第18章 命 5
第18章
命 5
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僕はこのルベスタリア盆地へとやって来て、古代魔導文明時代の三賢者の1人、賢者 ウィーセマーの遺産を手に入れてから、多くの魔導具を得た。
その後も、目に付いたモノを買ったり、古代遺跡都市で手に入れたり、アエルゲインが新たに開発してくれたりと、魔導具もこの僅か数年で、どんどんと進歩して行き、其れに伴って僕の装備もどんどんと進歩して来た。
そんな中、たった2つだけ、変更や交換もしないまま、生まれて初めて魔獣と戦ったあの日から使い続けている魔導具が有る。
1つは、僕の知識の源で、僕の此れまで得た情報も、僕自身の生体情報まで全てが詰まった“アーカイブボックス”。
そして、もう1つは文字通り、僕の足元をずっと支えてくれた相棒、“エアーバイク”の“ウィーフィー”だ。
本当にずっと苦楽を共にして来たこの2つの魔導具には愛着がある。
なので、出来れば此れから先もずっと使い続けたい。
と、云う僕の我が儘をアエルゲインが叶えてくれた。
“アーカイブ”は、一旦全てのデータを別のモノに移し、その後、現在使っている“アーカイブ”の中身を全て取り出して、箱の部分をアエルゲインがアエルエンタープライズの商会長をしていた頃の最新版である、小型で薄型になった形状に作り変えて貰って、移した中身を入れて貰った。
このお陰で、今迄は、“アーカイブ”を入れる為のポーチをずっと持ち歩いていたが、ポケットにも入れておく事が出来る様になった。
次は“ウィーフィー”だ。
“ウィーフィー”は、“エアーバイク”だ。
“エアーバイク”は、ルベスタリア王国では僕を含めてみんなの足として広く普及している。
下部についている“浮遊ユニット”の風魔法で、“飛翔”の魔法と同程度のスピードと高さで飛ぶ事が出来る。
とは云え、“飛翔”の魔法は使うモノでピンキリなので、高性能の“飛翔”の魔法には大きく劣る。
其れでも、非常に便利な魔導具だ。
しかし、アエルゲインの研究成果で、現在の最新は“エアーバイク”では無く、“エヴィエイションバイク”だ。
この“エヴィエイションバイク”は、“エヴィエイションクルーザー”同様に、高度10,000m迄行く事が出来、速度も時速200km迄出す事が出来る。
“エアーバイク”が高度50m、時速60kmだった事から、大幅なパワーアップだ。
此れはもちろん、ビレジンから手に入れたオリジナルの“飛行ユニット”のお陰で、“ラーニング•プラクティス”で、飛行魔法のコピーが出来る様になったからだ。
其れによって、今迄はナエラークの血液を使った“エヴィエイションクルーザー”サイズの“飛行ユニット”しか作る事が出来なかったのが、ある程度の大きさの変更が可能となったのだ。
その小型化された“飛行ユニット”を使って作られたのが、“エヴィエイションバイク”だ。
もちろん、“浮遊ユニット”を“飛行ユニット”と交換すれば良いと云うモノでは無い。
“エアーバイク”は右のハンドルでスピードを調整して、左のハンドルで高度を調整して、ハンドルを左右に動かして右折左折を操作するのだが、“浮遊ユニット”ならば、風魔法の威力の強弱で何方も調整出来るが、“飛行ユニット”は“空を飛ぶと云う概念”で飛んでいる。
なので、飛行魔法を使う魔導士は思い描くままに空を飛べるのだが、こと魔導具とした場合にはその“思い描く”を動きとして固定しなくてはいけない。
“エヴィエイションクルーザー”ではその動きの固定はハンドルと2つのレバーで行っていたのだが、其れをそのまま“エヴィエイションバイク”のハンドルに落とし込むと残念ながら非常にぎこちなかった。
大きさの違いで、小回りの利かなさや、動きの滑らかさが“エアーバイク”の様に行かなかったのだ。
その為、加速や減速、上昇下降、右折左折の動きの段階を元々有った命令信号の10倍に増やし、加減速に関しては、自転車のギア変速の様な速度段階を新たに設けた。
そして、とうとう“エヴィエイションバイク”として完成した訳だ。
なので、基本的に“エヴィエイションバイク”と“エアーバイク”は見た目が同じ様なだけで、中身は全くの別物だ。
