第16章 賢者の弟子の末裔 3
第16章
賢者の弟子の末裔 3
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アルコーラル商国にやって来て1週間程、僕達はアルコーラル商国での拠点も入手して、主だった魔導具屋と本屋は周り切ってしまった。
アルコーラル商国での拠点は潰れた商会の商会長が住んでいた結構大きな屋敷にした。
名義はいつもの『ティニーマフーズ商会』だ。
先ず屋敷にした理由は、このアルコーラル商国は商人の国なので、前回のアルアックス王国の様に、いつまでもオープンしない店や、大量の物資が持ち込まれるだけの倉庫は目立ってしまう可能性が高いからだ。
商人達は目ざとい。
そして、この建物を選んだ理由は敷地の広さと、不動産屋も気付いていないかなり広い隠し地下室が有ったからだ。
恐らく、前の所有者は裏の仕事で奴隷商をしていたのだろう。
隠し地下室は、牢屋と拷問部屋だった。
因みに、このアルコーラル商国でもアルアックス王国同様に奴隷は名目上禁止だ。
まあ、この国でもあくまでも名目上なのだろう。
地下牢は当面はカジノオーナー達の部屋で、その後は改装して物資を隠しておく倉庫になる予定だ。
ただの屋敷もルベスタリア王国から持ち込んだ魔導具の数々で、2日と掛からず要塞ばりに強固な建物へと変身した。
僕達は、その屋敷拠点のリビングで諜報局から現在のルベスタリア王国軍の状況報告を受けていた。
「…………了解、とりあえず、目ぼしいモノは無かったみたいだけど、B級代理官のみのパーティーでも、古代遺跡都市の中央区画を無理無く探索が出来るって分かっただけで良しとしようか。
じゃあ、今週末についてなんだけど、プランAで、全員撤退して貰って。
理由は、『来週、S級A級代理官全員招集しての会議をするから』って伝えておいて」
「了解しました」
そう言って、諜報局5番隊 隊長のディーヌエヌはサッと敬礼をするとリビングを出て行った。
「さて、僕達は残りの時間をどうしようか?
もう、魔導具屋も本屋も目ぼしい店が無いし」
そう言って、親衛局の面々とリティラ、シイーデを見る。
因みに、ネクジェーとエニットは既に諜報局の仕事に移っている。
「やっぱり、また闇市を見て回るのが良いのでは無いでしょうか?」
「そうですね、また、何か新しい出会いがあるかもしれないです」
リティラとルーツニアスは闇市推し。
「私は普通に街を見て歩くのが良いと思う。
一応、立国祭のメイン会場と、闇オークションの開催場所は確認しておいた方が良いと思う」
「私も立国祭のメイン会場と、闇オークションの開催場所の確認は必要だと思います」
ペアクーレとシイーデは街を散策と立国祭のメイン会場と、闇オークションの開催場所の確認。
そして、ネイザーとヴィアルトは、ノーコメントの様だ。
「じゃあ、今日は闇市を見ながら立国祭のメイン会場まで行って、メイン通りを見ながら帰って来る。
明日は逆にメイン通りを見ながら、闇オークション会場まで行って、闇市を見ながら帰って来ようか」
と、云う訳で、先週スブーブと出会った通りとは別の闇市通りを立国祭のメイン会場の中央広場の方に向けて出掛けた。
残念ながら、闇市に目ぼしいモノは無く、中央広場までやって来た。
広場付近のお店で昼食を摂る。
ペアクーレの希望で、テラス席にみんなで座って食べていたが、ペアクーレ達国王親衛局の面々は、食事をしながらも、周囲の建物や通りの造りを観察していた。
特に何も言わないが、多分、立国祭当日の警戒場所や逃走ルートなんかを考えているのだろう。
親衛局も其れっぽい感じになって来た様だ。
まあ、みんな優秀だから、何処に誰が配置されても多分みんな直ぐに順応するのだろうけど。
そんな昼食を終えて、メイン通りを“エアーバイク”でのんびり走っていたのだが、ふと、ちょっと奥まったところに在る1つの店が目に入った…………
「…………オルゴール屋ですか?」
「うん、そうみたいだね。
ちょっと、寄ってみようか」
店内は外から見た通り、余り広くは無く僕達8人が入るとちょっと手狭だ。
