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箱庭の王様  作者: 山司
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第3章 ルベスタリア盆地 2

第3章

ルベスタリア盆地 2





▪️▪️▪️▪️





季節は春を迎え、4月に入った。


ほぼ完成と云える僕のお城の周囲は、僕が来た時と同様の緑の続く草原になっていた。




「……とうとうこの日が来たな…………」



3月に入って雪解けが始まると、雪が無くなるのは早かった。

僕は雪が未だ残る中、作業を始め、都市の外周となる予定の防壁を作り、“不可侵領域結界柱”を設置する塔を作って行き、雪が完全に無くなる頃には完成した。


都市とは言っても、防壁と東西南北の門、北西と南東の水門が有るだけの草原だが…………





そして、今日、僕はとうとう、南部の探索に向けて行動を開始する!!


と、言っても今回の目標は南の山脈の山頂で、オオマー王国の娼館では無い。


山脈を越え、砂漠を越え、また山脈を越え、森を越え、人類未到の魔境と言われる場所を越え続けなければ、娼館には辿り着けない。


そんな旅を行き当たりばったりで行う程、僕は無謀では無い。

僕は、今でも飢餓に苦しんだ事や、キマイラに殺された事を忘れた訳では無いのだ。



とは言え、最初から山脈の山頂を目指すのも、本来の予定よりはかなり危険だ。

しかし、此れには2つの理由がある。


1つは、この冬で経験した様に、このルベスタリア盆地は豪雪地帯だ。

どんなに遅くても、10月には帰っておかなければならない。

時間が限られているのだ。


もう1つは、望遠鏡の魔導具を発見した事だった…………





3月に入り、雪解けが始まった頃、僕は自由の日に、お城の最上階から雪解けの水が何処に向かってどの様に流れているのかを眺めていた。

都市建設予定地を防壁で囲む予定なので、農業や畜産も防壁内で行う必要がある。

しかし、“不可侵領域結界柱”のバリアで囲むと雨も降らないので、水を水路か湖から引いて来なければならない。


一応、このルベスタリア盆地は、北から南に向かって緩やかな傾斜になっている事は分かっているが、今後のイメージの為に眺めていたのだ。


その日は天気も良く、盆地の先の山脈もよく見えた。


以前は遠過ぎてボヤけていたが、ポーションを使った修行の成果で僕の視力はとんでもなく良い。

そうして山々を見ていてふと思った。


「望遠鏡で隈なく山脈を見られれば、山越えがとても楽になるんじゃないか?」と…………


そこで見付けて来た望遠鏡の魔導具、コレがまた凄かった!!

僕は望遠鏡で、通れそうなルートや休めそうな場所を見つけられればラッキー程度で見ていたのだが、何と山頂付近に咲く小さな花の花弁すらもハッキリ見える様な代物だったのだ!!


更に凄いのが、この望遠鏡を使って見た地形の情報も、僕の凄メガネが全て地図に自動で落とし込んでくれたのだ!!


