第16章 賢者の弟子の末裔 2
第16章
賢者の弟子の末裔 2
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カジノトラブルの翌朝、ネイザーがみんなを連れて戻って来た。
表情を見る限り、上手く行った様だ。
「おかえり、ネイザー、みんなもお疲れ様。
上手く行ったみたいだね」
僕が声を掛けると、ヴィアルトが直ぐに全員のお茶を準備し始め、リティラが朝食の準備を始めた。
「はい、滞りなく。
預金額は約17兆アルで、カジノの権利は建物設備合わせて14兆アルで売却出来ました。
其れと、所有していた屋敷と別荘が合計で、25億アルで売却出来、魔導具の収集品が幾らか有ったので回収しました。
妻と子供が2人居たので、その3人には1,000万アル渡して追い出しています。
オーナー、ディーラー、イカサマ師と昨夜の賊は全員生かして捕らえています。
賊は暗殺者ギルドの所属のチームだったので、全員から、今迄、殺した者の名前を聞き出しています。
この捕らえた者達の使い道ですが、オーナー達はイカサマの手口の自白した内容の文書と共に、賊は殺した者のリストと共に、闇オークションへ商品として出品します。
恐らく、復讐用で購入する者が現れるでしょうから、其れ也の値が付くと思います」
いつもの爽やかイケメンスマイルで、結構エグい事をツラツラと報告するネイザー。
僕は家族が居るかもしれないから、家や財産は放置しようと思っていたが、ネイザーはある程度のお金を渡して根刮ぎ奪って来た様だ。
更に、僕の「生かしても良いけど、生かす場合には、何か使い道を用意して」と云う注文には、間違い無く拷問をされるだろう形で、売り払おうとは、本当にエグい。
ついでに言うなら、現状恐らく精神的にかなり壊れる迄追い込んで、預金を全て引き出させて、カジノの権利も売っただろうし、暗殺者に殺した者の名前を全て白状させたなら相当の拷問を強いているだろうから、まともな状態で喋れない可能性が高い。
だから、きっと、自白内容の文書を用意したのだろう。
闇オークションで購入した者も、痛め付けても最早碌に反応しない可能性の高いヤツらを買わされる訳だ。
此れも結構エグい。
まあ、悪いのは完全に向こうなんだから、別に問題は無い。
自分からイカサマを仕掛けておいて、逆恨みで殺そうとしたんだから、殺されるよりも、もっと酷い目に遭っても仕方が無いと云うモノだ。
「ありがとう、ネイザー、良い仕事だよ。
お陰で、闇オークション用の資金稼ぎの必要も無くなったし、心置き無く、アルコーラル商国を見て回れるよ」
「御役に立てて何よりです。
回収した資金は念の為、狼弾会の所有していたペーパーカンパニーの口座に入れておきましたので、必要な時には、ネクジェー様経由で、諜報局から受け取って下さい」
「了解、じゃあ、とりあえず朝食にしよう」
アルコーラル商国 首都アルコーラル。
この街は、東西を行き来する商人と、古代遺跡都市へと向かうハンターの休憩用のオアシスに露店が並び始めた事から始まったらしい。
露店は店舗に、店舗は商会に発展して行き、その商会を中心にした街へと至り、そのまま国になって行ったそうだ。
こう言った経緯から成り立った国の為、王は居らず、国の運営は議会の決定で行われている。
この議会に出席出来るのは、一定額以上の税金を納める商会の代表者で、要は貴族院の貴族が、議会の商会長に変わっただけで、特別素晴らしい国でも珍しい国でも無く、王政の他国と人々の生活は余り変わらない。
とは言え、“商人の国”、“流行の発進国”と言われるだけあり、商店が所狭しと軒を連ね、商品も多種多様だ。
砂漠のど真ん中の様な立地にも関わらず、海の幸や山の幸も普通に販売されているし、ブランド化された商会も多数有る。
まあ、食材と衣類に関しては諜報局が仕入れてくれるので、僕の見て回るモノは、もっぱら、魔導具と本だ。
魔導具は、生活に必要なモノや一般的なモノはアエルエンタープライズで作る事が出来るので、僕が見て回っているのは変わったモノや用途不明なモノだ。
本は、古代魔導文明時代の後半から、“サードストライク”直後のモノを探している。
以前なら、其れらの本は知識を得る為だけのモノだったので、偶然出会ったら買えば良い程度だったが、現在のルベスタリア王国にはナエラークとアエルゲインと云う、知識を実践出来る者が居るので、魔導士の研究資料なんかもとても価値が高い。