中央の大きなテーブル、周囲をグルリと囲む陳列棚には、大小様々な箱が並んでいて、入って直ぐ左手の会計用のカウンターの奥では高齢の男性が背を向けて作業をしていた。
「いらっしゃい…………。強盗か?」
「ははっ………。お客だよ。
ぞろぞろとゴメンね。
ちょっと、オルゴールの専門店って云うのが珍しくてね。
見せて貰っても良いかな?」
「ああ、もちろん構わんよ。
ただ、音が聞きたい時には持って来てくれ、ゼンマイの巻き加減は調節してるから、殆ど鳴らないからな」
僕はお言葉に甘えて、大きさや形状の違う、幾つかのオルゴールを試聴させて貰った。
澄んだ音色に、聞いた事のない音楽。
オルゴールの曲が流れている間は、まるで時が止まったかの様な、その音色だけの時間になる。
オルゴールは、音も素晴らしいが、その見た目も素晴らしい。
細かな彫刻が成されているモノや、金属の細工が施されたモノ、一つ一つが丹精込めた作品で、何の意匠も無いモノでさえ、木で出来ているとは思えない程の柔らかな手触りだ。
僕だけで無く、女性陣も男性陣も、オルゴールの音色に聴き惚れ、意匠の素晴らしさに目を見張っていた。
「…………どれも、素晴らしいね。
このオルゴールは、全部店主さんが作ったモノなの?」
「まあ、殆どそうだな。
まだ、少しだけ先代のオヤジが作ったモノもあるが…………」
「そうなんだ、聞き比べしても良い?」
「構わんが、ワシの作ったモンじゃあ不満なのか?」
「いやいや、素晴らしいと本気で思ってるよ。
ただ、作り手の違いに興味があるのと、お父さんが作ったモノならかなり時間が経ってるだろうから、古いモノがどんな感じになるのか知りたくて」
「…………そうか、なら、1番古いのを聴かせてやろう。
まあ、コイツは売り物じゃあ無いがな」
店主はそう言って、奥に入って行くと、綺麗に磨かれたオルゴールを持って来た。
其れは、縦横20cmx30cmくらいあるかなり大きめのオルゴールだ。
表面には、まるで、“エヴィエイションクルーザー”の様な流線型の変わった船が描かれている。
店主が裏面に鍵を刺してゼンマイを巻き、テーブルに置いて蓋を開けた…………
「!!な、この曲は?!あれ?其れにこのオルゴール、オルゴールが無い?」
「はっはっは…………。オルゴールが無いと来たか。
そうだな、コイツはそう見える」
そう、このオルゴールは、そう見えた。
本来なら、オルゴールにはムーブメントが収まっている部分が在る筈だ。
隅の方に有ったり、上底にして下の方に有ったりするが、このオルゴールにはそれが無い。
可能性として考えられるのは、箱の板の厚みが2cm程と少し分厚いので、その中をくり抜いて作っているのか、何かしらの魔導具なのかの何方かだろう。
「コイツは、ワシのオヤジがお袋にプロポーズで贈ったもんでな。
この板の厚みの中に、オルゴールの機能が分割して入ってるって変わったモンだ。
オヤジは、息子のワシの目から見ても天才だった。
ワシも、このオルゴールに何度も挑戦したが、とうとう、この薄さまでに納める事は出来なかった。
あそこの角に、少し大きめのがあるだろう?
アレらは、コイツと同じ構造だが、板の厚みは、23mmある。
後3mmがどうしても削れ無かった。
削ると音が悪くてな」
「…………凄いな…………
是非、分解して、中の構造を見てみたい…………」
「さすがに、コイツをバラさせる訳にはいかんが、あっちなら買った後にバラしても良いぞ。
この技術が、もしも、後世に残るんなら、オヤジも浮かばれるだろうからな」
「後継が居ないって事?」
「ああ、父親よりも先に逝っちまう親不孝な娘でな…………」
「弟子は取らないの?」
「…………ハッキリ言って、オルゴール技師は、ちょっとやそっとじゃあなれるモンじゃねぇ。
その上、どんなに技術があって、どれ程の天才だったとしても、儲からん。
この店が、後何ヶ月保つかは、それこそ、あんたがどんだけ買ってくれるか次第ってレベルだ」
「…………勿体無いな…………
店主、他に家族は?
後、これから先はどうするの?」
「ん?年寄りの心配か?