にも関わらず、アエルゲインは僕の我が儘を通してくれて、僕の相棒、“エアーバイク”の“ウィーフィー”を、僕の新たな相棒、“エヴィエイションバイク”の“ウィーフィーver2”に改造してくれたのだ。
ハッキリ言って感謝以外の何者でも無い。
そして、この改造を今の忙しいタイミングでお願いしたのは、明後日からの『戦争撲滅作戦 第1弾 スタンピート計画』の為と、もう1つは…………
「あははははは……………。
ノッド様、最高!!!!」
僕の背中から、久しぶりに年相応の大きな笑い声を響かせるハンジーズ。
『僕達は今、風になっている!!』
そう、思える程の疾走感をパワーアップした相棒“ウィーフィーver2”は与えてくれる。
空と速さをこよなく愛するハンジーズは、この疾走感に大興奮だ。
“ウィーフィーver2”は、形状は以前と同じなので、運転席の後ろに荷台が有り、荷台の手前側には“ゼログラヴィティボックス”が有るのだが、もちろん時速200kmでもハンジーズは“ゼログラヴィティボックス”の上に立っている。
今日は、ハンジーズと約束したハンジーズの初実戦の狩りに来たのだ。
こうして、ハンジーズと2人っきりで出掛けるのは初めてかも…………
いや、良く考えたら、2人っきりで出掛けた事が有る娘の方が少ないかも…………
此れを機に、他の娘とも2人っきりで出掛ける日を作ろう…………
今日の目的はハンジーズの初めての実戦なのだが、こうして、2人で草原をひた走るのも、馬の遠乗りの様で結構楽しいと思う。
と、思っている内に、目的地のルベスタリア森林にやって来た。
ハンジーズは此処に来るのは2度目だ。
但し、前回は最初の10人のS級代理官の娘達の実戦訓練に付いて来ただけで、ハンジーズ自身は戦っていない。
まあ、当然だ。
当時のハンジーズはまだ、4歳になったばかりだったのだから。
ハンジーズの装備は、小さい頃から愛用の薄いピンクの“アグリアブルローブ”に、“クリインナー”の上には普段着のワンピースを着て、靴はみんなお揃いの“アクセラレーションブーツ”だ。
防具は、腕輪型の“リフレクションプロテクトダブル”、“ラッキーフィールドリング”、そして、武器は右手にナイフ、左手に拳銃と云うスタイルだ。
ナイフの方は、僕の“千変万化改”の簡易版、“千変万化小太刀”だ。
此れは、残念ながらアエルエンタープライズでは作れず、“ラーニング•プラクティス”で1本づつ作らなくてはならない為、現状では武器に普段からナイフを使っているグレーヴェやネクジェー達にしか配布出来ていないが、将来的にはS級A級代理官に現在渡している“イモータルデマイス”は全て此れにしたいと思っている。
能力としては、長さは1m単位で最大10m、幅は10cm単位で最大1m迄大きく出来て、斬撃を飛ばす能力、透明化の能力、無刃化の能力、“イモータルデマイス”の能力が備わっている。
拳銃の方は“エクスプロストル”、ディティカ達の“ノーサプレット”の様に無限に弾丸を生み出す銃なのだが、“ノーサプレット”に比べて射程が短く100m程しか無い。
その代わりに、弾丸が爆裂する。
爆裂の範囲は直径10cm程と小さいが、人間なら何処の部位に当たろうと吹き飛ぶだろう。
右手の“千変万化小太刀”を肩の高さで引き、左手の“エクスプロストル”を突き出して半身で構えるハンジーズの前には、最早魔獣の定番の様になって来たキマイラが居る。
キマイラは本来ならAランクの非常に危険な魔獣だ。
しかし、危険地帯に囲まれたルベスタリア王国では、此処ルベスタリア森林でも、南のトレジャノスピング大森林でも結構会う魔獣だ。
ハンジーズにとっては初めての実戦だが、今迄何度も目撃して来ているので、其処迄緊張はしていない様だ。
キマイラの方は、恐らく2対1の状況に対して、どう動くか考えているのだろう。
警戒しながらゆっくりと歩いて来ている。
「じゃあ、僕は手出ししないから気を付けてね」
「はい、行ってきます!!」
そう言うと、ハンジーズもゆっくり距離を詰め始める。
互いの距離が100mを切っても、ハンジーズは攻撃しない。
そして、80mになったところで、キマイラが大きく息を吸い込む…………
ドパァァァァン!!!!