興奮した僕は、望遠鏡で見える限りの全てを見て、地図情報をリニューアルしまくった。


僕は気付いた、この望遠鏡を持ってあの南の山脈の山頂に行けば、次の関門の砂漠越えとその次の関門も山脈越えの為の情報が一気に手に入るのではないかと。



なので、多少の危険を冒してでも、山脈の山頂を目指す事にしたのだ。





僕は隠し部屋、プライベートスペース、お城の入り口、城門の戸締まりをしっかりと確認して、相棒の“エアーバイク”に跨り、意気揚々と出発した。


先ずは西に進み、川沿いを下って山脈を目指す。

此れには川の終着点がどうなっているのかを確認すると云う目的もある。


もしも、川が洞窟を作って山脈の反対側迄続いていれば、山脈越えをしなくて済むかもしれない。

しかし、その場合には、侵入者対策が必要だ。

だが、恐らくは大丈夫だろうとは思っている。

地下に流れている可能性の方が高そうだからだ。



そんな訳で、西に進んだ。

どうせ、今回も魔獣には会わないだろうと、相棒を飛ばしてその日の昼には川に着いた。


この西の川も賢者 ウィーセマーがルベスタリア川と名付けていた。

大量の雪解け水が流れるだけ有って、川幅は現在1kmくらいある。

雪が積もっていた時には流れている部分は100mも無かったので、夏にはもっと狭いかもしれない川だ。



そして、現在は大河となっているこの川の川沿いを下る事3日、僕は轟音の鳴り響く池に辿りついた…………



「…………あの洞窟の先は、滝か…………

どうしよう?とりあえず、放置かな…………」


西の川の終着点、そこは比較的大きな池だった。

と、言っても普段はもっと小さい可能性が高い。

周囲の森の木も水に浸かってしまっていたからだ。


そして、その池の先には洞窟が有った。

高さは水面から2mくらい、小舟ならギリギリ入れそうだ。

しかし、小舟で洞窟に入るのは無謀以外の何者でも無い。


洞窟の入り口からはもうもうと水飛沫が霧の様に溢れ、音だけで、洞窟に入って直ぐに滝がある事が分かる程の轟音を響かせているからだ。


終着点が洞窟説と地下水説の中間の様な状況だ。



「此処に入るのは絶対に有り得ないけど、山脈の反対側は確認しないといけないな…………

万が一、反対側から滝をロッククライミングして入って来れたら困るなぁ〜…………

反対側が湧水なら良いけど…………


…………其れより、こっちの方が不味いか…………」



僕は、洞窟から洞窟の周囲の壁に目を向ける…………


其処には、100mは有りそうな断崖絶壁が聳え立っていた…………




賢者 ウィーセマーによれば、此処ルベスタリア盆地は、古代魔導文明時代、魔導帝国ルベスタリアの帝都が墜落して出来た盆地だ。

ほぼ真円状に出来ている事、周囲の山々が全て天を突くほど高い事から考えれば、元々、此処もかなり高い山地で、とんでも無い墜落の衝撃で出来ただろう事は想像出来る。


その所為で、山の斜面が吹き飛んで、こんな垂直に近い状態になる可能性も考えるべきだった…………



「……はぁ〜〜…………

まさか、山のこんな低い場所に障害が有るとは思って無かった…………

もっとちゃんと見ておけば…………!!!!」



落ち込んでいた僕の視界の端に、池の水面から現れた突起が映る!!

次の瞬間、


ザッパァァァァ…………!!!!


大きな水飛沫を上げて、巨大な黒い影が現れた!!


僕は相棒の“エアーバイク”のスロットルを全開にしてその場を離れる。


どおおおおおお…………!!!!


凄い音を立てて、さっき迄僕が居た場所に降って来たのは、体長5mは有るドラゴンの様な魔獣だった…………





▪️▪️▪️▪️





魔獣、其れは古代科学文明を滅ぼした“セカンドストライク”によって齎された“魔素”によって生まれ、古代魔導文明を滅ぼした“サードストライク”によって齎された“魔素”を超える“魔力”によって強化された、古代の動物や虫の進化した生き物だ。