…………まあ、良いか…………
女房が居るが、もう何年も寝た切りでな。
食って行く金が無くなったら、この店を売って、アパートにでも引っ越すつもりだ。
女房と2人、ぼちぼち食って行けりゃあ良いと思ってる」
「奥さんとのんびり暮らせたら、別にアルコーラル商国じゃ無くても問題は無いの?」
「まあ、問題は…………
娘の墓くらいか……」
「だったらさ、僕のやってる学校で、先生をしてくれない?
オルゴール技師だけじゃなくて、彫刻と金属細工と音楽の先生もして貰いたいんだ。
その代わり、このお店は商品も含めて全部僕が買い取るし、娘さんのお墓も移設する。
引っ越して貰った後の衣食住に関しては、保証するし、奥さんには出来得る限りの治療が受けられる環境も用意するよ。
どうかな?」
「そいつは、有り難い申し出だが、オルゴール技師だけじゃ無く、彫刻師も金属細工師も音楽家も、よっぽど有名にならないと食って行くので精一杯だ。
碌に生徒も集まらんだろうし、ワシもそんなに長くは教えられんだろうから、全く旨味が無いんじゃないか?」
「まあ、生徒がどれくらい集まるかは分からないけど、ちゃんと旨味はあるよ。
店主のオルゴールは、間違い無く人の心を豊かにする。
其れは、僕の目指す人々の幸福な生活に繋がって行くよ。
もしかしたら、1人で店主と同レベルになれる者は居ないかもしれないけど、2、3人で協力し合って、同じくらい素晴らしいオルゴールを作れる様になるかもしれない。
そうすれば、この素晴らしい技術が後世に残る。
僕にとっては其れはちゃんと旨味で価値有る事だ」
「…………まさか、ワシのオルゴールに其処迄言ってくれる人物が現れるとはな…………
…………一つだけ、良いか?
さっき、あんたはこのオルゴールの曲を知ってる様だったよな?
この曲は、オヤジがオヤジの爺さんから教えて貰った曲で、遥か彼方の遠い国の曲だって話しだったんだが、あんたはその遥か彼方の遠い国の人なのかい?
もし、そうなら、そんな遠くへの長旅に女房が耐えられないかもしれん…………」
「ああ、確かに知っている曲だったから驚いた。
その曲は、僕の生まれた国では、『伝説の勇者』の物語を歌う有名な曲でね。
勇者の仲間の吟遊詩人が作ったって言われてる曲だ。
でも、向かう先はその僕が生まれた国じゃあ無いよ。
其れに、移動手段もちゃんと有るから、奥さんも問題無く連れて行ってあげられると思う。
其れと、荷物を運ぶのも人手を用意するから、奥さんもベッド毎運んでも良いよ」
「そうか…………
分かった。あんたの言葉を信じよう」
「ありがとう。
僕はノッディード。
ノッディード・ルベスタリアだ。
店主の名前は?」
「ワシは、バドロウト。
家名持ちって事は、やっぱりお貴族様だったか。
学校やってるって事は、隣のイジャラン・バダ帝国の領地持ちのお貴族様かい?」
「いや、僕は貴族じゃ無くて、国王だよ」
「こ、ここ、こ、国王?!?!」
「そう、まあ、まだまだ小さな国さ。
其れよりも、此れからの事だけど、先ず、僕はお忍びで来てるから、僕に会った事も僕の国に来る事も奥さん以外には内密にしておいてね。
其れで、明日、人手を来させるから、お店と商品の料金を今日中に計算しておいてくれるかな?
で、その後、僕の配下と引っ越しの準備をして欲しい。
その時に、娘さんのお墓の場所を伝えておいて。
あと、一緒にこのリティラにも来て貰うから、奥さんの容態をリティラに見せて欲しい。
リティラは医療知識も有るから。
今週末には僕達は一旦帰国するから、その時に全部運び出すからそのつもりでお願い。
バドロウトの方から何か、聞いておきたい事はある?」
「……いやぁ…………
その、任せ、いや、お任せします、です」
「ははっ……
無理に敬語で話さなくて良いよ。
其れよりも、本当に聞いておく事は無い?」
「…………いや、だ、大丈夫だ」
「分かった。
じゃあ、此れから宜しく、バドロウト」
この出会いも、いつもの如く偶然で、ルベスタリア王国に誘ったのも思い付きだった。
しかし、いつもの如く必然で、運命の出会いだったのかもしれない…………




