第14章 A級代理官とS級代理官 1
第14章
A級代理官とS級代理官 1
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標高5,000mを超える山々が連なり、まさに世界を隔てる壁となっている、ワイドラック山脈。
その遥か上空を、“古代魔導文明の秘宝”とも云われる“空飛ぶ船”が、星明かりしか無い夜空を艦隊を組んで南へと飛んで行く…………
「……………………」
僕は、山積みの資料を1ページづつ、キチンと目を通して行く。
此処は、『ティニーマフーズ商会』倉庫だ。
昨年の移民の際の不手際で、僕は1人の少女を傷付けてしまった。
二度と同じ事が起きない様に、監視体制も準備をし、人選の基準も上げたが、其れでも僕の目で新たなルベスタリア国民の選別を行っているのだ。
資料を確認している僕の周囲では、代理官の面々が作業を行っている。
今迄は、怪しまれ無い様に、この倉庫は購入時のボロい状態を維持していたが、暫く此処を使わなくなるので侵入者対策をしっかりと行っているのと、グレーヴェとネクジェーの家族のお墓の移設を行っている。
因みに、ティニーマやサウシーズの元夫のお墓も現在遺骨の掘り出しを行っていて、他にも、お墓の移設を希望した国民の遺骨を掘り出している。
とは言え、ルベスタリア王国民の多くはスラムで生まれ育った者なので、家族の墓が有る者は殆ど居なかったが。
8,000人以上有った人選資料で、僕が選んだのは5,210人。
人選から外したのは、ウルフバレット モルツェンが、ルベスタリア王国の発展には有用だが、性格の面で少しだけ問題がある様な評価をしていた人物達だ。
モルツェンの人選でも殆どD判定だったので、モルツェンとしても、僕の判断に任せようと思っていた者達だろう。
みんなにはナイショだが、僕の行き付けのお店の色々と知っている娘達は、全員がA判定かB判定だったので、内心では喜んでいた。
表情には一切出さなかった筈だが、サウシーズが一瞬だけ、僕の方を見た。
サウシーズの女の勘は、聖女キルシュシュの特別な力に匹敵するのでは無いだろうか…………
僕が人選を終えると、一気に動き出す。
各地に派遣されていた狼弾会のメンバーも、狼弾会管轄地区に全員戻って来ており、代理官の面々と共に移民の誘導が始まった。
この日の為に、狼弾会管轄地区の最外周には、ボロボロの無人の建物が大量に確保してあり、日中に其処へと移民を集める。
そして、日が沈んでから、自分で歩ける者は、王都アルアックスから見えない岩場の陰へと移動する。
其処には“エアーバス”が待機していて、フュンティル荒野のど真ん中へと運ばれる様になっている。
自分で歩けない者や、その付き添いは、“エアーバイク”や“エアーカー”で、フュンティル荒野へと直行する。
フュンティル荒野の南西部、王都アルアックスから、アルランスの街、ナノマガン王国、魔都 ウニウンへと続くどのルートからも外れた岩場の陰に移民達は次々と降ろされては、遥か天空から舞い降りて来る、“伝説の空飛ぶ船”へと乗り込んで、一夜の内に、ルベスタリア王国へと辿り着くと云う弾丸ツアーの予定だ。
全体の指揮は、サウシーズとモルツェンが行い、王都アルアックスから“エヴィエイションクルーザー”迄はグレーヴェとネクジェーに任せ、“エヴィエイションクルーザー”艦隊は、ティニーマとリティラ、王都ルベスタリアでの受け入れは、ティヤーロとイデティカが指揮をとる。
移民の移送は、“ミグレーション1番艦”から“ミグレーション15番艦”と“イグレーション1号機”から“イグレーション15号機”の30隻の“エヴィエイションクルーザー”で行い、“ハイスツゥレージセカンド”から“ハイスツゥレージフォース”の3隻は、不測の事態に備える事と、別行動をする僕とサウシーズやモルツェンなど最後の確認を行うメンバーの回収を行って貰う。
此れらの計画に問題が無いか、狼弾会のメンバーと最終確認を行って、サウシーズとモルツェンに後を任せてから、僕は1人で、王都アルアックスの街へと繰り出した…………
僕が訪れたのは、ハンターギルドだ。
いつもの様に、ノーアポで、ギルドマスターを呼んで貰う。
暫くして、ハンターギルド アルアックス支部のギルドマスター ルーゲットがやって来て、ギルドマスター室に案内された。
「お久しぶりです、ノッディード様。
今日はどの様なご用件でしょうか?」
相変わらずベアー系の魔獣の様な風体だが、この人は権力に非常に弱いのをこの数年で何度も経験したし、今まさに僕に対しても、“侯爵家の息子”効果でとても低姿勢だ。
「ええ、今日も受付けが、あのおばちゃんだったので、騒がれない様にと思って…………」
そう言って、“ゼログラヴィティバッグ”から5本3種類のツノと同じ本数のキバ、そして、大きめのブレスレットを机の上に並べる。
「!!此れは、もしや?!」
「ええ、コッチの2種類は、リプロダクションエンペラーオーガとインバストゲットトゥローリーブレイドオーガのツノとキバです」
「んな?!何方も2体も倒されたんですか?
