第3章 ルベスタリア盆地 4
第3章
ルベスタリア盆地 4
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小屋で一夜を明かした翌朝、僕は小屋のデッキに出て、山脈の反対側の観察を開始した。
昨夜、僅かに明かりが見えていた事から、昨日見えた街は人間の住んでいる街の可能性が高い。
但し、4ヶ所見えた内の3ヶ所は、だ。
1ヶ所だけ明かりが見えなかった訳では無い。
1ヶ所だけ明る過ぎたのだ。
恐らく、この1ヶ所は、古代魔導文明の遺跡都市だろう。
と、なれば其処は人間では無く魔物の街だ。
4ヶ所の街の位置は、先ず小屋から真南。
山を越えて深い森を抜けて、荒野に差し掛かった少し先だ。
此処は遺跡都市と思われる街の次に大きい様に見える。
次に南西の街。
此処も、森を抜けて荒野に差し掛かった少し先だ。
そして、南東の街。
此処は荒野から砂漠に差し掛かる狭間、オアシスと思われる水辺の畔に在る。
最後に遺跡都市と思われる街。
南西の街から更に南に進んだ砂漠のど真ん中に在る。
僕は興奮する気持ちを落ち着かせ、ゆっくりと深呼吸をしてから、望遠鏡を覗いた…………
「…………居た!!人だ!!人が居る!!」
思わず叫ぶ僕…………
ダメだ。落ち着こう。
「僕が住んでた王国とは雰囲気が全然違うな…………
屋根も流線形だし建物自体も円柱っぽい建物ばっかりだ。
服装ももう春なのにフード付きのコートやローブを着てる人ばっかりだ。
冒険者っぽい鎧を着込んでる人もその上からコートを着てるな。
砂漠が近いから砂対策かなぁ〜……
お?!でも、言葉は通じそう。看板は読める。
良かった、此処も古代魔導文明の頃の言葉がそのままなんだ。
だったら…………
フッ………………とうとう見つけてしまったな、楽園を…………
でも、まだだ!!
耐えるんだ僕!!
まさか、人類未踏の魔境の先にある砂漠に人が居るとは思ってなかった。
此れはラッキーでもあり、アンラッキーでもあるな。
あの1番近い街だったら今なら片道1週間有れば余裕だ。
冬迄に何往復も出来る。
でも、逆に言えば、こんなに近くに人が居るって事は、僕のお城の事がバレたら攻めて来たり、冒険に来たりする人が現れるかもしれない…………
しっかりと観察して、ちゃんと計画を立てよう」
こうして僕は1週間掛けて、情報を集めた。
当初の予定では2、3日観察して次の第3回南方遠征の計画を立てるつもりだったが、とりあえずはあの街々との接触が優先だ。
そして、望遠鏡と読唇術を駆使して集まった情報は以下の通りだ。
先ずは周辺情報。
僕が居る此処、この山脈はワイドラック山脈。
森がトレジャノスピング大森林。
荒野がフュンティル荒野で、砂漠がフュンティル砂漠。
因みに、ルベスタリア盆地の西の川の終着点である滝から続いている様な洞窟や川は見つからない。
森の中に小さな泉はチラホラ有るので恐らく、湧水として出ているのだろう。
続いて街の情報。
南の森に近い街は、アルアックス王国 王都アルアックス。
南西の森に近い街は、アルアックス王国 アルランスの街。
南東のオアシスの街は、アルコーラル商国 首都アルコーラル。
国は2つあるが、通貨は共通で単位はアル、残念ながら僕の持っているデラトリ王国のお金は使えない。と、言っても荷物を失くしているので大して持っていないが。
銀行も共通して有り、チェーン店なんかもお互いに有る。
そして、驚く事に“エアーバス”と云う大勢の人を乗せて移動出来る魔導具が各街を往復して、一般の人々を運んでいたのだ。
僕の住んでいた王国では、“エアーバス”は軍隊しか持っていない貴重な軍事力だった。
其れが一般人の足に使われているのだ。
それと、僕の住んでいた王国や周辺国で共通に有った冒険者組合は無く、代わりにハンターギルドと云われるモノが有った。コッチの国では冒険者では無くハンターと云う様だ。
其れから、アルアックス王国の情報。
王都アルアックスの人口は100万人くらいでデラトリ王国の王都と同じくらい。
王城を中心に円形の防壁に囲まれたエリアが貴族街の様で、其れ以外は無秩序に広がった様で周囲の一般層は歪な形で、防壁も検問も無かった。
其れと、王都周辺には4ヶ所の人口100人程の村が有った。
此れは恐らく農業や畜産の為の集落で、王都のスラムよりはよっぽど良い生活をしている様だ。
王都アルアックスは、魔導具の流通も多く、貧富の差も激しい。
貴族街では、“エアーバイク”や“エアーカー”が行き交い、歩く人どころか、馬車すら使われていない。
一般街でも、中央に近い辺りや大きな通り沿いでは裕福そうな者も大勢居るが、奥まった場所や荒野の周辺の人々はみんなガリガリで、道端に餓死者も倒れている様な有り様だ。
恐らくこの国は完全に腐敗している。
王城の一角で、“人狩り”をして遊んでいる者が居たのだ。
どんな歴史の中でも、最も愚かな遊びだ。
そして、その腐敗の原因も予想出来た。
其れは、もう1つの街、アルランスの街の工場が原因だと思う。