そんな訳で、今日はみんな揃ってショッピングだ。
以前なら、連絡要員で、ホテルにお留守番が必要だったが、“スピリットコミュニケーションデバイス”のおかげで、連絡手段は完璧だ。
いつでもどこでも、連絡が取れる。
僕達は、10人で街を彷徨き始めた。
さすがに、“エアーバイク”10台は多いので、2人づつの5台での移動だ。
先ずは、ホテル周辺の大きな魔導具屋や本屋を回る。
本屋では3冊程購入したが、持っていなかっただけで、特別な内容の本では無かった。
昼食を取って、小さな店も回ろうとしていた時、ふと、路地奥の闇市が目に入った。
ネイザーの活躍で、時間的に余裕があるので、ちょっと覗いてみる事にした。
アルコーラル商国に於いて闇市は、決して珍しいモノでは無い。
闇市と言えば、盗品や曰く付きの品などが思い浮かぶが、アルコーラル商国では、どちらかと言うと、破産した商人が、在庫を少しでもお金に変えて生きながらえようとしている場合の方が多い。
品物が溢れ、流行り廃りの早いアルコーラル商国では、破産した商会の不良在庫など、買い取っても倉庫のスペースの無駄にしかならないと云う感じで、全く値が付かないので、破産した商人はだいたい、店や従業員は失っても、不良在庫だけは抱えるらしい。
そんな、理由からか、闇市とは言え、売られているのは、一般的な商品か、何年か前に流行った服などが殆どだ。
まあ、やって来たのは何となくで、何かを探しに来た訳では無い。
ぐるっと見てから出れば良いか、と、思いながら、人混みの中を“ウィーフィー”を押して歩いていると、不意に引っ張られた。
振り返ると、エルヴァが、僕のコートの袖を持ったまま、立ち止まって、一点を見詰めていた。
「どうしたんだい、エルヴァ?
此れが欲しいのかい?」
僕はそう言って、エルヴァが見ていた服を手に取る。
何の変哲も無い普通のワンピースだ。
もしかしたら、エルヴァの記憶の中に残るナニカなのかと思ったが、エルヴァは首を横に振って、もう一度、視線を固定した。
エルヴァが見ていたのは、このワンピースでは無かったらしい。
視線の先に有ったのは、商品の並んだシートの上に座る店主っぽい青年の横に置かれた、金属製の箱だった。
「エルヴァ、あの箱が欲しいのかい?」
僕がその金属製の箱を指差すと、エルヴァは視線はそのままで頷く。
しかし、其れはどう見ても…………
「ねえ、キミ。
その金属製の箱も商品なのかな?」
「え?此れですか?
いや、此れは、売り上げを入れておく金庫代わりでして…………」
「そうだよね。
因みに、その箱を売って貰う事は出来るかな?」
「うぅ〜〜ん…………
すいません、ちょっと、オヤジに聞いてみないと。
この金庫は、先祖代々伝わるモノの1つなんで…………」
「先祖代々?
キミのお店は結構歴史の有る老舗なのかい?」
「まあ、元々はって感じですけどね。
このアルコーラルに来たのは、じいさんの代で、おいらの代でその店も潰れちゃったんですけど、元々は、隣のイジャラン・バダ帝国に帝国が出来る前から有った商店だったらしいです」
「そうなんだ。
だったら、その箱も歴史有る大切なモノなんだね。
ちょっと、売って貰うのは難しいか…………」
「…………お兄さん、見ない顔だけど、そんなに大勢連れてるって事は金持ちですよね?」
「まあ、そこそこね」
「もしも、この金庫が凄く高くても買って貰えたりしますか?」
「其処は、もちろん値段次第だけど、ある程度なら出すよ?」
「例えば、1億アルとか…………」
「まあ、其れくらいなら出しても良いけど、その程度の資金で、お店を買い戻せるの?」
「あ、いや、店を買い戻したいからじゃなくて、オヤジにポーションを買ってやりたいんです」
「お父さんは、大怪我か重い病気でも?」
「はい…………
ちょっと、大店と揉めちゃって、見せしめに腕を失くしちゃって…………」
「なるほどね…………
だったら、こうしよう。
先ずはその箱を売ってくれる事、其れとその箱以外にも先祖代々伝わるモノが有ったら、其れも買い取り交渉をさせてくれる事、最後にキミとお父さんからご先祖様とキミの家の商店の歴史を出来るだけ詳しく聞かせてくれる事。
この3つの条件を呑んでくれるなら、1億アルと、最高級の怪我回復ポーションも付けよう、どうだい?」
「!!1億アルと、怪我回復ポーションまで?!」
「ああ、3つとも条件を呑んでくれたらね。
もちろん、お父さんと相談してからで良いよ。
リティラ、ホテル迄の地図を描いてくれる?