僕の前に現れたのは、エアゲーターガー。



まるで、ドラゴンの様な大きく鋭い牙が無数に並ぶ顎を持った巨大な魚の魔獣だ。


僕の住んでいた王国でも時々現れては人を襲い、冒険者達に討伐されていたが、こんなに大きな魔獣だとは聞いた事が無い…………


冒険者達が話しを盛っていてもせいぜい3mくらいの魔獣だと聞いていた。


しかし、現実として僕の目の前には、5mを超えるエアゲーターガーが居る。

そして、僕の凄メガネが、その真相を教えてくれた。



キングエアゲーターガー

危険度A



エアゲーターガーは高級食材として市場にも出回る魔獣だ。

そのランクは確かCだった筈だ。


キングエアゲーターガーなるこの目の前の魔獣は、エアゲーターガーの上位種らしく危険度Aらしい。

其れはつまり僕を殺したあのキマイラと同じくらい強い魔獣だと云う事だ。


其れを見た瞬間、“エアーバイク”のハンドルを握っていた僕の手が震える…………


キマイラに喰い殺されたあの恐怖が、あの痛みが蘇って来る…………



「…………大丈夫……

大丈夫だ。


僕は強くなった。

あの時とは違う。


そうだ、あの時だって引き分けたんだ。

負けてない。


大丈夫、僕は強くなった。

今の僕ならきっと、いや、絶対に勝てる。


そうだ。

僕は絶対に勝てる!!」



キングエアゲーターガーは、陸に上がった魚のくせに、ゆっくりと余裕の雰囲気で此方を向く…………


僕も震える足にグッと力を込めて、“エアーバイク”から降りながら背負って居たゼログラビティバックを下ろし、右腰の2本の剣、“嵐雷剣”と“フレキシビリティーソード”を抜いてキングエアゲーターガーと対峙する。



…………キングエアゲーターガーが笑った気がした…………


逃げなかった僕を…………


自分に立ち向かおうとする僕を…………


…………笑った気がした…………


其れは、絶対者の笑み…………


其れは、捕食者の余裕…………


僕は獲物だと、僕は餌だと、僕など取るに足らないと!!



「バカにするな!!魚のくせに!!

“嵐雷剣”!!雷!!」


突き出した剣から雷が迸る!!



「ガガガガガガガガ!!!!」


キングエアゲーターガーの大きな口から、耳障りな鳴き声の様な音が響くと雷は見えない壁にぶつかった様に、キングエアゲーターガーから逸れて、空に向かって消えて行く。


「ガガガガガガガガ!!!!」


再度吼えるキングエアゲーターガーが巨大な砲弾と化して飛んで来る!!


「“アクセラレーションブーツ”、2段階アップ!!」


悲鳴の様に叫ぶと同時に横に跳ぶ!!


「クソ!!魔法を纏った体当たりなんて、アレじゃあ、“リフレクションプロテクト”で防げないじゃないか!!」


愚痴る僕に向かって、キングエアゲーターガーは尾鰭を地面に叩き付けて器用に向きを変えて再度突っ込んで来る。


僕はまた横に跳んで避ける。

また、キングエアゲーターガーが向きを変えて突っ込んで来る。

避ける。

突っ込んで来る。

避ける。

突っ込んで来る。

避ける。

突っ込んで来る。

……………………




「…………もしかして、アイツ、遅いんじゃないか?…………

“アクセラレーションブーツ”、解除……」


避ける。

突っ込んで来る。

避ける。

突っ込んで来る。

避ける。

突っ込んで来る。

……………………



「…………落ち着け…………

冷静になれ…………


アイツは僕より遅い。

アイツは僕より弱い。


そうだ。

僕は強くなった。


アイツは僕より弱い!!!!」



懲りもせず体当たりをして来るキングエアゲーターガーを余裕を持って避けると同時に、僕は右手の“嵐雷剣”を振り上げる。


「!!ここだ!!

“嵐雷剣”、落雷!!」


キングエアゲーターガーが地面に尾鰭を叩き付けようとした瞬間、“嵐雷剣”を振り下ろす!!



ッドッゴォォォォン!!!!


天より降り注ぐ稲妻が、キングエアゲーターガーに直撃する。


「!!!!!!!!!」


キングエアゲーターガーが音ともつかない音を大口を開けて叫ぶ!!


「まだだ!!僕は油断しない!!

“フレキシビリティーソード”、伸びろ、50m!!」


左手の剣を水平に突き出すと一瞬にして伸びた剣身がキングエアゲーターガーの口の中に吸い込まれて一気に貫く!!


「“フレキシビリティーソード”、広がれ、5m!!」


ズバッ!!!!


「!!!!!!!!」



僕の左手から伸びる、長さ50m、幅5mの巨大な剣に上下に斬り裂かれたキングエアゲーターガーが、音の様な何かの断末魔を上げて、地面に転がった…………





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