第14章 A級代理官とS級代理官 3
第14章
A級代理官とS級代理官 3
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「ハンジーズです。
失礼致します」
ノックの後に入って来たハンジーズは、一分の隙も無い、キッチリしたお辞儀をして、勧めたソファーに座って真っ直ぐに此方を見る。
普段の家族としての雰囲気は一切無く、プライベートとの線引きを行う、ハンジーズ、6歳。
唯一のご愛嬌は、身長の問題で、ソファーによじ登ったくらいだ。
「じゃあ、面接を始めよう。
先ずは確認だ。
以前言っていた様にハンジーズはS級代理官を目指していると云う事で良いかな?」
「はい、間違いありません」
強い頷きと共にハッキリ答えるハンジーズ。
「分かった。
じゃあ、理由を聞かせて貰えるかな?」
「はい。私は命を救って下さったノッディード陛下を身も心も全て捧げて生涯お支えしたいと思っています。
幼な子の言葉と思われるかもしれませんが、私は1人の女として、ずっと見詰めて来たノッディード陛下を心から愛しています」
年齢の事など、忘れてしまう程の真剣な目だ。
そして、確信出来る。
この言葉は誰かに言わされたり、教えられたりしたモノでは無い。
ハンジーズが自分自身の気持ちを言葉にしているのだと。
この目と言葉だけで、もう、面接の必要は無い程だが、一応聞くべき事は聞かないといけない。
僕はその後、此れからS級代理官となったら、どうしたいか等の形式的な質問を順次行った。
其方についてもハンジーズは、ハッキリと自分に意思と意見を持って答えて行く。
そして…………
「…………じゃあ、サウシーズもリティラも席を外してくれるかな?」
「はい、それでは…………」
「失礼します」
2人が出て行ったのを見て、僕は少し表情を和らげる。
ハンジーズも雰囲気に気付いたのか、肩の力を抜いた感じだ。
「ハンジーズ、此処からはいつも通りの喋り方でいいよ。
じゃあ、ハンジーズをS級にするかどうかで、国王としてじゃなくて、僕が男としてどうしても、確認しておきたい事を聞かせて貰うね。
先ず、S級になって、身も心も捧げるって云う言葉を本当の意味で理解出来てる?
簡単に言うなら、サウシーズ達が、夜、僕とどう云う事をしてるのかは分かってる?」
「うん。ちゃんと具体的に分かってるよ」
「…………本当に大丈夫だと思うかい?」
「うん、大丈夫だよ。
ちゃんと練習してるし、大きさも教えて貰ってるから。
でも、私の体格だと長さが足りないから、ちゃんと補える様に後ろの方を…………」
ハンジーズは、少し恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、其れは其れは具体的にナニをドウ練習してるのか、説明してくれた…………
僕は思った。
『ああ、ハンジーズは、あのサウシーズの娘だもんなぁ〜……
忘れてたけど、ティヤーロもティニーマの遺伝子を覚醒させちゃってからは………』
母親達の英才過ぎる教育も大いに有るだろうが、此れは多分、本人の才覚によるところが大きい様だ…………
誘い上手なのも、遺伝っぽい。
話し終わる頃には、心配が無くなったどころか、ちょっと楽しみですらあった…………
「じゃあ、キルシュシュ。先ずは確認だ。
今でも、S級代理官になりたいと思ってくれてる?」
「はい、もちろんです。
是非、公私共に、この身をノッディード様に捧げさせて下さい……」
両手をとても存在感の有る胸の前で組んで潤んだ瞳を向けて来る、聖女 キルシュシュ。
彼女のS級代理官への加入は、僕としても公私共に嬉しい事だ。
聖女として、ティヤーロ、レアストマーセと共に、法律の教育と聖堂を任せたかったし、僕個人としても、“彼女が欲しい”と感じていた。
キルシュシュがS級代理官になる事を今も希望している事が聞ければ、ハンジーズ同様に、もう、合格で良いのだが、一応内容の有る質問も行っていった。
そして、もう1人。
「ツナフォーテ、本当に頑張ってくれたんだね、嬉しいよ」
「はい。頑張りました!!
その、私、あれから、本当にノッディード陛下の事が、す、好きになって、しまったみたいで……
が、頑張れたんです!!
一生懸命、勉強しました!!」
「うん、知っているよ。
ありがとう、頑張ってくれて、僕を本当に好きになってくれて。
約束通り、キミはS級代理官にするつもりだ。
でも、一応、発表までは誰にも言わないでね」
「は、はい!!