そう言えば、僕はノッドだ、キミの名前は?」
「おいらは、スブーブです。
絶対にオヤジを説得して来るんで。
何時くらいに行ったら良いですか?ノッドさん」
「じゃあ、17時で良いかな?
もしも、お父さんに断られても、一応、教えに来てね。
其れで、お父さんがOKだったら、先祖代々伝わる他のモノも持って、お父さんと一緒に来て。
お金もポーションも準備しておくから。
あ、他にも先祖代々伝わるモノって有るのかい?」
「はい、おいらが知ってるモノがもう3つ有ります。
あと、多分、オヤジがおいらに教えて無いモノも有ると思うんで、其れも絶対に持って行きます」
「分かった、期待して待ってるよ」
「…………ノッドさん、すいません!!
オヤジがどうしても、ノッドさんに会ってからじゃないと決められないって言い張って…………」
約束の17時、ホテルのリビングに入って来た、スブーブは、凄い勢いで、スライディング土下座をする。
その後ろから、片腕の厳しい表情の初老の男性が入って来た。
この男性がスブーブの父だろう。
男性は厳しい表情のまま、深々と頭を下げると、
「初めまして、ノッド様。
スブーブの父、ビレジンと申します」
と、名乗った。
田舎のユルフワ青年の様なスブーブと厳つい村長の様なビレジンはとても親子とは思えない程似ていない。
きっと、スブーブは母親似なのだろう。
「いいよ、スブーブ。
いきなり変わった条件を持ち出されたら、商人なら警戒して当然だしね。
スブーブもビレジンも、まあ、掛けてよ。
ヴィアルト、お茶をお願い」
其々が返事をして、先ずは商談のテーブルに着いた。
ビレジンは、未だ厳つい表情で、スブーブはペコペコしたままだが…………
「じゃあ、ビレジン、何が聞きたいんだい?」
「では、単刀直入に申しまして、我が家の家宝を買い取りたいと云うのはどう言った理由からでしょうか?」
「先ず前提として、あの箱が欲しいって言ったのと、他のモノを買い取り交渉させて欲しいって言ったのは、別々の理由だ。
あの箱に関しては、このエルヴァが欲しがったからなんだけど、この娘は、ちょっと訳ありで喋る事が出来なくてね。
だから、なんで、あの箱を欲しがったかは分からない。
今迄、食べ物以外で何かを欲しがった事も無いから、余計にね。
其れで、他のモノについては、正直言って、欲しいかどうかは分からない。
キミ達の先祖代々伝わるモノにどんなモノが有るか、分からないからね。
ただ、スブーブの話しが本当なら、“サードストライク”前後、若しくは其れ以上前のモノが有るかもしれないから、買い取り交渉をさせて貰いたかったんだ」
ビレジンは、僕の言葉が止まると、ジッとエルヴァを見る。
急に見られたエルヴァは、ビクッとして、僕の後ろに隠れたが、そっと覗いて、ビレジンの方を見た。
「ビレジン、悪いんだけど、もっと優しい表情で、見てくれるかな?
さっき言ったけど、エルヴァは、ちょっと訳ありで、とても怖がりなんだ」
「!!申し訳ありません。
その、顔が怖いとは昔から言われるのですが、笑うともっと怖いと言われていまして……」
「…………そうか、キミも苦労してそうだね。
とりあえず、そんなところだ、他に聞きたい事は?」
「では、ノッド様は、何故、過去の遺物を欲されているのですか?」
「其れは、歴史と技術を学ぶ為だね。
…………ねぇ、ビレジン。
もしかして、キミのご先祖様の遺したモノになんだか、凄っごい武器みたいなモノが有って、僕が其れを狙って来たと思ってるのかい?