其れに、このツノとキバは、もしや…………」
「ええ、ワルトルットゥ達が敗れた、魔都 ウニウンのボス魔物のツノとキバです。
其れと、この腕輪もそのボスの装備品ですね」
「!!やはり!!
全く見た事の無い、ツノとキバです!!
一体、どんな魔物だったんでしょうか?」
「大きさは3m程で、まるで人間の美女の様な魔物でした。
きっと、初めて見た人は、驚くでしょうね。
まあ、あれ程の魔物は、本当に特殊な魔物でしょうから、もう居ないかも知れませんが」
「人間の美女の様な魔物ですか?
イマイチ、ピンと来ませんが、西の勇者パーティーが敗れたのです、恐るべき魔物だったのでしょうね」
「ええ、とても厄介な魔物でしたね。
其れで、このボス魔物のツノとキバは査定が出来ないでしょうから、ハンターギルドに進呈します。その代わりに、このリプロダクションエンペラーオーガとインバストゲットトゥローリーブレイドオーガの買取をして下さい。
あとこの腕輪は魔導具の様なので、持って帰ります」
「分かりました。ご協力感謝します。
この買い取るツノとキバの査定も便宜を図らせて頂きます」
「ありがとうございます。
其れで、魔都 ウニウンのボスも倒したので、他の国に行こうと思うんですが、ハンターギルドには、冒険者組合の様な、移動や修行、治療なんかの時の休業制度の様なモノは有りますか?」
「な?!アルアックス王国から離れられるのですか?」
「ええ、ナノマガン王国に行ってみようかと思って」
「!!聖女様の行方を探されるのですか?」
「そんな愁傷な考えじゃないですよ。
ただ、ちょっと、色々と見て回りながら、他国へも行ってみようと思っているだけです」
「…………そうですか、Sランクハンターを失うのは惜しいですが、強制は出来ませんからね。
休業制度については、ハンターギルドにも有ります。
期限は最長で5年です。
そして、復帰の手続きを行う迄の活動は、ギルドの管轄外になるので、その間に討伐された魔獣や魔物については買い取る事は出来ても、ハンターとしての評価にはなりません。
まあ、ノッディード様は既にSランクなので、評価は関係無いですが、復帰後に倒した魔獣や魔物でなければ、活動のカウントもされないので、其処だけはお気をつけください」
「分かりました。
じゃあ、休業の手続きも一緒にして貰えますか?」
「分かりました。
其れと、コレはあくまでも、オレ個人の言葉ですが、西の方に向かわれるなら、絶対にアルランスの街には近付かないで下さい。
あの街は王家の直轄地で、近付いてトラブルになるといけませんから」
「アルランスの街?其れは何処に在るんですか?」
「王都アルアックスから、真っ直ぐに西に行ったところです。
ナノマガン王国へのルートで言えば、北の方に逸れてしまうと、近付いてしまうので、お気をつけ下さい」
「分かりました。
ありがとうございます」
「…………ノッディード様は、アルランスの街に何が在るのかは聞かれないのですね」
「王族や貴族に見せられないモノが有るのは、何処の国でも同じでしょう。
そして、其れについては、例え格下の貴族家であろうとも、触れずにおくのが鉄則です」
「確かに、仰る通りですね。
では、手続きをさせて頂きます」
「ええ、お願いします」
…………ギルドマスター ルーゲット、彼は恐らくアルランスの街の現状を知っている。
もしかしたら、生きた魔獣や魔物を納品しているのは、ハンターギルドかもしれないな…………
次に行くとしたら、本当はアルコーラル商国になる予定だったが、正直に言わなくて正解だったかもしれない。
特に今夜の事件の後に、僕は疑われるかもしれないからね…………
▪️▪️▪️▪️
ドゴオオオオン!!!!
ドゴオオオオン!!!!