ズウウウウンンンン…………
大きく開かれたキマイラのライオンの口はまるで風呂の装飾の様に、ドバドバと大量の血を吐き出して、重たい音と共に倒れた…………
キマイラが魔法を放とうとして開けた大口にハンジーズが“エクスプロストル”の弾丸を撃ち込んだのだ。
無防備な口内で爆裂した弾丸は、口内を喉を脳を攻撃して一撃でキマイラを絶命させた。
其れでも、しっかりと訓練を受けているハンジーズは油断しない。
慎重に倒れているキマイラに近付くと、“千変万化小太刀”を伸ばして首を落とし、ザクザクと腹を斬り裂いて、魔核を取り出した。
ハンジーズはまだ7歳だし、その中でも小柄な方だ。
そのハンジーズが、返り血で血みどろになりながら、巨大なキマイラの腹を斬り、内臓を引き摺り出している姿は、ちょっとホラーな映像だ。
身長の問題で、頭からベットリと血だらけになったハンジーズは、その姿とは裏腹に輝く笑顔で駆け寄って来る。
「ノッド様、私1人で、キマイラに勝ったよ!!」
「うん、慎重に対応出来てたし、タイミングも良かったと思うよ」
そう言って、血みどろの頭を撫でる。
「えっへっへ………」と、笑う表情は、仕事の時のキリッとした表情からは考えられないくらい幼く感じる。
まあ、年齢を気にしてはいけない。
ルベスタリア王国の“学校を卒業したら成人”は、僕が決めたのだから、何歳だろうが、ハンジーズは成人女性なのだ。
幼く見えるこのあどけない表情も、女性としてのハンジーズの魅力の1つなのだ。
「よし、この調子でどんどん狩って行こう!!」
「うん!!」
次の獲物は、ブラストロングクロウベアーと云うBランクのポピュラーな魔獣だ。
ロングクロウと言うだけあって1mくらいの長い爪を持ち、その爪を光らせて目眩しをして獲物を狩るベアー系の魔獣だ。
そして、ベアー系の魔獣は立ち上がるので非常に大きく見える。
4mくらいだろうか?
そんな魔獣の群れと出会した。
4体の4mもの魔獣に囲まれる1mちょっとの少女。
パッと見えるに絶体絶命のシュチュエーションだ。
だが、現実は真逆、狩るのは少女で、狩られるのが魔獣だ。
「グオオオオオ…………!!!!」
リーダーらしきブラストロングクロウベアーの雄叫びに4体のベアーが両前足を前面に突き出して、其々が10本の長い爪を光らせる。
眩い光が一気に辺りを包んで、目の前が真っ白になる。
……の、だろう………
ドパァァァァン!!!!
ドパァァァァン!!!!
ドパァァァァン!!!!
ドパァァァァン!!!!
まるで、花が開いて行く様に、ハンジーズを中心に倒れて行くブラストロングクロウベアー。
そして、花弁が広がって行く様に、4つの頭部から広がって行く血の海…………
まあ、いかに目眩しの閃光を放とうと、心の目で、敵の本質を見抜けば、このブラストロングクロウベアーは全くもって敵では無いと云う事だ。
…………嘘です、“ラッキーフィールドリング”が不快な眩しさを防いだだけです…………
と、そんな事を考えていると、奥の茂みから、更に2対のブラストロングクロウベアーが現れた。
しかし、この2体は明らかに先程の4体よりも小さい。
2m程のブラストロングクロウベアーだ。
恐らく、この群れの子供なのだろう。
「クオオオン…………」
「クウウウン…………」
2体のブラストロングクロウベアーは、ハンジーズでは無く、血の海に倒れる親ベアーと思しきブラストロングクロウベアーに駆け寄って行く。
幼さからか、それとも親を失った悲しみからか、か弱い鳴き声で、親ベアーに縋り付く…………
ドパァァァァン!!!!
ドパァァァァン!!!!
……………………ブラストロングクロウベアーの死体は6つになった…………
うん、ハンジーズはちゃんと危機管理が出来ていて偉いね。
周囲を警戒し続ける鋭い視線のまま、ズパズパと6つの首を落として、ザクザクと6つの腹を斬り裂いて魔核を取り出す、ハンジーズ。
そして、またもや向けてくる輝く笑顔がとっても眩しい…………
この後も、狩りを続け、100体以上の魔獣を狩った頃、お迎えの“ハイスツゥレージセカンド”がやって来た。
さすがにこれだけの魔獣を狩っておいて放置ではお肉が勿体無い。
ちゃんと、全て回収して、ルベスタリア王国民のお食事となって貰った。