もしも、そうなら、その凄っごい武器は売らなくても良いし、ナイショのままでも良いよ?
僕の1番の目的は、あの箱で、次はキミ達のご先祖様の歴史の話しで、他の代々伝わるモノはついでに面白いモノが有ればってくらいだからね」
「…………正直に申し上げて、ノッド様の推測通りです。
我が家の家宝の中には、世界を滅ぼす程のモノの鍵が有るのです。
此れだけは何があってもお売りする事は出来ません」
「…………物騒な話しだね。
良いの?そんな重要な事を僕に話して。
黙ってた方が安全じゃなかった?」
「いえ、我が家の歴史をお話しするならば、分かってしまう事です。
ノッド様のご提案を受けさせて頂きます。
ただ、今言った鍵についてはお売り出来ない事と、我が家の歴史についても他言無用でお願い致したい」
「分かった。
みんなにも席を外して貰おうか?
エルヴァだけは無理だけど」
「いいえ、問題ありません。
広く風潮されないなら、命を狙われる事も無いでしょうから。
先程は、大仰に言いましたが、私が持っているのは鍵だけで、本体は何処に有るのか私も知りませんので。
では、我が家の歴史をお話しする前に、ノッド様は、人類の歴史や、大厄災戦争の事はご存知でしょうか?」
「うん、一応、一通りの歴史は学んでいるよ、色々な伝説の史実も含めてね」
「左様で御座いますか。
其れではお話し致します。
我が家のルーツは、古代魔導文明時代から始まります。
古代魔導文明中期に、先程、お伺いした大厄災戦争が起こり、其れ迄の魔導士が世界を支配していた時代が終わりました。
その時、大厄災戦争を終結させ、世界中から空中都市を地上に降ろさせたのが、当時、三賢者と呼ばれて居た1人の賢者 ラノイツロバーです。
私の先祖はその賢者 ラノイツロバーと共に戦った“10人のラノイツロバーの高弟”と言われる者の1人、プレンテスと言われています」
『ええ?!なんだか、ちょっと、老舗の歴史を聞こうと思ったら凄っごい、有名人が出て来たんだけど?!』と、心の中で驚きつつも、グッと堪える。
『賢者 ラノイツロバーと10人の高弟』は、有名な歴史物語だ。
大厄災戦争と云う、世界規模の戦争を終結させただけでなく、其れ迄、家畜の様に扱われていた魔導士では無い普通の人間を解放して、その後の、人類史上、最も栄えたと言われる誰もが魔導具の恩恵を受けられる時代を生み出した物語だ。
「賢者 ラノイツロバーが、大厄災戦争終結と共に、全ての空中都市を地上に降ろさせた後、人類全体で、『空中都市だけで無く、空飛ぶ船も全て禁止すべきだ』と、云う声が高まって行きました。
その声は止まる事なく、賢者 ラノイツロバーの知らぬところで、“空飛ぶ船”の破壊や、“飛行魔法”魔導士達の暗殺が起こって行きました。
その事に危機感を覚えた賢者 ラノイツロバーは、10人の高弟達に、今後、失われてしまう可能性の高い、“空飛ぶ船”の様な幾つかの重要な魔導具を隠し持つ様にと託しました。
そして、月日は流れ、10人の高弟達の子孫も散り散りになって行き私達の祖先は、此処より遥かに南の地で魔導具の開発研究と、その情報の販売をしていたそうです。
其れが私達の受け継いだ、ツロバー商会の始まりと言われています。
しかし、長く続いた平穏な日々が“サードストライク”で破滅に変わりました。
その時、ツロバー商会も壊滅したそうですが、幸いにも、当時の先祖は魔導士では無かった様で、生き延びる事が出来た様です。
その後、生き残った人々と共に、街を作り、古代遺跡都市から魔導具を取って来ては販売する、今で言うところの、ハンター兼魔導具店の様な形で、ツロバー商会を復活させたそうです。
ですが、人々の生活が安定し始めたと思われた矢先に起こったのが、6大魔王の誕生です。
6大魔王は、古代遺跡都市に留まっていた魔物を率いて、各地を蹂躙して行きました。
其れを阻止する為に、現れたのが、勇者 フォルクジェンドです。
その勇者の物語に出て来る、戦士店長 トレナガーが当時の私達の祖先です」
『また、凄っごい有名人が出て来た!!