「そんな!!、なんで!!、なんでだぁ〜!!!!」
地面に四つん這いになって、悲しみと悔しさとを全身から発して、僕は拳を地面に叩き付ける!!
僕の叩き付ける拳は、凄まじい轟音を周囲に響かせ、通行人達が、ギョッとした表情で此方を見てから、「ああ〜……」みたいな表情で、去って行く…………
此れは、演技だ。
僕は今、マーメイドクラブの入り口の前で、この姿をワザと晒している。
入り口の扉には、
『突然ですが閉店させて頂きます。
長い間、ご愛顧頂き有り難う御座いました』
と、云う張り紙が貼ってある。
此れは、マーメイドクラブがルベスタリア王国へと移転するからだ。
もちろん、僕は知っている事なので、此れは演技だ。
決して、女の子達が此れから、ルベスタリア王国での勉強期間に入ってしまって、僕の楽しみがお預けになったから本気で悔しがっている訳では無い。
そう、此れはあくまでも、娼館狂いで有名なSランクハンターが、行き付けの娼館が閉店した事を本気で悔しがっている様に見せ掛ける演技なのだ。
ああ、違う違う。
娼館狂いだと見せ掛けていたSランクハンターだった。
そんな醜態を世間に晒してから、僕は人生の全てに絶望した様な雰囲気のまま、トボトボと相棒の“ウィフィー”を走らせて、夕日に向かって、王都アルアックスを出て行った…………
日付けが変わって、3月10日0時22分。
『ティニーマフーズ商会』本店で待つ僕の下に、伝令役のルーツニアスがやって来た。
5,210人の移民の輸送は無事終了、現在はフュンティル荒野に“ハイスツゥレージセカンド”1隻のみを残して、“エヴィエイションクルーザー”艦隊はルベスタリア王国へと出発したとの報告だ。
「分かった。
じゃあ、ルーツニアスもこの荷物を持って“ハイスツゥレージセカンド”に戻っておいて」
そう言って、普段のハンター装備を全て入れた“ゼログラヴィティバッグ”と折り畳んだ相棒の“ウィフィー”をルーツニアスに預ける。
今の僕は、何処からどう見ても、怪しい暗殺者だ。
全身真っ黒な服を着て、黒い布で顔を隠して、いつもの凄メガネから、真っ黒なサングラスに変えて、黒いナイフを一本腰に下げている。
「あの、ノッディード様、本当にお一人で行かれるんですか?
せめて、私だけでも近くに控えておいた方が…………」
「心配してくれてありがとう、ルーツニアス。
でも、此れは僕の私怨だから、僕が自分でやらないとね」
「ノッディード様の私怨なら、ルベスタリア王国の敵なんじゃないですか?」
「お、ルーツニアス良い事言うね。
でも、建国前の怨みに国民を巻き込む訳にはいかないからね。
此れから先で何かあったら協力してね。
じゃあ、行って来るから、ルーツニアスも気をつけてね」
そう言って僕は、『ティニーマフーズ商会』本店を後にした…………
僕は王都アルアックスのビルの闇から闇へと移動しながら、中心部の貴族街を目指す。
目的地は、エベオベシティ伯爵邸だ。
深夜だと云うのに彷徨いているヤツらや、やる気の無い夜警の憲兵、ついでに今日の僕の同業者っぽい暗殺者まで見かけたが、多分、向こうは気付いて無いだろう。
相変わらず、金持ちアピールの凄い、よく分からない石像や、エベオベシティ伯爵本人の銅像なんかが有る趣味の悪い庭を抜けて、屋敷へと到達した。
伯爵の屋敷は4階建で、伯爵の寝室も4階だ。
屋根の上へと飛び上がり、音も無く着地する。
耳を澄ませて…………、と、思ったが、4階で人が居るのは1部屋だけだった。
耳を澄ませるまでも無く、大きなイビキが聞こえていて、イビキの近くでもう1人の寝息が聞こえる。
さすがに貴族で、窓は“インバイラブルウィンドウ”が使われていたが、屋根は木材だ。
素早く何度も斬り付けて、屋根に穴を開けるとそのまま、中に飛び込む。
「んが?!な、何者だ!!」
降って来た瓦礫で目を覚ました伯爵が大声を上げて、床で眠っていた鎖で繋がれた少女も目を覚ます。
2年前とは別の少女だ。
そして、見るに堪えない痛ましい姿の少女だった…………
両目は縫い付けられ、驚いて開いた口には歯も無い。
両手の爪も全て剥がされ、指はあちこちあらぬ方を向いている。
