第14章 A級代理官とS級代理官 4
第14章
A級代理官とS級代理官 4
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会場は大いに騒めいた。
大声を上げてしまった者、其れを必死に堪える者、思わず逃げようとしてしまう者や其れを止めようとする者…………
最後に呼ばれた新たなA級代理官の登場に平常心でいられたのは、以前からB級代理官として彼を知っている者達だけだ。
そんな、彼らが騒いでしまった者達を宥めてくれている。
まあ、彼らは既に以前騒いだ事の有る経験者な訳だが。
アエルゲイン。
古代魔導文明時代の三賢者の1人、アエルゴイヌの子孫で、元アエルエンタープライズの商会長。
そして、“サードストライク”で魔物となった元魔導士で、元ジャッジメントオーガだ。
元ジャッジメントオーガ。
今の彼の姿はジャッジメントオーガでは無い。
ほぼ、人間だ。
人間と違う部分は3mを超えるその巨体と額に有るツノだけだ。
昨年、僕はアルアックス王国に在る古代遺跡都市 魔都 ウニウンの攻略を行った。
その時、出会ったのがアエルゲインだ。
彼は魔物になった直後に自ら治療を行い、魔物となっても自我を失わなかった。
しかし、其れ故に、妻の死を知って、必死に生き返らそうとしてしまった。
その所為で、魔物と化した妻の遺体を蘇らせてしまった…………
アエルゲインは其れ以降、妻の遺体を人間の姿に戻す研究を数百年延々と続けていた。
其処に現れたのが僕だ。
僕は彼をルベスタリア王国に受け入れ、『ファーストドラゴン』ナエラークと共同で研究が出来る様にしてあげた。
その後も、僕は魔都 ウニウンの攻略を続け、其処で、魔都 ウニウンのボス魔物、女王鬼を討伐した。
女王鬼は、身長こそ3mを超え、額にツノも有ったが、見た目は美しい人間の女性の姿をしていた。
なので、僕は討伐後、回収したその遺体をアエルゲインの研究材料として渡した。
そのボス魔物の姿に可能性を見出した、アエルゲインとナエラークは研究を始める。
そして、女王鬼の人間の様な見た目の秘密を解き明かした。
女王鬼は、“体表を若返らせる魔法”を持っていたのだ。
直ぐに実用化されて、実験が繰り返された。
しかし、この魔法は、あくまで“体表を若返らせる魔法”なので、骨格や筋肉などの体格に迄は影響を与えられず、オーガが何度繰り返し使ったところで、肌色でプニツヤ肌のゴツいオーガになるだけだった。
此れだけでも、世界中の全ての女性にとっては、喉から手が出る程の魔法だろうが、魔物の見た目を人間の様にする事は出来ない。
つまり、女王鬼の人間の様な見た目の説明も付かない。
そして、その理由は髪の毛の能力の方に有った。
この女王鬼の髪の毛には、3つの効果が有り、其の内の1つ、“モノを引き寄せ、引き込む能力”が、“体表を若返らせる魔法”と合わさって、骨格や筋肉にも影響を与えて、女王鬼のあの姿を生み出していたのだ。
此処で、僕の愛刀 “天地鳴動”が輝いた。
“天地鳴動”には、本来不可能な筈の、2つの属性の魔法を同時に使う事が出来る能力が有る。
この技術と女王鬼の髪の毛の能力、“体表を若返らせる魔法”とが合わさって、魔物の肉体を、人間だった頃まで、若返らせる事が出来る魔導具が完成した。
まるで全てが予定調和であったかの様に、次々と進展したのだ。
ただ、“体表を若返らせる魔法”は、肉体の記憶を呼び戻すモノだった様で、ツノだけはどれ程、記憶を呼び戻しても、無かった事にする事が出来ない様で残ってしまう。
それでも、ぱっと見は人間の姿に戻れた事で、アエルゲインは妻の遺体をこの魔導具で人間だったころの状態迄戻して、長年の研究がとうとう身を結び、妻の遺体を弔ってやる事が出来たのだ。
その後、自分にもその魔導具を使って、人間の姿となった。
そして、今後は死ぬ迄、僕に尽くしてくれる事となったのだ。
そんなアエルゲインは、自分自身と妻を救ってくれた僕に対しての忠誠心も非常に高く、現在魔導具関連の事は既に多大な貢献をしてくれていて、無くてはならない人物となっている。
なので、これを機に、アエルゲインにも特例で代理官試験を行って、A級代理官になって貰ったのだ。
「……みんな、アエルゲインの姿に驚いた事だろう。
アエルゲインは見ての通り魔物だ。
しかし、キミ達と同じ、僕の下に集ったルベスタリア王国民だ!!