『伝説の勇者』の物語に出て来る、戦士店長 トレナガーは、勇者を鍛えて、“伝説の空飛ぶ船”の封印を解いた人物だ。
つまり、トレナガーは、“10人のラノイツロバーの高弟”の1人、プレンテスの子孫でもあったと云う事か!!
そして、このビレジンとスブーブはその子孫って、とんでもないヤツらに出会ってしまった!!』
「歴史に造詣の深いノッド様はご存知だと思いますが、『伝説の勇者』の物語に出て来る、“伝説の空飛ぶ船”こそが、賢者 ラノイツロバーから託されたモノだったのです。
物語では、一旦、勇者パーティーから離れて1人で旅をしたトレナガーが見つけ出した事になっていますが、実は元々トレナガーが先祖代々受け継いだモノだったのです。
そして、『伝説の勇者』の物語の最後、トレナガーは勇者パーティーを各地に送り届けて、“伝説の空飛ぶ船”を再度封印した事になっていますが、この封印された場所は私達にも伝わっていません。
そして、魔王討伐後のトレナガーは、魔王の被害が最も多かった現在のイジャラン・バダ帝国の帝都に再度ツロバー商会を立ち上げ直し、其処から私の父の代迄、ツロバー商会はその地で商会を営んでいました。
しかし、私の父が商会長を務めていた時に当時のイジャラン王国が周辺国との戦争を始めたのです。
父は、我が家の家宝が戦争の道具として接収される事を危惧して、このアルコーラル商国へとやって来ました。
小さな店舗から、地道に経営をして来ましたが、3年前に私のヘマから、ツロバー商会は倒産し、私もこの通り、まともに働けなくなった次第です。
我が家の家宝は、賢者 ラノイツロバーから託されたモノ、その後の魔導具研究の成果、戦士店長 トレナガーの集めた各地の魔導具です。
先程、申し上げた鍵は、“伝説の空飛ぶ船”の鍵で、その船こそ、世界を滅ぼす程の力ですが、本体の行方は分かりませんので、鍵を守り続ける使命のみを今後も受け継いで行きたいと考えております」
「…………ビレジン、驚きの連続だったよ。凄い家系だ。
キミ達親子に出会えた事を光栄に思うよ。
でも、そんな貴重な家宝を僕に売っても大丈夫なのかい?
あの箱もその内の1つって事だよね?」
「はい、私達が持っているよりも、ノッド様に持っていて頂いた方が安全でしょう。
私達では、家に鍵を掛ける程度の防犯しか出来ません。
其れに、スブーブの話しでは、怪我回復ポーションを提供して下さるお話しは、ノッド様の方からご提案頂いたとの事。
私の身体と息子の将来を同時に考えて下さったからだと思います。
正直に申し上げて、最初は息子が騙されているのではないかとも、思いましたが、エルヴァ様を撫でるノッド様の様子を見て、貴方様は信頼出来る方だと確信しました。
他の家宝については、お代は必要有りません、全てお譲りします」
「…………ビレジン、キミの気持ちは有り難く頂こう。
でも、あの箱以外のモノにも、相応のお金を支払うよ。
でないと、スブーブがお店を買い戻せないでしょ?
今の話しを聞いて、是非、ツロバー商会には復活して貰いたいから、僕が融資してあげても良いんだけど、其れだとスブーブが自由に出来ないだろうからね。
ああ、スブーブが自分でお店を立ち上げたいなら、其れでも良いからね、ただ、何処でどんなお店をしても良いから、ツロバー商会の名前だけは残して貰いたいな」
「ノ、ノッドさん、良いんですか?
オヤジが治るなら、別に金は貰わなくても、おいらは良いですよ?」
「其れじゃあ、ツロバー商会の名前が消えちゃうかも知れないでしょ?