も、もちろん、言いません!!」
ルベスタリア王国で起きた唯一の犯罪の被害者 ツナフォーテ。
この事件は僕の甘さが招いたと言ってもいい事件だった。
なので、僕は彼女に対して、責任を取りたいとは思っていた。
でも、出来る事なら特例を作らず、正規の手段でS級代理官として迎えたかった。
彼女は他のA級代理官にと考えていた者達の中では至って普通だ。
特別才能に恵まれた訳では無い。
ただ1つ、彼女の事を任せたペアクーレが認めた才能は、
「ツナフォーテには、恋を努力の原動力にする才能が有る。私と同じ」
と、言うモノだった。
天才的な発想や、凄まじい迄の剣の才能を持つペアクーレが「自分と同じ」と言うのは、『どうなの?』とは思うが、確かに本当に頑張ってくれていたのは知っている。
そんなツナフォーテの姿を見て、僕も彼女に対して『良いな』と思っていたので、「嬉しい」と言ったのは本心だ。
と、此処までの3人に関しては、A級代理官試験を受験すると分かっていた時点で、S級代理官として迎える事は考えていたのだが、予想外なS級代理官希望者が現れた。
最初のB級代理官になった15人のメンバーの中の3人。
ルーツニアス、エニット、シイーデだ。
この3人に関しては、ちょっと僕の感覚が良くなかった。
僕は最初期に連れて来た110人の子供達は、“保護した子供”と云う感覚だった。
全員が10歳前後で、1人で生きて行くのは難しい子達だったからだ。
もちろん、その後の教育を経て、今やルベスタリア王国には欠かせない古株の様な国民なのだが、僕の中の“保護した子供”と云う感覚が抜けていなかった。
中には既に結婚した子もいるのにだ。
なので、この3人が、特に最初のルーツニアスがS級代理官を希望していると聞いた時には本当に驚いてしまった…………
「じゃあ、ルーツニアス。
キミがA級代理官を希望している理由から聞いても良いかな?」
「はい、ですが、先ず訂正をさせて下さい。
私はA級代理官では無く、S級代理官を希望しています。
単刀直入に言わせて頂くと、私はノッディード陛下の事が好きなのです。
もちろん、1人の女性として」
「…………え?
でも、そんな事、一度も…………」
「はい、仰られる通り、初めて申し上げました。
ですが、其れは、申し上げる権利が無かったからです」
「…………ああ、なるほど。
分かった。ルーツニアスなら歓迎するし、僕もキミがそんな風に思ってくれて嬉しいよ」
「ほ、本当ですか?
わ、私は、その、余り女性らしく無いところも、有りますし、その、料理も、未だに全くダメですし…………」
「ははっ……。女性らしく無い事は無いけど、料理の方は確かにね。
ルーツニアスは、僕が国王なのに、執事もメイドも使用人も1人も居ないのは知ってるよね?」
「はい、もちろん、存じてます」
「此れは別に国民が少なくて、人手が足りなかったからじゃ無くて、此れから先もずっと、このままなんだ。
僕の生活面でのお世話は、S級代理官のみんなにして貰ってて、此れから先も変わらない。
だから、みんなで家事を分担してやって貰ってるんだけど、基本的に当番制だから、どうしても料理が難しいなら、料理以外の掃除や洗濯の方で頑張れば大丈夫だよ。
ね?ティニーマ」
「はい、家事はお料理だけじゃ無いですからね。
其れに、この後の子も居ますし」
「ん?この後の子も?」
「いえいえ、其れは確定では無いですし、本人からじゃないと」
この後の話しは、基本的に聞かなければいけないS級代理官となった後の、心構えとか考えとかだった。
そして、この時、簡単に流してしまった、ティニーマの言葉の意味が、エニットとシイーデの事だったのだ。
最初の15人のB級代理官は、全員が何故か料理が微妙だった。
その中でも、ティニーマ曰く、「料理の神様に、心の底から恨まれていると思って諦めた方が良い」と言われた4人の内の1人、シイーデがS級代理官を希望している事に気付いていたからだろう。
こうして、A級代理官面接試験はどんどん進んで行った。
もちろん、S級代理官では無くA級代理官を希望した女の子の方が多い。
苦しい環境で育った者の多いルベスタリア王国民は、僕への忠誠心や憧れは有っても、心の何処かで、“普通の幸せな家庭”を求めているのだろう。
決して、僕よりもネイザーやワルトルットゥの方がモテるからだとは思っていない。
“普通の幸せな家庭”を求めているからに違い無い。
