第17章 奴隷 6
第17章
奴隷 6
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魔物街 アコウツウ探索2日目。
僕達は前日に引き続き、14人と云う大パーティーで探索を行っていた。
残す探索予定地は3ヶ所、そのどれもが、アコウツウのほぼ中心に在る建物だ。
昨日は、中心部でも結構距離の離れた3ヶ所だったのでそれなりに時間が掛かったが、今日は移動距離は非常に短い。
但し、魔物の強さは昨日よりも上になるだろうと予想出来る場所だ。
その予想を裏付けるかの様に、本日最初の建物で昨日は地下で出会ったキングブラストモビリティオークが、地上階から出迎えて来た。
まあ、キングは1体で、他の50体程は普通のブラストモビリティオークだったのだが…………
当然瞬殺だった。
昨日のペアクーレの言付けを守ってか、もう見慣れたのか、6人の元奴隷の子供達も、一切声を上げる事なく、真剣に僕の戦闘を見ている様だ。
そして、本日最初の建物は地下6階迄と云う今迄に無く地下深い建物だ。
地下1階から4階迄は昨日同様にキングブラストモビリティオークの群れがお出迎えをしてくれた。
僕も昨日同様にサクッとカットして対応した。
何も無いのも昨日同様だ。
そして、迎えた地下5階、とうとうSランクの魔物が現れた…………
エンペラークリムゾンブラストモビリティオーク。
キングでも5mを超えるオークのエンペラーだ。
恐らく7、8mは有るだろう。
余りの大きさの為、この地下5階では高さが足りない様で、四つん這いだ。
そして、他の緑色のブラストモビリティオークとは違い、クリムゾンの名の通り深紅の体色をしている。
この魔物は『伝説の勇者』の物語にも登場して、たった1体で街を1つ壊滅させたと言われる、オーク系魔物の最強の一角だ。
ブラストモビリティオークが風魔法を纏って突進して来るのに対して、エンペラークリムゾンブラストモビリティオークは、風魔法を纏って空高く迄飛び上がり、その巨体にモノを言わせて、途轍も無い速度で落下して来るのだ。
その落下の衝撃とその時に起こる纏った風魔法の爆風で、周囲を根こそぎ破壊し尽くす。
その余りの破壊力と深紅の体色から、赤い隕石と呼ばれ、『伝説の勇者』も非常に苦戦した魔物の1体だ。
激しい戦いの末にエンペラークリムゾンブラストモビリティオークに勝利した『伝説の勇者』は、その後、追撃部隊としてやって来た数百ものオークの群れに対して、「落下して来ないオークなど、ただのオークだ!!」と、言って、瞬く間に殲滅したと言う。
そんな伝説級のバケモノが、今まさに僕の目の前に居る!!
其れもなんと、5体もだ!!
凄まじい大きさの為、四つん這いであっても、僕を睨み付ける殺気に満ちた視線は遥か上からだ。
「「「ブヒイイイイイイイイ!!!!」」」
たった5体でも、今迄の数十体の群れを遥かに凌駕する凄まじい轟音となって、雄叫びが響く。
僕はその雄叫びの五月蠅さに耐えかねて、一気に距離を詰めると、次々と、エンペラークリムゾンブラストモビリティオークの首を落として行き、瞬く間に5体とも倒した。
…………まあ、こんな狭い場所では、このエンペラークリムゾンブラストモビリティオークは、ただのデカいピッグ系魔獣と変わらない。
四つん這いだし、飛び上がれないし、デカ過ぎて何の装備もしてないし…………
もしも、外で出会っていれば、ちょっとは戦闘らしい感じになったかもしれないが、天井の高さが5mしか無い場所を住処にするのが悪い。
この地下5階はこれまでの上の階とは違い、奥にモノが有った。
先ず3台の“エアーカー”。
これは完全に高級車で、後部座席には、冷蔵庫の魔導具と給湯器の魔導具、高級そうなティーセットにワインセラー迄有った。
トランクの中も、“エアーバイク”に魔導具の衣類が入っていた。
恐らく、この建物には、かなりの金持ちか身分の高い者が住んでいて、此処は隠し倉庫的な場所だったのだろう。
“エアーカー”以外にも5つのコンテナが置かれている。
残念ながら暗証番号によるロックが掛かっていたので、“エアーカー”も動かせず、コンテナの中身も分からないが、全て回収して、帰ってから解除に取り組む事にした。