彼は、“サードストライク”が起きた時、魔物と化して行く自分自身を必死に治療して“人間の心”を守った。
そして、“サードストライク”から数百年、彼は魔都 ウニウンでたった1人、永遠とも思える孤独と、常に魔物達に囲まれている恐怖に耐えながら、魔物と化して直ぐに殺されてしまった亡き妻の遺体を人間の姿に戻して弔ってあげたいと云う妻への愛だけを支えに生きて来たんだ。
僕はそんな彼に協力してあげたかった。
愛する者の為にと云う想いに共感したからだ。
そして、人間の心を持つ彼の生きる場所は、魔都 ウニウンじゃない。
見た目で差別される事の無い、このルベスタリア王国こそ相応しいと思う!!」
大きな拍手が巻き起り、アエルゲインへと贈られる。
其れは歓迎の響き、其れは祝福の音色。
アエルゲインはその大きな瞳から大粒の涙を流しながら、
「ノッディード陛下と、このルベスタリア王国、そして全てのルベスタリア王国民に心からの感謝を…………」
と、言って、深く深く頭を下げた…………
拍手が続く中、アエルゲインが涙を拭うのを待ってから、僕は手を上げる。
鳴り響いていた拍手がピタリと止まり、僕は満面の笑顔を見せる。
「ありがとう。
キミ達、ルベスタリア王国民全員が、彼を仲間として受け入れてくれると信じていたよ。
キミ達は、僕の誇りだからね。
ところで、みんな。
アエルゲインは、大きいしツノも有るけど、魔物っぽく無いよね?
此れは、さっき言った彼の妻の遺体を人間の姿に戻す研究が成功したからなんだ。
だから、彼も人間だった頃の姿に戻れた。
そして、彼の研究は、キミ達にとっても、嬉しい副産物を生み出してくれた」
僕が合図すると、後ろから、メカニックな棺の様な大きな魔導具が、ティニーマとペアクーレに押されて現れた。
「……みんなにとって嬉しい副産物、其れがこの魔導具だ。
この魔導具はね、なんと、肌年齢を10歳若返らせてくれる魔導具だ!!」
凄まじい響めきが起こった!!
アエルゲインの登場時以上の騒ぎだ!!
若く綺麗で居たいと云うのは全ての女性の願いだろうとは思っていたが、男性たちにも、結構な反響だ。
…………多分、頭皮だろうな、若返りたいのは…………
「……とりあえず、みんなにも効果の程を見て貰おうと思って、ティニーマに使って貰ったんだけど、見てもちょっと分かり難いよね?
触ったらわかるんだけど、ティニーマはとっても若く見えるからね。
なので、ちょっとだけ、失礼なんだけど、このトリーカに協力して貰う事にした」
僕がそう言うと、狼弾会から今回のA級代理官試験に合格した唯一の女性、トリーカが僕の横にやって来た。
トリーカは、見た目通りの40代後半の女性で、ちょっと、シミやシワが目立ち始めている。
今日はこの魔導具を使って貰う為に、晴れ舞台なのに申し訳無いが、ノーメイクで来て貰っている。
トリーカが魔導具に入ると、アエルゲインが魔導具の操作を始めた。
「……トリーカが出て来る迄、ちょっと、待って貰う事になるから、簡単に説明しておこう。
先ずこの魔導具は、肌年齢を10歳くらい若返らせてくれる魔導具なんだけど、万能じゃない。
例えば、50歳の人がこの魔導具で、3回、30歳分若返ったとしよう。
すると、身体が20歳の頃の肌の状態を思い出して、その状態迄戻してくれる。
しかし、その人が、20歳の頃に栄養が足りなくて、肌の状態がボロボロだったら、そのボロボロの肌になってしまうんだ。
そして、戻るのは肌だけだから、肉体は50歳のままだ、なので20歳の頃の様に、そのボロボロの肌を直ぐに回復出来る程の身体の代謝が無い。
つまり、ボロボロの肌が中々回復しないんだ。
其れと、人間の身体の時間感覚は少し曖昧だから、ピッタリと1回につき10年分とは限らない。
現在のテストでは、2年前後のバラつきが有る。
だから、10年前は良くても、12年前が悪いと、其処に行き着いてしまう可能性も有る。
最後に女性にのみの問題だけど、この魔導具では肌だけが若返って、体格なんかは基本的に変わらないんだけど、何故か胸だけが肌年齢扱いみたいで、胸の大きさも戻ってしまう。
そして、此れはまだ検証が出来ていないけど、多分、成長期を終えた人はもう大きくはならない可能性が高い。
だから、この魔導具の使用には注意が必要なんだ。
此れから、そう云った事を踏まえた使用上のルールや、見た目がガラッと変わっちゃう事での対応なんかを決めて行って、一応、来年中には、みんなが使える様になると思う。
もちろん、公共のみんなの税金での運営にするから、誰でも無料で使える代わりに、すっごく順番待ちになるだろうけどね。
…………どうやら、終わったみたいだね。
じゃあ、トリーカ、出て来て」
「はい、ノッディード陛下」
勿体ぶらせるくらいにゆっくりと魔導具の扉が開いて行く。
トリーカは、元々綺麗な顔立ちをしていて、小柄だがスタイルの維持にも気を配っていた様だったのだが、出て来たのは、信じられないくらい、驚く程の美少女だった!!