大店と揉めたって言ってたから、このアルコーラル商国での商売は難しいのかもしれないけど…………」
「…………確かに、そうかもしれませんね…………
息子には、この国から出て商売をさせた方が良いかも知れません…………」
「…………キミ達、家族や親戚はどれくらい居るの?」
「私と妻とこの息子だけです。
息子も私も父も祖父も一人っ子なので、其れ以上前の親戚は分かりません。
息子も私の3年前のヘマのせいで、縁談も破談になってしまって1人者ですし…………
あの、其れが何か?」
「…………スブーブ、今、恋人や想い人って居る?」
「恥ずかしい事ですが、居ません…………
可愛いなと思ってる娘は居るんですが、無理でしょうし…………」
「なんで、無理なの?」
「…………来週、結婚するらしいので…………」
「…………その娘の事は忘れようか。
因みに、奥さんは、イジャラン・バダ帝国に家族が居て、もう会えない覚悟でこのアルコーラル商国に来たって事であってるかい?」
「いえ、妻は、結婚前には家族を亡くしておりまして…………」
「そうか。だったら、キミ達家族3人は、特にこのアルコーラル商国にしがらみは無いって事で良いかい?」
「ええ、特には…………」
「なら、新しいツロバー商会は、僕の国でオープンすれば良いよ」
「「僕の国?!」」
「そう、僕の国だ。
但し、僕の国は、他国との貿易はしないから、貿易商は出来ないけどね。
其れと、僕の国は法律が厳しいから、犯罪者には生きにくい国だけど、キミ達親子なら大丈夫だと思う。
キミ達は、このアルコーラル商国での商売は難しい。
そして、イジャラン・バダ帝国にも戻れない。
更に、隣のアルアックス王国はこの国よりも酷い国だ。
だったら、僕の国で、一から始めるのも良いと思うよ?」
「あ、あの、ノッドさんは、王様って事ですか?」
「うん、そうだよ、スブーブ。
改めて名乗ろうか。
僕の名前は、ノッディード•ルベスタリア、ルベスタリア王国の国王だ。
ノッドは愛称でね」
「失礼致しました!!」
「すいません!!ノッドさんなんて呼んで!!」
ビレジン、スブーブ親子は、揃って椅子から飛び退いて、超高速土下座をする。
なんだか、此処だけ親子っぽい。
「いいよ、いいよ。
所謂、お忍びってヤツでね、隠してたのは僕の方なんだから。
とりあえず、座ってよ。
其れで、どうする?」
「是非、ご一緒させて頂きたいとは思うのですが、一応、妻にも相談させて頂いても宜しいでしょうか?」
「うん、いいよ。
だったら、奥さんも呼んで来なよ、夕食の用意もしておくから。
ついでに、家宝も持って来てくれるかい?」
「はい、畏まりました。
しかし、私達などが、夕食を御相伴にあずかっても宜しいのでしょうか?」
「もちろん、いいよ。
キミ達はまだ、ルベスタリア王国民じゃなくて、僕のお客さんだからね。
とは言え、僕だけじゃなくて、此処に居るみんなで食べるんだけどね」
ビレジン達は全力でダッシュして来たのか、息を切らせて戻って来た。
先ずは、3人が落ち着いてから、夕食を一緒に食べて、ルベスタリア王国に来るかどうかを聞いた。
ビレジンの奥さんはオウンティ。
優しそうな雰囲気の気立ての良さそうな奥さんで、ルベスタリア王国行きを直ぐに承諾してくれた。
まあ、其処迄は良かった。
いや、其処迄は普通に良かったのだが、其処からは僕の興奮は凄まじい事になった!!
先ずは、予定通り、例の箱を受け取った。
其れをエルヴァに渡したのだが、直ぐに突き返して来た。
どうやら、僕にくれる為に欲しがった様で、しかし、中身は空っぽだし、僕の“ジーニアスグラス”も特に反応は無い。とりあえず、不明な箱で終わった。
しかし、其処からは凄かった!!
先ず最初に出て来たのは、手の平よりも少し大きめの箱が3つ連なったモノだ。
1つ目の箱を開けると、半球状のモノから、風が噴き出して箱の中で浮いていた。
此れは、超小型の“浮遊ユニット”だろうと思われた。
僕の凄メガネも反応しない事から、恐らく、賢者 ウィーセマーの時代には未だ無かったモノなのだろう。
僕もこんなに小さな“浮遊ユニット”は初めて見た。
2つ目の箱を開けると、今度は六角形の板が箱の中で浮いていた。
此れは恐らく、超小型“飛行ユニット”だろう。
此れは凄い!!