片足は逃げられない様にか、足首から先が無く、全身があざだらけだ…………
…………此れはダメだ…………
僕は、エベオベシティ伯爵の左腕を斬り落として、ボコボコに殴ってから殺そうと思っていたが、此れは、この男は、その程度の死で、許される様な生き物では無い…………
しかし、怒りで我を忘れそうになるのをグッと堪える…………
この男を限界まで苦しめて殺してやりたいが、今は潜入しているのだ、時間は掛けられない。
伯爵とこの少女を担いで帰って、ゆっくりとコイツを苦しめて、苦しめ抜いてやりたいが、この少女を無造作に扱いたく無い。
優先すべきはこの少女だ。
僕の中のナニカが、この少女は間違い無く、謂れの無い理不尽に晒され続けて来た、絶対に救わなければならない存在だと言っている。
ギャーギャー叫いて、助けを呼ぶ伯爵を無視して、少しでも不安を与えない様に、ゆっくりと少女に近付く。
ガタガタと震えながらも、必死に声を出さない様に我慢している様だ…………
膝を着いて、ゆっくりと少女の背中に手を回す。
僕の腕が触れた瞬間に、ビクッと少女が震えたが、そのまま、優しく抱き締める。
「……辛かったね。良く頑張ったね。
ありがとう、生きていてくれて。
もう、大丈夫だよ。
僕がキミを必ず助けてあげるからね」
僕の脳裏に救え無かった、2年前に見た鎖に繋がれた少女の姿が過ぎる…………
「あ……うう、うう………………」
喋る事すら出来ない少女は、しかし、声にならない声と共に、塞がれた目から涙を流して、抱き着いて来た…………
僕はゆっくりと少女の頭を撫でる。
「もう、大丈夫だから、少しだけ此処で待っててね。
直ぐに終わるからね」
「う、あう、うう…………」
掴む事の出来ない両手で、僕に縋って来る少女をもう一度優しく撫でる。
「大丈夫だよ。
僕は絶対にキミを置いて行ったりしない。
だから、少しだけ待ってて。
絶対にキミを救ってあげるから」
少女の腕が震えながらもゆっくりと離れて行く。
僕はもう一度、少女の頭を撫でると、ゆっくり立ち上がる。
僕が振り向くと同時に、外で叫いていたエベオベシティ伯爵の私兵どもが扉を蹴破って入って来た。
「貴様、何者だ!!」
「何が目的だ!!」
私兵どもの大声に、後ろの少女がビクッとしているのを感じる。
『…………イライラするな…………
せっかく、この娘の為に、伯爵はさっさと殺そうと思ってたのに…………』
「……黙れよ、ゴミども。
おまえ達は、全員、皆殺しだ。
この娘の姿を見て何も感じない、おまえ達には生きる価値が無い」
「なにを?!貴様、偉そうに!!……がっ!!!!」
尚も叫くゴミに、近付いて、その口にナイフを突っ込んで斬り上げる。
噴き出す大量の血の噴水と共に、脳髄と飛び出した目玉がぶち撒けられる。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!……ぐぎょ!!!!」
直ぐ横で凄惨な光景を見た、隣のゴミが悲鳴を上げたので、その口にもナイフを突っ込んで斬り上げる。
並んで脳髄をぶち撒ける血の噴水を見て、ゴミどもがまた叫き始める。
「ひいいいいい!!!!バケモノ!!………ぎゃが!!!!」
「し、死にたく、死にたく!!ぎゃあああ!!!!」
「いやだぁ!!助け……ゴブォ!!!!」
逃げようとするゴミも、命乞いをするゴミも、次々と殺して行き、部屋中が真っ赤に染まった…………
ベチャ……ベチャ……ベチャ……ベチャ……
血を踏まずには歩けなくなった部屋をゆっくりと歩いて行く…………
一歩一歩、ゆっくりと…………
エベオベシティ伯爵にとって、死へのカウントダウンとなる様に…………
「ひ、ひぃぃぃ!!ま、待て!!そ、その女、その女が欲しいならくれてやる!!
だ、だから、其れ以上、オレに近付くな!!」
ベチャ……ベチャ……ベチャ……ベチャ……
「そ、そうだ!!カネ、カネもやろう!!
100万、いや、200万アルやる!!だから、其れ以上近付くな!!」
ベチャ……ベチャ……ベチャ……ベチャ……
「500万!!分かった!!1,000万アルやる!!と、止まれ!!