試験の結果は9月8日に本人達に伝えられた。
そして、結果の発表は翌日の9月9日。
ルベスタリア王国初の建国祭の中で行われる。
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ルベスタリア暦4年9月9日
ルベスタリア王城6階国民管理階、演説用ホール
現在、全てのルベスタリア王国民は此処に集まっていた。
今日は、ルベスタリア王国建国以来、初めての建国祭だ。
去年は1,000人の移民受け入れ準備で忙しく、一昨年は、そもそも僕はルベスタリア王国に居なかった。
お祭りと言っても出店を出す程の人口では無いので、全国民での大バーベキュー大会だ。
もちろん、国王 ノッディード・ルベスタリアの全奢りで、今日は一日、食べ放題の飲み放題だ。
この日の為に特別に、軍部の演習を兼ねて、ルベスタリア川にキングエアゲーターガーを探しに行かせた。
2体は見つけられたが、さすがに全員に好きなだけ食べさせてあげられる量では無いので、1人1串づつだが、きっとみんな食べたら驚くだろう。
アルアックス王国よりも遥かに食が豊かだったデラトリ王国の侯爵家の息子が思わず大声で叫ぶ程美味しいのだ。
午前11時、
「其れではこれより、ルベスタリア王国建国祭を開始します」
と、云う、ティヤーロの声がマイクの魔導具から響く。
開始時間が迫っていた事で、元々だいぶ静かではあったが、開始の宣言で僅かに有った声もピタリと止まって一気に静寂が訪れた。
そして、その静寂の中、僕の足音だけが………
ええっと、僕と裾を掴んでついて来るエルヴァの足音が響いた。
ゆっくりと歩いて行き、舞台中央にある演説台へと立つ。
全国民の真剣な視線が集まる中、僕は軽く手を上げて、
「やあ、みんな。
国王のノッディード・ルベスタリアだよ」
と、笑顔で軽く言った。
全国民を集めたのは、この人数では初めての事だったので、国民達も緊張していたのだろう。
僕の余りにも軽い言い方に、思わず吹き出してしまった者も結構居た。
「みんな、緊張してるみたいだけど、そんなに畏まる事は無いよ。
今日は楽しいお祭りだ。
そして、その前に、嬉しいお知らせが有る。
ルベスタリア王国に新たなS級代理官とA級代理官が誕生した。
あ、因みにこの子は違うよ」
そう言って、エルヴァの頭を撫でる。
エルヴァは大勢の前だからか、いつもの様にくっついて来ず、僕の後ろに隠れて裾を掴んだままだ。
「キミ達、心優しい、ルベスタリア王国民なら分かってくれると思うけど、この子は、とても辛い、本当の意味で死ぬよりも辛い思いをしてしまって、全ての記憶を失って、生まれたばかりの頃迄戻ってしまったんだ。
だから、僕がいつも連れている姿を見た者も居るかもしれないけど、特例で優しく見守ってあげて欲しい」
僕の言葉に嫌な顔をする者は1人も居なかった。
此処に居るルベスタリア王国民は、みんな少なからず、辛い経験を経て、其れでも懸命に生きて来た者達だ。
エルヴァに対して、心配や同情こそすれ、特別待遇に対して不満を持つ者が居ない事は素直に嬉しい。
「じゃあ、本題の新しいS級代理官とA級代理官を紹介しよう。
先ずは、S級代理官から、キルシュシュ、ルーツニアス、エニット、シイーデ、ツナフォーテ、ハンジーズ」
呼び声に応じて、1人づつ、僕の横に並んで行く。
キルシュシュの登場に会場から、「おお〜……」と、感嘆の声が上がり、大きな拍手が起こったが、ハンジーズの登場に、会場が騒めき始める。
「キルシュシュは、みんな知ってるよね?」
僕がそう声を出すと、会場の騒めきも一瞬でピタリと止まって全員が僕の方を見た。
「キルシュシュは元“西の勇者”パーティーに居た聖女だ。
続いて、最初期からB級代理官を務めて来た、ルーツニアス、エニット、シイーデの3人に、今回のB級代理官試験、A級代理官試験と続けて合格した、ツナフォーテとハンジーズだ。
まあ、みんなが気になるのは、ハンジーズの事だろう。
彼女は見た目通り6歳だ。
でも、彼女はルベスタリア王国立学校の最年少卒業記録保持者。
つまり、ルベスタリア王国の法の下、彼女は成人女性だ。
そして、知っている者も居るだろうが、ハンジーズはS級代理官のサウシーズの娘だ。
ただ、僕の娘では無く、亡くなられた元夫との娘だ。
S級代理官の娘だから合格したと思う者もいるかもしれないが、僕の名に於いて断言する!!