「ええ?!今回は2回分じゃ無かったの?!」
主催者の僕からそんな驚きの声が上がって、マイクの魔導具で、全国民に響く。
「え?2回って20年って事か?」、「魔導具の不具合か?」、「え?ドッキリマジックショーだったとか?」、などなど、僕の驚きが伝播して行く。
そして、ティニーマの出した姿見を見たトリーカが言った。
「ああ、本当に若い頃に戻ってますね!!
素晴らしい魔導具です!!
この感じだと、20代半ばくらいでしょうから、12年づつのMAXの24年を引き当てたのかもしれませんね」
「ええ?!トリーカって、元々凄く童顔だったの?」
「そうなんです。
20代迄は、とても童顔だったんですけど、30代になって一気に大人っぽくなったかと思ったら、直ぐに老け始めたので、本当は少し此れから老け込んで行くのが不安だったんですが、頑張って、スタイルだけは維持して来た甲斐が有りました。
若い頃、そのままな感じがします!!」
トリーカは、長く狼弾会の幹部をしていた女性で、ウルフバレット モルツェンと先々代ウルフバレットとの中間の様な年代だ。
元狼弾会のグレーヴェやネクジェーにとっては、母の様であり、祖母の様でも在る存在だったらしい。
そんなトリーカは、長く荒くれ者も多いスラムの組織である狼弾会の幹部を務めて来ただけあって、見た目通りの威厳の有る声だ。
其れが、グレーヴェやネクジェーと変わらないくらいの年齢に見える美少女から発せられると、違和感が凄い。
「…………そっか、元々美人だったけど、とっても可愛くなったねトリーカ。
と、云う訳で、こんな感じで、若い頃の肌に戻れるんだ。
凄いよね?
はい、これを作ったアエルゲインと実証に協力してくれたトリーカに拍手〜〜」
僕は、トリーカに対する驚きと声の違和感を押し流す様に、強引に先に進める。
大きな拍手が起き、アエルゲインを称える声が上がる。
其れと共に、どさくさに紛れてトリーカに求婚する様な声も上がったが、トリーカの一睨みで、縮こまっていた。
「…………じゃあ、最後に1つ、新たなS級代理官とA級代理官の誕生に伴って、僕からルベスタリア王国の全ての国民にプレゼントがある。
其れは、ルベスタリア王国民は、誰であろうと、家名を持つ事を許可すると、云うプレゼントだ!!」
今迄で最も大きな騒めきが起こった。
遥か昔、古代科学文明時代には一般人でも家名を持っていたそうだが、古代魔導文明時代以降、家名とは、王族や貴族の象徴で、どれ程、大成功をした大商人であろうと、歴史に名を残す程の偉人であろうと、家名を持つ事は許されなかった。
其れを僕は覆す事を言ったのだ。
もちろん、何となくで決めた事では無い。
ルベスタリア王国では、学校を卒業すると成人だ。
だから、大人と子供の区別が見た目では全く付かず、其れによるトラブルも予想される。
なので、その区別を付けさせるのに、“名乗り方”で、判断出来る様にしようと思ったのだ。
『ノッディード・ルベスタリアです』と名乗ったら大人で、『ルベスタリア家のノッディードです』と、名乗ったら子供だと云う感じだ。
其れと、全ての国民の情報を役所で完全に管理しているルベスタリア王国では、今後の人口の増加で、同名の者が増えて行く事の問題を早い内から対策しておこうと云う理由もある。
最後に、もしも、外国との接点が出来てしまった場合に、国民が他国の貴族なんかに舐められない様にと云う保険の意味もちょっとだけある。
「家名については、出来るだけ自由に決めさせてあげたいが、ちょっとだけ、ルールが有る。
先ず、“ルベスタリア”と云う言葉の並びは禁止だ。
ルベスタリアは勿論のこと、ルベス〇〇とか、〇〇タリアなんてのもダメだ。
唯一の例外が、S級代理官だ。
彼女達は、全員統一で、“ルベスティア”を名乗る。
そして、次に世襲制の禁止は、家名にも適応されると云う事だ。
例えば、僕の子供は、〇〇・ルベスティアになる訳だけど、成人したら、自分で家名を考えて新しい家名を持たなければならない。
現在既に、子供が成人しているなら、親と子は別々の家名を考える訳だ。
もちろん、似た様な家名や1文字違いの家名でも良い。
但し、血縁者で、同じ家名が同時に存在するのはダメだ。
かなり未来の話しだけど、キミ達がいつか死んでしまって、その後の子孫が同じ家名を名乗るのは問題無いけどね。
家名を決める上でのルールはこんなところだ。
細かいルールは、明日以降、役所で配布するルール表を見てから、各自登録をして行ってくれ。
じゃあ、みんな、お待ちかねのバーベキュー大会だ!!