何が、何が望みなんだ!!」
「…………おまえの、恐怖と苦痛と命だよ。
其れ以外に、おまえに求めるモノなんて、何一つ無い。
だから、もっと怯えろ。
そして、痛みに苦しめ」
「ぎやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
僕は我慢の限界だった。
我慢して、我慢して、見続けていた左腕を斬り飛ばす。
「……どうだ?左腕を斬り落とされるのは痛いか?」
「ぐぎぎぎぎ、ひ、左、腕、まさか、おまえは、!!」
エベオベシティ伯爵は必死に這って、ベッドのサイドテーブルからポーションを取り出して一気に飲み干し僕を睨み付けて来る。
…………ちょうど良い、此れでもう一度、左腕が斬れる…………
「ああ、僕はおまえに大切な人の左腕を斬り落とされた者だ」
「お、おまえが行方不明になっていた、バンセの兄か!!
バンセの仇を取ってエルヴァを救いに来たと云う事か!!
ふざけるな!!ふざけるなぁぁ!!!!
貴様が妹達を売ったんだろうが!!」
……………………え?だれ?
整理しよう。
バンセの兄と云う男が妹達、バンセとエルヴァをこのエベオベシティ伯爵に売った。
恐らく、奴隷として。
そして、「バンセの仇」と云う言葉から、バンセはエベオベシティ伯爵が殺したのだろう。
その時に左腕を斬ったと云う事だ。
そして、「エルヴァを救いに来た」と云う言葉から、其処の少女がエルヴァなのだろう。
エベオベシティ伯爵は僕が、バンセの兄で、妹の仇を討って、もう1人の妹を助けようとやって来たと思っている。
自分で妹達を売っておきながら…………
まあ、バンセの兄もクズの様だが、この男は一体今迄何人の女の子を痛め付け、苦しめ、殺して来たのか…………
そして、もしも、コイツが…………
「……僕はバンセって娘は知らない。
その娘とも今日初めて会った」
「んぐぐ、なら一体どの女の復讐なのだ、エレナか?サリーか?マルガリータか?
どの女も大した値段じゃ無かった筈だ!!
オレは1,000万アル出してやると言ってるんだ!!
さっさと離れろ!!」
…………ああ、やっぱりだ…………
コイツは、ペアクーレの腕を斬った事を既に忘れている…………
殴りたい!!思いっ切り殴りたい!!
でも、ダメだ!!
そんな事をしたら、一瞬で死なせてやってしまう!!
僕は必死に我慢して、もう一度左腕を斬り落とす。
「ぎゃあああああ!!ポ、ポーション、ポーションを!!」
「………なんだ…………
金持ちぶってるから、もっとポーションをいっぱい持ってるのかと思ったが、1本だけなのか……
仕方がない…………」
僕は必死に左腕の出血を止めようとする伯爵の右手を掴んで引き寄せると、親指を斬り落とす。
「ぎゃああああああ!!痛い!!痛い!!痛い!!」
そのまま、叫び続ける伯爵を無視して、人差し指、中指、薬指、小指と順番に斬り落として、手のひらにナイフを突き刺すとグリグリと捻った。
「痛い!!痛い!!やめ、やめてくれ!!やめてくれぇぇぇぇ!!
ぎゃああああああ!!!!」
引き抜いたナイフで手首を斬り落とす。
腕を斬り、肘を斬り、二の腕を斬り、最後に肩から右腕も斬り落とす。
脛を踏み付けて骨を折り、足の指も一本一本斬って行く。
何度も何度も斬り続けた。
伯爵が一切反応しなくなるまで、何度も何度も…………
僕の近付く足音に、少女エルヴァは震えている。
さっきまでのエベオベシティ伯爵の絶叫も、私兵どもの断末魔の叫びも聞かせてしまったのだから、僕を恐れても仕方ない。
バキンッ!!
と、云う僕が鎖を引きちぎった音にビクッとするエルヴァの前に屈み込むと、先程と同じ様にゆっくりと抱き締める。
震えては居るが、今度は直ぐにエルヴァも抱き着き返して来た。
「ごめんね、エルヴァ、怖い声をいっぱい聞かせてしまって。
でも、僕はどうしてもコイツらが赦せなかったんだ…………」
「うう、あう、ああう…………」
まだ僅かに震えては居たが、僕には彼女の言葉にならない声が、「大丈夫だ」と、「怖くない」と言っている様に感じられた…………
そのまま、彼女を優しく抱き上げると、
「もう、安心して良いよ。一緒に行こう」
そう言って、突き破った天井から外に出た。
そして、そのまま、王都アルアックスを後にしたのだった…………




