが研究施設の設備を全て盗み出して、その後、土砂で埋めたと云う可能性だが、盗むのは分かるが、土砂で埋める意味が分からない。


しかし、実際問題、研究施設が無くなっていて、自分のスペアの肉体も無くなっている。

自分が魂だけで行動出来ている事から、スペアの肉体は最低でも1つは無事だと云う事だ。


とりあえず、万が一、スペアの肉体が全て壊された時の為に、予備として隠してあった魔核へと魂を移した。

少なくとも此れで、肉体が無くなってもこのまま漂い続ける心配は無いだろう。

その魔核の隠し場所が目の前のドラゴンのぬいぐるみの中だった訳だ。



そして、盗まれた肉体を探し出す為に、魔導具で集めていたレイス系の魔物に捜索をさせた。

可能性は低いだろうとは思いつつも、ルコーツ市内を探させて、其れとは別に、周囲の古代遺跡都市のレイス達を呼び寄せた。


集まったレイス達に近隣の街での捜索を指示したが、いかんせん、レイスだ。

例え、調査をさせても昼間には、魔核が無防備に転がる事になる。


なので、大勢で街を囲んでから、スタンピートの如く、一気に通り過ぎながら、捜索をする様に命じた。



この街への捜索準備の状態がまさに今の状態だと云う事だった。


そんな時に僕がやって来た。

そして、僕の魂の気配が死都 プルトバトールで感じたスタンピートの原因となったモノと同じでは無いかと思い、素直に全て話したと云う事だった…………





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