アルランスの街は人口20万人くらいの街だが、王都であるアルアックスの街と違い全周を防壁で囲まれた街だ。
街への出入りも完全に管理されている様で、“エアーバス”で運ばれているのも、明らかに軍人の様な者と、明らかに奴隷の様な人、そして、大きな荷物だけだった。
監督する軍人、労働力の奴隷、材料の大きな荷物だけが行き交う街だ。
この街の工場で作られている商品。
其れはなんと、“人工魔導具”と呼ばれるモノだった…………
魔導具は元々古代魔導文明の遺物ではあるが、当時の人間が作っていた訳だから、“人工魔導具”と云う言い方はおかしいのだが、アルアックス王国では、遺跡で見つかった魔導具を“天然魔導具”、新たに作った魔導具を“人工魔導具”と呼んでいる様だ。
しかし、本来なら現代では魔導具は作れない。
理由は魔導具を作れる魔法を使える人々が魔物になったからだ。
現代の人間は魔法が使えない。つまり、魔導具が作れない。
此れが僕にとっての常識だった。
でも、アルアックス王国は魔導具を作っている。
魔法は使えないが、魔法を使わせる事によって…………
魔獣や魔物を生きたまま捕まえて来て、魔法を使わせて魔導具を作っているのだ。
この発想自体は僕も凄いと思うし、賞賛出来る。
しかし、やり方は最悪だ。
奴隷の様な者達、彼らは、労働力であり、消耗部品であり、エサだ。
魔導具の形成をさせられ、魔獣や魔物の世話をさせられる労働力。
魔導具に魔法を込める為、魔獣や魔物に魔法を使わせる消耗部品。
そして、世話の最中の事故、魔法を使わせる際の事故で命を落とせばエサにされる。
魔獣や魔物が人間の云う事など聞く訳も無いので、その事故も頻繁に起きて次々にエサとなっている。
こうして命を使って作られる“人工魔導具”から得られる利益は莫大なのだろう。
貴族達が皆、充実した魔導具の中、生活出来る程に…………
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お城に帰って来た僕は今後の計画の練り直しをしていた。
先ず良かった事としては、南方遠征がとっても近場で済んだ事だ。
数ヶ月に及ぶ旅をイメージしていた僕としては、片道1週間程度、なんとも無い距離だ。
其れと、隣国と云えるアルアックス王国が、幾らでも移民者が募れそうな、どうしようもない国だったところも良かった。
元々の計画では、信頼出来る部下を作る為に孤児を拾って来て、洗脳同然の教育をしようかと思っていたが、あれ程虐げられた人々が居るなら、僕の国に連れて来れば満足に食べて行けるだけで忠誠心は十分かもしれない。
そうなったら、予定よりもずっと早く街として稼働出来るようになるかもしれない。
逆にデメリットとしては、あんな酷い国の為政者達は絶対にどうしようもないクズだろう。
そんなヤツらは、絶対に果てし無い強欲だ。
だから、僕の国の存在を知ったら戦争を仕掛けて来る可能性も大いに有る。
護る事だけじゃなくて、攻めて来られたら撃退出来る様にしないといけない。
其れも“人工魔導具”の力を手に入れた国をだ。
ちょっと過剰なくらいの防衛力が必要だろう。
「…………うぅ〜ん……
やっぱり、次々人を連れて来て、一気に人が増えても教育し切れないし、まだ準備も全然出来て無いから、先ずは娼館でしっかり遊んでから、今年連れて来るのは10人くらいにしとこうかなぁ〜……
まぁ、あの状況なら100人消えても全然問題無さそうだけど、ゾロゾロ移動してたら気付かれても面倒だし……
そもそも、此処に人を呼び込むのはずっと先になる予定だったんだから…………
でも、山脈の頂上と山脈の反対側に作る予定の拠点は、もっと防衛力の有るモノにしないと危険かもしれないな。
良し!!
今後の予定は、先ず山頂の小屋の強化をして、山脈の反対側にも頑丈な拠点を作ってから、王都アルアックスに向かう。
魔導具を少し売ってお金を手に入れたら、ギャンブルでしっかり稼いで、娼館でしっかり遊んで、スラム街を周って僕の配下に相応しい人材を探す。
食べ物で釣れて、義理堅くて、出来れば可愛い子がベストだ!!
連れて帰って来るのは10人くらいにして、出来れば全員が可愛い女の子が良いけど、見た目よりも性格重視でいこう。何より大切なのは僕を裏切らない事だ。
とりあえず、今回は女の子限定にしよう…………
いや、待て、小さな子供なら男でも良いか。
もしかしたら、美人の未亡人が小さな男の子を連れている可能性もあるからな!!
とにかく、10人くらい見つけよう。
この10人は今後の教育係予定だから、しっかりと厳選しよう。
とりあえず、アルアックス王国はそんなに遠く無いから夏の内に十分出来るだろう。
冬になったら、僕の国の防衛設備を強化しつつ、連れて来た人達に僕への忠誠心をしっかりと植え付けよう。
教育マニュアルなんかも必要だな。
おっと、国なんだから法律が必要だな。
此れも早い方が良い。冬の内に作ってしまおう。
後は、来年はもっと大勢連れて来れる様にお城の中をもっと作り込んで、ちゃんと仕事とかも割り振れる様に準備しよう。
よぉ〜〜し!!
作るぞ、僕の国を!!」