試験に際しての、一切の不正は無い!!
A級代理官試験に於いて、僕は全ての答案用紙に目を通し、政策と戦術に関しての採点については全て僕が直接行った。
代理官試験の結果は合否のみで順位は発表されないが、もしも、今回の試験に順位を付けるなら、主席は間違い無く、ハンジーズだった。
彼女は其れ程の天才だ。
僕は、此処に居るルベスタリア国民のみんなが、僕の言葉を信じてくれると、信じている。
そして、1つ覚えておいて欲しい。
ルベスタリア王国では、全ての国民が、見た目や生まれで絶対に差別される事は無い。
しかし、其れは、見た目が悪い事、生まれが悪い事を指している訳じゃ無い。
見た目が良い事や生まれが良い事も差別されないと云う事だ。
此れから先、僕の子供やA級代理官の子供、事業に成功した大商会の子供も産まれて来るだろう。
だが、誰の子供であろうとも、成人したと同時に、1人のルベスタリア王国民だ。
王族の居ない国、貴族の居ない国、世襲制の無い国、差別の無い国とは、そう云う事だ。
もう一度言う。
ハンジーズは自分の実力で、A級代理官試験に合格して、S級代理官の道を選んだ。
分かって貰えたなら、ハンジーズにも温かい拍手を送って上げてくれ」
大きな、大きな拍手が巻き起こった。
まばらな拍手から広がったのでは無い。
最初から大きな、大きな拍手だった。
ハンジーズは、涙を浮かべながらも堪えて、深く丁寧なお辞儀で応えた。
ハンジーズは賢い子だ、自分の存在が国民に不審を与える可能性もきっと考えていて、其れに対する不安も有ったのだろう。
キラリと光る、僕の“ジーニアスグラス”が全国民の状態を素早く確認して行くが、本当に、全ての国民から祝福の拍手が送られていた。
鳴り止まない拍手を手で制して、次へと進む。
「じゃあ、次はA級代理官だ。
ワルトルットゥ、ハートルシュー、ラウニーラート、ピカルニキ、サンティデルテ」
ワルトルットゥ達の登場に、新S級代理官の6人が左右の端に避けて行く。
そして、またもやどよめきと大きな拍手が起こった。
「この5人も知ってるよね?
キルシュシュと同じく、元“西の勇者”パーティーの面々だ。
続いて、モルツェン、ヴィアルト、フラストン、パヴィルト、ターノン、ナムーアム、ラエズ、ティクケ、ターブライア、ラマダーサ、ディーヌエヌ、トリーカ、リグラフ、アナゼス、リプスエヌガ、リタンダーン、ゲーイエル、シュイタム、ビーアグス、ルバロール、デゴミルース。
彼らにはキミ達もお世話になっただろう。
元狼弾会のメンバーだ」
次々と登場しては左右に捌けて行く、元勇者パーティーに元狼弾会のメンバー達。
その間もずっと拍手は鳴り止まない。
僕はそのまま続けて、次々と紹介して行く。
「次は最初期のB級代理官の面々。
ジアンヌ、ティエット、イーブレット、リーニー、フェレッメ、ディークシー、オンレミッド、マイテーゼ、チユレフェーレ、アリシータ、ネイザー、ネッグエン。
そして、順次昇格して来たメンバー。
ブリングシオン、ウィオローフ、ウィキャリー、ロベヴフ、フィオーウィ、イカルツウィン、デンツウィンだ」
大きな拍手が続く中、最後に登場した、イカルツウィンとデンツウィンも左右に捌けて行く。
そして、僕はもう一度手を上げて、拍手を制する。
静かになった会場に僕の声だけが、響き出した。
「其れじゃあ、最後の1人を紹介する。
その前に、言っておく。
彼を見て、驚くなと言うのは無理だろう。
しかし、みんな、恐れず怖がらないで欲しい。
紹介しよう、最後の1人、アエルゲインだ」
僕の呼び掛けに、スーツを着た巨大な人影が、僕の後ろから現れた…………