どんな家名にするかも、話しのネタにしてくれ」
僕がそう言うと、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
みんな、そろそろ、手が痛いんじゃないだろうか?
拍手に対して、笑顔で手を振っていると、ティヤーロが静かにやって来る。
すると、大きな拍手も潮が弾いた様に、スーーーっと静かになる。
「ノッディード陛下、お言葉だけで無く、更なる多くの幸福を賜り、誠に有り難う御座います。
皆さん、偉大なる我らがルベスタリア王国の国王、ノッディード・ルベスタリア陛下に礼拝を…………」
ティヤーロがそう言って、膝をついて、両手を胸の前で組み、目を閉じる。
会場に居た国民達は、小さな子供も含めて、みんな一様に僕へと祈る。
もちろん、S級代理官のみんなや、A級代理官のみんなも同様だ。
因みに、いつも僕の裾を掴んで離さない、エルヴァも、何故かみんなが祈っていると、手を離して祈っている。
終わると、シュパッと裾を掴むが…………
「…………皆さん、顔を上げて下さい…………
では、此処からは、バーベキュー大会です。
基本的には、無礼講ですが、楽しいお祭りに絶対に水を刺さない様に、法律を破る行為はしない様に。
そして、注意があります。
最初に配られるお肉は、ノッド様のご命令の下、軍部の人達が、頑張って狩って来てくれた貴重なAランク魔獣のお肉です。
途轍も無く、美味しいですが、残念ながら、1人に1本しか有りません。
間違っても、落としたり、焦がしたりしない様に。
良いですね?
絶ッッッッ対に、落としたり、焦がしたりしては、いけませんよ?
どれだけ後悔しても、代わりは有りませんからね!!」
「「「はい!!ティヤーロ様!!」」」
ティヤーロが、キングエアゲーターガーの肉のハードルをガンガンに上げて行く。
まあ、アレは本当に美味しいので大丈夫だろう。
そのまま、僕も含めて壇上に居た全員も裏方のみんなも、会場に集まる。
バーベキューセットがどんどん設置されて行って、全員にグラスと共に1人一本のキングエアゲーターガーの肉串が配られる。
ティヤーロを中心としたS級代理官直々の指示の下、丁度良い感じでキングエアゲーターガーの肉が焼けると、ティヤーロから、さっさと乾杯の音頭を取れと云う視線が来る…………
「……じゃあ、みんな、新たなS級、A級代理官の誕生と、ルベスタリア王国の誕生3周年を祝して……………乾〜〜〜〜杯!!!!」
「「「乾〜〜〜〜杯!!!!」」」
「「「うまああああああい!!!!」」」
「「「うますぎる〜〜〜〜!!!!」」」
期待を込めて食べたキングエアゲーターガーの肉の美味さに、期待以上の美味さで絶叫する国民達を微笑ましく眺めながら、始まったバーベキュー大会は、昼間っから、夜遅く迄続いた。
ほんのちょっとだけ心配していた、ハンジーズとアエルゲインの周りにも、多くの人がやって来ていて、ハンジーズには今回A級に合格出来なかった者達が、どんな回答をしたのか質問したり、アエルゲインには、若返り魔導具の事を熱心に聞くご婦人方なんかが集まっていた。
僕もうろうろしては、普段あまり話せない、代理官じゃない国民達とも色々話して周った。
僕の事を神様の如く教育されている国民達は、ガチガチに緊張している者も居たが、僕はポーションで鍛えまくった凄い記憶力と凄メガネの情報で、全国民のプロフィールを知っているので、全員に気さくに、近況なんかを聞いたりして、距離を縮めて緊張を解しては、本音を聞ける様にして行った。
まだ、このルベスタリア王国に完全には馴染み切れていない者や、急激に良くなった生活に戸惑う者も居たが、小さな問題は有っても、ルベスタリア王国に不満を持つ者は1人も居なかった事は、国王として、とても鼻が高い。
こうして、ルベスタリア王国初の建国祭は大成功と言って良い感じで幕を閉じた…………