幸いエレベーターの中は非常に広いので、“エアーカー”とコンテナは“ゼログラヴィティバック”被せで全て積み込んで、ワクワクしながら地下6階へと向かった…………
地下6階、そこは今迄の階とは全く違う場所だった…………
天井迄は20mは有り、エンペラークリムゾンブラストモビリティオークも悠々と立っている。
そして何より、探すまでも無く、奥に目的のモノが見える。
“エヴィエイションクルーザー”だ。
其れも、やはり2隻だ。
そうじゃないかと思っていた。
明らかに、地下階の天井の高さとエレベーターの天井の高さが有っていないし、エレベーターの扉が2段階に開きそうな形状をしているし、エレベーターには僕達が入って来た側とは反対側にも扉の様な形状がなされている。
僕達は今回、賢者 ラノイツロバーが後世に飛行技術を残す為に10人の高弟へと託し、その子孫である『伝説の勇者』の仲間、戦士店長 トレナガーが隠したと思われる“エヴィエイションクルーザー”を探しに来た訳だが、“エヴィエイションクルーザー”は、ラノイツロバーの残したモノ以外にも間違い無く存在する。
其れは、ルベスタリア王国に移設した、現在のエアポートタワーで、古代魔導文明時代末期に製造されたモノだ。
この“エヴィエイションクルーザー”はナエラークの記憶から9隻存在し、その内の3隻は僕が所有しているので、残り6隻が存在している。
もちろん、“サードストライク”や他の要因で失われている可能性も十分にあるが、僕がこの6隻に対して余り警戒していなかったのには理由がある。
このエアポートタワー製の“エヴィエイションクルーザー”は完全なる個人認証で、発見したところで、ラノイツロバーの遺産の様に使ったり移動させたり出来ないからだ。
更に、この“エヴィエイションクルーザー”の最上位の権限は僕が持っている。
なので、万が一、と言うか、何千兆分の一の奇跡で動かせる者が現れても、僕の権限でソイツの認証をロックして僕が動かせる様に出来るからだ。
つまり、目の前の2隻の“エヴィエイションクルーザー”の内、1隻は僕の探していた賢者 ラノイツロバーの遺産で、もう1隻は僕が自由に動かせる“エヴィエイションクルーザー”だと思われる。
と、云う訳で僕は早速調査をしたいので、ちゃんと立って歩いているエンペラークリムゾンブラストモビリティオークには、さっさとご退場願おう。
僕はサクサクとエンペラークリムゾンブラストモビリティオークを愛刀“千変万化改”で、縦割りにして行き、10体の赤いオークを真っ赤に染めた。
後方で、サンティデルテが、「さっき、ノッディード陛下が『こんな狭い場所でエンペラークリムゾンブラストモビリティオークに出会うなんてついてるね、楽勝だった』って言ってたけど、広い場所でも殺すスピード同じじゃないか?」と言って、ワルトルットゥ達とワイワイ言っているが、もちろん、そんな話しはどうでも良い。
僕達の目的は、あくまで、“エヴィエイションクルーザー”であって、強いオークを倒す事では無いからだ。
ネイザー達が回収をしてくれる傍ら、一応、周囲に敵が残っていないか確認して、いざ、“エヴィエイションクルーザー”の艦橋へ。
先ずは、見慣れた形状の“エヴィエイションクルーザー”の甲板に、“エアーバイク”でジャンプして、みんなでゾロゾロと階段を登って行く。
内装は僕が持っているどの“エヴィエイションクルーザー”よりも豪華で、装飾品に絵画や便利グッズ的な魔導具も色々と取り揃っていたが、運転席と操作パネルは全く同じだ。
見慣れた『welcome』の表示の後、認証画面が現れた。
僕は腰のポーチから“アーカイブ”を取り出して、操作パネルへと翳す。
「最高管理者権限を発動、使用者登録を全て書き換える」
『最高管理者権限を確認しました。
現在の使用者情報を全て消去して、新たな使用者登録を行います。
アーカイブとのセキュリティリンクを行いますか?』
『(YES)』
『…………アーカイブとのセキュリティリンクが成功しました。
使用者情報、ノッディード・ルベスタリアで登録して宜しいですか?』
『(YES)』
『…………最初の使用者が登録されました。
続けて、マスター登録もノッディード・ルベスタリアで行いますか?』
『(YES)』
『マスター登録を開始しました。
マスター登録の完了は90分後です。
暫くお待ち下さい』