何故なら、これは“飛行魔法”が失われる前のモノに違いない。
つまり、“飛行魔法”が入った“飛行ユニット”だ。
これが有れば、アエルゲインの“ラーニング•プラクティス”で、コピーして再現出来る!!
つまり、ナエラークの血を抜かなくても、“飛行ユニット”が作れると云う事だ!!
3つ目の箱を開けると、黒い球体が浮いていた…………
もしかしたらとは思っていた…………
“浮遊ユニット”、“飛行ユニット”と来たら、もしかしたらと…………
此れは、恐らく“重力操作ユニット”…………
伝説の古代魔導文明時代の空中都市を空に浮かべた根幹となった魔導具だ…………
此れは、凄いなんてもんじゃ無い。
僕達がアルアックス王国に在る古代遺跡都市 魔都 ウニウンの中央ビル、通称魔王城を攻略した際、魔王城には地下へのエレベーターが存在しなかった。
本来ならば無ければおかしい。
魔都 ウニウンで最も重要なビルに動力源が無い訳は無いし、そもそも、魔都 ウニウンは元空中都市だ。
ならば、魔都 ウニウンを空に浮かべた空中都市の裏側への道が在る筈なのだ。
しかし、無かった。
つまり、空中都市の機能を完全に封印する為に、地下への移動手段を取り払って埋め尽くしたと考えられる。
そうなれば、他の古代遺跡都市を幾ら探しても、空中都市を空に浮かべた最重要魔導具“重力操作ユニット”は絶対に手に入らない可能性が高いのだ。
賢者 ラノイツロバーの遺産が全て残存していたとしても、世界に最大で11個しか無い可能性のある魔導具の1つを手に入れたかもしれないのだ!!
僕が思わず、「10兆アル出す!!」と、叫んでしまったのは仕方ないだろう。
10兆アルでも安いくらいだ。
まあ、一悶着あったが、この3箱も1億アルで買った。
次に出て来たのも箱状のモノだったが、此れも恐らく凄いモノに違いない。
ビレジン達はナニかは知らない様だったが、此れは“アーカイブ”だ。
其れも2つ有るので、恐らく、賢者 ラノイツロバーから託されたモノと、ツロバー商会の始まりだと言っていた魔導具研究の成果が残されたモノではないかと思う。
此れはルベスタリア王国に帰って、中身を確認しないと重要度は分からないが、僕が興奮している間にライザーが此れも1億アルで話しを纏めてくれた。
その次に出て来たのは、同じ見た目の2本の短剣だったが、片方は“ジーニアスグラス”で、斬れ味向上効果の魔導具だと分かったが、もう片方は同じ見た目なのに分からなかった。
此れも2個セットで1億アルになっていた。
最後に出て来たのは、操作パネルだったのだが、此れも凄かった。
此れは、地図、其れも戦士店長 トレナガーが『伝説の勇者』の物語の中で旅して得た情報が記された地図だったのだ。
戦士店長 トレナガーは物語の中でメガネを掛けている事になっているが、恐らく僕と同じで“ジーニアスグラス”を掛けていたのだろうと思う。
地図はトレナガーが直接見たであろう場所は、目で見たままの状態まで拡大出来たからだ。
此れも1億アルで購入した。
なので、結果、たったの5億アルで、凄まじい伝説的な品々を購入出来たのだ。
まさか、ふらっと立ち寄っただけの闇市で、何となくエルヴァのわがままを聞いてあげようとしただけなのに、こんなに凄い事になってしまうとは予想外過ぎた。
最早、近隣諸国最大の闇オークションへの参加など必要無いんじゃないかと思ってしまう程の凄さだ。
その後、ビレジン達と移民についての打ち合わせを簡単に行って、購入したモノの代金は、ルベスタリア王国に着いてからルーベで支払い、怪我回復ポーションもその時に渡す事になった。
急に羽振りが良くなって、腕が治ると目立ってしまうからだ。
ビレジン親子は、来週の僕達の一時帰還の時に一緒にルベスタリア王国へと向かう事にして、其れ迄は荷物を纏めつつも今迄通りの生活を周囲には見せる様にさせた。
こうして、たった2日で、大金を入手して、貴重な品々と、新たな移民を得ると云う、最高の滑り出しで、アルコーラル商国での活動が始まったのだった…………