…………やはり、エアポートタワー製の“エヴィエイションクルーザー”だった様だ。
まあ、見た目も中身も豪華仕様になっているだけで、基本的に同じだったから、そうだろうとは思っていた。
そして、最高管理者権限様様だ。
あの認証カードキーをあんなに簡単に見つかる場所に隠してくれたコロラッド・ルニウメン皇子に感謝しなくてはいけない。
まあ、コロラッド・ルニウメン皇子は、ナエラークを騙して閉じ込めた憎っくき皇子で、製造した全ての“エヴィエイションクルーザー”にいざとなったら自分が乗っ取れるシステムを組み込む程の用心深い皇子だが、最も重要なあの認証カードキーを自身の肖像画の裏に隠すと云う、余りにも無防備で安直な行動は謎でしか無い。
因みに、現在は3枚のカードキーは、賢者 ウィーセマーの遺産の地下室の巨大図書室の本に挟んで隠している。
まあ、僕が死んだら入る事も出来ない場所の、途轍も無く大量の本に隠されていれば、先ず取られる事は無いだろう。
続いて、やって来ました、賢者 ラノイツロバーの“エヴィエイションクルーザー”。
この“エヴィエイションクルーザー”は僕が持っているモノとは明らかに外観が違う。
空を飛ぶ為の流線形をしていた今迄の“エヴィエイションクルーザー”に対して、この“エヴィエイションクルーザー”は、海に浮かぶ船に近いずんぐりとした形状をしている。
そして、ふた回りは小さい。
艦橋も甲板の上にそのまま設置されていて、本当に船と変わらない見た目だ。
まさに、『伝説の勇者』の物語に出てくる“空飛ぶ船”だ。
先ずは艦橋に入ったが、先程の豪華絢爛なモノから、いきなり非常に貧相な艦橋だ。
運転席と操作パネルの形状は同じ様だが、もちろん、この“エヴィエイションクルーザー”には操作パネルが無い。
此れは、戦士店長 トレナガーの子孫のビレジンが持っているからだ。
そして、艦橋にはこれだけだった。
本当に運転をする為だけの部屋だ。
続いて、艦橋横の梯子から船倉に降りて行く。
1部屋1部屋見て回ったが、小ぢんまりした食堂とベットと机が有るだけの狭い部屋が20部屋程、そして、空っぽの倉庫だけだった…………
「…………なんと言うか、普段ルベスタリア王国の“エヴィエイションクルーザー”を見慣れてしまったから、ちょっとショボいな…………」
みんなが思っていても我慢していたであろう言葉をワルトルットゥがポロッと零した。
「ワルトルットゥ、其れは言ってはいけない言葉だろう。
此れは、まさしく“伝説の空飛ぶ船”なのだから…………」
ラウニーラートが注意をしたが、その声も落胆が隠せていない。
「…………まあ、歴史的な価値があるんだから発見した意味は有るだろ。
王都の何処かにモニュメントとして展示するとか、使い道はある訳だし」
サンティデルテも微妙な発言だ。
きっと、ワルトルットゥ師団は、“伝説の空飛ぶ船”に凄い期待を込めて探していたんだろう……
仕方ない、フォローしておこうか。
「ワルトルットゥ、この“エヴィエイションクルーザー”は、きっとわざとこう云う作りにしてあるんだよ。
此処、アルコーラル商国にも、アルアックス王国にもナノマガン王国にも海が無いからピンと来ないかもしれないけど、この“エヴィエイションクルーザー”は、海で使われる船に偽装してあるんだろう。
見つかった時の対策の1つだと思う。
其れにこの船の価値は見た目じゃあ無い。
この“エヴィエイションクルーザー”に使われている、オリジナルの“飛行ユニット”だ。
此れは、現在ルベスタリア王国には無い技術だから、見つけた価値は大いにある。
其れに元々は、航空技術を他国に渡さない事が目的で探してたんだから、発見出来たこと自体に意味がある」
「……確かにそうですね。
ついつい、ハンターの頃の感覚で見つけたお宝がショボくてガッカリしてしまいましたが、ルベスタリア王国の安全の向上には繋がりますからね」
…………ワルトルットゥ、ショボいって言い過ぎだ…………
『伝説の勇者』の物語が結構好きなルーツニアスがご機嫌斜めじゃないか。
せっかく、フォローしたのに…………
「とりあえず、向こうの“エヴィエイションクルーザー”に地下5階で見つけたモノは積み込んで、お昼にしようか。
その後は、ヴィアルトにこの建物の見張りをして貰って、僕達は残り2ヶ所の探索もしてしまおう」




